第387話。グレモリー・グリモワールの日常…82…魔動戦車。
チュートリアル終了時点。
名前…オスカー
種族…【人】
性別…男性
年齢…47歳
職種…【執事】→【官僚】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…庶務】
レベル…16
元コンラード子爵家の執事。
現在はアリス配下の官僚団を束ねる存在。
朝食のメニューは、分厚い【パイア】肉の特大ロースカツ定食。
朝から、またヘビー級のが来たよ……。
フェリシアとレイニールは喜んで食べている。
ま、私も異世界転移以来、胃もたれや胸焼けに悩まされた事はないから良いけれどね。
胃もたれや胸焼けがないのは、別にユーザー特有の特異体質という訳ではない。
私は2日酔いもしたから、代謝も消化不良も普通に起きている。
これは、私の身体が10代後半で固定された事が原因だと思うよ。
若かりし頃は、朝っぱらから揚げ物を食べても、胃もたれや胸焼けにはなりにくい。
つまり、そういう事だ。
私は【パイア】カツの真ん中の一切れに、小瓶に入れてあるソースをかけて食べる。
美味っ!
この【パイア】カツ、ヤバッ!
細か目のパン粉でサックサクに揚げられた衣に、中身はジュワ〜ッとジューシー。
【パイア】肉は豚肉よりも、柔らかくてジューシーだから、豚カツ以上の味だね。
「美味しいね〜」
レイニールが私に言った。
「本当だね〜」
私は、二切れ目にカラシを塗って食べる。
これまた美味いっ!
なんちゅ〜暴力的な美味しさ。
脂身が甘くて、肉は旨味が強い。
そして、この、えもいわれぬ風味と、後味の良さ。
これは、揚げ油に【パイア】ラードを使っているからだね。
【サンタ・グレモリア】でも、ジェレマイアさんの加入以来、揚げ物を食べるようになって来たけれど、使用しているのは菜種油や大豆油で、【パイア】ラードを揚げ油には使っていない。
【パイア】ラード……即ち、【パイア】の脂肪は、冒険者ギルドでの解体時に全てまとめて取り置いてもらい、【イースタリア】聖堂の石鹸工場に他の獣脂と一緒に卸しているから、揚げ油に使えるほどには量が確保出来ないのだ。
廃油でも石鹸は作れるから、揚げ物など調理に使った後の廃油を石鹸工場に渡す手もあるけれど、調理済廃油は、脱臭措置を念入りにしなければ製品化に支障が出るので、していない。
豚カツや、唐揚げや、さつま揚げの匂いがする石鹸で身体を洗いたい人はいないだろうからね。
【パイア】ラードか……これは贅沢品だね〜。
「地球では、戦に赴く時に、戦勝祈願と武運長久の願をかけて、カツを食べる習慣があると聞く。じゃから、我が頼んで、今朝のメニューは【パイア】カツにしたのじゃ」
ソフィアちゃんが、エッヘン、とばかりに胸を張って言った。
なるほど。
つまり、ソフィアちゃんは、私が、これから【ウトピーア法皇国】と戦うから、【パイア】カツで験担ぎをしてくれた訳だね。
「ソフィアちゃん、ありがとうね」
私は、ソフィアちゃんに、お礼を言った。
「グレモリーよ、必ず勝ってくるのじゃぞ。まあ、これは一私人としての願いじゃ。セントラル大陸の守護竜としては、他の大陸の紛争で、同盟国でもない片方の陣営の肩を持つ事は出来ぬ故にな」
ソフィアちゃんは言う。
「うん。一私人としてのソフィアちゃんからの激励として受け取っておくよ」
「うむ。一私人としてなのじゃ」
・・・
食後のデザートに紅茶のシフォンケーキを食べながら、お茶を飲む。
さすがに、私は【パイア】カツ定食の後に、シフォンケーキで畳み掛けられては消化がキツい……。
私とグレースさんは、シフォンケーキをソフィアちゃんにパスして、お茶だけを飲んでマッタリする。
フェリシアとレイニールは、喜んでホイップクリーム山盛りのシフォンケーキを食べていた。
育ち盛りの子供の胃袋は、頑強だよね……。
「グレモリー様。これは、我が国の……関係者が集めていた情報でございます。お役立て下さいませ」
アルフォンシーナさんが何やら資料を渡して寄越す。
ん?
何コレ?
これって……【ウトピーア法皇国】の軍事機密じゃんか?
