第374話。グレモリー・グリモワールの日常…69…魔法の城への帰宅。
【ブリリア王国】対【ウトピーア法皇国】の戦争前の時点。
名前…リーンハルト・イースタリア(リーンハルト・アップルツリー)
種族…【人】
性別…男性
年齢…45歳
職種…【貴人】
魔法…【闘気】
特性…【鼓舞】、【規律】
レベル…37
【ブリリア王国】侯爵で【イースタリア】領主。
マクシミリアン王の信頼厚い股肱の臣。
【血塗られた侯爵】の異名を持つ武人。
比較的穏当な統治で、領民からの人気は高いが、政治・経済は凡庸な為、グレモリー・グリモワールからの評価は、とても低い。
アリスの父親。
昼食後、私達は、【知の回廊】1階のエレベーター・ホールに【転移】して来た。
これから私達は、いよいよ私の自宅に向かう。
おっと、スマホに着信。
レイニールからだ。
フェリシアとレイニールとグレースさんは、セントラル・サークル(世界最大の都市内公園)で足漕ぎボートに乗ったり、乗馬体験をした後……ドラゴン・レースを観戦して、買い物をして、お昼ご飯はソフィアちゃん、おすすめの定食屋さんで食べて、竜都観光を楽しんでいるらしい。
ふふふ、レイニールは、興奮冷めやらぬ、という口調で私に報告をする。
「グレモリーお母さんにプレゼントを買ったんだよ〜。あのね、えっとね……」
レイニールは言った。
「レイニール。ダメダメ、秘密にしておくんだからね。内緒よ」
フェリシアが言う。
「あっ、そうだった。お母さん、楽しみにしていてね〜」
レイニールは言った。
「わかったよ。私も、2人にプレゼントを持って帰るからね。じゃあ、また後でね〜」
私は、通話を終了する。
・・・
私達は、【知の回廊】内の通路を歩いた。
すると、【マッピング】機能が水色の光点の接近を報せる。
「ノヒト様……」
昨日、最深部で会ったガブリエルという【改造知的生命体】が声をかけて来た。
「ガブリエルさん、こんにちは」
ナカノヒトは挨拶する。
「あ、こんにちは……。ルシフェルに、ノヒト様からの会談の申し入れを伝えました。ルシフェルは……是非、お会いしたい、どちらに伺えばよろしいのか……と申しておりました」
ガブリエルは言った。
「では、近い内に会いましょう。そうですね、都合の良い日取りを【知の回廊】にでも、伝言しておいて下さい。私は、満月・新月以外の夜の20時過ぎならば大体何時も予定は空いています」
「わかりました。そのように伝えておきます。あのう、【知の回廊】は、元に戻したのですね?大丈夫でしょうか?」
ガブリエルは不安げに訊ねる。
「問題ありません。私が保証します」
「そうですか……。本物の神が言うなら、信じます……」
ガブリエルは、やはり不安げに言った。
ま、ナカノヒトからの説明によると、【天使】達は、900年間も【知の回廊】の洗脳と独裁に甘んじて来た経緯がある。
疑いたくなる気持ちも理解出来るね。
「ところで、内戦の停戦交渉は、どうなったのですか?」
「無事に終わりました。ルシフェルを天使長に復位させ軍権を渡しました。今後、内戦の経緯も結果も全て水に流して【天使】の統合と融和を図るという事になります。ただし、ルシフェルは雑事を嫌う傾向があるので、政務は今まで通り、ミカエルと私達が取り仕切り、それをルシフェルの直営の配下と私達の配下が補佐する体制になります」
「誰かの責任を問うような事にはならないのですね?」
