第376話。グレモリー・グリモワールの日常…71…恩恵への対価。
【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】との戦争前の時点。
名前…ナターリア・ブリリア(ナターリア・エインズリー)
種族…【人】
性別…女性
年齢…40歳
職種…【王家】
魔法…なし
特性…【才能…敏腕】、【優美】
レベル…19
【ブリリア王国】正王妃。
優柔不断で政治・経済に疎い夫を、陰から支える女傑。
クァエストル・エインズリーの姉。
私は、アイテム類とヒモ太郎の回収を行った後、【マジック・カースル】の【メイン・コア】を検査した。
うん、全プラットフォームが正常に機能しているね。
【メイン・コア】は【ダンジョン・コア】に【賢者の石】を9個も連結して、演算能力を爆上げしたカスタム・パッケージを使っている。
私とナイアーラトテップさんとピットーレ・アブラメイリンさんの知恵を結集して造った、魔法技術の結晶。
たぶん、ユーザーが開発した技術としては、史上最高水準にあるモノだと思う。
ま、ナカノヒトの所のミネルヴァを見ちゃった後では、ヘソがお茶を沸かすレベルでショボい技術だけれどさ。
これは、チートな【創造主】やゲームマスター絡みの技術を除けば、革新的な回路だ。
なので、900年前の時点で私達は、特許を出願しようと考えていたけれど……間に合わずに、私は、異世界に飛ばされ、ナイアーラトテップさんとピットーレ・アブラメイリンさんは消失した。
ま、ユーザー大消失後の衰退した魔法技術では、この回路をNPCが発明出来るとは到底思えないから、類似特許は現在も存在しないと思う。
なので、今からでも魔法ギルドに特許出願すれば、この技術は保護される事になる筈だ。
ナイアーラトテップさんとピットーレ・アブラメイリンさんは、いないけれど、もちろん私は特許を独り占めなんかしないよ。
キチンと3等分して、特許料は、2人の口座にも振り込まれるように手続きをする。
ナカノヒトは、どうしようかな……。
一応、私と同一自我だった、ナカノヒトにも特許の権利はある。
ナカノヒトは……グレモリー・グリモワール名義の資産は全て私に権利をくれる……って約束してくれた。
それに、もしも万が一、ナイアーラトテップさんとピットーレ・アブラメイリンさん達が異世界に戻って来られたとしたら、2人にナカノヒトの事を説明すると些か面倒な事になる。
私がゲームマスターと同一自我だったなんて、たぶんナカノヒト的には守秘義務で喋れないだろうからね。
なら、ナカノヒトは、特許権利対象から除外しても良いかな?
ナカノヒトも、この特許は私にくれると思う。
ま、後でナカノヒトに一応確認はしておこう。
ナカノヒトには、何事も隠したり騙したりせず、真摯に対応しておきたい。
このカスタム・パッケージの【メイン・コア】が、【マジック・カースル】の各種ギミックを維持し、【庭師ゴーレム】達や【アスピラポルヴァーレ】達の修理・メンテナンスや魔力補給を行なってくれていた他、ヒモ太郎を五体満足で休眠管理していてくれていた訳。
つまり、この【メイン・コア】が働いていてくれていたおかげで、900年間もの永きに渡って私が不在だったのにも拘わらず、【マジック・カースル】は完全に保全されていたのだ。
「留守を守ってくれて、ありがとうね」
私は、【メイン・コア】を労う。
ま、話しかけたところで、この【メイン・コア】は、ミネルヴァや【知の回廊】と違って自我はないんだけれどさ。
・・・
私は、【マジック・カースル】の厨房に向かった。
ソフィアちゃん達に、お茶を淹れてあげよう。
ナカノヒトも、もうすぐ戻る頃だろうしね。
私は、お湯を沸かし、食材庫代わりの【宝箱】から、【アガルータ】産の希少な最高級紅茶を取り出した。
大奮発だよ。
お茶受けは、何かあったかな?
