第389話。グレモリー・グリモワールの日常…84…開戦近し。
チュートリアル終了時点。
名前…ケネス
種族…【人】
性別…男性
年齢…35歳
職種…【戦士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…規律、勇敢】
レベル…25
【サンタ・グレモリア】駅馬車隊長。
ナイジェルの息子。
私達は、【サンタ・グレモリア】に帰還した。
神殿の礼拝堂に到着すると、アリスとスペンサー爺さんとパーシヴァルさんが出迎えに待っている。
「おかえりなさいませ、グレモリー様、ディーテ様」
アリスが恭しく礼を執った。
「ただいま。街に変わりはない?」
「はい。【サンタ・グレモリア】は平穏そのものです」
「マクシミリアンとリーンハルトは?」
「王陛下は、相変わらず見事に時間稼ぎをしています。父は、騎士団と領軍をまとめ、船団と共に【アヴァロン】に出陣しました」
アリスが顔を引き締めて言う。
あ、そう。
全ては手筈通りだね。
リーンハルトは、自領の守りを固める訳でもなく、前線に出撃する訳でもなく、【ウトピーア法皇国】との戦場とは反対方向に当たる【ブリリア王国】の王都【アヴァロン】に向かって出陣した。
【イースタリア】には、衛士隊しか残っていない。
これは、事前の打ち合わせ通りだ。
リーンハルトは、王の近衛騎士団や王軍と合流して、【ウエスタリア】に向かう事になる。
彼らの敵は、【ウトピーア法皇国】ではない。
そっちは、私がブッ飛ばす。
マクシミリアンとリーンハルトは、【ウエスタリア】領主バーソロミュー・ウエスタリアを討伐する為に出兵するのだ。
バーソロミュー・ウエスタリアは、【ブリリア王国】の公爵で、マクシミリアンの叔父。
バーソロミューの姉が、マクシミリアンの生母……つまり、先代の【ブリリア】正王妃……王太后だ。
バーソロミューの政治的立場は、【ブリリア王国】の国教である妖精教会の擁護。
そして、バーソロミューは、【ブリリア王国】に侵略しようとしている敵である【ウトピーア法皇国】との融和を謳う派閥の親分でもある。
武断派の王マクシミリアンと、その剣と言われる忠臣リーンハルト……対するバーソロミューは文治派の領袖。
マクシミリアンとリーンハルトは、妖精教会を潰しにかかっているし、【ウトピーア法皇国】とは徹底抗戦を決意していた。
私の陣営は、この2点のイシューにおいて、マクシミリアンとリーンハルトを完全に支持する。
私は、妖精教会が大っ嫌いだ。
バーソロミューは、妖精教会と利害を共有する同じ穴のムジナ。
そして、【ウトピーア法皇国】のシンパサイザーであるバーソロミューは、普通に考えて、私とは相容れない。
まだ直接的な害を受けた訳ではないから、今のところ、私にはバーソロミューと戦う理由はないけれど、マクシミリアンとリーンハルトが……バーソロミューを討伐する……と言うなら……どうぞどうぞ……って感じだ。
でも、マクシミリアンとリーンハルトは、政治的立場を異にするというだけの理由で、バーソロミューの討伐に動いている訳ではない。
王や王派閥とはいえ、意見が違う臣下を、すぐに粛清する訳じゃないし、するべきでもないからね。
周りにイエスマンしか置かないトップは滅ぶ。
マクシミリアンも、そんな事はわかっている。
だからこそ、バーソロミューを今日まで生かして来たのだ。
バーソロミュー・ウエスタリアが誅殺される理由は、シンプル極まりない。
バーソロミューは既に【ブリリア王国】を裏切っている。
彼は、【ウトピーア法皇国】と密約を交わしているのだ。
密約の内容は、【ウトピーア法皇国】が【ブリリア王国】に侵攻したら、バーソロミューは【ウトピーア法皇国】に協力し、機を同じくして【ウエスタリア】で挙兵し、王都【アヴァロン】を急襲する事。
戦後は、バーソロミューが新生【ブリリア王国】の王となる事。
