第394話。グレモリー・グリモワールの日常…89…開戦。
チュートリアル終了時点。
名前…ウイリアム・ブリリア→ウイリアム・キャメロット
種族…【人】
性別…男性
年齢…17歳
職種…【王家】→【官僚】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…調整】
レベル…15
【ブリリア王国】元第3王子。
王家から臣籍降下し、アリスの婚約者として【サンタ・グレモリア】にやって来たが、色々とあって現在の立場はアリスの家来。
【ノースタリア】。
【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】の国境付近。
私は、ヒモ太郎と、【腐竜】、【エルダー・リッチ】、【ゾンビ】、【スケルトン】を総出動させていた。
この陣容でなら、神も殺せる。
ま、ナカノヒトや守護竜は無理だけれどね。
敵影見ゆ!
私は、ベリアルから鹵獲しておいた【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】を被り、上空に佇んでいた。
【ウトピーア法皇国】軍の魔動戦車が土煙を上げて縦列突進して来る。
その後方から、魔動装甲車と無数の歩兵が進軍して来ていた。
推定兵数80万以上……魔動戦車は10万両……その他、魔動装甲車など多数。
数が多いな、こりゃ。
10万両の魔動戦車という事は、【ウトピーア法皇国】軍が実戦配備する総数だ。
つまり、【ウトピーア法皇国】軍は、【ノースタリア】方面に虎の子の魔動戦車を全て投入したらしいね。
ディーテやヨサフィーナさんからの情報によると、【イースタリア】方面に進軍して来る【ウトピーア法皇国】軍は、魔動装甲車を主体とした機械化兵団と歩兵が主だ。
【イースタリア】方面の国境線には、【黒の森】の西端が横たわる。
デカい魔動戦車で森の中を突っ切るのは難しいと判断したのだろう。
【ノースタリア】に迫り来る【ウトピーア法皇国】軍は、国境に近付くと、魔動戦車を散開させ、横列に広がった。
定石通りか……。
敵の隊形は、面を広げて主砲の火力を最大限に発揮する意図だ。
【ウトピーア法皇国】軍は、国境まで、100mに近付く。
撃ち方用意。
私は、【ノースタリア】の城壁に並ぶ火砲類を操作する【スケルトン】砲兵隊に命じる。
一斉砲撃の準備だ。
【ウトピーア法皇国】軍が国境を侵犯した瞬間に、5千両や、そこいらの魔動戦車を一瞬で鉄屑に変えてやる。
私の砲兵隊の砲の威力は【超位】。
【ウトピーア法皇国】の砲の威力は【高位】。
威力は私が、砲門の数は向こうが上回る。
私とヒモ太郎と【エルダー・リッチ】と【腐竜】を合わせれば、総火力は、コチラが上だ。
でも、市民を守る分だけ、コチラが不利か……。
ちっ、空中を高速で起動しながら、私とヒモ太郎で爆撃すれば、簡単に勝てたのにね。
ランドルフのクソ野郎のせいで、私の完璧な戦闘プランが台無しになった。
ま、取り返しのつかない事をグチグチ考えても仕方がないね。
なるようにしか、ならない。
【ウトピーア法皇国】軍が国境を越えるまで、50m……30m……10m、止まった。
ちっ、クソが。
【ウトピーア法皇国】は、国境手前10mで、ピタリと進軍を止めた。
1両でも【ウトピーア法皇国】の魔動戦車が、【ブリリア王国】の国境を侵犯したら、もはや開戦。