おっ、ラ・メゾンド・ショコラティエのガトーショコラがあったね。
これを出そう。
・・・
私は、ディーテに【念話】を送って、人工池で、お風呂の玩具シリーズのシャチを試運転させている、ソフィアちゃん達を連れて来てもらった。
ソフィアちゃんとウルスラちゃんは、3時のオヤツ、のパワーワードを聞いて一目散に駆けて来たよ。
私達は、紅茶を飲む。
美味しい紅茶だね〜。
ゲーム時代には、味覚がなかったから、わからなかったけれど、100gで1【ドラゴニーア金貨】もする、アホほど高価な茶葉だけの事はある。
「グレモリーよ。シャチは良い。お風呂の玩具シリーズ屈指のスピードと、強力な近接アタックは有用じゃ。これで戦術の幅が広がる。新たにシャチ戦術を編み出せそうじゃ」
ソフィアちゃんは口の周りをチョコだらけにしながら興奮気味に言った。
「それは良かったね」
シャチは遠隔攻撃手段はないけれど強力な性能がある。
話は変わるけれど、私は、本物のシャチが怖い。
シーワールドとかにいる飼い慣らされたシャチをアクリル・ガラス越しに観るだけ背筋が寒くなる。
あの巨体と、ツルンとした流線型のフォルム。
究極の水生肉食獣……。
私は、アレを、とてもじゃないけれど、可愛い、なんて思えない。
ま、どうでも良い話だね。
程なくして、ナカノヒトが戻って来る。
「ノヒト。ありがとう。お疲れ様」
私は、ナカノヒトにも紅茶を淹れて、ガトーショコラを切り分けた。
「グレモリー。艦隊は自立運用出来るようにしておきました。高度な作戦行動は難しいですが、とりあえず敵を撃滅する、とか、街を守る、という程度の事は、あなたが直接指揮しなくても出来ますよ」
ナカノヒトは報告する。
「何をしたの?」
「少しだけ、【メイン・コア】を弄らせてもらいました。性能が格段に上がったはずですよ」
あー、そっか。
私は、ナカノヒトに……グリモワール艦隊を【サンタ・グレモリア】の上空で適当に旋回させといて……と頼んだ。
あの時は流しちゃったけれど、本来はマスター権限がない者には、他人の船を適当に街の上で旋回させておく事など出来ない。
私は……ナカノヒトは元同一自我だから出来て当たり前……なんて先入観を持っていたんだけれど、結論から言えば正規の方法では無理だ。
私の魔力パターンと、ナカノヒトの魔力パターンは違うんだからね。
どうやら、ナカノヒトは、ゲームマスター権限を使って、私の艦隊に司令を出したらしい。
それから私の艦船達の改造もしてしまった。
ナカノヒトの説明を聴く限り、とんでもなく強力にチューンナップされたようだね。
ははは、笑うしかない。
また、借りを増やしちゃったよ。
いや、これはナカノヒトが勝手にやった事……なんて、理屈は通用するかな〜。
「あ、そう。ありがとね」
私は、とりあえず、お礼を言っておく。
さて、ナカノヒトへの見返りを、本当に何か考えなくちゃね。
一応、対価として相応のモノは、腹積もりとしては想定している。
それは、ナカノヒトが、おそらく構想しているであろう異世界戦略に、私が協力する事だ。
つまり、ナカノヒトが現在協力関係を構築しているアルフォンシーナさん達【ドラゴニーア】の関係者達に、私がナカノヒトを代行してチュートリアルに参加させてあげる事。
これは、中立を標榜するゲームマスターのナカノヒトには職権上不可能だけれど、柵のない部外者の私には出来得る事だ。
ナカノヒトは、元は私だからね。
ナカノヒトの考えは、私にはわかる。
きっと、ナカノヒトの活動の役に立つ筈だ。
「それから、139体の【自動人形】・シグニチャー・エディションを艦隊クルーとして投入しました。【宝物庫】と同じく半永久貸与です」
ナカノヒトは言う。
えっ?
「えっ?それは、ありがとう」
せっかく、対価を用意出来たと安心した瞬間に、さらに恩恵を上乗せされちゃった……。
もう、ナカノヒト……あんた、お人好しにも程があるよ。
その厚意が、ゲームマスターに借りを作りたくない者にとっては、巨大な、圧力、になると何故気付かない!
行き過ぎた善意は、時に暴力にもなるんだよ。
「【自動人形】・シグニチャー・エディションは、私のハンド・メイドですからね。労力も、お金も私の持ち出しですよ」
くっ、サラッと恩を着せられた〜。
仕方がない、面倒極まりないけれど、ナカノヒトの為に、チュートリアルを頑張ろう。
【ドラゴニーア】軍全員のチュートリアルとかだとしたら、100万人とかになるね……。
それって終わるまで、何日かかるのかな……。
あ〜、面倒臭い。
「ありがとう。お礼は考えてあるから」
私は、多少、顔を引きつらせながら言った。
「お礼って何ですか?」
ナカノヒトが純朴な表情で訊ねる。
くっ、天然か?!
ま、この人、私の同一自我だったんだけれどさ。
「今回の事の、お礼は【願いの石版】と私の【神の遺物】コレクションから、色々とあげようと思っていたんだけれど、逆に、私の方が【宝物庫】を大量にもらっちゃった。そもそも、あんな【無限ストッカー】を持つノヒトに【神の遺物】のアイテムなんて渡したところで、別に有難くもないだろうからね。対価が払いきれない。だから、お礼は金品ではなくて、私にしかあげられないモノにするよ」
「グレモリーにしか……それは何ですか?」
「ノヒトは、【ドラゴニーア】の大神官さんや、【女神官】さん達や、【竜騎士】さん達や、【ドラゴニーア】軍の人達を、強化したいと考えているよね?」
「はい。彼らは、私が標榜する【ドラゴニーア】による平和構想の中核を担う人達ですからね」
「本来ならば……全員にチュートリアルを受けさせたい……って、思っているんじゃない?」
「はい……しかし、それは無理です」
「そだよね〜。ゲームマスターは中立。一党一派一国には、与しない。だから、私が代わりにやったげるよ。ゲームマスターではない一般人の私が勝手にやる分には、ノヒトはゲームマスターの禁止事項に抵触しない」
「ゲームマスターの遵守条項です」
禁止事項でも、遵守条項でも、どっちでも良いわ!
