第370話。グレモリー・グリモワールの日常…65…規格外の竜城設備。
チュートリアル終了時点。
名前…ヨサフィーナ・エクストレーム(ヨサフィーナ・エルフヘイム)
種族…【ハイ・エルフ】
性別…女性
年齢…821歳
職種…【王族】
魔法…【闘気】、【風魔法】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…【才能…風魔法、王威】、【グレモリー・グリモワールの使徒】
レベル…99
元【エルフヘイム】の女王。
私達は、【シエーロ】中央都市【エンピレオ】の、【知の回廊】ハブ【門】部屋に、やって来た。
私とナカノヒト以外のメンバーが、その場に転移座標を設置する。
「1階のエレベーター・ホールにも転移座標を設置しましょうか?」
ナカノヒトが言った。
「同じ建物に2か所も必要なのか?」
ソフィアちゃんが言う。
「はい。この建物は、【シエーロ】の中央に建つ【知の回廊】と言うのですが、冗談みたいに巨大な建造物なのです。最上階にある、この【門】部屋と、1階のエレベーター・ホールと、最深部の3か所は最低、転移座標が必要です。その他にも、この中には、官庁街や、住宅街などもあり、いわば建物が1つの都市の機能を有しています。ソフィアなら、飲食店街に転移座標を設置したくありませんか?」
「うむ、飲食店街なる所に行ってみるのじゃ」
「今日は、転移座標を設置するだけですよ。お店を覗くのは、明日以降にしましょう。それに、内戦のゴタゴタで、お店がどうなっているか、わかりませんしね」
「わかったのじゃ」
・・・
私達は、【知の回廊】の主要な施設に転移座標を設置して回った。
内戦中にも拘わらず、飲食店街は営業している様子。
ナカノヒトは、美味しそうな匂いを漂わせるレストランの前から動こうとしないソフィアちゃんを、宥めすかして……最後は抱っこして強制的に連れ去った。
ソフィアちゃんは、両手両足をバタバタさせて暴れている。
ナカノヒトは……はいはい……という様子でソフィアちゃんをあしらう。
この2人は、本当の親子みたいだね。
現世最高神の【神竜】が暴れて、それを抱き止められる存在なんて、ゲームマスターしかいない。
ポカポカとナカノヒトの顔や肩を叩くソフィアちゃんのゲンコツは……私ら普通の生物なら間違いなく即死判定が出る攻撃威力値を計測していた。
ナカノヒトは、微笑みながら全く意に介さず、ソフィアちゃんを抱っこしているけれど……。
ソフィアちゃんも相手が無敵のナカノヒトだからこそ、本気で甘えられるんだね。
私達は、最深部の【メイン・コア】部屋に向かった。
・・・
私達は、【知の回廊】の最深部【メイン・コア】部屋で、エレベーターを降りる。
「あー、ノヒト様。ちょうど片付けが終わったので、お引き渡し致しますね」
女性の【天使】が言った。
【鑑定】で見ると、この【天使】の女性は、ガブリエルという名前の【改造知的生命体】。
この娘……強いね。
ガブリエルは、【超位】級の魔法戦闘職でステータス・カンスト……なおかつ、槍と体術のステータスもカンストしていた。
魔法戦闘と武器戦闘の両方とも超一流という水準にある。
カタログ・スペック上の総合戦闘力は、魔法偏重の私より上。
ただし、何でもありのガチンコで戦えば、私が勝つだろうね。
負け惜しみじゃないよ。
【不死者】軍団を使えば、私は大概の相手には勝てる。
もちろん、ナカノヒトやソフィアちゃんみたいな、別次元の存在は除外して、だけれどね。
ガブリエルの部下らしき大勢の【改造知的生命体】と【天使】達が、【メイン・コア】部屋から備品の搬出をしていた。