戦時国際法上、私は、無条件で敵領内にいる軍隊に対しても迎撃が可能になる。
でも、【ウトピーア法皇国】軍は国境の手前で止まりやがった。
宣戦布告なしでの敵地先制攻撃は国際法違反になる。
つまり、私の方から先に手出しは出来ない。
敵は、任意のタイミングで宣戦布告を伝え、その直後に一斉砲撃を開始するつもりなのだろう。
面倒臭せーな。
こっちから宣戦布告をして先制攻撃を仕掛ける事も、手続き上は可能だけれど、その場合、戦後、先に手を出した方が攻撃の正当性を国際社会に明示する責任が生じる。
例えば……相手国が自国の国民を不当に拉致した……だとか……相手国が自国の鉱物や水などの資源を不当に盗んでいる……だとか、という具合にね。
【ブリリア王国】は【ウトピーア法皇国】に国民を拉致されたり、資源を盗まれてはいない。
【ブリリア王国】には、【ウトピーア法皇国】に対して、こちらから先に手を出す戦時国際法上の根拠がないのだ。
いや、今回の戦争における【ブリリア王国】の立場と同様に、ほとんどの国家紛争の場合で先制攻撃の正当性なんか、およそ、どんな国にも証明なんか出来ないんだよ。
外国に対して、簡単に攻撃の口実を与えるような行為をする国は、単に頭が悪いだけだ。
なので、他国を攻める根拠なんか、そうそう示せやしない。
それは【ウトピーア法皇国】の側も同じ。
でも、【ウトピーア法皇国】側は、先制攻撃の正当性を証明する気なんかハナからないのだ。
【ウトピーア法皇国】は、【ブリリア王国】との過去の戦争でも、全て、勝手に宣戦布告をして、勝手に先制攻撃を仕掛けて来ている。
戦後、【ウトピーア法皇国】は、先制攻撃の正当性などは証明出来ない。
従って、その度に国際社会からの激しい批判を受け、【ドラゴニーア】や【ユグドラシル連邦】を中心とする良識派の国々から、厳しい経済制裁を課されていた。
でも、【ウトピーア法皇国】は、全く意に介さない。
工業立国で比較的国力があり、また、特異な宗教によって国民を思想統制し、強固な独裁体制を維持している。
【ウトピーア法皇国】は、国際社会から、どんなに厳しい経済制裁を課されても、独裁統制国家として体制が揺るがないのだ。
それと同じ事を【ブリリア王国】は、出来ない。
【ブリリア王国】が国際社会から経済制裁を課されれば、すぐに国民が飢え始め、国家が立ち行かなくなるのは必定。
国王マクシミリアンのキャメロット王家は、国民の反乱に遭うだろう。
なので、【ブリリア王国】から【ウトピーア法皇国】に先制攻撃を行う事は、出来ないのだ。
【ウトピーア法皇国】軍は、魔動戦車と魔動装甲車の主砲で【ノースタリア】の都市内を狙った状態で動かなくなった。
なろ〜っ!
非戦闘員の一般市民を狙ってやがるな。
【ウトピーア法皇国】は、何れかの時点で、【ブリリア王国】に宣戦布告を通告し、一斉に砲撃して来る。
私は、というと、敵側から先に1発撃たせなければ、全く反撃が出来ない。
この状況は不公平だ。
ま、それが、このクエストのクリア条件なら、仕方がね〜けれどもさ。
やってやんよ。
その代わり、コッチも余裕がないんだからな。
リミッター解除で戦わせてもらうぞ。
死んでも恨むなよ。
どんなに酷い事になっても、それは自業自得だ。
ヒモ太郎……【結界】は大丈夫だろうね?
