第371話。グレモリー・グリモワールの日常…66…女子会。
チュートリアル終了時点。
名前…クラーラ・ホルムグレーン
種族…【ハイ・エルフ】
性別…女性
年齢…830歳
職種…【魔法弓士】
魔法…【闘気】、【風魔法】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…【才能…風魔法、伏兵】、【グレモリー・グリモワールの使徒】
レベル…99
元【エルフヘイム】の軍長官。
お風呂上がり。
身体を拭かれたソフィアちゃんとウルスラちゃんは送風機の前に2人並んで、ミルクを一気飲みする。
裸で腰に手を当てて仁王立ちだ。
湯冷めしないように早目に服を着た方が良いよ。
ほら、オラクルさんとヴィクトーリアさんが、服を持って待ち構えているし。
「ぷは〜っ!この一杯の為に働いているようなものじゃ」
ソフィアちゃんは、親父みたいな事を言った。
働いて?
あ〜、ま、守護竜は【神位結界】を常時張りっぱなしにして、24時間365日、民に恩恵を与え続けている。
間違いなく、物凄く働いているね。
守護竜が張る【神位結界】は、内部に魔物をスポーンさせず、【中位】までの魔物なら【結界】の外からの侵入を許さない。
魔物以外にも、病原菌やウイルスも発生や繁殖を防ぐ。
また、【結界】の中は気候が安定して、土壌は肥沃になり、自然災害のリスクも激減させるのだ。
これだけの恩恵を日々与えているのだから、ソフィアちゃんが毎日遊び歩いていても、誰からも文句は言われないだろうね。
「グレモリー。おやすみなさい、なのじゃ」
何らかの動物の着ぐるみ風パジャマを着たソフィアちゃんは言った。
鴨?
どうやらカモノハシらしい。
オラクルさんとヴィクトーリアさんが、ソフィアちゃんから頼まれて、夜なべして、こういう着ぐるみを、たくさん作っているみたいだ。
ソフィアちゃんのファッション・センスは……。
ま、私だって、他所様の服装の趣味を批評出来るようなアレじゃない。
年中魔女コスプレだからね。
「おやすみ、ソフィアちゃん」
「ん?」
ソフィアちゃんは私を見上げる。
しまったぁ〜。
いつも脳内で呼んでいる呼称が、つい口をついて出ちゃったよ。
さすがに、現世最高神に向かって、ちゃん付け呼びはない。
「あ、ごめんなさい、ソフィア様」
私は、即座に謝った。
「構わぬ。グレモリーとフェリシアとレイニールには、ソフィアちゃん、と呼ぶ事を許す。我らは、もはや、海戦を戦った戦友なのじゃ」
ソフィアちゃんは、ニッコリ笑う。
あ、そう。
「なら、ソフィアちゃんと呼ぶね」
「うむ、そう呼ぶが良い」
ソフィアちゃんは満足気に頷いた。
ソフィアちゃん達は、オラクルさんと、ヴィクトーリアさんに手を引かれて一緒に寝室に向かって行く。
カモノハシの大きな尻尾がフリフリ揺れていた。
途中、ソフィアちゃんが振り返って、私達に手を振る。
私達も、手を振り返した。
ふふふ、本当に可愛い子だね。
ま、世界最強の武闘派神なんだけれどさ。
・・・
私、フェリシアとレイニール、グレースさんは、部屋に戻って来た。
さてと、ベッド・ルームが幾つもあるから、迷うね。
主寝室の一番大きなベッドにフェリシアとレイニールを寝かす。
2人が……これで寝てみたい……と言ったからだ。
最近、フェリシアとレイニールは、私に自己主張をし始めたね。
何だか嬉しい。
パスを通じてフェリシアとレイニールから伝わってくる思念は、本当の母親に向けるモノと同じような感情だと思えるからだ。
ま、2人は良い子だから、ワガママを言ったりはしない。
少しくらいなら、ワガママを言ったり、イタズラをして、私を煩わせたって構わないんだけれどね。
今日、駄々をこねたソフィアちゃんを抱っこして宥めていたナカノヒトの様子が少し羨ましく思えた、という事もある。
あの2人は本当の親娘みたいだった。
ま、ナカノヒトは、このゲームのプログラマーで、ソフィアちゃんはゲーム・キャラ。
そう考えると、ナカノヒトは、ソフィアちゃんの生みの親と言えるのかもしれない。
それにしても、この主寝室のベッドは、凄い巨大なサイズだ。
端から端まで、50mはある。
きっと守護竜規格なんだろうね。
ソフィアちゃん専用ベッドは、これより大きいらしい。
ソフィアちゃんもファヴ君も、いつも、この巨大なベッドに人化した幼児形態で寝ているのだ、とか。
人化して暮らすのは、別に負担ではないらしい。
むしろ……人種の生活圏で活動するなら、人化した形態の方が便利だ……と言っていた。
ま、そだろね。
レイニールは、ベッドに入るなり眠ってしまったし、フェリシアも眠そうだ。
あれだけ、お風呂で遊んだからね。
「グレースさんも好きな寝室を選んで良いよ」
「では、私は、こちらで」
「じゃあ、私は、あっちね。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
私達は、それぞれの寝室に分かれる。
グレモリーちゃん……これから、アルフォンシーナちゃんの私室で飲むんだけれど、一緒にどう?
