第395話。グレモリー・グリモワールの日常…90…飽和砲撃。
チュートリアル終了時点。
名前…ルパート
種族…【人】
性別…男性
年齢…21歳
職種…【牧童】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…畜産】
レベル…15
コンラード家の令嬢フロレンシアと身分違いの恋仲になり、グレモリーの仲立ちがあって、無事夫婦となれた。
【イースタリア】の周辺で家畜を放牧させて暮らす牧童だったが、色々あって、【サンタ・グレモリア】の畜産責任者となる。
挨拶代りの砲撃戦と、敵軍の戦闘爆撃機投入と全滅という序幕があり、いよいよ、敵陸上戦力の突撃が敢行された。
【ウトピーア法皇国】軍の魔動戦車が、一斉に前進を始める。
約8万両の魔動戦車が、主砲を撃ちながら国境を踏み越えて接近して来た。
キュルキュル、ガタガタという履帯の音が威圧的だね。
途端。
キュイーーンッ……ボンッ、ボボンッ、ボボンッ、ボンッ、ボンッ!
国境の【ブリリア王国】側の領域で無数の閃光が煌めいた。
少し遅れて鈍い爆破音が響く。
敵軍は、私が仕掛けておいた地雷源に侵入したのだ。
先行していた、1千両あまりの魔動戦車が、【コア】を破壊されて機能停止する。
スマート・地雷。
この地雷は、アインシュタイン・インスティテュート製の対戦車地雷。
高価で高性能だけれど、対人殺傷力は皆無だ。
スマート・地雷は、戦車などの【乗り物】や、兵器系の【魔法装置】の【コア】や回路を破壊して、使用不能に出来る。
地球の兵器に電磁パルス爆弾というモノがあるけれど、アレに似ているね。
電磁パルス爆弾とは、高出力の電磁波を爆発的に発生させる事で、周囲の電子回路や半導体に過負荷の電流を強制的に流して故障させる事を目的とする兵器だ。
スマート・地雷は、荷電魔法触媒を使用している魔動回路に過負荷の魔力を流して【魔法装置】を故障させる。
ほとんど電磁パルス爆弾と原理は同じ。
非破壊、非殺傷を謳う、いわゆる人道兵器ってヤツだね。
ま、爆発性のギミックがあるから、至近距離にいれば風圧で鼓膜が破れたり、閃光で網膜が焼けて視力が低下したりは、するだろう。
心臓が弱い人なら、強烈な閃光と音に驚いて心臓麻痺とかで死ぬ事もあるかもしれない。
そこまでの面倒は見ちゃいられないね。
これは、戦争なんだからさ。
【ウトピーア法皇国】軍は、全軍が停止した。
でも、スマート・地雷の効果を免れた後続の車列から、凄まじい砲撃は続いている。
私は、航空爆撃を開始した。
敵の近接航空支援戦力を全滅させて、制空権は私が確保している。
多少は、やりやすくなるね。
私は、【魔法のホウキ】で高速飛行しながら、上空から【超位魔法】の雨を降らせる。
【ウトピーア法皇国】軍は、半パニック。
地雷源で立ち往生している時に、空爆を食らうなんて、最悪の状況だろう。
やがて【ウトピーア法皇国】軍は、スマート・地雷のギミックを理解したのか、回避措置を取り始めた。
機能停止した魔動戦車を乗り越えて、1列になって前進し始める。
車列は、10列ほど。
この原始的な方法で、スマート・地雷で機能停止した車両を橋の代わりにしようって目論見なのだろう。
【ウトピーア法皇国】の魔動戦車は、順番にスマート・地雷の餌食になる先行車両をドンドン乗り越えて、地雷源を通過しようとする。
強引な方法だけれど、【ウトピーア法皇国】軍は、お構いなしで前進。
きっと、スマート・地雷に殺傷力がない事を理解して、こんな思い切った方法を選択出来たのだろうね。
でも、甘え〜んだよ。
キュイーーンッ……ボンッ、ボボンッ、ボボンッ、ボンッ、ボンッ!
