第396話。グレモリー・グリモワールの日常…91…初戦勝利。
チュートリアル終了時点。
名前…ジェレマイア
種族…【人】
性別…男性
年齢…29歳
職種…【料理長】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…調理】
レベル…12
元【アヴァロン】でオーナー・シェフとしてレストランを経営していた。
アリス・アップルツリー家の専属料理長。
私は、泣きながら【ノースタリア】周辺をトボトボと歩いていた。
【ノースタリア】の戦いは終わっている。
双方に多大な犠牲を払った局地戦は、私の完全勝利で終幕した。
勝利を決定着けたのは、私が、敵の魔動戦車6万両を支配して、制御を奪った事。
私が、敵軍の魔動戦車の指揮車両6千両を【操作】した時点で、6万両全ての魔動戦車が私の支配下に収まり、【ウトピーア法皇国】軍は抗せないと判断して降伏したのだ。
降伏を決断した敵の司令官の判断は素早く、また適切だったね。
後、1分、【ウトピーア法皇国】軍の降伏が遅ければ、私は支配下に置いた魔動戦車を使って、【ウトピーア法皇国】軍を攻撃しただろう。
そうなれば、敵の死者は、倍に増えていた筈だ。
【ノースタリア】側の死者120人、負傷者800人(私が治療済)。
【ウトピーア法皇国】軍の死者20万、負傷者20万人(私が治療済)……そして、捕虜40万人、兵器の鹵獲大量。
当初、私は【ノースタリア】に攻め寄せた【ウトピーア法皇国】軍の総数を80万人以上と推定したけれど、実数は予測より少なくて60万人だった。
【ウトピーア法皇国】の魔動戦車は、指揮車両には指揮官、操縦手、砲手、装填手、レーダー手の計5人が乗り込んでいたけれど、指揮車両に統制される側の被指揮車両には、操縦者1人しか乗り込んでいなかったんだよ。
これは、ナカノヒトからの情報でわかった事だけれどね。
被指揮車両の各砲塔は指揮車両によって集中制御されていた。
戦車隊の少人数化策だね。
これは、中々、大した技術だ。
現在、私は、【ノースタリア】の代表である領軍指揮官シルヴェスターと、騎士団長トバイアスと、衛士長ユニアックと……【ウトピーア法皇国】側の代表者達と行動を共にしている。
いわゆる戦後の処理と交渉だ。
【ウトピーア法皇国】側の代表は、3人。
【ウトピーア法皇国】軍【ノースタリア】方面軍司令官エクスタイン・インメルマン中将。
同副司令官イクセル・ヤンセン少将。
同参謀将校ツヴァイク・キューバウアー大佐。
私は、大切な用事を行いながら、彼らと戦後処理を話し合っていた。
「捕虜は戦時国際法に則って、人道的に扱うと約束するよ。身代金が支払われ次第すぐに解放する。もちろん強制労働なんかもさせない。だから、そっちも大人しくしていて欲しいね。あ、でも、食料に関しては、ランドルフのクソが都市の備蓄を盗んで行っちゃったから、しばらくは、1日3食。1食当たりパン1個とジャガイモ1個と具なしのスープ1杯だけで我慢してもらうよ。あんた達の軍隊糧食に関しては、取り上げたりしないから、そっちで勝手に分けたら良いよ。たぶん、1週間以内にはマシな食料を用意出来る筈だから、それまでは我慢してね。因みに、食費は身代金に上乗せるから、そのつもりで……」
私は、地面に落ちていた小さな塊を拾って言う。
私は、戦場に散乱する肉片や骨片を拾い集めているのだ。
【魔力探知】を使いながら、サーチすると、時間が経過して魔力が完全に風化・散逸してしまう前なら、魔力反応を辿って遺骸や遺骨を見つける事が出来る。
「グレモリー殿。食料の配給は、毎食パンとジャガイモと具のないスープだけですか?もう少し何とかなりませんか?」