ディーテから【念話】が入った。
あ〜、じゃあ、少しだけ参加しようかな。
私は【念話】で伝える。
なら、待っているわ。
ディーテは【念話】で言った。
私は、部屋を出て、ディーテの【念話】での誘導案内に従ってアルフォンシーナさんの私室に向かう。
・・・
アルフォンシーナさんの私室は、大神官執務室の通用口から大神官専用の中庭に出て、向かい側にあった。
通勤時間3分だね。
中庭には、【不滅の大理石】で創られた、女神像のような造形物が幾つも点在していた。
ここは美しい場所だね。
それにしても、さすがは大神官の私的エリア……広い庭園を含んだ広大な領域だ。
でも、何だか違和感があるんだよね。
大神官の私的エリアもそうだけれど、私達の部屋や、大浴場や、その他あらゆる施設が巨大過ぎる気がする。
うーむ。
確かに竜城自体巨大な構造物なんだけれど……【マッピング】して歩き回っていると、どうも容積が合わないんだよ。
これは、たぶん竜城内部は幾つかのエリアで亜空間フィールドになっているんだろうね。
うん、間違いない。
ゲーム時代には、わからなかった新発見だ。
・・・
私は、アルフォンシーナさんの私室(屋敷)の前に立つ。
衛兵もいないし、扉に施錠もされていないから、一見無防備そのものなんだけれど……。
あの庭園に置かれた彫像の1つ1つは、女神像に偽装されているけれど……たぶん【ガーゴイル】だね。
【創造主の魔法】で生み出された、防衛オブジェクトだよ。
【神位】級の【ガーゴイル】だから、アイテムとしては入手も製造も出来ない強力なエリア守護者だ。
アレと戦ったら、私でも勝てない。
このエリアに害意を持った者が侵入したら、あの【神位ガーゴイル】達が動き出して、速やかに賊を排除するんだろう。
さすがは、大神官の私的エリア……。
「お邪魔します」
私は、大神官の私室の扉をノックした。
しばらくして。
「いらっしゃいませ、グレモリー様」
アルフォンシーナさんが迎えてくれる。
アルフォンシーナさんは、公務中の露出が少ない神官衣ではなく、肩と背中がバッコリ開いたホルターネックのイブニング・ドレス姿だった。
生地は最上質のシフォンで、肌が透けそうだ。
凶悪な胸部装甲が、たわわに実り、こぼれ落ちそうだね。
一体この胸肉の塊は、何カップあるんだよ。
対する私は、いつもの【漆黒のローブ】に【漆黒のトンガリ帽子】に【魔女のトンガリ靴】という格好。
超野暮ったいね。
ま、着るものは、清潔で快適で機能的であれば良い、というのが私の考えだ。
今更オシャレ番長をやる気はない。
私は、アルフォンシーナさんに案内されて、廊下を歩いて行く。
・・・
大神官の私室(屋敷)のダイニング。
ディーテがいる。
ディーテも、リンネルのイブニング・ドレス姿だった。
私も、着替えを持っていれば……。
いや、別に良いか。
「来たわね。さあ、とりあえず乾杯しましょうよ。30年物の【ラウレンティア】のビンテージよ」
ディーテが言った。
もう、既に、ワインのボトルが3本ほど空いているね。
「ペースが早過ぎじゃない?」
「ほとんど、アルフォンシーナちゃんが飲んだのよ。この子、アルコールに関しては、ザルだから」
ディーテが言った。
「うふふ、昔から、幾ら飲んでも、ほとんど酔わない体質なんです」
アルフォンシーナさんは笑う。
あ、そう。
私達は乾杯した。
出会いと再会に……。
アルフォンシーナさん手製というツマミを食べながら、【ラウレンティア】産の赤ワインを飲む。
うん、美味い。
「さっきまで、【ウトピーア法皇国】関係の情報を聴いていたんだけれど、酔っ払う前に情報共有しておきましょう」