とはいえ、その時点では【ブリリア王国】は【ウトピーア法皇国】の保護国となっており、バーソロミューは【ウトピーア法皇国】の傀儡に過ぎないのだ。
そして、【ブリリア王国】の国民は、【ウトピーア法皇国】の奴隷となる。
だから、バーソロミュー・ウエスタリアは、謀反人として、マクシミリアンとリーンハルトに討伐されるんだよ。
ま、私には関係ないけれどね。
私は、【収納】からスマホを取り出して、関係者に向けて一斉通話を行った。
「これより、戦略会議を行う。【サンタ・グレモリア】首脳陣は、【アリス・タワー】会議室に集合しておくれ」
私は、指示する。
私は、スマホを切って神殿を出た。
・・・
【サンタ・グレモリア】の上空を見上げると、雲一つない秋の晴天。
広い空以外何もない……ように見える。
でも、【サンタ・グレモリア】の街には、幾つもの薄ぼんやりとした巨大な影がユックリと動いていた。
強力な【認識阻害】によって視認出来なくなったグリモワール艦隊が【サンタ・グレモリア】上空にいるんだよ。
これは、ナカノヒトがグリモワール艦隊の艦船全てに【神位魔法】による魔改造を行った際に、各艦船の【メイン・コア】のプログラム・アップ・デートによってもたらされた新機能。
グリモワール艦隊の艦船は、全て【ダンジョン・コア】を【メイン・コア】にしているから、魔力反応を隠蔽するだけでなく、光学迷彩や、【防音】なども行える。
私が、グリモワール艦隊がいるであろう上空に出力全開で【魔力探知】をかけると、薄っすらと魔力反応を拾えた。
これは、普通の【魔法使い】には見えないね。
恐るべきステルス艦隊だよ。
グリモワール艦隊のステルス性能は、【完全認識阻害】機能を持つ【神の遺物】の兜【アイドス・キュエネー】には及ばないけれど、アレに準ずるレベルの高い【認識阻害】能力だ。
【アイドス・キュエネー】は、私を殺そうとしたベリアルが被っていた兜で、今は、私がナカノヒトから所有を許されて持っている。
それにしても、見えない空母打撃群とか……相当にヤバいよ。
ま、【マッピング】サーチや、レーダーやソナーを使われたらバレるって話だったけれどね。
ほとんどのNPCは【マッピング】機能は持たないし、【サンタ・グレモリア】の周辺を偵察しているであろう【ウトピーア法皇国】の斥候部隊は、レーダーやソナーなどの、かさ張る機材を持ち込んでは来ないだろうから、誤魔化せるだろう。
ナカノヒトは、【ドラゴニーア】艦隊にも、同じステルス能力を順次付与しているそうだ。
ま、【ドラゴニーア】艦隊の場合、あえて存在を見せつけて、示威や抑止力をアピールする必要もあるから、平時はステルスを使わないらしいけれどね。
私は、行政区の稲畑の一角に向かう。
・・・
「よっこらせ、っと」
私は、【収納】から【避難小屋】を取り出して、元あった場所に置いた。
戦争が始まったら、フェリシアとレイニールは、この中に退避してもらう。
【避難小屋】の中にいれば安全だ。
2人しか【避難小屋】で保護するつもりはない。
他の人達には、悪いけれど、全員を狭い【避難小屋】で保護出来ない以上、これが私の線引きだ。
ま、【サンタ・グレモリア】の人達を、みすみす死なせるつもりはないけれどね。
うん、【避難小屋】は、何となく、ここが定位置としてシックリ来るよ。
私は、辺りを見回した。
畑の稲穂は重そうに穂を垂れている。
もう収穫を待つばかりだ。
今、自由街【サンタ・グレモリア】辺境伯領として大きくなった、私の街は、全て、この場所から始まったんだよね。
私が、作り上げたNPCの街を、壊されてたまるか。
【ウトピーア法皇国】が、ここに攻めて来るのなら、過剰なくらいに痛い目に遭わせてあげるよ。
その時、スマホにメールが届いた。
何々……なるほど。
メールは、ソフィアちゃんの会社……ソフィア・フード・コンツェルンのCEO、ヴァレンティーナ・ベルルーティという人からだった。