ナカノヒトに部屋を引き渡す為に片付けと清掃をしていたらしい。
「ノヒトよ。コヤツは誰じゃ?」
ナカノヒトに抱っこされたまま、ソフィアちゃんが訊ねた。
「おや?お嬢ちゃん、もしかして、ノヒト様の、お子様ですか?」
ガブリエルは気さくな態度でソフィアちゃんの頭を撫でる。
ソフィアちゃんは、多少、不本意そうな表情をしながら、頭を撫でられていた。
ガブリエル……無知って怖いね。
「ソフィアです。【神竜】ですよ」
ナカノヒトがソフィアちゃんを紹介した。
「でぃ、【神竜】!し、失礼しました。私は、ガブリエルと申します。以後、お見知り置きを……」
ガブリエルは畏まって深い礼を執る。
「うむ、ソフィアじゃ。よろしくなのじゃ」
ガブリエルは、ファヴ君を紹介された時にも、ソフィアちゃんの時と同じように驚いた。
トリニティさんを紹介された時は、ガブリエルは少し胡乱げな表情に変わる。
それを受けて、トリニティさんも目を細めて威嚇した。
ガブリエル達の陣営【天使】と、トリニティさんの種族である【エキドナ】……つまり【魔人】は、この世界では、天敵として位置付けられている。
「ガブリエル。私の家族であるトリニティに攻撃を加えたら酷いですよ。トリニティに手を出すなら、私が【天使】を滅ぼす理由となり得ます。その事だけは肝に命じておいて下さいね」
ナカノヒトが、グッサリと深めに釘を刺した。
「はっ!トリニティ殿を最大限の敬意を持って接遇させて頂きます。また、全【天使】にも、それを厳命しておきます」
ガブリエルは青ざめた顔をして、そう言う。
トリニティさんは……彼女に手を出したら、【天使】の種族を全て滅ぼす……とまで言ってくれたナカノヒトを嬉しそうに見つめていた。
潤んだ瞳。
これは……トリニティさんは、完全にナカノヒトに恋している目だね。
ナカノヒトは、気付いているのかな?
どうやら気付いていないっぽい。
男って生き物は鈍感だからね。
ナカノヒトは、私やディーテも紹介する。
「よろしく」
私は、いつもの挨拶をした。
どうも、ってな感じで、頭なんか下げない。
「どうぞ、よろしく」
ディーテは、軽く会釈する。
「よ、よろしくお願いします」
ガブリエルは、探り探りという様子で私達に挨拶した。
たぶん、ガブリエルは【天使】の中では、相当、偉い地位なんだと思う。
ガブリエルの部下には、【智天使】がいて、ガブリエルに対して、かなり謙った態度をしていた。
つまり、ガブリエルは【熾天使】と同格なんじゃないかな。
ステータスには、【擬似神格者】とかって、訳のわからない表示があるけれど……。
なので、ガブリエルは、私との格を測りかねているんだと思う。
異世界的な儀礼格式で言えば、私は在野の世界市民で英雄。
ガブリエルは、おそらく【シエーロ】の指導者層。
で、あるならば、私はガブリエルより格下だ……と思う。
でも、世界市民は、一国の元首の命令でも無視出来る権限がある。
ユーザーは、ゲーム内の国家権力に対して、一種の拒否権みたいなモノを持つのだ。
だから、私が、どんな無礼な態度を取っても、それで罰せられる事はない。
さらに、私は【ドラゴニーア】と【エルフヘイム】から国家最高功労賞を叙勲されている。
この勲章は、【ドラゴニーア】と【エルフヘイム】の国民全員から、無条件、かつ、最大限の敬意を払われるに値する格式だって聞かされていた。
つまり、私の儀礼上の格は、【ドラゴニーア】の大神官と、【エルフヘイム】の大祭司より上という解釈も出来る。
そういう観点で言えば、私は、ガブリエルより大分格上だ。
つまり、どういうふうに振る舞うのが正解か……正直、私には、よくわからないんだよね。