ディーテは言った。
「うん」
「【ウトピーア法皇国】が【ブリリア王国】を攻めるタイミングで、【ヨトゥンヘイム】も【ミズガルズ】に攻めて来る。また同時に【ザナドゥ】も【アルカディーア】の反政府派を焚きつけて兵器を供与して、親【ドラゴニーア】の現【アルカディーア】政府に対してクーデターを起こさせるつもりみたいだわね。今回の【ウトピーア法皇国】による【ブリリア王国】への侵攻は、世界同時3地域の大掛かりな軍事作戦の一翼だったのよ」
ディーテが言う。
【ヨトゥンヘイム】は、ノース大陸の東にある【巨人】の国。
【ヨトゥンヘイム】は、ノース大陸で唯一【ユグドラシル連邦】に加盟していない国家で、【ユグドラシル連邦】とは仲が悪くて、歴史上、何度も戦争をしている。
最後の戦争の後、【ユグドラシル連邦】と【ヨトゥンヘイム】は、一応、停戦合意をしていた。
私は、ゲーム時代、【ヨトゥンヘイム】に【トロール】の友達もいたから、別に【ヨトゥンヘイム】に対して悪印象はないけれど、ディーテ達【ユグドラシル連邦】の人達にとって、【ヨトゥンヘイム】は不倶戴天の敵。
【ミズガルズ】はノース大陸の南方国家で【ユグドラシル連邦】の一角を占める【人】の国。
今回、【巨人】達は、ここをターゲットに定めたようだね。
【巨人】族は、強大な力と強力な自己再生能力を持つ代わりに、農耕の技術に下方補正がかかるという種族特性を持つから、十分な穀物を得るには、輸入するか他国に攻め込んで掠奪するしかない。
これが、【ユグドラシル連邦】と【ヨトゥンヘイム】の戦争の、そもそもの理由だ。
【ザナドゥ】はイースト大陸北方の国で、【アルカディーア】はイースト大陸西方の国。
この両国も仲が悪い。
ま、同盟関係でない隣国とは、だいたい仲が悪くなるのは、地球も同じだね。
【アルカディーア】は、かつて【ドラゴニーア】の同盟国【グリフォニーア】に戦争を仕掛けて、【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】の連合軍に返り討ちに合い、コテンパンに負けて、現在は、【ドラゴニーア】の占領統治を受けている。
つまり、【ザナドゥ】が、直接【アルカディーア】を攻めたりなんかすれば、【ドラゴニーア】の逆襲に合う。
なので、【ザナドゥ】は、【アルカディーア】の反政府派を操って、チョッカイを出して来ているのだ。
「つまり【ウトピーア法皇国】と【ヨトゥンヘイム】と【ザナドゥ】は、何らかの申し合わせをしているって事?」
「はい。【ウトピーア法皇国】と【ザナドゥ】は以前から軍事協力関係にあります。【ヨトゥンヘイム】は、この協力関係に与していませんが……。今回、【ザナドゥ】が間接的に【アルカディーア】を攻撃しますので、その場合、【アルカディーア】と安全保障協定を結んだ【ドラゴニーア】は、【ザナドゥ】に反撃する可能性があります。なので、【ザナドゥ】は【ヨトゥンヘイム】を引き込んだのです。【ヨトゥンヘイム】に【ユグドラシル連邦】を攻撃させて、【ドラゴニーア】に、ノース大陸に派兵させ、【アルカディーア】方面を手薄にしよう、という意図でしょう」
アルフォンシーナさんは言った。
「馬鹿ね。【ユグドラシル連邦】の【ヨトゥンヘイム】に対する防衛は、【ドラゴニーア】の支援に頼らなくても賄えるわ。こんな工作は無意味よ」
ディーテは言う。
ふーん。
「あのさ、【ザナドゥ】が、直接、攻めて来ないで、【アルカディーア】の反政府派に協力するだけでも、【ドラゴニーア】は【ザナドゥ】を叩けるの?」
