第375話。グレモリー・グリモワールの日常…70…グリモワール艦隊。
【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】の戦争前の時点。
名前…マクシミリアン・ブリリア(マクシミリアン・キャメロット)
種族…【人】
性別…男性
年齢…43歳
職種…【王】
魔法…【闘気】
特性…【才能…王威、王権】
レベル…35
【ブリリア王国】国王。
武断派の王ながら慎重な性格で臣下の意見にも耳を傾ける。
統治手法は比較的良心的で臣民からの人気は高い。
政治家としては凡庸で、グレモリー・グリモワールからの評価は、とても低い。
【マジック・カースル】の中も、庭園同様に手入れが行き届いており、清潔で整然としていた。
つい昨日まで生活していたようにさえ感じる。
屋敷全体にかけられている汚損防止の【バフ】が効果を発揮し続けている事に加えて、お掃除ロボの【アスピラポルヴァーレ】達がキチンと活動していたのだろう。
【アスピラポルヴァーレ】は、ダビンチ・メッカニカ製の傑作と言われている、お掃除ロボだ。
見た目はステンレス魔鋼製の6本足をした小さな象で、大きさは大型犬ほど。
あらゆるゴミを長い鼻から吸い込み、尻尾のモップで床をピッカピカに磨ける。
超高性能なル〇バみたいなモンだね。
ウチでは、この【アスピラポルヴァーレ】達を自宅と別荘とで常時30体以上稼働させていた。
「敷地の外に出なければ安全だから、どこでも好きに見て回っても良いけれど、ゲームマスターの本部を見た後じゃ、見劣りするよね」
「グレモリー。先に艦隊とアイテムを回収しましょう。格納庫とアイテム庫を空にする前に、見せてあげたらどうですか?」
ナカノヒトが言った。
「おっと、そうだね。なら、格納庫から行くよ」
私達は、玄関ホール正面の大階段の背後に回り込み、地下に向かう階段を降りた。
・・・
地下1階は、さらに巨大な地下施設へと向かうエレベーターホールになっている。
このエレベーターホールはセキュリティを厳重に行う為に設けられていた。
ここは、出入りする都度、私の承認が必要となる。
「とりあえず、皆は、私と一緒に格納庫が良く見渡せるラウンジの方に行こう。ノヒトは、ヤードの方に行って、順番に回収して行ってもらえる?」
「わかりました」
ヤードってのは整備ピット区画。
乾ドックとしても使える。
ウチの格納庫は特殊だから、たくさんの艦船や【乗り物】を修理したり、メンテナンスしたり、火器類を換装するのは、このヤードで集中・一元的に行う。
ナカノヒトだけをヤードに送り出し、残ったメンバーはラウンジに向かった。
・・・
ラウンジは、私の、お気に入りの場所。
ロマンの結晶だ。
ウチの格納庫は、立体駐車場みたいに、巨大な艦船を載せた支持台がグルグルと循環する仕組み。
ナイアーラトテップさんは、この機構を循環リボルビング方式と名付けた。
こうして、自分の艦隊をラウンジで眺めながら過ごすのが、至福のひと時なんだよね。
この立体駐機タイプの格納庫には、莫大な費用がかかった。
ぶっちゃけ艦隊そのものよりも格納庫の建築コストの方が高い。
大小合わせて100隻もの艦船を格納して、かつ、それを立体駐機させ、ボタン操作一つでスムーズかつ速やかに動かせるギミックだからね。
【シエーロ】の超硬度を誇る岩盤に広大な地下空間を掘り抜くだけで、とんでもなく大変なんだけれど、その中に設えた循環リボルビング方式の駐機機構が無闇矢鱈と金貨を食った。
無理もない、何故なら、空母や戦艦の超重量を支える支持台の強度やら、循環させる駆動系の馬力やら、は、あり得ないくらい大きくなる。
そもそも、巨大な空母や戦艦なんてのは、空や水に浮かべてあるから取り回しが可能なんだよ。
それに、この格納庫は、入港も出航も、1隻ずつしか出来ないから不便極まりないんだよね。
ま、それも含めてロマンなんだけれどさ。
ラウンジの格納庫側の壁一面は、巨大な強化ガラスになっていて、格納庫の中を一望出来る。
それをコントロール・パネルにあるボタン操作で、支持台を動かして目の前に好きな艦船を移動させて眺める訳。
また、ユックリと動かし続けておく事も出来る。
動かすよ。
私は、ナカノヒトに【念話】で伝えた。
はい、どうぞ。
ナカノヒトは【念話】で了解を示す。
私は、コントロール・パネルにあるグリモワール艦隊旗艦【スキーズブラズニル】のボタンを押した。