スマート・地雷が断続的に爆発した。
スマート・地雷は、魔力感知式誘導地雷なんだよ。
戦車などの特有の魔力反応に引き寄せられて、移動して周囲の兵器を駆逐するのだ。
スマート・地雷の、高性能なって触れ込みは、伊達じゃないんだよ。
この私が、地面に撒いて放ったらかしみたいな効率の悪い兵器を使うか、ボケがっ!
何しろスマート・地雷は、クッソ高い。
1個100金貨もする。
地雷って安い兵器の代名詞だからね。
今の私は巨万の富を持つスーパー大富豪だけれど、このスマート・地雷を買ったのは900年前だった。
鼻血出しながら、購入したんだよ。
ただし……高額だったせいで、数が揃えられなかった……。
くっ……全然、足りねー。
5千個ばかしのスマート・地雷では、時間稼ぎにしかならなかった。
【ウトピーア法皇国】軍は、積み重なって機能停止した魔動戦車を避けて、進撃を再開する。
【ウトピーア法皇国】軍は、地雷源を抜けて来てしまった。
私は、次の手を打つ。
魔動戦車の制御を奪って同士討ちをさせてやる。
「【操作】」
私は、8千両ばかりの魔動戦車を支配下に収めた。
すぐに、支配下に置いた魔動戦車の砲塔を旋回させ、至近距離で、味方だった魔動戦車を砲撃する。
【ウトピーア法皇国】軍は、また半パニック。
味方の魔動戦車が何者かに制御を奪われた事に気付いて、同士討ちを仕掛けて来る魔動戦車から乗員を退避させ、周囲の魔動戦車から集中砲火を浴びせている。
バカめ。
私は、1万までなら、幾らでも【操作】出来るんだよ。
制御を奪った魔動戦車が破壊されたら、次の魔動戦車の制御を、また奪えば良い。
連鎖ドミノ式に、敵軍の戦力を削げるのだ。
【ウトピーア法皇国】側が、制御を奪われた魔動戦車への対応に追われている間も、私が上空から爆撃を繰り返し、【ノースタリア】の城壁からは砲撃が行われている。
ヒモ太郎は、敵の砲撃の切れめを狙って、巧みに【結界】をON・OFFしていた。
そのタイミングで、私が【スケルトン】砲撃隊に砲撃をさせる。
私とヒモ太郎は、阿吽の呼吸だ。
これは、このまま一方的な展開になるかもね。
敵軍の後方から、3台のトレーラーが現れた。
あ、あれは……ヤバい。
敵のトレーラーは、荷台に積まれたミサイル・ポッドのようなモノから、何かを射出した。
スポーンッ……ザクッ……ズブズブズブ……。
射出されたミサイル状の物体は、僅か5mばかり前方に飛んで、ボトッ、と地面に落下した。
不発?
いや、違うんだよ……アレは。
ミサイル状の物体は、地面に突き刺さり、地中に潜り込み始めたのだ。
あれは、【神の遺物】の【地中魚雷】。
ちっ、やっベーっ!
私は、【転移】で、【ノースタリア】の城壁手前まで戻った。
ヒモ太郎……地下だ……【地中魚雷】が来る……対空防御は、私が変わるから、ヒモ太郎は、地下を防御して!
私は、パスを通じて指示する。
ブモッ。
ヒモ太郎がパスを通じて応じた。
アレはヤバい。
【ウトピーア法皇国】が、あんなモノを持っていただなんて……。
【地中魚雷】は激レア・アイテムだ。
【遺跡】でも最深部で稀にドロップする程度。
だから、まさか、NPC国家の【ウトピーア法皇国】が【地中魚雷】を持っているなんて、思いもよらなかった。
なので、私は、地下攻撃の対策をしていない。
初期オブジェクトの主要都市は、不壊・不滅だから、【地中魚雷】では、主要都市内には、ほとんど打撃を与えられないだろう。
でも、人種が築いた都市に対しては、【地中魚雷】は最強の攻城兵器となる。
地中を進んで来る【地中魚雷】は、迎撃が困難極まりないんだよ。
そして、ヒモ太郎の【神位結界】は、スペックの限界で地上部分の半球しか守られていないのだ。
つまり【ノースタリア】の地面の下は、全くの無防備。
これは、やられる。
完全に油断していた。
クソ、クソ、クソッ!