私は、ソフィアちゃんから誘われて、ソフィア・フード・コンツェルンへの資本と経営への参画を決めている。
ソフィアちゃんにも、今朝、その意向は伝えた。
このメールは、その条件の内容確認だね。
私は……了承……の返信を送る。
この条件内容を元に、後日、改めて【契約】が結ばれるのだ。
【サンタ・グレモリア】の水産物と、水産加工品……それから栽培に成功したら、【ラピュータ宮殿】の【黄金のリンゴ】も、ソフィア・フード・コンツェルンに売る事になる。
【サンタ・グレモリア】や、シャルロッテ達【ラピュータ宮殿】の【樹人】コミュニティにも利がある話だ。
私は、スマホをしまって、【アリス・タワー】に向かった。
・・・
「戦略会議を始めます。グレモリー様、お願いします」
アリスが言う。
「えーと、今日まで、諸々の申し合わせや指示は個別にやって来たから、各担当者は自分のやるべき事を理解していると思うけれど、陣営の意思統一と、認識と情報の共有の為に、一同に会してもらった。それぞれ、担当任務を簡潔に述べて、全員に周知させてね」
「では、まずは、ディーテ様から、お願いします」
アリスは、議事を進行した。
「私の任務は、【サンタ・グレモリア】の防衛。キブリちゃん、神の軍団と協力して、敵を粉砕する事。グレモリーちゃんが作った街に傷一つ付けさせるつもりはない。敵を撃滅した後も、引き続き防衛を担うわ。留守番は多少不本意だけれど、まあ、グレモリーちゃんが攻め手を率いるなら、守りは私が指揮するのが妥当かしらね。この戦争……勝つわよ」
ディーテは言う。
ディーテは、今回、【サンタ・グレモリア】方面軍の指揮官だ。
私が一番守りたいモノは、一番信頼出来る者に守らせる。
キブリ警備隊と、グリモワール艦隊から【砲艦】50隻を引き抜き、【サンタ・グレモリア】を防御。
ディーテ自身は、ナカノヒトから借り受けている100頭の神の軍団を率いて【サンタ・グレモリア】の城壁の外に布陣し、【ウトピーア法皇国】軍を見つけたら、打って出て、敵を殲滅。
【サンタ・グレモリア】を無傷で守る事を目標とする。
アリス以下、【サンタ・グレモリア】の首脳陣には、スペンサー爺さんを始め、戦いたがった者達もいるけれど、私は、それを却下した。
会議が始まる前に、私は、【サンタ・グレモリア】の首脳陣には、【マジック・カースル】から持って来た【神の遺物】の装備を貸与・支給している。
また、彼らはチュートリアルを受けて、基礎戦闘力が2倍になった。
だからといって、強くなったような気にならないで欲しい。
皆が、前線にシャシャリ出ると、はっきり言って、ディーテの邪魔になる。
ディーテは、異世界のNPCでは最強の一角だ。
私が知る限り、ディーテより確実に強いと断言出来るNPCは、ルシフェルしかいない。
それに、今回は、ナカノヒトから借り受けた強力な援軍……神の軍団100頭もいる。
なので、よほどの事がない限り、ディーテが死ぬような状況は想像し難い。
でも、脆弱な個体を守らなければならない、としたら、幾らディーテでも苦しい戦いを強いられる。
スペンサー爺さん達には悪いけれど……今回は、ディーテの戦いの邪魔をしない事が、あなた達の最大の貢献だ……と言い含めて納得してもらった。
それに、何も、敵を殺すばかりが兵士や衛士や駅馬車隊の役割じゃない。
【サンタ・グレモリア】の街の人達を、しっかりと先導して、秩序を維持しパニックなどを起こさせない事も、立派な任務なのだ。
【サンタ・グレモリア】内の防衛と救護には、ナカノヒトからもらった【自動人形】・シグニチャー・エディション139体の内、39体も使う。
「ヨサフィーナ様」
アリスが促した。