ポチッとな。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「私の艦隊の旗艦……【スキーズブラズニル】だよ」
「ほおーーっ!正規空母じゃ!格好良いのじゃ!」
ソフィアちゃんが強化ガラスに、おデコをくっつけて言った。
「【ドラゴニーア】艦隊の【グレート・ディバイン・ドラゴン】級の【超級飛空航空母艦】よりは小さいけれどね」
「いや。これは良い船じゃ。飛行甲板のレイアウトに設計者の哲学が見える。空母は、艦載機の離着陸を、いかに効率良く行えるかが大切じゃ。ふむふむ、見事な設計思想の船じゃのう」
ソフィアちゃんは言う。
「ボタン操作をしてみる?」
「よ、良いのか?」
ソフィアちゃんは目を輝かせて言う。
「どうぞ。この艦名のボタンを押すと、目の前に、その艦が送られて来るんだよ」
「わかったのじゃ。うーむ……おっ、【超弩級戦艦】となっ!うむ、これじゃ。ポチッとな」
ソフィアちゃんは、ボタンを押した。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「【アルゴー】だよ。主砲は【神の遺物】の【魔導砲】を3門並べて、3連砲にしてある。水平旋回360度、仰角180度を狙える主砲座が前後に3塔ずつ、艦底に4つ……計30門の【超級】火力だね。これ一隻で、【古代竜】の群10頭と同時に交戦する事を想定しているんだ」
「途轍もないのう……。我の【ドラゴニーア】艦隊に所属する戦艦の大半はミサイル艦じゃ。大砲をこれだけ載せた戦艦はないのじゃ。羨ましいのじゃ」
ソフィアちゃんは言う。
「いや、実用性から言えば、大艦巨砲は非効率なんだよ。だから【ドラゴニーア】艦隊の運用は正しい。30門の【魔導砲】を積んだ巨大戦艦1隻より、【魔導砲】を1門積んだ【砲艦】30隻の方が機動性や同時複数の作戦遂行を行える事から、運用面で有用。それにコストも安いからね」
「うむ。確かにのう」
「ま、超重戦艦はロマン枠だね。もう、1隻の【超弩級戦艦】の【ナグルファル】は、主兵装をミサイルとした、より運用効率が高いミサイル艦だよ」
「ふむふむ、【ナグルファル】か……ポチッとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ハープーン式対艦ミサイル、トマホーク式巡航ミサイル、シースパロー式艦対空ミサイル、個艦防御にミサイル迎撃ミサイルと、近接個艦防御にファランクス式魔導バルカンを搭載している」
異世界では、弾頭に熱核兵器などの無差別大量破壊兵器を搭載可能な大型で、尚且つ有効射程が超長距離の……所謂戦略級大陸間弾道ミサイルというモノは世界の理上、認められていない。
「うむ。【ドラゴニーア】艦隊の戦艦と言えば、このタイプじゃ。次は、どれにしようかのう……」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
ソフィアちゃんは、ボタン操作をして、様々な用途の艦船を興味深げに見ていた。
「次は、これじゃ、【飛空巡航艦】の【フライング・ダッチマン】……ポチッとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ねーねー、ソフィア様、次はアタシにもやらせて〜っ!」
ウルスラちゃんが言う。
「ウルスラ。まあ、待て、病院船【ナイチンゲール】とな?次は、これじゃ……ポチっとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「アタシもやりたい〜っ!ポチポチ」
ウルスラちゃんはボタンを適当に押し始めた。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ウルスラ。これは、さっき見たのじゃ……ポチっとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「アタシにもやらせてよ〜っ!ポチ」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
イラッ……。
「くっ、今は、我の番なのじゃ、ポチッとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ずるいずるい、アタシもやりたい〜、ポチポチポチ」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
ピキッ!