「私が【ドラゴニーア】の神竜神殿や軍や竜騎士団の人達を対象にして、勝手にチュートリアルを受けさせたとしても、ノヒトは、ゲームマスターの遵守条項には違反しない。結果的に、ノヒトの望みに適うとしても、あくまでも、私が、勝手にやっただけなんだから。とりあえず、【ウトピーア法皇国】を蹴散らして、暇になったら、アルフォンシーナさんから順番にチュートリアルを受けてもらうよ」
「ありがとう」
ナカノヒトは、丁寧に、お礼を言った。
「グレモリーよ。それは、我からも礼を言わなければならぬ。ありがとうなのじゃ」
ソフィアちゃんも、お礼を言う。
ほっ……。
ナカノヒトとソフィアちゃんのリアクションを見るに、どうやら対価としては十分だったみたいだね。
「ルールのグレーゾーンを突くのは、私、得意なんだよ」
「なぬっ、グレーゾーンは、ノヒトも大得意なのじゃぞ」
ソフィアちゃんが言った。
「知ってる。ぷっ、あははは〜」
ま、ナカノヒトは、私だからね。
「ふふふ……」
ナカノヒトも、笑う。
「何じゃ?其方ら、何が可笑しいのじゃ?」
ソフィアちゃんは、可愛らしい仕草で小首を傾げた。
ナカノヒトは、【ドラゴニーア】の関係者だけではなく、【ムームー】の関係者にも、チュートリアルに参加させて欲しいと依頼する。
もう、腹は括ったよ。
こうなったら、100万人でも、200万人でもチュートリアルを引き受けてやろうじゃないか。
「なら、後で該当者の名簿を作ってちょうだい」
「わかりました」
因みに、ナカノヒトは件の特許を、呆気なく私に譲渡してくれた。
お人好しめ。
後から、権利を要求されても1銅貨もやらんぞ。
・・・
この後、私とディーテは、別荘……【ラピュータ宮殿】の様子を見に向かう予定。
【ラピュータ宮殿】は【シエーロ】中央都市【エンピレオ】近郊の都市城壁外にある。
【ドラキュラ城】は【シエーロ】の北にある【巨人】族の支配領域にあって遠いから、後日改めて行ってみるつもり。
【ラピュータ宮殿】も【ドラキュラ城】も、もう権利は、地元政府に接収されているけれど、私は元の所有者なんだから、頼めば見学くらいはさせてくれるだろう。
その予定をナカノヒトに伝えたら、ナカノヒトが、その場でミカエルに話を通してくれて、見学許可のアポを取ってくれた。
どうやら、【ラピュータ宮殿】は、【シエーロ】の【天使】政権の現首領であるルシフェルって人の私有地に組み込まれているらしい。
ルシフェルって人は、元天使長で、内戦では反乱軍のリーダーだったのだ、とか。
ナカノヒトが【シエーロ】内戦のゴタゴタを解決した為に、このほど天使長に復権するらしい。
ま、生臭い政治の話は、私には関係ない。
ナカノヒト達レジョーネは、この後、【知の回廊】の飲食店街で食べ歩きツアーに出かけるらしい。
私とディーテは、後でナカノヒト達と合流して、フェリシアとレイニールとグレースさんも連れて、ゲームマスター本部内の、いずれかのレストランでディナーを食べる事になった。
ナカノヒトは、フェリシアとレイニール……それから、グレースさんの、ゲームマスター本部への立ち入りを許可してくれたよ。
何を食べるかも、フェリシアとレイニールの希望を聞いてから決めてくれるのだ、とか。
ナカノヒトは、お人好し。
ソフィアちゃんも、子供には優しい。
この人達は、本当に心根が善良だよ。
私達は、【マジック・カースル】を後にした。
・・・
私は、【マジック・カースル】の玄関と門扉に【施錠】をする。
これで良し。
また、しばらく【マジック・カースル】を留守にするけれど、【ウトピーア法皇国】との戦争が片付いて、【シエーロ】の情勢が落ち着いたら……私は、フェリシアとレイニールとキブリとナディアを連れて、【マジック・カースル】に引っ越して来るつもりだ。
【サンタ・グレモリア】の街作りは継続するから、私は【マジック・カースル】からの通勤という事になる。
ナディアに【マジック・カースル】の家内雑事を任せて、キブリを【マジック・カースル】の人工池に住まわせて防衛させて、フェリシアとレイニールは、【ドラゴニーア】の国立学校にでも通わせよう。
うん、良い考えだね。
「ではグレモリー、後ほど。まあ、大丈夫でしょうが、万が一何かあれば【ビーコン】を転移座標にして、すぐ駆けつけますからね」
ナカノヒトは言う。
「わかったよ。あんがと。じゃあ、また後でね」
私とディーテは、ナカノヒト達レジョーネと別れて、【魔法のホウキ】に跨り、飛び上がった。
対【ウトピーア法皇国】との戦争準備は順調に進捗している。
明るい前途を暗示するかのように【シエーロ】は気候も良いし……何だか清々しい気分だね〜。
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