「うむ。私達、【ハイ・エルフ】は、グリモワール艦隊を率いて【イースタリア】の防衛に当たる。【イースタリア】は、今回の戦争では、主戦場の1つであろう。激戦が予想されるが、グリモワール艦隊は強力だ。【イースタリア】は守り切る。敵を撃滅した後は、【ウトピーア法皇国】領内に攻め込み、グレモリー様と合流し、【ウトピーア法皇国】を叩く」
ヨサフィーナさんは言う。
ヨサフィーナさんは、【イースタリア】方面軍の指揮官。
グリモワール艦隊は、ヨサフィーナさん達【ハイ・エルフ】の古老達が率いて【イースタリア】の前線で戦うのだ。
【イースタリア】の領主リーンハルトと、騎士団と領軍は、【アヴァロン】に向かっている。
衛士隊しか残っていない無防備な【イースタリア】を守るのは、ヨサフィーナさん達と、グリモワール艦隊の役割だ。
リーンハルトは、私を信頼して、【イースタリア】の防衛を任せてくれたのだから、何としても守らなくてはならない。
私は、ディーテに……仮に、【サンタ・グレモリア】に敵軍が攻めて来ない場合などは、ディーテの判断で、神の軍団を【イースタリア】に差し向ける……などの柔軟な防衛戦力の運用を認めていた。
ディーテなら上手くやるだろう。
グリモワール艦隊には、ナカノヒトからもらった【自動人形】100体をクルーとして使う。
クルーの数は足りていないけれど、ナカノヒトの魔改造で、グリモワール艦隊は、艦船自体が操艦や攻撃などを出来るようになっているから、何とか戦える筈だ。
敵を撃滅後は、グリモワール艦隊は敵地に侵攻して空爆を行う。
艦隊が離れて無防備になる【イースタリア】の防衛は、ディーテの役目。
【サンタ・グレモリア】と一緒に守ってもらわなくちゃならない。
ディーテでなければ任せられない重要な役割だ。
「グレモリー様」
アリスが私を促す。
「私は、【ノースタリア】に向かって敵主力を迎え討つ。グリモワール艦隊からは、輸送船フリングホルニと病院船ナイチンゲールを引き抜いて持って行くよ。敵を撃滅した後は、【ウトピーア法皇国】領内に、そのまま反攻を仕掛ける。敵地で、ヨサフィーナさん達グリモワール艦隊と合流して、【ウトピーア法皇国】を降伏させて来るよ」
輸送船フリングホルニと病院船ナイチンゲールを持って行くのは、グリモワール艦隊の戦力を下げたくなかったからだ。
この2隻は、一応、火器類も装備しているけれど、あくまでも自衛防空火器で、戦闘艦ではない。
ヒモ太郎をフリングホルニに座乗させて移動砲台にして、私がナイチンゲールに座乗して移動砲台になる……という予定。
それから、【サンタ・グレモリア】には、医療設備があり、医療スタッフがいるから傷病者などの手当や治療は、ある程度出来る。
【イースタリア】も近いから、医療人員を派遣する事も出来るだろう。
でも、【ノースタリア】の医療は、私がテコ入れする前の【イースタリア】と同じレベルだと思う。
あれは、酷かった。
だから、病院船ナイチンゲールは、【ノースタリア】に派遣するべきだと思う。
「グレモリーちゃん、何か、気合いの入る事を言ったら?」
ディーテが無茶振りをする。
「目標は……死なない。身内を死なせない。敵はブッ飛ばす……以上」
皆、顔を見合わせて、笑った。
「気の抜けるスピーチだったけれど、グレモリーちゃんの言った事が戦争の全てよ。味方の損害を最少に……敵には凄惨な死を。各自、家族と仲間……それから、あなた達の守るべき者達の為に、持ち場で全力を尽くしなさい」
ディーテが言う。
「「「「「おーーっ!」」」」」
会議に参加している男達が気勢を上げた。
女性陣は頷く。
ディーテに美味しいところを持って行かれた。
ま、良いけれどね。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。
ご意見などは、ご感想の方に、お寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




