第377話。グレモリー・グリモワールの日常…72…シャルロッテ。
本日2話目の投稿です。
私とディーテは、【シエーロ】の中央城塞都市【エンピレオ】の城門を出て、郊外にある【ラピュータ宮殿】に向かっている。
ナカノヒトからの、お達しが効いているのか、城門の衛士をしていた【天使】達の対応は極めて丁寧だった。
もちろん、昨日900年ぶりに、ハブ【門】部屋に到着した時のように武器を向けられる事もない。
さすがナカノヒト……ゲームマスターの威光は効果抜群だね。
持つべきものは人脈……あ、いや神脈だよ。
しばらく飛んでいると、空中に浮かぶ【ラピュータ宮殿】のシルエットが見えて来た。
【ラピュータ宮殿】は、現在ルシフェルという人の私有地である【白の庭園】という領域に組み込まれているらしい。
本当は返還してもらいたいけれど、正規の接収手続きを踏んで【シエーロ】政府に所有権が移り、その上で、ルシフェルに払い下げられている為……交渉をしてもルシフェルが、うん、と言わなければ、返してはもらえないようだ。
ま、それが国際法ならば従わざるを得ないね。
・・・
私達は、【ラピュータ宮殿】の地上部城壁の外に着地して、正門の前に立った。
正門は開いていて、数人の人がいる。
私達の出迎えらしい。
「ようこそおいで下さいました、グレモリー・グリモワール様、ディーテ・エクセルシオール様。私は、ベルフェゴール……白の庭園の主であるルシフェルの家令を務めております」
女性の【天使】が恭しく礼を執った。
「グレモリー・グリモワールだよ。よろしく」
「ディーテ・エクセルシオールですわ。よろしく、お願い致しますね」
私とディーテは挨拶する。
ああ、違うね。
ベルフェゴールさんは……見た目は【天使】だけれど、本物の【天使】じゃなかった。
【鑑定】すると、【疑似神格者……サキュバス】と表示される。
なるほど、ナカノヒトが説明してくれた……【天使】に似せて【知の回廊】が生み出した……というクローン改造人種だね。
つまり、ナカノヒトが【改造知的生命体】と定義した生物だ。
ベルフェゴールさんは、【高位】級か……下手したら【超位】級の戦闘力があるかもしれない。
ま、私や、チュートリアルを経て強化されている今のディーテなら、余裕で勝てるね。
戦う気はないけれどさ。
どうでも良いけれど、バイーンッ、キュッ、プリン……の物凄いエロい身体つきだ。
その上、妖しげなフェロモンがムンムンだよ。
さすがは【サキュバス】を元にして生み出された生物……恐るべし。
「主のルシフェルの所に、ご案内致します」
ベルフェゴールさんは言った。
「あ、そう。なら、お願い」
ルシフェルに会ったら、一応、ダメ元で【ラピュータ宮殿】の返還を頼んでみよう。
・・・
私達は、【ラピュータ宮殿】の応接室に案内された。
お茶が出されて、数分待たされる。
しばらくして、数人の人種がやって来た。
先頭にいるのがルシフェルだろう。
見た目は若い青年で、肌や髪が異様に白い……て、言うか身体に全く色がない。
虹彩だけが、うっすらと水色。
たぶん、先天性色素欠乏症……いわゆる、アルビノだ。
彼がルシフェルだという事は、【鑑定】しなくても一目でわかったよ。
何故なら、この【改造知的生命体】は、なんと翼が6対12枚も生えていたんだからね。
【天使】の翼の数は、位階と魔力の大きさを示すという設定だ。
【熾天使】は3対6枚翼……【智天使】は2対4枚翼……それ以下は全て1対2枚翼。
因みに、私のパーティ・メンバーだったエタニティー・エトワールさんは、最終的には【熾天使】にまで昇ったので、3対6枚翼が生えていた。
ルシフェルは、6対12枚翼。
つまり、本来最高位であるはずの【熾天使】よりも、さらに3段階も格上という事。
そんな事、あり得るのだろうか?
ま、実際に目の前に存在しているんだから、あり得るんだよね。
【鑑定】すると、ルシフェルは膨大な魔力を持っていた。
魔力量は、ソフィアちゃんの数十分の一ほどで、ファヴ君の半分以下だね。
大した事がないじゃないか?
いいや、とんでもないよ。
ルシフェルの魔力量は、【神格】の守護獣だった【ホムンクルス・ベヒモス】のヒモ太郎の10倍もあって、私やディーテの、実に数千万倍もあるんだからね。
私より強いかって?
