第391話。グレモリー・グリモワールの日常…86…夢の新エネルギー。
チュートリアル終了時点。
名前…ハビアー
種族…【人】
性別…男性
年齢…67歳
職種…【騎士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…槍術】
レベル…31
【サンタ・グレモリア】領軍副官。
私は、艦橋の計器類をザッと確認した。
グリモワール艦隊の各艦に動きはない。
相変わらず敵影見えず、と。
さあ、お昼ご飯を食べよう。
お昼ご飯のメニューは、ローストビーフをサンドしたパニーノと、甘めのアイス・カフェラテ。
アイス・カフェラテを一口飲む。
甘い。
でも、これから戦うという時には、これくらい甘いカフェラテを飲むのもありだ。
コーヒーのカフェインは脳を覚醒させる一種の興奮剤の働きをする。
そして砂糖は脳の栄養だとか、何かで読んだ気がするしね。
この甘ったるいカフェラテは、そういう意図なんだと思うよ。
ま、これを準備してくれたソフィアちゃんの好みの問題だけかもしれないけれど。
パニーノの具材は、ローストビーフ、レタス、ルッコラ、トマト、モッツァレッラ。
ソースがジュレ状になっていて、こぼれたり、パニーノに染みたりしない、親切な配慮がされていた。
かぶりつく。
美味い。
ローストビーフは、しっとり柔らかくって、旨味が凝縮されている。
【湖竜】や【地竜】も美味しいけれど、やっぱり牛肉の味は食べ慣れた安心感があるよね。
レタスとルッコラとトマトはみずみずしい。
癖のないモッツァレッラは、全ての具材に調和をもたらす。
そしてソース。
ニンニクとコショウが効いたパンチのある味だ。
これは、ソフィアちゃんが、お弁当として大量に持たせてくれたモノ。
今頃、【サンタ・グレモリア】の皆や、前線にいるディーテや【ハイ・エルフ】の古老達も、このローストビーフのパニーノを食べているだろう。
戦争の時には、都市の兵士も住民も炊き出しなんかで、皆、同じ物を食べると一体感が増すよね。
ごちそうさま。
相当、大きめのパニーノだったけれど、ペロリと食べてしまった。
・・・
さてと、さっきの続きの【乗り物】設計をしよう。
造るのは、消去法で多足歩行型に決まった。
うーんと、多足歩行とするなら、各関節に駆動モーターを乗っけて、と。
脚は何本いるかな?
安定性を優先するなら8本だけれど、脚が増えれば駆動系統が増えてコストが上がる。
ギリギリのラインで6本か……。
で、ジャイロ・スコープでバランスを取らせて……。
くっ……多足歩行のガニ股構造だと、これジャイロ・モーメントの回転軸が各脚ごとにバラバラになる。
脚の安定性と、本体の姿勢制御は別だ。
なら、本体の姿勢制御にもジャイロ・スコープを搭載して……。
いや、ダメだ。
この数のジャイロの制御を【メイン・コア】にやらせると、演算能力的にリミットを超える。
ジャイロ・スコープは、6個がギリだよ。
やり直し。
姿勢制御を【メイン・コア】にやらせて、各脚部のジャイロ・スコープは、【メイン・コア】に統括管理させれば……。
これも、【メイン・コア】の演算能力限界がネックか……。
何しろ、コスト的に【中位魔法石】1個しか使えないからね。
ちっ、どうしても、制御系がコストを圧迫する。
コストを勘案するなら、どう頑張っても【中位魔法石】が一個が限界だ。
【中位魔法石】の原価は、安いのを見繕っても500金貨……。
ふぁ?
500金貨?
ぐあ〜っ!
原価計算を1桁間違ってた〜っ!
原価500金貨の【中位魔法石】を使って、販売価格50金貨〜100金貨の【乗り物】なんか造れる訳ねーだろ?
私は馬鹿か?
つ〜事は、これ……無理ゲーじゃね?
ダメだ。
【メイン・コア】は、【低位魔法石】しか使えない。
あ〜、【低位魔法石】の【メイン・コア】に多足歩行の制御なんか不可能だよ。
【中位魔法石】ですらカツカツなんだからさ。
ど〜すんだ?
そ〜考えると、現代地球は凄いね。
安い軽自動車なら、100万円代。
悪路走破性が高いジープでも、1千万円出せば、かなりのモノが買える。
そもそも、自動車って何であんなに安いんだ?
【乗り物】に必要な技術の各コストを計算すればするほど、自動車の安さの意味がわからん。
大量生産だから……と言っても限度があるだろ?