あ〜、グリモワール艦隊のファランクス型バルカンなら、迎撃出来たのに……。
せめて、【飛空巡航艦】と【フリゲート】をコッチに持って来ておくべきだった。
迎撃するのは【地中魚雷】の方じゃない。
アッチの迎撃は困難だからね。
つまり、対空防御をファランクス型バルカンでやってもらおうって意味だよ。
何故なら、敵軍の砲撃の飽和攻撃をヒモ太郎の【神位結界】に頼らず、私がやらなきゃならないのは超キツい。
いや、取り返しのつかない事を今更悔やんでも、仕方がないね。
とにかく、今出来る対応をするしかない。
私は、対空防御の為に、脳の演算能力をフル回転させる。
弾速の速い【魔動砲】は、私が対処するしかない。
実弾砲は【腐竜】と【エルダー・リッチ】に任せる。
ヒモ太郎は、地上に張られた【神位結界】を解除して、地中に半球状の【神位結界】を張った。
刹那!
ズシンッ!
ズシンッ!
ズシンッ!
【ノースタリア】の市街地の地中から不気味な音と振動を感じる。
ふ〜、間に合ったか。
【地中魚雷】は元々は、地中に潜る【サンド・ワーム】などを攻撃する目的で実装された【神の遺物】だった。
どういう仕組みで地中を進むのかは、全くわからない。
さらに、地中の高い摩擦抵抗を物ともせずに、相当な速度で移動するのだ。
また、【地中魚雷】が通った後に、穴などは空かない。
ゲームだから、という説明しか出来ない謎ギミックなんだよ。
私は、対空防御に追われた。
私は、【腐竜】と【エルダー・リッチ】と手分けして、砲撃を処理する。
……が、トンデモない。
こいつは砲撃の数が多過ぎるぞ。
ぐあっ……やばっ……ちょっと、タンマ……。
ドカーーンッ!
ドカーーンッ!
ドカーーンッ!
【ノースタリア】の都市内に複数の砲撃が着弾してしまった。
チキショーッ!
「シルヴェスター!怪我人を救助・収容して、すぐ治療に当たれっ!消火活動にも、人員を回すんだっ!」
私は、砲撃を処理しながら、スマホで命じた。
「はっ!直ちに……」
シルヴェスターが応える。
ヒモ太郎に対空防御を交代するか?
ダメだ。
敵は、まだ【地中魚雷】を持っている。
一斉に撃って来ないで、1発、2発ずつチマチマと【地中魚雷】を撃って来るところが、嫌らしい。
コッチの手の内を、ある程度分析していやがるんだろう。
どうやら【ウトピーア法皇国】側には、相当有能な司令官か戦術士官がいるらしい。
私が、飛んで行って、【地中魚雷】の発射台付きトレーラーを破壊すれば良いんだけれど、対空防御に追われて、それどころじゃない。
演算能力を対空防御に取られて、【スケルトン】砲兵隊に、件のトレーラーを狙わせる事も出来やしないんだよ。
クソッ!
対空防御の為に、砲撃の射線上に飛ばしている【腐竜】と【エルダー・リッチ】の【防御】がガリガリ削られて行く。
も、保たね〜。
これじゃ、ジリ貧だ。
私は判断を誤った。
味方の犠牲を覚悟してでもトレーラーを破壊しに行くべきだったんだよ。
目先の損害を恐れて、大局を見失っていた。
自分の愚かさを呪いたい。
ドカーーンッ!
ズシーーンッ……ガラガラガラ……。
えっ!
【ノースタリア】の都市城壁の一部が崩落した。
これは、本格的にヤバい。
負ける?
なろーーっ!
敵軍の魔動装甲車が、魔動戦車を追い抜いて突撃して来る。
崩落した城壁に突入して、兵隊を都市内に送り込むつもりなんだろう。
無数の歩兵も、魔動装甲車の後から全速力で走って来る。
させるかっ!
私は、【ゾンビ】を崩落した城壁の内側に集結させた。
【ウトピーア法皇国】軍の魔動装甲車が、隊列を組んだ【ゾンビ】達に激突する。
魔動装甲車は、止まらない。
当たり前だ。
人種の肉体を材料に造られている【ゾンビ】に、疾走する戦闘車両を止められる筈がない。
でも、そんな事は想定済みだ。
【ゾンビ】達は、敵の魔動装甲車になぎ倒されながら、その車体にしがみつく。
今回の戦闘で、私は【ゾンビ】達に擲弾兵の役割を与えていた。
だから、【ゾンビ】達は榴弾を装備している。
みんな、許しておくれよ。
ドカーーンッ!