「はい。この内戦で家族を失った者も多いですから、双方共に複雑な気持ちではあるのでしょうが、ルシフェルが……一切の責任を問わず……と厳命して、ミカエルとラファエルと私が……ルシフェルに服従する……という事を宣言すれば、それで収まります。【天使】のヒエラルキーは絶対ですので……」
「そうですか。【知の回廊】が、不当に【天使】を支配するような事は二度とありませんので安心して下さいね」
「ありがとうございます」
ナカノヒトとガブリエルは、何だか生臭い話をしていた。
政治の話は、私には関係ない。
私達は、ガブリエルと別れて、【知の回廊】の建物の外に出た。
・・・
私達は、【知の回廊】の外……正面ファサードの入口を振り返って見る。
「何と巨大な建物じゃ。竜城よりも大きな構造物を初めて見たのじゃ」
ソフィアちゃんは、口を開けながら、【知の回廊】を見上げて言った。
異世界では、【知の回廊】が最大の建築物。
その大きさは、モンブランや、キリマンジャロや、マッキンリーのような大山が全て人工建造物だったら、と想像してもらえば良い。
さらに、【知の回廊】は地上部分より、地下部分の方が、より巨大だ。
こんな巨大な構造物は、もちろん地球にも存在しない。
「さあ、行くよ」
私は、【収納】から【魔法のホウキ】を取り出して言った。
ディーテも【魔法のホウキ・レプリカ】を取り出して、足を揃えて斜に座る。
いわゆる女の子乗りだ。
私は、跨っちゃうけれどね。
ディーテの座り方だと、進行方向に対して、足を投げ出した方が正面となり、反対側が裏となる。
裏側は、目視死角になって不測の事態が起きた時に反応が遅れる可能性があるからね。
お行儀より実用性重視。
私達は、自宅を目指して飛び立った。
・・・
【エンピレオ】の上空に飛び上がって進むと、群をなした【ペガサス】が近くを通り過ぎて行く。
「【ペガサス】か?どれ、10頭ばかり捕まえて帰るのじゃ」
ソフィアちゃんは言った。
「ソフィア。【エンピレオ】のペガサスは、放し飼いされているだけで、野生の【ペガサス】ではありません。飼い主がいるので、捕まてはいけませんよ」
ナカノヒトが言う。
「なぬっ、コヤツらは飼われているのか?ならば、野生の【ペガサス】は、どこにいるのじゃ?」
「東の【オレオール】か、南の【エデン】でしょうかね」
「捕まえに行くのじゃ」
「今度、暇な時にね」
「約束なのじゃ」
「はいはい」
ふふふ、ソフィアちゃんの屈託のなさは、場の雰囲気を明るくするね。
・・・
数分、高速飛行をしていると、懐かしい風景が見えて来た。
自宅だ。
ああ、私は帰って来たんだね。
私の家は、英国建築のステイトリー・ハウスの様式。
ナイアーラトテップさんに設計を依頼したので、私はステイトリー・ハウス様式の定義が何かは知らない。
900年振りだというのに、庭園は完璧な手入れがされていた。
たぶん、【庭師ゴーレム】が、まだ壊れずに動いているんだろうね。
さすが、異世界史上最高の設計技師……生産系最上位職の【名匠】であるナイアーラトテップさんが造った【ゴーレム】達。
私達は、高度を下げて、自宅正門に着地した。
自宅の周囲には強力な【結界】が張ってあるから、門から歩いて入らなければならない。
この侵入者を撃退する防犯ギミックと連動した【結界】によって、私の家は【シエーロ】の政府による接収を免れたのだ。
異世界史上最高の【大錬金術師】のピットーレ・アブラメイリンさんが組んだ、超強力な儀式魔法。
私の自宅は、仲間の手によるギミックが遺されているんだね。
その仲間の遺産によって自宅は【シエーロ】政府からの接収を免れ、私の手元に残っている。