うーん。
あ……。
あれだ、【コア】がない。
【コア】に類するモノは、コンピューターだ。
現代地球の車載コンピューターは自動車の機関部を制御する。
トルクや燃焼効率を最適化したり、燃費を向上させるように働くのだ。
でも、昔は、自動車はコンピューター制御なんかじゃなかった。
昔と言っても20年前やそこいらに売っていた100万円とかで買える、超安っちいマニュアルの軽自動車なら、車を走らせる機構にコンピューターは入っていない。
そもそも、自動車にコンピューターが搭載され始めたのって、80年代とかからだよね。
それ以前は、自動車にコンピューターなんか積んでいなかった。
その時には、およそ機械と呼べるようなモノはエンジンだけだったんだよ。
つまり、極論するなら、自動車とは、エンジンを乗せた車輪駆動の鉄の箱だ。
これなら、安く造れる。
T型フォードが発売されたのは、1908年。
100年以上前だね。
昔の人って、凄いな〜。
つまり、機能を制限すれば、黎明期の機械工学技術でも、自動車は造れるのだ。
悪路走破性とか、積載荷重とか、スピードとか、機動性とか、快適性とか……そんな贅沢な事を言っている場合じゃない。
まず、50金貨〜100金貨、という販売価格ありきで、逆算してやってみよう。
ならば、演算装置は捨てる。
【乗り物】に【コア】はいらないね。
つ〜か、コスト的に【コア】なんか載せている場合じゃない。
機械は、【魔導エンジン】だけ。
それも、屑【魔法石】で動かすような、単純な内燃機関だ。
演算機能によるエンジン制御なんかしなくて良い。
エンジンの中で【火魔法】を爆破をさせ……その圧力でピストンを動かし……ギアで車軸の回転運動に変換……車輪を回して走るだけ。
別にスマートな機械じゃなくて良いんだよ。
シャーシもボディも、単なる鋼鉄板。
魔鋼でさえ高くつくからね。
【自動修復】も【防御】も、何にもしない。
精々サビ止めに塗装を吹いておけば良い。
強化ガラス……いらねーか?
いっその事、オープンカーだ。
ドアとかもいらん。
アレだ。
リアカーにエンジンをくっ付けただけ、みたいな形状にしてしまえ。
サスペンションと、ダンパーは必要だ。
最高時速は、とりあえず100kmにしておこう。
運転席が露出している状態で100kmは、さすがに危ないよね。
いや、乗る人にヘルメットとゴーグル着用を義務付ければ良いんだよ。
積載荷重は1tにしとくか。
で、幾らになった?
概算で……原価10金貨。
来た〜っ!
販売予定価格の、50金貨〜100金貨、までは、まだ余裕があるね。
良し。
これをベースに、グレード・アップしてやれば良い。
まず運転席の保護はしなくちゃ。
強化ガラス……高ぇ〜。
ま、仕方がない。
ドア……いらねーな。
屋根……は、あっても良いか。
鉄板なら安いしね。
最大の問題は燃料か。
屑【魔法石】を燃料にすると言っても、燃費効率を考えたら、長く乗るとランニング・コストがかかる。
【魔法石】は屑とはいえ、やっぱり高い。
【魔法石】をエネルギー源にする方式を捨てられれば、コスト問題は、一気に解決するんだけれどね。
現代地球の自動車は、ガソリン燃料車だ。
なら……石油を掘るか?
いやダメだよ。
採掘して、精製して、輸送して、備蓄して、流通して、販売して……その膨大なインフラ整備を誰がやる?
私か?
どう考えても無理だろ。
じゃあ、どうしたら?
要は、液状の可燃物なら、ガソリンの代わりになるんじゃね?
あっ、液化荷電魔法触媒は?
液化された荷電魔法触媒に、魔力を溶け込ませれば、液体の魔力の塊として利用出来る。
液化荷電魔法触媒は安定化されている安全な物質だけれど、それを触媒の素性を少し弄って無理矢理不安定な物質にしてしまえば……。
それを【魔導エンジン】にブチ込んで、魔法的に反応させりゃあ、大爆発すんじゃね?
