第380話。グレモリー・グリモワールの日常…75…超電磁バリア。
【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】の戦争前の時点。
名前…クァエストル・エインズリー
種族…【人】
性別…男性
年齢…34歳
職種…【貴人】→【罪人】
魔法…なし
特性…なし
レベル…14
元【ブリリア王国】の伯爵で元商務大臣。正王妃の弟。
国費を横領した罪で失脚し、貴族位を廃され幽閉されている。
乱戦。
私の脳は猛スピードでフル回転していた。
チクタク、チクタクとラチェット・ホイールが回りながら、どんどんシナプスの働きをギア・アップさせて行く。
思考が冴えて、周囲の全てがスローモーションになったように感じる。
うん、この感じ……ゾーンに入った。
アドレナリンが出まくって半端ないね。
私はベリアルの【超・超位】の呪詛魔法による攻撃をまともに食らって、致命の重傷を負っているはずなのに、全く痛みも感じない。
現在進行形で、敵勢の放って来る魔法の飽和攻撃を受けているけれど、全ての攻撃がユックリと飛んで来るように見えるから、楽々と対処出来る。
この万能感。
私は無敵なんじゃないかって錯覚するよ。
とはいえ……いかんせん、敵の数が多いんだよね。
ベリアルが私に先制攻撃を仕掛けて来て以来、敵方の戦力は、どんどん増えているのだ。
この応接室に、実に100人以上の敵が雪崩れ込んで来ている。
敵の総数は、130人以上……まだまだ増えていた。
コイツらが、存外に手強い。
ユーザーの世界ランカー並の連中が8割ほど……残りは、それ以上に強いのだ。
ちっ、相手を舐めていたのは、私の方だったのかもしんないね……。
シャルロッテ達の話を聴いて、ルシフェル達の違法行為を認知した段階で、すぐナカノヒトを呼べば良かった……なんて後悔してみても、もはや後の祭りだ。
このヤバい状況を、どうにかしなければ……。
あのディーテでさえ、無数の弾幕の処理に追われて、何もさせてもらえない状況なのだから、これは相当シリアスな状況にある。
また、敵方の一個部隊が応接室に踊り込んで来た。
敵の数を減らさなければジリ貧……やられる。
ディーテが死んじゃうね。
事ここに至っては仕方がない。
敵を減らす……つまり、殺さなければならない。
ほとんどの敵勢には恨みはないけれど、死んでもらうよ。
「【絶対零度】」
私は、気象魔法の【超・超位魔法】を詠唱した。
すると、応接室内の空間を超低温が支配する。
おっし、上手く発動したね。
ディーテが驚いていた。
無理もない。
【絶対零度】は、難易度が高い【気象魔法】にあっても超絶難易度に位置する魔法。
私は、つい先日まで【気象魔法】を使えなかった。
なので、ディーテは……そんな付け焼き刃では、本来、この【絶対零度】は行使出来ないはずだ……と、思っているのだろう。
まして、【気象魔法】のエキスパートであるディーテでさえ【箱船】の補助なくして、【絶対零度】は行使出来ないのだから。
でもね……私は、超絶最高な魔法の天才なんだよ。
どんな魔法でも、それが行使可能な位階の魔法で、【魔法公式】の理屈がわかってさえいれば、私に再現不可能な魔法なんかない。
要は、原子レベルで物質の運動速度を低下させてやれば、温度は下がるんでしょ。
物質の運動速度を0にしてやれば、【絶対零度】は、発動するんじゃね?
簡単な理屈だよ。
実際にやるのは魔力制御やら何やら、超絶困難だけれどね。
ま、それを、ぶっつけ本番で成功させられるのが、私が超絶最高な魔法の天才グレモリー・グリモワールたる所以なのだ。
人種の中で、私より魔法が得意なヤツなんかいない。
膨大な魔力を持つルシフェルでもね。
ま、ナカノヒトやソフィアちゃんとかの神々は、別だけれどさ。
【絶対零度】の超低温の冷気に曝されて、近接に踏み込んで来ていた敵の大半が即死した。
私とディーテは、純粋魔法職。
対してルシフェル勢は、近接をこなせる個体が結構いた。
本来の【天使】は、純粋魔法職。
つまり、近接戦闘を行える連中は、皆【改造知的生命体】なのだろう。
ゲーム・バランスを壊す奴らだね。
魔法戦の最中に、敵勢だけに近接戦力があるという状況は、私とディーテに不利。
でも、今の【絶対零度】で、白兵戦を仕掛けて来た連中の大半は殺した。
これで、仕切り直せる。
1つのミスも許されない薄氷を履む戦闘状況には変わりないけれど、主導権は取り返した。
私は戦いながら、状況を把握する。
敵勢の後方でルシフェルが何だかわからない、長ったらしい魔法の詠唱を始めているね。
ルシフェルの周囲に複数の魔法陣が浮かんでいた。
私は、戦いながら、ルシフェルの魔法陣を解析する。
あれは大儀式魔法だね……光の系統か?