カタログ・スペック上は強いだろうね。
でも、実際に戦えば……たぶん、ギリ倒せると思う。
魔法職は何も魔力量が多いから強い訳じゃない……強力な魔法が使えるから強いのだ。
強力な魔法を行使するには、魔力量よりも【器】の性能がモノを言うんだよ。
例えば、魔法の威力を、火力に置き換えて考えてみればわかりやすい。
魔力は燃料や火薬に相当し……【器】は火器に相当する。
膨大な魔力を持つルシフェルは、いわば石油を満載にしたタンカーの船長だ。
私は、少量の火薬を持っているに過ぎない。
ただし、その少量の火薬は弾丸の薬莢に詰められていて、私はピストルを持っている。
私とタンカーの船長で、戦ったら、どっちが勝つか?
タンカーの船長であるルシフェルは、ライターでタンカーの石油に火を点けて、私を攻撃しようとする。
ライターを持ってタンカーの甲板を右往左往するルシフェルに向かって、私はピストルの引き金を引く。
さて、どちらが勝つか?
言うまでもなく、ピストルを撃った私だよね。
つまり、ルシフェルの【器】より、私の【器】の方が高性能だから、燃焼物質である魔力の量が少なくても、私はルシフェルに勝てる訳。
魔法職の強さは、魔力量ではなくて、【器】の性能で決まるのだ。
ま、これは、あくまでも例え話。
実際のルシフェルの【器】は、私と大差がない。
でも、ほんの僅かの差でも、【器】の違いは、戦闘の明暗を分ける。
素でも、10回戦えば7回くらいは私が勝つと思うよ。
私が【不死者】軍団を使えば、勝利予測8割。
そして、私がヒモ太郎を取り出して戦えば、ルシフェルに勝機はない。
ヒモ太郎は、【神位魔法】を行使出来る。
ルシフェルは、どんなに頑張っても【超・超位魔法】が限界だ。
つまり、何でも有りのガチンコなら、楽勝だよ。
ま、別に戦う理由もないんだけれどさ。
強そうな個体を見ると、つい自分と比較してしまうのは、ゲーマーの悪い癖なんだよね。
「初めまして、ルシフェルです。ご用の向きは何でしょうか?」
ルシフェルは応接室のソファーに腰掛けて穏やかな口調で言った。
ふーん。
ルシフェルの穏やかで落ち着いた振る舞いは、ナカノヒトと似ているようだけれど……いや、違うね。
このルシフェルには、ナカノヒトのような超然とした雰囲気がない。
ナカノヒトには、何だか良くわからない神様オーラみたいなモンがあるからね。
ソフィアちゃんやファヴ君にも同様の佇まいがある。
やっぱり、本物の【神格者】は、違う。
ルシフェルが空間の中に存在する……とするなら……ナカノヒトやソフィアちゃんやファヴ君は、彼らの周りに空間が存在するんだよ。
つまり、神ってのは、空間よりも高位の存在なんだと思う。
このルシフェルやら、さっき会ったベルフェゴールさんやらは、所詮【疑似神格者】。
つまり、偽物って事なんだろうね。
「私の従魔である【ドラゴネット】と、私の寄子である【樹人】達……それから、彼らの家族や子孫がいれば、その消息を教えて欲しい。生存しているなら、当然、身柄を返してもらうよ。それから、もしも可能ならば、この【ラピュータ宮殿】を買い戻したい」
私は言う。
おっと、忘れちゃいけない。
せっかくだから、アレを使おう。
私は、自宅の【マジック・カースル】から持って来たアイテムを【宝物庫】から取り出してテーブルの上に置いた。
【アンサリング・ストーン】。
私は、まだ、このルシフェルを信用してはいないからね。
ルシフェルは、【アンサリング・ストーン】を見ても平然としていた。
でも、お付きの連中の顔色は変わったね。
単に、私が【アンサリング・ストーン】を持ち出した事を……疑ってかかるなんて失礼で不躾だ……と思っただけなのか?
それとも私に何か隠し事があるのか?