アルフォンシーナさんが私に差し出したのは、【ウトピーア法皇国】の主力兵装……魔動戦車の設計図だった。
【ウトピーア法皇国】軍には、実に10万両の魔動戦車が実戦配備されているという。
これは、【神の遺物】の【魔導戦車】とは別物で、性能面で大きく劣る。
とはいえ10万両は多い。
因みに、アルフォンシーナさをんの言う関係者とは……つまりスパイの事だろう。
「こんなモノ、私にくれるの?」
「はい。政府内の意見調整に時間がかかり、グレモリー様への情報提供の決断が遅れてしまい、今日となってしまいましたが……お役に立ちますか?」
アルフォンシーナさんは言った。
アルフォンシーナさんは……当初から私に、この魔動戦車の情報を提供するつもりだった……のだけれど、【ドラゴニーア】政府関係各位からの許可が、なかなか取れずギリギリとなってしまった事を詫びる。
アルフォンシーナさんと【ドラゴニーア】軍は……今回の【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】の戦争では、グレモリー・グリモワールに協力する事が、【ドラゴニーア】の国益に資する……と政府関係各位を説得してくれたらしい。
「どうもありがとう。もちろん役に立つよ。正直、敵勢の兵器情報は有り難い。でも、良く、こんな重要機密を手に入れられたね?」
「はい。我が国の関係者は、世界各国の中枢に浸透しておりますので」
アルフォンシーナさんは、ニコリ、と笑いながら、そんな不穏当な事を平然と言う。
「そ、そうなんだ……」
ま、外交や安全保障ってのは、甘っちょろいフェアプレー精神なんか通用しない世界だ。
政府は、自国民の生命と財産の保護を最大限追求するのが使命。
【ドラゴニーア】ほどの超大国なら、諜報を重視するのも当然だ。
スパイは、たくさんいるんだろうね。
「そうよ。アルフォンシーナちゃんたら、同盟国の【ユグドラシル連邦】にも間諜を送って来ているんだから。酷いわ」
ディーテが言う。
「ディーテ様。それは、お互い様ではありませんこと?」
アルフォンシーナさんは言った。
「まあ、そうね」
ディーテは頷く。
ディーテとアルフォンシーナさんによると、2人によって取り交わされた700年前の秘密合意で……【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】は、未来永劫、相互に間諜は送り合っても、選挙介入などの内政干渉、破壊工作、暗殺などは行わない……と【契約】がされているらしい。
「今は、【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】の同盟と友好は盤石です。とはいえ【ユグドラシル連邦】諸国の政府や軍の一部に、反【ドラゴニーア】の思想を持つ者がいるかもしれません。【ユグドラシル連邦】諸国は、民主主義国家です。普通選挙による政権交代が起こり得るのですから、そうした【ドラゴニーア】にとって好まざる者が【ユグドラシル連邦】の政権を奪取する可能性も0ではありません。そういう事態にも対応出来るように準備だけは、しておきませんと」
アルフォンシーナさんは言った。
「そうね。選挙結果によって、そういう好まざる事態が起こり得るのは【ドラゴニーア】の方も同じだけれどね」
ディーテは言う。
「はい。ですから、万が一の事態に備えて、今後も関係者は送り込ませて頂きますね」
「お互いにね」
なるほど。
【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】は双方にとって最高の同盟国であり友好国だ。
私人としてのディーテとアルフォンシーナさんも親友や姉妹みたいな絆がある。
国民同士の感情も相互に堅く信頼感を持っていた。
とはいえ、全ての者が、そうだとは限らない。
また、例えば、【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】の同盟と利害が対立する立場の、個人や企業や国家が、両国の政治家や官僚や軍人を買収したり、脅迫したり……または、息のかかった者を送り込んで来て、【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】の友好にヒビを入れたり、同盟を解体させようと工作する可能性も否定出来ないのだ。
いざ、問題が生じて取り返しのつかない状況になった時に、ディーテとアルフォンシーナさんは、お互いを非難するだけでは済まされない公人としての責任を負っている。
なので、同盟国同士であっても、情報収集は必要不可欠だ。
政治ってのは、つくづく面倒臭いね〜。
それは、そうと……魔動戦車の構造分析だよ。
何か、弱点とか欠陥とかが見つかれば、今回の戦争で、私を有利にする。
どれどれ、ふむふむ。
エンジンは……いや、動力は駆動輪ごとに複数の独立した機構が用いられた魔導モーター方式だね。
利点は、低回転時のトルクと……魔力効率(燃費)と……駆動輪ごとに分かれたモーター・パワー・ユニットである為に、どれか1つが破壊されたり故障したりしても、残りのパワー・ユニットで走行が可能な事。
欠点は、各駆動輪にモーターを備える為、モーターの数が増え、車体は大きく重くなる事(これにより、個別パワー・ユニットの燃費の良さは、全体としては相殺される)……駆動輪が独立していて複数ある為、トルク調整などの制御が複雑化し、【コア】の演算能力を上げなければならなくなり、その分、技術力とコストがかかる事……生産効率と整備性が悪くなる事。
