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第384話。グレモリー・グリモワールの日常…79…侵攻戦への躊躇。

チュートリアル終了時点。


名前…スペンサー・サイプレス

種族…【(ヒューマン)

性別…男性

年齢…68

職種…【剣豪(ソード・エキスパート)

魔法…【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】

特性…【()(せん)】、【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能(タレント)司令(コマンド)

レベル…41


子爵位を陞爵しサイプレスの家名を与えられた。

アリスの重臣、【サンタ・グレモリア】領軍司令官。

元【イースタリア】副騎士団長。

【知の回廊】最深部。


 私とナカノヒトは、ゲームマスター本部のエントランスに【転移(テレポート)】して来た。


「お帰りなさい、チーフ。いらっしゃい、グレモリーさん」

 ミネルヴァが声をかけて来る。


「ただいま、ミネルヴァ」

 ナカノヒトは親愛の込もった声で言った。


「お邪魔します、ミネルヴァ」


「皆は、どこにいますか?」

 ナカノヒトは訊ねる。


「夕食でイタリア料理を召し上がり、今は、食後のデザートとしてケーキ・バイキングに移動していますよ」


 イタリア料理は、まだ理解出来るとしても、ケーキ・バイキング……そんなモノまであるのか?


「グレモリー。どうしますか?皆と合流しますか?」

 ナカノヒトが訊ねた。


「夕食にケーキ・バイキングはキツいね……待っていてもらって、別の所で食事をしよう」


「何を食べますか?」


「そだね〜、こっちで、あまり見かけないモノがあればね……」


「なら、中華料理などはどうですか?」


「おっ、良いね。中華料理と言っても色々だけれど、何を食べる?せーの、で言ってみようか?」


「良いですよ。メニューですね?」


「そうそう、今、何が食べたいか、だよ」


「「せーの……麻婆豆腐!」」

 私とナカノヒトの希望が合う。


 さすがは、元同一自我だね。

 私は、食べ物の好みが合う人とは仲良くなれるような気がする。


「決まったね。四川風の辛〜いヤツね」


「山椒が効いたヤツですね」


「そうそう、アレを熱々の白いご飯に乗っけて、かっこみたいね〜」


「海老チリも頼みましょう」


「それは外せないでしょう。担々麺も食べたいね〜」


「良いですね。さあ、行きましょう」


 私達は、四川料理店に向かった。


 ・・・


 私とナカノヒトは、四川料理店に入る。

 何だか、イメージしていたより高級志向の、お店だった。

 この店を担当する【コンシェルジュ】が私の椅子を引いてくれる。

 私は、【漆黒のトンガリ帽子】を脱いで、隣の椅子に置いた。


「とりあえずビールかな……」


 高級店だから、何となく乾杯しなくちゃならない雰囲気がある。


「なら、私も飲みましょう……」

 ナカノヒトは言った。


「ビール2つと、海老チリと、鶏とカシューナッツのピリ辛炒め、それから青菜炒めも下さい。ノヒトは?」

 私は、適当に注文する。


「シェアしますか?」

 ナカノヒトが訊ねた。


「そだね〜」


「なら、酸辣湯(スーラータン)と、回鍋肉(ホイコーロー)と鶏かぶりを恐れずに……果敢に棒棒鶏(バンバンジー)も。とりあえず、それで」


「ん?バンバンジーって、四川料理?」


「私も、この店に来るまで知らなかったんですよ。あの蒸し鶏のバンバンジーは、元は四川料理だと言われているそうです」


「なるほど」


 ビールで乾杯をする。

 料理が出来上がるまで、ツマミは棒棒鶏(バンバンジー)とザーサイ。


「ぷは〜っ、やっぱり、キンキンに冷えたキリッと辛口のビールじゃなきゃね〜。こっちのエールは、不味くはないんだけれど、ヌルくて甘くて、ちょっとね〜」


「味の濃い料理と一緒に飲むならビールですね」


「だね〜」


 注文した料理が次々に運ばれて来た。


 さて、食べよう。


 ん?