「あーーっ!いい加減にせんかっ!」
私は、思わず、【神格者】と【妖精女王】という位階が高い2人を怒鳴ってしまう。
「ごめんなのじゃ」
「ごめんなさい」
ソフィアちゃんとウルスラちゃんが謝った。
「仲良く、順番にね……」
私は、溜息を吐く。
何となく、ナカノヒトやアルフォンシーナさんの日々の苦労がわかった気がするよ。
・・・
ソフィアちゃん達が散々、格納庫のギミックで遊んだ後……ナカノヒトが片端からグリモワール艦隊を回収して行って、格納庫の中は、すっかり空っぽになった。
ナカノヒトが合流する。
「なら、次はアイテム庫だね」
私達はアイテム庫に向かう。
・・・
アイテム庫は、【神の遺物】のアイテムが陳列されている。
いわゆるグリモワール・コレクションだね。
「ディーテ、忘れない内に、約束の品物を渡しておくよ」
私はディーテに言った。
「良いの?当初の予定とは、だいぶ変更してしまったから、たぶん【誓約】の拘束は働かなくなっていると思うわよ」
ディーテが言う。
私がグリモワール艦隊を輸送して来るまで、ディーテが【サンタ・グレモリア】に残って防衛する、という約束だった。
その後、ナカノヒトとの邂逅やら何やらがあって、当初の【誓約】は、厳密に言えば不履行という形になっている。
「それでも約束は約束だよ」
私は、ディーテに約束していた【神の遺物】のアイテムを渡した。
大出費だけれど、約束した以上は、仕方がない。
アイテムは、また集めれば良いんだからね。
「ふむふむ、個人の収集品としては、大したモノじゃな?」
ソフィアちゃんが私のコレクションを褒めてくれた。
ま、ここにあるのは、超絶レアや激レアなんかの【神の遺物】だけだからね。
雑多な【神の遺物】や、非【神の遺物】のアイテムは、大量の【宝箱】にゴチャッと保管してある。
あれも、今度、整理しなくちゃね。
「でも、ゲームマスター本部の【ストッカー】と【工場】を見た後では、何だかな〜、って感じでしょう?」
「アレと比較してはダメじゃ。【調停者】は、ズルっこいのじゃからの」
ソフィアちゃんが言った。
「だよね〜、ゲームマスターは、チート過ぎるよ」
「なのじゃ」
私とソフィアちゃんは、ナカノヒトを見る。
「2人とも、立場を交換しますか?私がミネルヴァに命じれば、たぶん、2人を臨時ゲームマスターにする事も出来ますよ」
ナカノヒトは言った。
「いや、遠慮しておくよ。責任を負いきれないからね」
「なのじゃ。面倒過ぎて、あんな役割は、とても、やっていられないのじゃ」
ナカノヒトは、たぶん世界で一番忙しい。
とてもじゃないけれど、やっていられないよ。
「グレモリー。アイテムの回収は、どうしますか?全ては、必要ないでしょう?必要があれば、【転移】で取りに来れば良いのですから」
ナカノヒトは訊ねた。
「そだね〜。とりあえず、武器と防具系は、あらかた持って行くかなぁ」
私は、武器・防具類は、【サンタ・グレモリア】の防衛に当たる主要な人達に貸し与えるつもり。
スペンサー爺さんを始めとする、チュートリアルを受けたメンバーだ。
「なら、【宝物庫】を50個ほど、半永久貸与しましょう。あなたが存在する限り、貸しっぱなしです」
ナカノヒトが突然、そんな事を言い出す。
「50個ぉ!……アイテム庫のアイテムをそっくり移しても、そんなには、いらないよ」
「ならば、何か他の用途に活用してくれて構いません。もはや私は、【ストッカー】から無限に補充出来ますので」
「何だか、価値観が崩壊して行くね」
「ただし、他者に譲渡しないで下さいね。ディーテ・エクセルシオールなど信用のおける人物に一時的に貸す、あるいは、魔物の素材を入れておいてギルドに一時的に預けるなど、必ず返還される事が明らかな場合は構いません」
「わかったよ」
私は、ナカノヒトから【宝物庫】を50個借り受けた。