私は、少し感傷的な気分になった。
「ふむ。ここが、グレモリーの屋敷か?中々、趣きのある建物じゃな」
ソフィアちゃんが言う。
「ありがとう。私も気に入っているんだ。じゃあ、順番に魔力パターンを登録してね」
みんなが順番に門にハマった【魔法石】に魔力を流して、魔力を登録して、私がそれを承認した。
私は、門を【解錠】する。
すると、門はユックリと開いた。
門の自動開閉ギミックは、900年ぶりとは思えないほどスムーズに稼働する。
「さあ、私の家……【マジック・カースル】にようこそ」
【マジック・カースル】……つまり魔法の城。
私が、【シエーロ】に造った自宅と2軒の別荘には……それぞれ【マジック・カースル】、【ラピュータ宮殿】、【ドラキュラ城】と、全て、お城という体裁で名前が付けられている。
・・・
私達は、【マジック・カースル】の庭園の道を歩いた。
石畳の道の両側は、芝生を敷き詰めた緑の庭園となっていて、薔薇の植物棚で作られた迷路、東屋、噴水、大理石の彫像、大きな池……などなどがある。
この人工池の底に格納庫があるんだよ。
ここから艦隊が出入りする、拘りの設計。
900年前と変わらないね〜。
……あ、いや、池に住み着いていたアヒルとカルガモがいない……。
「池にアヒルとカルガモの家族がいたはずなんだけれど、いなくなっちゃったね」
私の自宅には【結界】が張ってある。
敷地は広大だけれど、池や噴水などの水場は、この自宅の正面側にしかない。
という事は……死んじゃったのかな。
「アヒルか?アヒルは良いものじゃ。お風呂の時にはアヒルが欠かせないのじゃ」
ソフィアちゃんが言った。
「お風呂の玩具シリーズのアヒル?アレは、高性能の高速水上艇だからね。私も一隻持っているよ」
「なぬっ、グレモリーもアヒルを持っておるのか?むむ、我は潜水艦も蒸気船もヨットもホバークラフトもイルカもカバもワニも持っておるぞ」
ソフィアちゃんが言う。
「そんなに?凄いね。私は、アヒルとシャチを持っているよ」
「シャチは、ないのじゃ。グレモリー、我の潜水艦と、其方のシャチを交換してくれぬか?そうすれば、シリーズがコンプリートするのじゃ」
ソフィアちゃんが言った。
「良いよ。潜水艦は魚雷が撃てるからね。シャチは速いけれど、攻撃手段が近接だけだから、潜水艦と換えてくれるなら、むしろ、ありがたいよ」
「我は、潜水艦は2隻持っておるからの。早速、交換じゃ」
ソフィアちゃんは、【宝物庫】から、潜水艦の玩具を取り出して差し出す。
「あ〜、今すぐは、取り出せないから、後でね〜」
「すぐ、欲しいのじゃ〜、欲しいのじゃ〜、シャチが欲しいのじゃ」
ソフィアちゃんは、駄々をこね始めた。
ははは、仕方がないね。
「わかったよ。今、探すから待っててね。よっこらせ、と」
私は、【収納】から【避難小屋】を取り出して、庭園の芝生の上に置いた。
【避難小屋】のドアを開けて中に入る。
えーっと、どこに、しまったかな?
お風呂の玩具シリーズだから、シャワー室の棚かな?
……ないね。
クローゼット……にもない。
ベッドの下の収納スペース……にもなし。
と、すると、キッチンか?
キッチンに、あんな物をしまうかな?
……ないよ。
あー、ものぐさで、片付けが面倒だから、貴重なアイテム類も、いつも適当に放り込んじゃうんだよね。
しばらく探して……何故か冷蔵庫の中からシャチが発見された。
何故に、冷蔵庫?
シャチを食材という括りで冷蔵庫にしまったのかな?