「即座に反撃するのは難しいでしょうね。この手の密約は証拠などは残さないでしょうし……仮に反政府派を捕らえて、尋問して、口を割らせ、【ザナドゥ】が黒幕だ、と主張してみたところで、【ザナドゥ】は関与を認めないでしょうし……」
アルフォンシーナさんは言った。
「なら、【ドラゴニーア】は【ザナドゥ】に手を出せないの?」
「いいえ。軍隊を使わなくても戦争は出来ます。【ザナドゥ】の経済を破壊してしまえば良いのです。【ドラゴニーア】が最も得意とする戦略ですわ」
アルフォンシーナさんは、ニッコリと微笑んで言う。
おっふ、ゾクゾクッとした。
アルフォンシーナさんは、見た目と違って怖いね。
ナカノヒトの【神威】や、真っ黒ピオさんとも、また違う怖さだ。
なるほどね。
つまり、【ザナドゥ】の目論見は外れている訳だ。
「ディーテの方は備えをしているの?」
「もちろん。【ヨトゥンヘイム】のやり口は、いつも一緒。国境近くで大規模な軍事演習を繰り返して、こちらが……何だ、ただの訓練か……と油断すると、突然、攻め込んでくるのよ。だから、国境には、最精鋭部隊を張り付けてある。今回は万全を期して【箱舟】も出しているから、【ユグドラシル連邦】の防備は心配いらないわ。後は、グレモリーちゃんが【ウトピーア法皇国】をブッ叩いて、アルフォンシーナちゃんが【ザナドゥ】をシメれば、問題ないわね。まあ、【ヨトゥンヘイム】は、内々に……全面戦争は望まない……って、言って来ているのよ。どうも、今回の軍事作戦の見返りに【ザナドゥ】から大量の穀物の供与を受けているらしいわ。それで、形ばかりの出兵。【ヨトゥンヘイム】は……国境を1km超えて陣を張り1週間で引き上げる……と言って来ているわよ。ま、それも偽装の可能性があるから、油断は出来ないけれどね」
ディーテは言う。
「アルフォンシーナさんの方は?」
「問題ありません。【アルカディーア】の駐留軍の主力は、【ドラゴニーア】屈指の工兵軍団です。彼らは守りのエキスパート。守勢に徹すれば、1年だって守れます。その間に、新手の艦隊を送ります。【ザナドゥ】と、その息のかかった勢力には1mだって【アルカディーア】の領土を渡しません」
アルフォンシーナさんは言った。
「新手の艦隊?」
「実は、ノヒト様が、故障して亜空間倉庫にしまっていた艦船を全て修理して下さったのです。それで、第2艦隊、第3艦隊を新たに組織出来ました。クルーの訓練が完了し次第、第2艦隊はサウス大陸に送り、イースト大陸には第3艦隊を派遣します」
アルフォンシーナさんは言う。
あ、そう。
なら、問題はないね。
この話は、ナカノヒトは知らないらしい。
ナカノヒトは、ゲームマスター。
この手の国際紛争には、不介入だからね。
なるほど、【ウトピーア法皇国】絡みの国際情勢は、だいぶ見えて来たよ。
ま、だからと言って、私が、やるべき事は何も変わらない。
つまり……私の身内に手を出すヤツには死を……だよ。
しばらくして、ディーテの孫娘のビルテ・エクセルシオールがアルフォンシーナさんの私室にやって来た。
ディーテが呼んだらしい。
私とビルテさんは挨拶をした。
「グレモリー様。ピオがお世話になっております」
ビルテさんは、頭を下げる。
「いやいや、お世話になっているのは、こっちの方だよ」
ビルテさんは、世界銀行ギルドの頭取。
つまり、異世界のビッグネーム。
もちろん、サインをもらっておいたよ。
その後、4人で女子会になって、しこたま飲んだ……。
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