私は、【宝物個】に手当たり次第にアイテムを回収して、それを【避難小屋】の棚や道具入れなどに、どんどん放り込んで行く。
【避難小屋】は、ゲームのアイテムの中で例外的に2重【収納】が可能なアイテム。
超便利。
【神竜】降臨イベントでは、これを絶対もらわなくちゃね。
大半のユーザーは、強力な魔法を覚えたり、武器系を欲しがるけれど、アイツらは素人だよ。
「グレモリー。では、私は、【サンタ・グレモリア】に艦隊を運んでおきますよ」
ナカノヒトが言った。
「あ〜、頼むね〜。適当に街の上を旋回させておいて……」
私は、アイテム庫の【神の遺物】を次々に【宝物庫】に移しながら生返事をする。
ナカノヒトは、私の艦隊を輸送する為に【サンタ・グレモリア】に向かって【転移】して行った。
・・・
私は、ナカノヒトから50ロットも【宝物庫】を借り受けたおかげで、自宅にあったアイテム類の全てと、資材や素材も丸っと回収出来た。
ディーテは、ソフィアちゃん達の相手をしている。
ソフィアちゃんは、人工池でシャチの試運転をするらしい。
さてと、最後は、私の最終兵器……【ホムンクルス・ベヒモス】のヒモ太郎を目覚めさせよう。
私は、もう一度地下のエレベーターホールに降りて、【格納庫】とは別系統のエレベーターに乗る。
・・・
私は、エレベーターを最下層で降りた。
そこには、安らかに眠るヒモ太郎がいる。
ヒモ太郎の種族は【神格】の守護獣【ベヒモス】……要するに40mもある巨大なカバだ。
私は、【ベヒモス】の様子をモニターしているコンソールをチェックする。
健康状態は良好。
あ、いや、ヒモ太郎は、【ホムンクルス】……つまり完全体の【ベヒモス】を素材にして造られた、精巧な人形、という扱いだから、健康状態もへったくれもないんだけれどね。
「900年間も会いに来なくてゴメンよ。今、起こしてあげるからね」
私は、ヒモ太郎を覚醒させた。
ヒモ太郎の、餌代わりとなる魔力を供給し続けていたコードが外れ、休眠状態にしておく措置が解除される。
すると、ヒモ太郎が、パチリ、と目を開けた。
「ブモアァァァ〜ッ」
ヒモ太郎は、4本足で立ち上がって、大きなアクビをして、ブルブルと身体を震わせる。
「ヒモ太郎、おはよ」
「ブモーーッ」
ヒモ太郎が顔を近付けて鼻息を吹きかけて来た。
「よしよし。起きたばっかりで済まないんだけれど、また【宝物庫】に入ってもらうよ」
「ブモッ」
ヒモ太郎は素直に頷く。
ヒモ太郎は、聞き分けが良い。
ヒモ太郎は、元は【神格】の守護獣。
全人種より圧倒的に知性は高い。
端的に言えば、主人である私よりも賢いのだ。
ヒモ太郎は、【ホムンクルス】化で、一時的に知性が失われたものの、【禁断の果実】によって、種族限界まで知性が回復している。
ゲーム設定上ユーザーが使役可能な最強の味方ユニット。
それが【神格】の守護獣の【ホムンクルス】なのだ。
ヒモ太郎はゲームの仕様上、生体ではないので、【収納】アイテムにしまう事が出来る。
とはいえ、巨大で重過ぎるので、ヒモ太郎を収納出来るのは、【宝物庫】だけだ。
私は、当初、グリモワール艦隊の輸送艦【フリングホルニ】にヒモ太郎を格納して輸送する予定だったけれど、ナカノヒトが【宝物庫】を大量に貸与してくれたおかげで、その必要がなくなっている。
ヒモ太郎を、いつでも、どこでも取り出せるようになるのは、有り難い事だね。
私は、ヒモ太郎の鼻面を撫でた。
ヒモ太郎は嬉しそうに短いシッポをプルプル振る。
私は、ヒモ太郎を【宝物庫】に回収した。
これで良し。
この瞬間に、対【ウトピーア法皇国】戦での、私の勝利は確定した。
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・・・
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