そうだよ。
魔力を込めた液化荷電魔法触媒を、ガソリンの代わりに液体燃料として使えば良いじゃん。
うーん、たぶん、分子構造を……酸素原子を1個、ここにくっ付けてやれば……超不安定な物質になる。
これは、ニトログリセリンみたいな液体爆薬だね。
で、ドカーーンッ、とやる。
爆発力が大き過ぎて、構造計算上、エンジンの強度が足らん。
良し、コストに余裕も出たし、【魔導エンジン】の内部にアダマンタイトでもコーティングしておくか。
それから、エンジン自体も厚くして、と。
うん、これなら爆発力に耐え得る。
おっと、燃料タンクと送管が必要か。
これらも、強度を高めて、と。
だいぶ重くなったね。
でも、エンジン出力が劇的に上がっているから、相当な荷重に耐え得る。
うん、問題ない。
重量限界に余裕が出たから、各部の補強も出来る。
爆発の威力で、ついでに発電もしよう。
で、この電気エネルギーで、コンソールも起動出来るじゃんか。
よし、【コア】による魔導制御ではないけれど、電子制御なら行えるぞ。
安価なエネルギーを発見したら、あっちも、こっちも一気に問題が解決したよ。
コレがイノベーションか。
私は、大まかな設計図を書き上げた。
真四角の箱。
空気力学的なデザインではない。
多少は、流線型にしようとしたんだけれど、コストをケチって【工学魔法】に頼らず、鉄板や強化ガラスを正確に曲面加工する技術は、私には無理だった。
高度なプロトコルによるライン生産は、高くつくからね。
でも、これは生産の時には、鉄鋼メーカーや素材メーカーに部材として製造を依頼すれば良い。
ま、大量生産体制が構築出来れば、その辺のコストはペイ出来るから、いずれは【プロトコル】を導入したい。
でも今は、とりあえずファンダメンタルだけを提示すれば良いよね。
細かい工夫は、製造現場の人達に任せた方が上手く行くと思う。
私は、設計図を眺めた。
うん、大体良いね。
画期的な新技術は、何と言っても、分子構造を変えて不安定な状態にして魔力を充填した液化荷電魔法触媒……それ自体を可燃物と考えて燃料にした発想だ。
荷電魔法触媒は安い。
無尽蔵に採取出来る天然資源だ。
イケるっ!
さすがは私。
インフラ整備は……液化荷電魔法触媒に魔力を込めるプラントを建造して、ガソリンスタンドみたいな販売店を方々に造るだけで良いじゃん。
900年前に類似技術は、全く見た事がない。
私が知らない魔法技術なら、たぶん、存在しないんじゃないかな?
そして、現代のNPCには、分子レベルの物質改造が可能だとは思えない。
そもそも液化荷電魔法触媒を爆発させるって、発想もないだろうからね。
きっと、これは未知の技術だ。
なら、特許を出願しなくちゃね。
待てよ……。
コレって、何も【乗り物】だけの用途に限った話じゃないよね?
私が発見した、液化荷電魔法触媒の新たな利用法は、入手が簡単で、無限に使えて、枯渇せず、人体に無害で、大気汚染の心配もない、扱いやすい石油を手に入れたのと同じ事だ。
こ……これは、エネルギー革命だよ!
ヤバい。
たぶん、私、異世界最高の大金持ちになる。
それどころか、経済的に世界の支配だって出来るんじゃね?
ま、する気はないけれどね。
あっはっはっは〜。
私ってば、やっぱり、超絶最高な魔法の天才だったね。
それに、安価なエネルギーを大量に供給出来れば、世界の人達の役にも立つ。
大規模な穀物増産をしたりとか……都市の生活エネルギーも、効率が悪い薪や、高額な【魔法石】から、魔力を込めた液化荷電魔法触媒に丸っと起き換えられる。
電気と都市ガスとガソリン……などなどを兼ねる超有用な汎用エネルギーだよね。
そして、【魔法石】より、圧倒的に安い。
魔力を込めるシステムさえ、何とか出来れば、本当に世界が変わるよ。
凄い大発明だ。
戦争が終わったら、プロトタイプを造って、すぐ実証実験を始めよう。
魔力充填済液化荷電魔法触媒……長い名前だ。
何か、気の利いた名前を考えよう。
石油っぽいから、魔油?
何か、中華料理とかに使いそうだ。
魔液?
何かピンと来ない。
横文字を使おう。
マジック・オイル。
何か、胡散臭い化粧品みたいになった。
マジック・ウォーター。
今度は、いかがわしいダイエット飲料みたいになったね。
マジック・リキッド。
うん、格好良くはないけれど、他の案よりは、まだマシだ。
良し。
魔力充填済液化荷電魔法触媒の名前は、とりあえずマジック・リキッド(仮)としよう。
・・・
私は、夕食の特大のハンバーグが乗った、ハンバーグ丼を食べながら、艦橋のモニターを見ていた。
見えて来た……【ノースタリア】。
私は通信機から、事前に教えてもらっていた【ノースタリア】の航空管制にアクセスする。
「【ノースタリア】管制。こちらナイチンゲール」
私は呼びかけた。
「ナイチンゲール、どうぞ」
【ノースタリア】の管制官が応える。
「当艦と後続のフリングホルニ、計2隻の【ノースタリア】上空への進入許可を要請する」
「ナイチンゲール、姿が見えないが?現在位置は?」
「光学迷彩をしている。一度だけ魔力反応を発するから、位置を確認して欲しい」
私は、ナイチンゲールとフリングホルニから、魔力反応を発した。
「ナイチンゲール、位置を確認。【ノースタリア】上空への進入を許可する。町の東側から侵入されたし」
「了解」
こうして、私は、【ノースタリア】に到着した。
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