 ナカノヒトは、どこを見るともない視線で空中を眺めていた。


「ん?どした?」


「ソフィアからです。皆は、ボウリング場にいるそうです」


 なるほど、【念話(テレパシー)】で会話していたのか。


「あ、そう。あのソフィアちゃんて、本当に面白いよね。現世最高神の【神竜(ディバイン・ドラゴン)】だって言われても信じられないよ」


「まあ、あの娘は、頭が少し()()なので、信じられないでしょうね」

 ナカノヒトは苦笑した。


 ナカノヒトは、ソフィアちゃんをディスっているけれど、愛情を持っているのが感じられる。


「お風呂でさ、あの子達、毎日海戦ゴッコして遊んでいるんだってよ。昨日、誘われて私達も一緒にやったんだけれど、結構熱くなったよ。ソフィアちゃんと、ウルスラちゃんが、無双してた。2人のウミガメ戦術で見事にしてやられたなぁ〜」


 あの模擬海戦で、私達は、潜水チームと水雷チームに分かれて何度も対戦した。

 で、一戦終わるごとに、そのチームの役割を交代。

 水雷チームとなったソフィアちゃんは、旗艦をあえて無防備な状態にして、プカ〜、と浮かんでいたんだよ。

 私達は、水中から密かにソフィアちゃんが座乗する旗艦を半包囲して集中放火を浴びせようとした。

 でも、それはソフィアちゃんの罠で、私達は待ち伏せに遭い、全滅させられたんだよね。


 ああ見えて、ソフィアちゃんは、天才的戦術家なんだよ。


「まあ、一応、ソフィアは、戦術ステータスもカンストしていますからね」

 ナカノヒトも、ソフィアちゃんの能力を認めた。


「ソフィアちゃん……ノヒトと一緒にやりたい……って言ってたよ。一緒にやってあげれば良いのに……」


「海や湖でなら、ともかく、お風呂は不味いですよ。服を脱ぎますからね。ソフィアやウルスラだけなら、私は保護者枠で問題ないでしょうが、ソフィアの入浴には、必ず【女神官(プリーステス)】達が多数同伴します。さすがに、それは……」


「ははは……確かに【ドラゴニュート】の女子はボンキュッボンだからね〜」


「それは、そうと、艦隊も【サンタ・グレモリア】に運びました。【ウトピーア法皇国】方面は、どうするのですか?」

 ナカノヒトは急に真面目な顔になって言う。


「まずは、あちらさんの出方で4つのパターンがある。主力を【イースタリア】に、ぶつけて来るか……【ノースタリア】に、ぶつけて来るか……2軍に分けて同時攻撃をして来るか……両方無視して王都【アヴァロン】を一気に叩くか……だね。ピオさんとディーテ達は、2軍に分けて来るって予測しているよ」


「どうして、そう思うのですか?」


「【ウトピーア法皇国】の連中は【ブリリア王国】を舐めきっているからだよ。多正面作戦をしても、圧倒出来ると考えている。それから、根拠はもう1つ。私は、【ウトピーア法皇国】軍の諜報部隊の士官を【眷属】にした。彼女が、その2正面作戦を前提に偵察していたんだよ」


「ならば、片方を艦隊で叩いて、もう片方を、あなたが叩くのですね?」


「だね。それで撃滅してから、【ウトピーア法皇国】に攻め込む。軍事基地と軍需工場を爆撃する。それは、世界(ゲーム)(ことわり)的には、どう?軍隊以外の一般市民NPCが犠牲になるかも、だけれど……」


 私は、なるべくなら一般市民のNPCは殺したくない。

 それが私達を攻撃しようとする敵国の市民であってもだ。


 私は、ゲーム時代、対国家侵攻戦の経験はない。

 私が【イスタール帝国】の臨時皇帝に即位して【アガルータ】と戦争をした時も、自国領内に侵攻して来た敵軍を撃滅した後、【アガルータ】側からの和睦の申し入れを受け入れて、巨額の賠償金を受け取り、相互不可侵条約を締結して終戦に応じている。