いやいや、このシャチ型高速潜水艇は食べられないし。
「はいよ〜。じゃあ、これシャチね」
私は、シャチをソフィアちゃんに手渡した。
ソフィアちゃんは、シャチを受け取り、潜水艦と交換してくれる。
「グレモリー、ありがとうないのじゃ〜。これで、全種類揃ったのじゃ〜っ!」
ソフィアちゃんは、シャチを持って大喜びだ。
そんなに喜んでくれると、こっちまで嬉しくなるね。
「よいしょっ、と。ふう〜」
私は【避難小屋】を【収納】にしまって、溜息を一つ。
やれやれ。
落ち着いたら本気で一回持ち物の整理をしなくちゃね。
「ウチの駄竜が、すみませんね」
ナカノヒトが言った。
「ははは、ソフィアちゃんは悪意が全くないから、嫌な気分はしないよ」
むしろ、ソフィアちゃんの無邪気さが有り難かったね。
ソフィアちゃんのおかげで、アヒルとカルガモがいなくなった寂しさが紛れたよ。
「ソフィア様は、ともかく、グレモリーちゃんは、もう、お風呂の玩具で遊ぶ年齢じゃないでしょう?」
ディーテが笑った。
「ディーテ。この、お風呂の玩具シリーズは、水域対応アイテムとしては、超優秀なんだよ」
「うむ、ディーテよ。其方は、これらの素晴らしさが、わかっておらぬの?我は、竜城の、お風呂で毎日、模擬海戦をして腕を磨いておるのじゃ。我が編み出した、イワシ戦術とタツノオトシゴ戦術とサバ戦術は、無敵なのじゃ」
ソフィアちゃんが、フンスッ、と胸を張って言う。
確かに、【女神官】さん達と一糸乱れぬ編隊を組んで水中を機動するイワシ戦術は見事な統率だったし、遊撃を担ったウルスラちゃんの虚を衝く一撃離脱のサバ戦術も、待ち伏せによる横陣集中砲撃のタツノオトシゴ戦術も完成されていた。
それから、ウミガメ戦術……アレは卑怯だったね。
ソフィアちゃんは……戦争に高潔も卑劣もないのじゃ。勝たねばならぬ時に勝ちきる事こそが、戦場の掟なのじゃ……と言っていた。
全く同感だね。
「ディーテ。【神の遺物】の、お風呂の玩具シリーズはね。小さな玩具としても使用出来るけれど、巨大化させて、中に乗り込んで本物の水上艇や潜水艇としても使えるんだよ。水上艇や潜水艇としては、最高レベルの性能がある。アヒル、ヨット、ホバークラフト、蒸気船は、水上艇……潜水艦、イルカ、シャチ、カバ、ワニは潜水艇。そして、玩具サイズで輸送すれば、膨大な海上戦力を大量に運べる。つまり、お風呂の玩具シリーズは、性能面では、ちっとも玩具じゃないんだよ」
かつて私は、この方法で、ユーザーの有志と協力して【ザナドゥ】の港に、大量のお風呂の玩具を運び込み、大艦隊で海上封鎖して、【ザナドゥ】を兵糧攻めにした事もある。
あの時は、【タカマガハラ皇国】と【ザナドゥ】で国境紛争が起きて、私の知り合いの【タカマガハラ皇国】のNPCが【ザナドゥ】に拉致されたんだよ。
あの時は、ブチ切れたね。
「そ、そうなの……」
ディーテは言った。
「さてと、ちょうど良い具合に、こうして池もある事じゃし……シャチの試運転を……」
ソフィアちゃんが人工池の方に歩いて行こうとする。
「はい、逮捕」
ナカノヒトは、ソフィアちゃんを捕獲した。
「は、放せっ!ノヒト、我は、シャチを……」
ソフィアちゃんは、手足をバタバタと動かして空中を走って逃げようとする。
でも、ナカノヒトがソフィアちゃんの首根っこを掴まえているので、逃げられない。
「あー、はいはい。また今度ね」
ナカノヒトは、ソフィアちゃんを抱っこして、有無を言わせず連行した。
「嫌じゃーーっ!」
ソフィアちゃんの絶叫が響き渡る。
しばらくして、ナカノヒトがソフィアちゃんを宥めすかした。
どうやら、お菓子で釣ったらしい。
私達は、正面玄関でも順番に魔力パターンを照合した。
そして、いよいよ、私達は、【マジック・カースル】の中に入る。
・・・
「ようやく、帰って来れたね〜。やっぱり、なんだかんだ言っても家が一番落ち着くよ」
私は、伸びをした。
ああ、やっぱり家が一番だよ。
何だか、長い旅行から帰って来たみたいな感じだ。
もしも【ウトピーア法皇国】との戦争がなければ、このまま和室に置いてあるコタツに入って、ポテチを食べてコーラを飲みながらグダグダしたいね。
ふと、見ると、ナカノヒトも感慨深げに家の中を見回していた。
そっか……ナカノヒトにとっても、ここは家だったんだよね。
兎にも角にも、私は、900年振りに自宅に帰り着いた。
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