【ウトピーア法皇国】軍【ノースタリア】方面軍司令官のエクスタイン中将は言った。
「マクシミリアンが反乱を鎮圧するまでは、どうにもならないね〜。ここにいるシルヴェスター以下、【ノースタリア】の兵士、騎士、衛士は全員パン1個と水だけなんだよ。それも、1食じゃなくて、1日でね。【ブリリア王国】は貧しいんだよ。その上、【ノースタリア】の食料備蓄は、ランドルフのクソ野郎が全部持ってっちまいやがったからね。ないモノは、ないんだよ」
「そ、それは、存じませんで……失礼致しました」
エクスタイン中将は、【ノースタリア】側の方が食料が少ないと知り、襟を正して謝罪する。
わかりゃー良いんだよ。
このエクスタイン中将も、副官のイクセル少将も、参謀将校のツヴァイク大佐も、あの【ウトピーア法皇国】の軍人とは思えないマトモな人間だ。
むしろ、敵味方に立場は分かれているけれど、好感を持てる人格者のようにさえ思える。
それに、この私を追い詰めた戦術は見事だった。
強敵だったよ。
「ごめんよ……」
私は、また新しく拾い上げた、焼け焦げた肉片に向かって謝った。
この子は、私が自爆させてしまった【ゾンビ】の1体。
私の後を付いて歩いて来る、シルヴェスター、トバイアス、ユニアックと、【ウトピーア法皇国】軍の司令官達は……私の頭がおかしくなった……とでも思っているのだろう。
ずっと怪訝な表情だ。
「これは……違う……。シルヴェスター、この人は、【ノースタリア】の兵士か騎士団か衛士か、【ノースタリア】の住人さんか……さもなければ【ウトピーア法皇国】の兵士だよ。丁重に扱ってね」
私は、拾い上げた骨片をシルヴェスターに手渡した。
「はっ!」
シルヴェスターは、私が差し出した骨片を忌避的な表情を見せながらも渋々受け取って、袋にしまう。
私以外の6人は、それぞれの宗教の祈りを捧げた。
戦場なので、簡易的なモノだけれどね。
個人の判別が可能だった遺体は、【ノースタリア】の住人さん達に手伝ってもらって、葬い荼毘に付す……つまり火葬にしてもらう。
【ウトピーア法皇国】側の遺体も、個人が判別可能なら、【ウトピーア法皇国】軍の司令官と相談して【ノースタリア】で火葬にして、遺灰を【ウトピーア法皇国】に持ち帰ってもらう事になった。
冷蔵車とかは、ないから、【ウトピーア法皇国】に、そのまま輸送しようとすれば、途中で死体が腐る。
病気を媒介させかねないからね。
公衆衛生上の措置だよ。
その辺は、【ウトピーア法皇国】側も理解しているので、進んで火葬の承諾書にサインをしてくれた。
個人の特定が不可能な遺骸や遺骨は、一緒くたに荼毘に付して、集合墓地に埋葬する。
死んでしまえば味方も敵も関係ない。
状態が良い【ウトピーア法皇国】軍の兵士の死体は、私が【宝物庫】に9千体を回収してある。
これは、世界の理で認められている正当な私の取り分だ。
別に死者を冒涜するつもりはない。
単に……敵の死体(原則NPCに限る)は、勝者が自由に出来る……という、このゲームの不文律に従っているだけだ。
この9千体の死体は、既に【不死者】化して、私の配下としている。
ま、私は従業員に優しい社長だから安心して良いよ……あ、いや、ついさっき【ゾンビ】達を自爆特攻させちゃったけれどね。
私は、こうして拾い上げた骨片に遺る微弱な魔力反応の残渣を確認しながら、身内(【不死者】軍団)の遺骸や遺骨を集め歩いているのだ。
当然、【ノースタリア】の領軍兵士や、騎士団や、衛士隊や、一般市民や、【ウトピーア法皇国】軍の遺骸や遺骨も混じる。
何故、遺骸や遺骨を拾い集めているのか?