私は、パスを通じて訊ねた。
ブモブモッ。
ヒモ太郎は、パスを通じて……初撃は防ぎきれる……と返事をする。
初撃は……ね。
ヒモ太郎は、【神位結界】が張れる。
位階の高い【神位結界】で、広大な【ノースタリア】全てを覆う巨大な透明の壁だ。
ヒモ太郎は、【神格】の守護獣【ベヒモス】の【ホムンクルス】。
その力は、【神格】に相応しく強大だ。
でも、そのヒモ太郎のスペックをもってしても、広大な【ノースタリア】全てを覆う【神位結界】を張るのは大変なんだよ。
ヒモ太郎は、【結界】を維持する為に、防戦に張り付かなければならなくなる。
敵の魔動戦車の主砲は【高位】級。
位階で上回れば【結界】は、あらゆる攻撃を完全に防げる。
でも、それは耐久値が続く限りだ。
【結界】の耐久値は、攻撃を防ぐ度に、ガリガリ削られて行く。
耐久限界を越えれば、どんな位階の高い【結界】だろうと、破壊は免れない。
10万発の【高位】飽和攻撃なんかを食らえば、【神位】とはいえヒモ太郎の【結界】は破壊されてしまう計算だ。
ヒモ太郎は、【神位結果】を破壊されたら、瞬時に張り直して……それでも間に合わない分は、ヒモ太郎自身の【魔法障壁】と【防御】と身体を盾にして防ぐ、と言う。
敵の砲撃が間断なく行われ続ければ、ヒモ太郎でさえ、いずれ対応が間に合わなくなって、【ノースタリア】の市街地に敵の砲撃が着弾してしまうだろう。
これは、敵軍が初撃を放った後、私が、敵軍をどれだけ減らせるか、が勝負だね。
【ノースタリア】の市民の犠牲を最少限に……。
キッツい仕事になったよ。
因みにソフィアちゃんとかファヴ君とか……守護竜が、大陸の中央国家に常時張っている【神位結界】は、耐久値がクッソ高い。
その上、強力な攻撃で僅かばかりの耐久値を削ったとしても、リアルタイムで耐久値がドンドン回復する。
破るのは、ほぼ不可能だ。
でも、守護竜が中央国家に張る【神位結界】は、平時は隔絶型ではなく、透過型だ。
隔絶型とは文字通り【結界】の内外を物理的に隔絶する。
ヒモ太郎が今張っているようなモノだ。
透過型とは、条件を設定して、【中位】以下の魔物は通さないが、その他は通す、とか……内部に魔物をスポーンさせない、とか……内部の土を肥やす、とか……複雑な運用が可能になる。
守護竜が大陸の中央都市に常時展開している【神位結界】は、単なる防御隔壁ではないのだ。
そして、守護竜は、任意に【神位結界】の性質を変える事も出来る。
丁度、ウエスト大陸の中央国家【サントゥアリーオ】で、守護竜【リントヴルム】が【結界】の性質を変えて人種を排除してしまったみたいにね。
ま、守護竜が中央国家に張っている【神位結界】は、【結界】というより、不壊・不滅のオブジェクトの類だと考えた方が良い。
ヒモ太郎は、【ノースタリア】の都市上空に滞空していた。
私は、今回、ヒモ太郎に【結界】展開役として後衛を任せている。
私は、1人で前線に出て敵の大軍を相手にしなくちゃならない。
これは想定外の事態に対応する為の、苦肉の策だ。
何故なら、裏切り者の元【ノースタリア】領主のランドルフが、市民を避難させる筈だった商船団を盗んで逃げてしまったからなんだよ。
徒歩で避難する市民を護衛する筈だった、領軍と騎士団の大半も連れ去ってしまった。
だから、【ノースタリア】の市民を安全な場所に避難させられない。
私は、【ノースタリア】の都市内で、市民を守りながら、戦うという困難なミッションを遂行せざるを得なくなった。
完全に計算が狂ったね。
・・・
正午。
王都【アヴァロン】の王城に【ウトピーア法皇国】の大使が訪れ宣戦布告の外交文書を提示した……との報せが届いた。
来るっ!
国境の向こうに並ぶ魔動戦車の横陣隊列の後方から、無数の機影が現れた。
小型戦闘爆撃機。
その数、およそ4千機。
近接航空支援だ。
【ウトピーア法皇国】……コイツら戦争の仕方を知っていやがる。
厄介だ。
ヒモ太郎……戦車砲への対応は任せる……私は、戦闘機を何とかして来るよ。
私は、パスを通じてヒモ太郎に伝える。
ブモッ。
ヒモ太郎は……パスを通じて……了解……の意思を伝えて来た。
私は、【魔法のホウキ】を急発進させる。
刹那!