それはガブリエルの側も同様で……探り探り……という対応にならざるを得ない。
儀礼格式って、とにかく面倒臭いよ。
だから、私は、あえて初対面の相手には、殊更、適当な挨拶をする。
これは、ダークサイドのロールプレイという意味合いもあるけれど、相手の度量を測る意図もあるんだよね。
私が不躾な挨拶をして、相手がそれに腹を立てるようなら、相手は小物……以後お付き合いはしない。
私が不躾な挨拶をしても、全く頓着しないようなら、相手は大物……ディーテやアルフォンシーナさんみたいに、一応の誠意を持って対応する。
私は、概ねこれで各個人への対応の仕方を決めていた。
ガブリエルは、私の適当な挨拶に腹を立てる様子もなかったから、第一印象は合格だね。
次に何かの機会で会った時には、交流する可能性もあるだろう。
「エレベーターの登録コードをリセットして下されば、今後は、改めて登録された方以外は、この階層には入れなくなります」
ガブリエルは【メイン・コア】部屋の設備などを1つ1つ丁寧に説明して回った。
いや、ナカノヒトは、たぶん【知の回廊】の施設や設備は全部知っているんじゃないかな……運営の人なんだし。
ま、ガブリエルは律儀な性格なんだと思う。
それって悪い個性ではないね。
ガブリエル達は、一礼してから揃って退室して行った。
ナカノヒトの胸にしがみついていたソフィアちゃんが、床に飛び降りる。
ソフィアちゃんは、【メイン・コア】に興味を持ったみたいだ。
トコトコ歩いて行って、台座によじ登って、【メイン・コア】をペシペシ叩いている。
この【メイン・コア】が、【知の回廊】の人工知能の本体なんだよね?
99階層の【ダンジョン・コア】より、二回り以上大きい。
ナカノヒトは、エレベーターの登録をリセットして、何やら複雑なプログラムへの書き変え作業をしていた。
プログラムは、ナカノヒトの本業だからね。
どうやら、ナカノヒト以外の誰かにセキュリティの判断をさせる為のプログラムみたいだ。
ソフィアちゃんが、【メイン・コア】の台座から降りて、オラクルという名前の【自動人形】の所に歩いて行って、自分から手を繋いだ。
ソフィアちゃんは、アクビをしている。
眠いのだろう。
こう見ると、世界最強のソフィアちゃんも、見た目通りの幼児だね。
「ノヒト。ソフィアちゃんが限界かも」
ソフィアちゃんは、繰り返しアクビをしながら、目を擦っている。
ナカノヒトは、ソフィアちゃんを優しい目で見つめて、はあ〜、と溜息を吐いた。
「私は、ソフィアを連れて一旦戻りますよ。少しだけ待っていて下さい」
ナカノヒトは、言う。
「いや、明日また出直そうよ。ソフィアちゃんに家の中を案内するって約束しちゃったからね。ソフィアちゃんが寝ている間にノヒトが艦隊を【収納】に回収して、格納庫を空にしちゃったら可哀想だよ」
ソフィアちゃんは、女の子にしては珍しく、戦艦とか大砲とかロボットとか……ロマン・メカが好きだって言っていた。
それなら、私の家の格納庫の仕掛けを見れば、絶対に喜ぶと思うからね。
「あなたが、それで良ければ、私は構いませんよ」
ナカノヒトは言う。
明日改めて、私の自宅に向かう事にして、私達は、【ドラゴニーア】に戻った。
・・・
竜城に戻ると、アルフォンシーナさんが、私達が今晩宿泊する部屋に案内してくれる。
凄い部屋だ。
豪華だし……基本的に馬鹿デカい。
私達は、【ドラゴニーア】の国家元首であり、また神様でもある【神竜】の私的なゲストという扱いになる。
つまり、外国の王族よりもグレードが高い部屋が用意されたのだ。
この部屋は、サウス大陸の守護竜である【ファヴニール】が寝起きしている部屋と同等の格式らしい。