これは、私なりの供養だ。
私が死なせてしまった【腐竜】や【エルダー・リッチ】や【ゾンビ】や【スケルトン】達の遺骸や遺骨は、自宅【マジック・カースル】の霊廟に埋葬してあげるつもり。
あの霊廟には、過去、私が使役して来て、【修復】困難な状態にまで損傷してしまった【不死者】達が眠っている。
私にとって、もっとも大切な場所の1つだ。
【不死者】は、脳や中枢神経や脊柱が完全に破壊されてしまっては、幾ら死体だとはいえ、もう【修復】は出来ない。
みんな、ごめんよ。
ゲーム時代、他所の【死霊術士】達は、大体、【不死者】を雑に扱っていた。
どうせ死体だから、と。
ロクにメンテナンスもしないで、使役する【不死者】達が傷んでも【修復】すらしない。
激しく損壊すれば使い捨てにする。
私は、これが許せない。
【不死者】を大切に扱うのは、【死霊術士】としての当然の矜持だと思うよ。
そういえば、竜之介の遺体も、仮葬儀で【ラピュータ宮殿】に安置したままなんだよね。
竜之介も、いずれキチンと埋葬してあげなくちゃ。
竜之介は、【ラピュータ宮殿】が、お気に入りだったから、【ラピュータ宮殿】のどこかに霊廟を建立してあげよう。
さてと、あらかた拾えたかな。
ボチボチ魔力反応も薄弱になって来たし、このくらいにしておこう。
私には、まだ、やらなくちゃならない事があるからね。
・・・
私は、【ノースタリア】側の代表者である、シルヴェスター、トバイアス、ユニアック……そして【ウトピーア法皇国】側の代表者である、エクスタイン中将、イクセル少将、ツヴァイク大佐と一緒に【ノースタリア】の城門の外に出た。
【ノースタリア】の外では、ヒモ太郎が巨大な【神位結界】を構築している。
【神位結界】の中には、40万人の【ウトピーア法皇国】軍将兵がギュウギュウ詰めで並んでいた。
ヒモ太郎……意地悪しているね。
そんなにギュウギュウにしなくても良いのに。
「諸君。こちらにいるグレモリー・グリモワール殿が、我らを完膚なきまでに叩きのめした、【ブリリア王国】の英雄だ。グレモリー殿は、我らに対して……人道的に扱う。強制労働はさせない。【ウトピーア法皇国】本国から身代金が支払われ次第、直ちに全員を解放する……と約束して下さった。また、少ない食料を、自分達【ノースタリア】側は、1日にパン1個と水だけで我慢して、我ら捕虜の為には、1日にパン3個とジャガイモ3個とスープを3杯支給して下さるそうだ。我らのような敗残兵を出来る限りの誠実さで丁重に扱ってくれるグレモリー殿こそが、誠の武人。グレモリー殿の、ご厚情に対する返礼として、我らは、解放される日まで、規律正しく秩序だって行動せねばなるまい。良いか?」
エクスタイン中将は、居並ぶ将兵達に威厳のある声で言った。
40万人の【ウトピーア法皇国】軍将兵は、全員……戦時国際法に則って捕虜として適切に扱われる限り、解放される時まで、【ブリリア王国】の法を守り、抵抗したり暴れたり脱走を企てたりしない……と【契約】する。
これで良し。
「ヒモ太郎。もう、【結界】から出してあげて良いよ」
「ブモ……」
ヒモ太郎は、【結界】を解除した。
「エクスタイン閣下。40万人を宿泊させられる施設が足りていません。誠に申し訳ありませんが、領主屋敷と、中央聖堂、それから、一部、倉庫などで、大勢で雑魚寝状態で寝起きして頂かなくてはいけません。ご不自由を、おかけするでしょうが、お許し下さい」
シルヴェスターがエクスタイン中将に説明する。
「シルヴェスター閣下。ならば、我々の装備品のテントを利用します。それでも足りなければ、宿泊施設を我らで建築致しましょう。工兵隊などもおりますので、資材さえあれば、小屋程度のモノなら訳もなく造りますよ」
エクスタイン中将は提案した。