ドカーーンッ!
ドカーーンッ!
崩落した城壁の穴から突入を試みた、【ウトピーア法皇国】の魔動装甲車は、しがみついた【ゾンビ】もろとも次々に爆発した。
私の【ゾンビ】達は、本来なら発射筒に入れて投射する榴弾を手に持ち、敵の魔動装甲車の車体に打ち付け、起爆させたんだよ。
つまり……私の【ゾンビ】達は自爆攻撃をした……いや、私が自爆させたのだ……。
ドカーーンッ!
ドカーーンッ!
ドカーーンッ!
私の【ゾンビ】達は、次々に自爆して、【ウトピーア法皇国】の魔動装甲車の、【ノースタリア】城壁内への侵入を阻む。
破壊された魔動装甲車が崩落した城壁を塞ぐ形となって、敵の侵入口を閉じた。
グレモリー……今、大丈夫ですか?
【念話】が来る。
ナカノヒトだ。
大丈夫じゃねーよ。
何?……今、手が離せないんだけれど?
私は【念話】で応えた。
【ウトピーア法皇国】軍の機械化兵装は、荷電魔法触媒を基幹部に使用していますよ……あなたなら、制御を奪えるでしょう?
ナカノヒトは【念話】で言う。
知っているし、やっているよ……以前に【ウトピーア法皇国】軍の装甲戦闘車を調べたからね……でも数が多過ぎて……。
私は、【念話】で答えた。
「グレモリー様。聖堂に被弾!」
シルヴェスターからスマホに通信が入る。
何?!
あそこは、衛士隊の臨時司令部にしている。
都市の中央にあるから、各所への出動がしやすいからだ。
「ちっ、被害は?……怪我人は地下壕に退避させて!」
私は、指示を飛ばす。
「はっ!」
シルヴェスターは答えた。
……あのさ、私、今、超忙しいんだよ。
私はナカノヒトに【念話】で苛立ち紛れに伝えた。
もちろん、激烈な砲撃に対する対空防御をしながらだよ。
ナカノヒト……呑気な声を出しやがって。
コッチは、クッソ大変だってのに……。
【ウトピーア法皇国】軍の機械化兵装は、指揮車両が指揮下の10両ほどの戦闘車両を管制しています……指揮車両の制御を奪えば、その指揮下10両も無力化出来ますよ。
ナカノヒトは【念話】で言う。
マジで、良い事を聞いたよ……。
私は、【念話】で伝えた。
行ける!
現在、【ウトピーア法皇国】の魔動戦車は、6万両まで減らした。
ナカノヒトの情報によれば……つまり、6千両の指揮車両の制御を奪えれば、敵軍の主力兵装である魔動戦車を丸っと支配下に収められる。
戦局をひっくり返せるね。
「よーし、打って出るよ!」
私は、自分に気合いを入れた
ノヒト、あんがと……それじゃ、私は忙しいから、じゃあね。
私は【念話】で伝える。
ヒモ太郎、一瞬だけ対空防御を頼む。
私は、ヒモ太郎に【念話】で伝える。
ブモ?
ヒモ太郎は、【念話】で……【地中魚雷】は良いのか?……と訊ねた。
この際、1発、2発の被弾は覚悟の上だよ。
私は【念話】で伝える。
ナカノヒトからの情報で状況が変わった。
ここは犠牲を覚悟で打って出るべき状況だろう。
何故なら、敵の魔動戦車の6万両を支配下に収められれば、勝利が確定する。
それが結果的に味方の犠牲を最小限にするからだ。
ここは、腹を括って行くっきゃない!
迷っていれば、それだけ味方の犠牲が増える。
私は、【魔法のホウキ】で飛び立った。
私が【ノースタリア】上空から離れた後、間髪を容れずヒモ太郎が地上部に【神位結界】を展開する。
おらーーっ!
私は、雨のような砲撃の中、敵陣に突撃した。
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