いかにもヤバそうだな〜。
逃げた方が良いんだろうけれど……【絶対零度】でさえ、行動不能にならない敵が私に近接攻撃を仕掛けて来ていて、それどころじゃない。
アザゼル、とかいう【改造知的生命体】だ。
種族は【疑似神格者……オーガ】。
こいつ、近接がクッソ強え〜。
厄介だ。
矛を振り回して、致命の一撃を連続で繰り出して来やがる。
その上、魔法も【超位】級だ。
本来、【オーガ】は【魔法】詠唱が出来なくなる弱体化補正がかかる代わりに、強力な膂力を持つ種族特性がある。
それなのに、【超位魔法】を操る【オーガ】とか、ちょっと狡くない?
「もらったっ!」
アザゼルの矛が私の首を狙う。
ガキーーンッ!
私は、死に物狂いで、【収納】から【死神の大鎌】を取り出し、ギリギリで、アザゼルの矛を受け止めた。
あ、危っな〜。
私は間髪入れず、0距離でアザゼルの胸に【轟雷】を叩き込む。
電気ショックで心臓を止めてやった。
おっ!
応接室全体が【絶対零度】によって超低温環境になっているからか、電気抵抗がなくなって、【雷魔法】の威力が上がっているみたいだ。
これは、【絶対零度】の思わぬ副産物だね。
よし、主力を【雷魔法】にしよう。
「ぐっ、おぬしの片手と相打ちならば、重畳……」
アザゼルは、そう言って崩れ落ちた。
コイツは、頑丈だから、心臓を止めたくらいじゃ死なないんじゃないかな?
【鑑定】によると、自己再生能力を持っているから、時間が経つと蘇生しちゃうと思う。
トドメを刺しときたいんだけれど、群がって来る敵勢が邪魔で、それが出来ない。
痛ぅ……。
今のアザゼルの一撃を受け止めたせいで、私の残った左手の手首が、グッシャリ、潰されてしまった。
もう、何も握れないだろう。
ディーテ、【治癒】を……。
くっ、ディーテも手一杯で私を治療するどころじゃない。
いよいよ、追い詰められた〜。
ルシフェルは、瞑目して魔法詠唱を完成させつつある。
あれだけ、もったいぶって時間をかけた魔法だ。
とんでもない威力なのは間違いない。
ルシフェルに魔法を放たれる前に、倒さなければ、こちらが死ぬ。
しかし、敵勢は、雲霞の如く群がって来て、私に強力な魔法を使わせないように邪魔をして来る。
これは、まるで、自殺特攻だ。
そうか……。
ルシフェルに必殺の極大魔法を詠唱させる為に、コイツらは捨て石になって、私の強力な魔法詠唱を妨害しているのだ。
つまり……ルシフェルが詠唱を完成させれば必ず勝てる……という絶大な信頼があるからこそ、雑魚連中は身を呈して時間稼ぎをしている。
まるでクリーンアップの前で犠牲バントをしてランナーを進塁させるみたいな、何ともはや、美しい自己犠牲精神だね。
もちろん、これは皮肉だよ。
なるほど……それが、オマイらの必勝戦術なんだな。
生命を犠牲にする方法論は気に入らないけれど、コイツらなりに合理的な戦術なんだろう。
私は、こんな仲間を捨て駒にするような戦い方を、絶対に真似したいとは思わないけれどね。
でも、不味い。
このままだと、負ける。
つまり、ディーテが死ぬ。
考えろ、考えて何かアイデアを捻り出せ。
閃いた!
その時、ルシフェルが目を開いた。
ルシフェルは、私に向かって、腕を上げ片手を開いて向ける。
ちっ、間に合え〜っ!
「【光子砲】」
ルシフェルが【超・超位】にまで増幅された、光魔法を詠唱する。
ルシフェルの魔法の推定威力値は、文句なしに致命の一撃だ。
攻撃範囲は、私はもちろんディーテも巻き込む、極大な【光子砲】。
光速で飛来する魔法は、放たれた後からは、人種の反応速度では、とても避けられない。
「【超伝導】……【超電磁結界】」
私は、全速力で魔法を詠唱した。
刹那!
ルシフェルの【光子砲】が、私とディーテを包んだ。
ズドガーーーンッ!
私とディーテは、生きている。
私は、ルシフェルの極大魔法を間一髪で防御しきったのだ。
【光子砲】によって大気のオゾンが焦げるような匂いがしている。
ヤバかった〜。
ルシフェルは、極大魔法を放った直後の為に魔力解放が起きていて、無防備。
ルシフェルは、生きている私とディーテの姿を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
ルシフェル勢の連中も、勝ちを確信していたのか、攻撃の手を止めている。
私は、ニヤリ、と笑って見せた。
ルシフェルの表情が歪む。
ふふふ、今まで余裕をぶっこいていたルシフェルに……ヤバい……って顔をさせてやったぜ。
今がチャンス!