「捕虜に強制労働はさせないよ」
私は釘を刺す。
そんな事をして、後から……戦時国際法違反だ……とか言われたら堪らない。
「いいえ。これは、自らの生活環境を整えるもの。戦時国際法上の強制労働ではありません。私が、書面に残して、後に禍根を残さないように致します。やらせて下さい」
エクスタイン中将は言う。
あ、そう。
そういう事なら頼もうかな。
「なら、資材は、この辺りに転がっている対戦車障害のキットを流用して良いよ。鉄骨だから、小屋の骨組みにには丁度良いでしょう?」
「はい。では、使わせて頂きます。では早速にも……」
「じゃあ、私は、これから、やるべき事があるから行くよ。シルヴェスター、トバイアス、ユニアック、後の事は頼むね。病院船ナイチンゲールと輸送艦フリングホルニで【アヴァロン】に避難させた人達は、引き返して来るから、明日の朝には帰還する筈だよ。輸送艦フリングホルニに積んである穀物は【ノースタリア】で消費して良いからね」
「「「はっ!」」」
3人は敬礼した。
シルヴェスター、トバイアス、ユニアックなら、上手くやるだろう。
この3人は、戦闘中、実に良く働いてくれたからね。
私は、マクシミリアンから与えられた権限によって、シルヴェスターを【ノースタリア】領軍指揮官と兼任で、【ノースタリア】領主代理としている。
騎士団長のトバイアスと、衛士長のユニアックは、兼任領主代理代行。
因みに、今現在、【ノースタリア】の領主は、私だ。
元の【ノースタリア】領主だったランドルフのクソったれは、私がマクシミリアンから与えられた権限で解任したからね。
3人は……統治は未経験だから……と辞退しようとしたけれど、私が、無理矢理、引き受けさせたんだよ。
な〜に、軍政の知識があるんなら、何とかなるでしょ。
軍隊とは自己完結組織だ。
軍隊の中にはミニチュアだけれど、財政機関も、行政機関も、司法機関も揃っている。
軍の指揮官なら、政治に必要な知識は身に付いているのだ。
何十年とかではなく、何か月とかなら、問題なく【ノースタリア】の統治が出来る筈だよ。
閑話休題。
私の、やるべき事とは……もちろん【ウトピーア法皇国】に反撃を仕掛けて降伏させる事だ。
エクスタイン中将も、イクセル少将も、ツヴァイク大佐も、私が何をしに行くのか理解しているので、複雑な表情をしている。
私が、【ウトピーア法皇国】の領土を攻撃すれば、少なくない確率で【ウトピーア法皇国】の一般市民に犠牲が出る可能性もあるのだ。
犠牲になるのは、もしかしたら彼らの家族や友人かもしれない。
でも、エクスタイン中将達は、歯を食いしばって何も言わない。
彼らは、軍人だ。
戦争の意味を誰よりも良く理解している。
エクスタイン中将達の始めた戦争で、【ノースタリア】では、120人が亡くなった。
その中には一般市民もいる。
子供や女性もね……。
戦争とは、例外なく陰惨で背理的なモノなんだよ。
私は……正義の戦争なんかない……と思う。
武人や軍人ならば、殺すも殺されるも、お互い様。
正規の手続きを踏んで行われた戦争で死んだら、相手を恨みっこなし。
特に、先制攻撃を加えた【ウトピーア法皇国】側には、仮に家族が巻き添えで亡くなったとしても、私を恨む事なんか出来っこない。
その事をエクスタイン中将達は、良くわかっているからこそ、これから【ウトピーア法皇国】を攻撃しに行く私に対して余計な事は何も言わないのだ。
「ヒモ太郎。行くよ」
私は【収納】から【魔法のホウキ】を取り出して跨り、飛び立った。
ヒモ太郎が、私の後に続いて、【飛行】で離陸する。
私とヒモ太郎は、この時、開戦以来初めて国境を越えた。
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