一長一短は、ある訳だね。
駆動は履帯式のアクティブ・サスペンション方式。
これもモーター駆動方式を採用しているメリットだね。
駆動輪ごと個別のパワー・ユニットに分かれているから、各足回りごとに個別のサスペンションを備えられる。
悪路走破性が上がり、結果的に悪路でのスピードが上がる訳だ。
車軸を用いたドライブ・シャフト駆動に比べて、多少乗り心地も良くなるだろう。
砲は、A型は魔導砲タイプで……B型は実弾砲タイプ。
双方とも威力は【高位】。
実弾の弾丸は、徹甲弾や榴弾や成形炸薬弾など様々……こっちには、小型核弾頭や生物・化学兵器弾頭も使える。
ま、NPCだけの技術力で、実戦使用可能な戦術小型核弾頭を実用化しているかは、大いに疑問だけれどね。
装甲は全車体平均では【中位】。
薄いね。
戦車装甲の理想は、自らの砲による攻撃を防げる事だ……と聞いた事がある。
つまり、【高位】の砲を撃つ、魔動戦車なら【高位】の攻撃までは防げる事が理想となる訳だ。
この装甲の薄さは軽量化の為だろうね。
魔動戦車は、各駆動輪ごとに独立したモーターを用いる駆動方式の為、車体重量が増える。
その為、分厚い装甲を持たせると、重くなり過ぎて機動力の低下に繋がるのだ。
ただし、駆動輪ごとに分かれたモーターのパワー・ユニットの内側に戦車乗員を置くレイアウトであるので、装甲の薄さはモーターのパワー・ユニットの厚みで補い、砲撃の貫通力から乗員を守る設計思想なのだろう。
また、モーターが置かれた車体側面は、比較的の防御力が高いので、その分装甲を薄くして、前方と砲塔の装甲を厚く出来る、と。
なるほど。
総合的に戦闘力の評価をすると、【ウトピーア法皇国】の魔動戦車は、精々【高位】級の兵器性能だね。
因みに【神の遺物】の【魔導戦車】は【超位】級だ。
それでも、【高位】級が10万両か……予想より手強いね。
負けるとは思わないけれど、味方への甚大な被害は覚悟しなくちゃならない。
何か、弱点を見つけたいね。
うーむ……。
ん?
待てよ……これ、【メイン・コア】に【中位】の【魔法石】を使用している?
うん、たぶん、そうだと思う。
よく考えてみたら当たり前の話だ。
【ウトピーア法皇国】……いやNPCの国家が、おいそれと【高位】以上の【魔法石】を10万個も用意出来る訳がない。
【ドラゴニーア】なら可能かもしれないけれどね。
【ウトピーア法皇国】の機械化兵団が、どんなに強いとしたって、【高位】以上の【魔法石】は、【高位】以上の魔物からしか獲れないのだから、大変な犠牲を払わなくちゃならない。
購入するだけなら軍事予算級の資金なら問題なく買えるだろうけれど、誰が、そんな危険を冒して10万も【高位】以上の魔物を倒して来るんだ、って話だよ。
【高位】以上の【魔法石】は、兵器以外にも使うし、需要は世界中からある。
一国が、そんな大量に買いつけたら、相場が急騰するだろう。
過去の市場で、そんな急激な値動きはない。
この情報は、アルフォンシーナさんに訊いたら、アルフォンシーナさん付きの可愛らしい秘書官ちゃんがタブレットを調べて、即座に教えてくれた。
「秘書官ちゃん、あんがとね」
私は、お礼を言う。
秘書官ちゃんは、ゼッフィちゃんという名前らしい。
ゼッフィちゃんは、ウチのレイニールより、何歳か、お姉さんだろうか?
まだ小さいのに優秀なんだね。
話を戻そう。
【高位】の【魔法石】を、値動きに影響が出ない範囲で少しずつ買うなんて事をすれば、調達に時間がかかり過ぎる。
【ウトピーア法皇国】が、軍隊兵装を近代化させたのは、ここ10年くらいの話だ。
10万個の【高位】以上の【魔法石】を得るには、ユーザーでも【遺跡】の深層階に大規模なレイド・パーティを送り込んで、何か月も時間をかけなくちゃならない。
結論としては、ナカノヒトでもなきゃ、そんな大量の【高位魔法石】なんか入手出来っこないと推測出来るよね。
閑話休題。
【ウトピーア法皇国】の主力兵装である魔動戦車の【メイン・コア】は【中位魔法石】だ。
これは、付け入る隙がある。
【中位】の【魔法石】で、【高位】級の兵器を制御・管制しながら、同時に動力源とするのは不可能だ。
いや、不可能ではないけれど、【世界樹】級の高性能な魔法触媒で戦車のボディを造ったり、とんでもない難易度の積層型魔法陣を組まなくちゃならないから、結果、資金コスト、魔力コスト的に現実的ではない。
つまり、【ウトピーア法皇国】の魔動戦車の【メイン・コア】は、制御だけを行う仕様だ。
動力源としては働いていない。
という事は、当然、魔力モーターに動力を送るバッテリーを積む必要がある。
私が、ゴーレム馬の動力源として採用した充魔力装置と魔力バッテリーみたいな方式だよ。
あった、この機構だ。
なるほどね。
動力源のバッテリーは、【中位】の【魔法石】を常時5個使用。
1個は操縦や車内環境の為、1個は駆動出力、1個は兵器、1個は【防御】の発動、1個はレーダーや通信。
なるほど、なるほど。
これは……技術的限界なんだろうけれど、運用的に脆弱性があるね。
ん?
おっ!
ふふふ……私は、敵の致命的な弱点を見つけたよ。
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