それは、ルシフェルの返答でわかるよ。
「【樹人】達には会えますよ。グレモリー殿が不在の間も生存していた者達が、近くの森に暮らしています。もちろん、かの者達がグレモリー殿に付き従うと言うなら、その意思を全面的に尊重します。【樹人】達の現在の状況に関しては、後ほど改めて、ご説明をさせて下さい。【ドラゴネット】の消息に関しては……資料を用意しておきますので、とりあえずは、【樹人】達に、お会いになって来てはいかがですか?お戻りになるまでには、【ドラゴネット】に関する資料の準備が整うでしょう。それから、この城の返還に関しても前向きに検討しましょう」
ルシフェルは言った。
【アンサリング・ストーン】は光らない。
うん、ルシフェルは全て事実を述べている。
多少、奥歯に何か挟まったような言い回しだったのは気になるけれど、まずは、あの子達に会ってからだ。
その後の事は、なるようになるだろう。
「わかった。なら、とりあえず【樹人】達に会って来るよ」
私は、【アンサリング・ストーン】を回収して、席を立った。
【樹人】達は生存していた。
会えるんだね。
良かったよ。
ただ、竜之介は……どうやら、死んでしまっているみたいだね。
生きているなら、資料なんかではなくて、竜之介自身の消息を告げるはずだ。
資料……たぶん、検死報告書的な何かなんだと思う。
ま、900年経ってしまっているからね……。
せめて、安らかな最期であったなら、と願うよ。
私とディーテは、【ラピュータ宮殿】の敷地内にある森に向かう。
ルシフェルから、私の寄子の【樹人】達が、どの辺りにいるのか、を教えてもらった。
「ノヒト様の仲介だから、まともな対応だったわね」
ディーテが言う。
「そだね」
「【ドラゴネット】は、亡くなっちゃったのかしらね?」
「たぶんね」
「辛いわね」
「ま、生き物には寿命があるからね。生きていてくれれば良かったけれど、こればっかりはは仕方がないよ。私が、900年間も留守にしなければ、今も生きていたかもしれないけれど……そんな事を考えたって、どうにもならないからね。ただ、私がいなかったから、竜之介が寂しかっただろうな……って……」
私は、少し涙で曇った視界を、何度か手で擦って払った。
「グレモリーちゃん……」
・・・
私とディーテは、【樹人】達が暮らすという森に到着。
私達が、森の中に入ると、木で出来た家屋が寄り集まっている場所を見つけた。
おそらく、【樹人】達の集落なのだろう。
森の中の集落にしては、不用心だね。
壁も柵もない。
森の中に棲む肉食獣とかが襲って来るかもしれないのに。
ま、【樹人】達は、争い事を嫌うけれど、弱い訳ではない。
むしろ、魔法戦闘職としては一流だ。
それに集落も無防備という訳でもない。
草が生える地面には蔦状の植物が巧妙に隠してあった。
トラップだね。
この蔦に触れると、足を巻き取られて、木に吊るされてしまうのだ。
その他にも、木の上に何かが仕掛けてある。
そう大きな質量ではない。
たぶん、毒矢の類だろう。
ま、防衛能力は、ともかく、この集落の見た目は、みすぼらしいね。
【ラピュータ宮殿】を追い出されて、こんな粗末な家屋に住んでいるなんて、ルシフェル達の対応には少し思うところがない訳ではないけれど、【樹人】達は、自然の中で暮らす事を苦にしないから、それほど酷い仕打ちという訳でもない。
もしかしたら、【樹人】達の方から、森の中の暮らしを望んだのかもしれないしね。
「誰か、いませんか?」
私は、集落の入口と思われる場所で足を止めて声をかけた。
この先、一歩でも足を踏み入れれば、トラップ地帯だからね。
魔法によるギミックではない、原始的なトラップの場合……探知が出来ずに罠にかかる可能性もある。
ここは、誰か集落の人に来てもらう方が安全だ。
「どなたでしょうか?」
1人の【ハマドリュアス】の若者が、数人の【ハマドリュアス】の若者達を引き連れて現れる。
衛士だろうか?
私が知らない【樹人】達だね。
彼らは、武器などは持っていないけれど、魔力を収束していた。
【樹人】は魔法が得意だから剣や槍などは、あまり携帯しない。
それに、植物を使役する能力を持つので、森自体が、彼らの武器とも言える。
「私は、グレモリー・グリモワールと言うんだけれどね。シャルロッテ・メリアスはいるかな?もしも、いたらグレモリー・グリモワールが会いに来たって、伝えてくれない?」
シャルロッテは、私が庇護していた【樹人】達の中で唯一の【ドライアド】だ。
【ドライアド】は【ハマドリュアス】の上位種で、【聖格者】。
長命な【樹人】にあっても、【ドライアド】は桁違いに長生きだから、寿命から言えば、生きていてもおかしくない。
【ドライアド】にとって900年なんて時間は、ほんの一昔って感覚だと思う。
「おい。長に伝えろ」
【ハマドリュアス】の若者が、顎をシャクって、仲間の【ハマドリュアス】の若者に合図をした。
「はっ!」
合図をされた【ハマドリュアス】の若者が一礼して駆けて行く。
「しばし、お待ちを」
【ハマドリュアス】の若者は言った。
私とディーテは、その場に立ち尽くして待つ。
すると、集落の家屋の戸口から小さな男の子が、ヒョコッ、と顔を出す。
ふふふ。
私は、小さな男の子に微笑んで手を振ってみせた。
小さな男の子は、顔を引っ込めてしまう。
しばらくすると、さっきの男の子と一緒に、もっと小さな女の子が、そ〜、っと、顔を出した。
私は、笑って手を振る。
2人は、顔を引っ込めた。
また、そ〜、っと顔を出したのは、今度は3人の子供達。
ふふふ、可愛いね。
「グレモリー様っ!」
誰かが大きな声で、私の名前を呼びながら走って来る。
ああ、彼女は……。
「シャルロッテっ!」
そこに現れたのは、間違いなく、シャルロッテ・メリアスだった。
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・・・
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