 今回の対【ウトピーア法皇国】戦でも、当初、私は専守防衛に徹して、敵軍を壊滅させ、【ウトピーア法皇国】領内にまでは攻め込むつもりはなかった。


 でも、ディーテ達【ハイ・エルフ】の古老と、ピオさんが、その方針に強く反対したんだよ。


【ウトピーア法皇国】は(ヒューマン)至上主義という種族差別主義によって国民は思想統制されている。

 また、独裁体制の政府と……軍と軍需産業……つまり軍産複合体の利害が一致して、軍拡や覇権主義への傾倒が激しい。

 この【ウトピーア法皇国】に巣食う悪の根を断たなければ、やがて、また【ウトピーア法皇国】は攻めて来る……と、ディーテとピオさんは、主張した。

 2人は、敵の侵略を撃退→反攻して敵地攻撃→敵の軍需産業インフラの破壊→【ウトピーア法皇国】の体制交代、までの絵図面を描いている。

 結果的に、私は、そのプランを採用した。


 つまり、私は、今回、初めて外国に攻め込まなくてはならない。

 侵略戦争を放棄した日本人に生まれたからなのか、私は、外国に攻め込んで外国人を殺さなければならない事に忌避感がある。


 でも……それは甘さだ……とディーテに言われた。


 敵……つまり【ウトピーア法皇国】には、目的と手段がある。

 目的とは【ウトピーア法皇国】の政治的影響力をウエスト大陸全土に波及させる事。

 手段は、もちろん【ウトピーア法皇国】が誇る強力な機械化兵団。


 当初【ウトピーア法皇国】は、目的を達成する為に、機械化兵団という手段を準備した。

 ところが、現状、肥大化した軍産複合体の意向が政府の意思決定に影響を及ぼし始めているのだ、という。


 軍は、より多くの予算を確保したい。

 その名目の為に、対外侵略政策を推進している。

 対外侵略の為に、軍備拡張と兵員の増強をすれば、予算をブン獲れるからね。


 軍需産業は、兵器を売りたい。

 その為に、既存の武器弾薬をドンドン消費させたいのだ。

 武器弾薬を消費させるには、戦争をするのが手っ取り早い。


 現在【ウトピーア法皇国】は、戦争そのもの……つまり、本来、手段であるはずの軍備の使用が、目的化してしまっている。

 目的と手段が入れ替わってしまった、【ウトピーア法皇国】の対外侵略への野望は、もはや止まらない……誰かが破壊しなければ……。


 誰かとは、もちろん私だ。


「問題ありませんね。敵に先に攻撃させた後に反撃するなら、世界(ゲーム)(ことわり)的にも、戦時国際法的にも、合法です。ただし、可能な限り、市民の犠牲は抑える方向で配慮してもらいたいとは希望しますけれども」


「わかった」


「で、勝利条件は、どう設定しているんですか?全面戦争をすれば、あなたが勝つでしょうが、【ブリリア王国】にも、あなたにも、【ウトピーア法皇国】を占領統治するまでのリソース(余力)はないでしょう?」


「うん。勝利条件は2つを考えている。とりあえず敵の軍隊と軍需工場を叩いて、物理的に継戦能力を奪うのは、2つともに共通する。次に、プランAは、敵の親玉……つまり法皇をさらって来る。法皇の身代金代わりに、北西の遺跡(ダンジョン)とその一帯の領土を割譲させる。プランBは、徹底的に【ウトピーア法皇国】の産業インフラを破壊した後に、同じく、北西の遺跡(ダンジョン)とその一帯の領土を割譲させる。ただし、プランBは、敵の市民の犠牲が増えるから、あまり、やりたくはない」

 私は言う。


 この戦争は、私が勝つ。

 でも、敵国の本国領土の一部を割譲させるのは、愚策だ。

【ブリリア王国】には、【ウトピーア法皇国】から領土を得ても、維持する人的、あるいは、経済的リソースがない。

 だから、遺跡(ダンジョン)をもらう。


 ナカノヒトは、ふむふむ、と私の話を聴いていた。


「ならば、理想は敵の法皇を捕まえて捕虜にする、という事なのでしょうが……そんな事が可能なのですか?」

 ナカノヒトは懐疑的な様子を見せる。


「法皇は、【ウトピーア法皇国】の法皇都【トゥーレ】の中央教会から一歩も外には出ない。つまり、【トゥーレ】中央教会に行けば、絶対にいるって事でしょう。敵の本丸に突入して引きずり出して連れてくりゃ良いっしょ?」