敵の総攻撃が始まった。
魔動戦車の主砲が一斉に砲門を開く。
10万発の砲撃。
凄まじい。
同時に、敵の戦闘爆撃機が国境を超えた。
私は間髪を容れず、【スケルトン】砲兵隊を操って【ノースタリア】城壁の上から火砲を一斉砲撃した。
ヒモ太郎は、味方の砲撃終了後、速やかに【神位結界】を展開する。
【ウトピーア法皇国】軍から撃たれた砲火が先に着弾した。
【ノースタリア】で猛烈な爆発が起きる。
でも、その尽くを、ヒモ太郎の【神位結界】が防ぎきった。
私の【スケルトン】砲兵隊が放った5千の砲火は、全弾が命中。
5千両の魔動戦車を破壊した。
耐久値を超えてヒモ太郎の【神位結界】は破壊されたけれど、市街地に着弾はない。
私は、【スケルトン】砲兵隊を操って、2射目を撃ち、ヒモ太郎は、素早く【神位結界】張り直す。
私とヒモ太郎のコンビネーションは、完璧だ。
私の【スケルトン】砲兵隊が放った2射目の砲撃は、再び全弾が命中。
また敵側の5千両の魔動戦車を破壊した。
私の【スケルトン】砲兵隊は、超優秀だからね。
良し、1万減らした。
私は、迫り来る敵の戦闘爆撃機編隊の鼻先に立ち塞がる。
とはいえ、【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】を被った私の姿は、敵からは見えない。
「【操作】」
私は、強力な【任意発動能力】を行使した。
【操作】は、【魔法公式】の上では、【操作】と、ほぼ同じ。
【操作】は、【不死者】などをパスを通じて操る【任意発動能力】だ。
【操作】と【操作】の違いは、ザックリと言えば……操る対象が敵か味方か……という事。
【操作】は、敵の操作を奪える【任意発動能力】なのだ。
私の【操作】は、【抵抗】される事なく成功。
【ウトピーア法皇国】軍の戦闘爆撃機は、全て私の支配下に入った。
良し、思った通りだね。
【ウトピーア法皇国】の兵器は、敵からの乗っ取り対策が脆弱だ。
魔動戦車も、魔動装甲車も、基幹部に荷電魔法触媒を使用している。
荷電魔法触媒は、外部からの乗っ取りに弱い。
私は、このゲームの歴史上最強の【死霊術士】だ。
また、【才能……完全管制】により、1万までの対象をパスを通じて【操作】出来る。
【ウトピーア法皇国】軍の兵器は、私にとって、カモでしかない。
ま、私みたいな規格外の【死霊術士】なんか、現代はおろか、ユーザー大消失以前の【神話の時代】にも存在しなかったから、【ウトピーア法皇国】の兵器設計は費用対効果を考慮すれば、妥当なのかもしれないけれどね。
私は、操縦を奪った【ウトピーア法皇国】の戦闘爆撃機を瞬時に分析した。
複座型のレシプロ機……大型爆弾を腹下に1発携行……その他の武装は機首に機銃、と。
弱いね。
私は、爆弾を投下して、次々に【ウトピーア法皇国】の魔動戦車を破壊。
機銃を使って、後方の歩兵達に掃射を加えた。
阿鼻叫喚の地獄絵図だね。
戦闘爆撃機は、機銃を撃ち尽くしてしまった。
装弾数が少ない。
この機は、敵地上空に留まって制空権を確保するような仕様ではないのだ。
一撃離脱して、まず初手で対戦車砲などを破壊する目的の兵器なのだろう。
攻撃手段がなくなった機体を、いつまでも支配下に置いておくのは、無駄だ。
私の【管制】は、1万まで、というリミットがあるのだから。
私は決心した。
鬼になるよ。
私は、戦闘爆撃機を、敵の魔動戦車の上に墜落させ、双方を破壊した。
悪く思わないでおくれ。
あんた達も兵隊なら覚悟はして来たんだろう?
今日の私は、残虐非道な、大魔王モード、で行くよ!
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・・・
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