魔法を……あ……私も魔力が枯渇した。
こんな時に〜。
に、逃げろっ!
お誂え向きに、私の立つ背後の壁は、ルシフェルの【光子砲】によって、大穴が開いていた。
私は、ディーテにタックルする勢いで抱きついて、そのまま【ラピュータ宮殿】の外に飛び出して、地上目がけて落下する。
空中で、ディーテが【飛行】を詠唱して、魔力枯渇した私を抱き、地上に着陸してくれた。
「ゲボッ……」
私は血を吐く。
とりあえず避難成功。
次の局面に備えなくては……。
私は、すぐさま、ヒモ太郎と【不死者】軍団のオールスターを取り出して、隊列を組ませた。
ヒモ太郎……ディーテ・エクセルシオールに主人代行権限を与える……私が死んだら、ディーテを守り、ディーテの命令に従え。
私は、ヒモ太郎に【念話】で伝える。
「ブモッ」
ヒモ太郎は、同意した。
良し。
これで少なくとも、ディーテだけは助かる。
私の方は……ベリアルに食らった【超・超位】の【呪】で受けた傷がヤバい。
もうすぐ死ぬだろう。
見上げると、【ラピュータ宮殿】の壁から、ルシフェル勢が白い翼を広げて空中に飛び出して来る。
上空から魔法を撃ち込んで来るけれど、ヒモ太郎の【神位】の【防御】と【魔法障壁】は、オマイら羽虫ごときの魔法なんかでは抜けないんだよ。
馬鹿めが。
私は死ぬだろうけれど、ディーテは生き残る。
ついでに、ヒモ太郎の力なら、ルシフェル以下、全員を皆殺しにしても、お釣りが来るね。
私達は、勝った。
私は死ぬけれどね。
それにしても、馬鹿デカい穴を開けたモンだよ。
ルシフェルの極大【光子砲】は、マジでヤバかった。
とんでもない。
あれの直撃を食らったら、五体満足の状態でも間違いなく即死だった。
グレモリー・グリモワールさんは、新魔法【超伝導】……及び……新魔法【超電磁結界】を習得しました。
ログに、運営からのメッセージが流れている。
私は、あの瞬間、【絶対零度】によって超低温となり、電気抵抗がなくなった空間を利用して、新魔法【超伝導】を発動し、【超・超位】の【雷魔法】を応用して、同じく新魔法【超電磁結界】を発動させたのだ。
これは地球の磁場によって、太陽光の宇宙放射線……俗に言う、太陽風を防げる仕組みから着想したアイデア。
物理学的には厳密に言えば多少違いはあるけれど、結果は私が期待していた通りになった。
ルシフェルの【光子砲】は、私とディーテの周囲を回り込むように、背後に流れたね。
接触面に綺麗なオーロラが発生していたよ。
私ってば、やっぱ、超絶最高な魔法の天才だわ。
「一体、何が起きたの?」
ディーテが目を瞬かせて訊ねる。
「ゴボッ……」
私は、ディーテに答えようとして、多量に吐血した。
「きゃあっ、グレモリーちゃんっ!【完全治癒】……えっ、治らない?!」
ディーテが狼狽える。
【念話】で、ナカノヒトを呼ばねば……。
ダメだ、魔力が枯渇しているんだった。
【ハイ・エリクサー】を飲もう……。
「今、ノヒト様を呼んだわ」
ディーテが言う。
あ、そう。
なら、問題ないね。
私は、【ハイ・エリクサー】を取り出して、飲もうとしたけれど、失敗した。
胃が、もう、すっかり体外に脱落してしまっている。
ちっ、内臓が腐って、もう機能を果たしやがらね〜。
私は、【ハイ・エリクサー】を顔にかけた。
うん、さすがはナカノヒトの作った【ハイ・エリクサー】だよ。
身体にかけるだけでも、多少の効果は発揮する。
5本分の【ハイ・エリクサー】で、魔力は完全に回復した。
【漆黒のローブ】の中で次々に私の内臓は腐り、足元に、ベチャッ、と溢れ落ちている。
ディーテ……私は死んだら、生き返れない可能性がある……その時は、フェリシアとレイニールの事を頼むよ。
私は、【念話】で伝えた。
血液が喉に溜まっているし、もう発声器官にも問題が起きていて喋れないんだよね。
もしこれで死んで復活出来ないとしても……私の人生は、それなりに楽しかった。
ま、良いか……。
私は、参集して地上に隊列を組むルシフェル勢の一軍を睨みつけながら思った。
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