 ここに関しては、計画がズルズル。

 正直、法皇の身柄確保は、オマケみたいなモノ。

 それが出来ればラッキー的な感覚だ。

 ディーテとピオさんは、あくまでも敵の軍需産業インフラの破壊が第一目標。

 法皇の身柄確保を言い出したのは私だ。


 私が、敵国の一般市民の犠牲が想定される敵地攻撃に忌避感があるから、法皇の身柄確保、という敵国の一般市民の犠牲を最少化出来る勝利目標を掲げただけ。

 つまり、これは、私が自分の為に用意した言い訳に過ぎないのだ。


「私は、国家紛争には介入出来ませんからね」

 ナカノヒトは、眉間にシワを寄せて言った。


「わかってるって。もう、十分、助けてもらったよ」


「麻婆豆腐と担々麺を下さい。後、ライス大盛りも」

 ナカノヒトは、シメを注文する。


「私も、麻婆豆腐と担々麺と大盛りライス下さい」

 私もシメを注文した。


 ・・・


「お待たせ致しました」

【コンシェルジュ】が、料理を運んで来る。


 おーっ!

 麻婆豆腐だ!

 アチチ……ハフハフ……あ〜、美味い。


 もう、面倒だから、ライスを麻婆豆腐の中に投入しちゃえ。

 お行儀が悪いけれどね。


 ふと、ナカノヒトを見ると、全く同じ行動をしていたよ。


「あははは……お行儀が悪いけれど、私達2人だけなら、構わないよね〜」


「ですね」


 麻婆豆腐ライスをかっ込む。

 うん、間違いないっ!


 担々麺も、美味しいね〜。


 ・・・


 私とナカノヒトは、会計を済ませた。


「ごちそうさま〜。満腹だよ」

 私は、【コンシェルジュ】に言った。


「ごちそう様でした。ありがとう」

 ナカノヒトも【コンシェルジュ】に礼を言う。


「ありがとうございます」

【コンシェルジュ】は頭を下げた。


 私達は、四川料理店を後にする。


 ・・・


 私とナカノヒトは、ボウリング場に向かい、皆と合流した。


「ノヒト、遅いのじゃ」

 ソフィアちゃんが頰っぺたを膨らませて言う。


「お待たせ、ボウリングはどう?面白い?」

 ナカノヒトは、ボウリングの貸し靴に履き替えながら言った。


「面白いのじゃ。おっ、我の番じゃな。ノヒト、我の華麗な投球を見ておれ」

 ソフィアちゃんは、ボールを両手で抱えて言う。


 ソフィアちゃんは、レーンの反対方向に歩き出し……振り返り、レーンに目がけて駆け出した。


 タッタッタッ……ピョーン……ゴロゴロゴロ……ポイッ、ゴォッ、ズドッコーーンッ!

 シュタッ!


 ソフィアちゃんはボールを抱えて走り、ボールを抱えたままジャンプして、ボールごと転がりながら、レーンの手前でボールを投げ、轟音を響かせて、ストライクを取り、華麗に着地。


 何て、デタラメなフォーム……。

 それに、あの威力……【古代(エンシェント)(ドラゴン)】でも殺す気か?!


 私とナカノヒトは、ディーテ、フェリシア、レイニール、グレースさんのいる、一般人チームに合流した。


 フェリシアとレイニールも、今日は夜更かしOK。


「フェリシア、レイニール。楽しい?」


「はい、楽しいです」

「面白〜い!」

 フェリシアとレイニールは言う。


 こんなふうに、子供が笑っていられる世界なら良いよね。


 私は、これから戦争をしなくてはならない。

 敵国の一般市民……きっと子供にも、たくさん犠牲が出るだろう。

 でも、私が【ウトピーア法皇国】を打倒しなければ、【ブリリア王国】の一般市民は【ウトピーア法皇国】の奴隷にされてしまう。


 私は、複雑な感情を抱きながら、フェリシアとレイニールの屈託のない笑顔を眺めていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。


・・・


【お願い】

誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。

心より感謝申し上げます。

誤字報告には、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。

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何卒よろしくお願い申し上げます。

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