ファヴ君は神様だし、その上、ソフィアちゃんの弟だ。
この馬鹿デカさは、つまり守護竜サイズなのかもしれない。
この部屋は、さしずめ……守護竜スウィート……という訳だね。
因みに、ソフィアちゃんの部屋は、もっとデカいらしい。
私達が、部屋の立派さに圧倒されていると、ソフィアちゃんが、やって来た。
「グレモリーよ。お風呂に行くのじゃ。其方達も、一緒にどうじゃ?」
ソフィアちゃんは言う。
「お風呂って、部屋風呂の他にもあるの?」
私は訪ねた。
「うむ。我の専用の、お風呂があるのじゃ。とはいえ、今は、【女神官】や竜騎士にも開放されておるがの。大浴場じゃ。広くて楽しいのじゃ。一緒に行くのじゃ」
ソフィアちゃんは誘う。
私達に用意された部屋のバスルームも、とんでもない大きさなんだよ。
この部屋のバスルームは、【サンタ・グレモリア】に私が造ったローマ風呂っぽい浴場と同等の広さがある。
部屋風呂って規模じゃない。
これより広い大浴場……想像を絶するね。
「どうしようかなぁ。子供達もいるし……」
「グレモリーの子供2人も一緒に行くのじゃ」
ソフィアちゃんは言った。
【サンタ・グレモリア】では湯浴み着を用意してあるけれど、ソフィアちゃん達は裸で入浴するらしい。
フェリシアは良いとしてもレイニールがなぁ……。
あの子は10歳で、もう【サンタ・グレモリア】では、家族扱いの私とフェリシア以外の女性との混浴はしていない。
平気かな?
色々な意味で……。
結局、私、フェリシアとレイニール、グレースさんは大浴場に向かった。
私とパスが通じているレイニールは、どうせ、私が見た物は全て見えてしまう。
同じ事だ。
ソフィアちゃんがOKなら、私も……レイニール本人が恥ずかしがって、混浴を断るようになるまでは、別に良いか……と考えた訳。
確か銭湯や温泉でも、小学生男子まではギリギリ女湯はセーフだったはず。
中等部に入学するような年齢になったら、さすがにアウトだろうけれどね。
因みに、ディーテはアルフォンシーナさんと旧交を温める為、私達とは別行動をしている。
・・・
大浴場は、とんでもなく巨大だった。
湯気でモヤっている事もあって、反対側の壁は遠過ぎて見えない。
湯船の一番深い場所は、なんと50m以上あるらしい。
こんな巨大な空間の中に柱1つないなんて、さすが【創造主】が創ったオブジェクトだね。
私達は、シャワーを浴びて、全身を洗ってから、湯船に浸かった。
お世話係の【女神官】さん達が、私達を洗ってくれようとするけれど、やんわりと断っておく。
レイニールは、広い湯船に嬉しそうだ。
【サンタ・グレモリア】の子供達は、皆、泳げる。
【サンタ・グレモリア】の住人は、深い堀や湖の畔に暮らしているので、水難事故が怖いから、私が指示して、水泳の指導を義務付けていたからだ。
レイニールは泳ぎたそうにしている。
「あんまり、深い方に行ったらダメだよ」
私は許可を出した。
パスが繋がっているから、溺れたりしたら、すぐわかる。
それに、レイニールは【魔導士】だ。
【水魔法】を使えば、水の中を飛ぶように泳げるはず。
溺れる【魔導士】なんて聞いた事がない。
ま、心配はないだろう。
レイニールは潜水をし始める……。
え、フェリシアも?
私は、疲れるから、お風呂で泳いだりはしないよ。
「あ〜、良い、お湯だね〜」
「本当ですね〜」
グレースさんが言った。
ここの、お湯には、魔力的な何かの成分が溶け込んでいるような気がする。
疲れが本当に取れるよ。
竜城だから、マジもんの魔法温泉の可能性も、あり得るね。
「お母さ〜ん」
レイニールの声がした。
振り向くと、蒸気船に乗ったフェリシアとレイニールが手を振っている。
あの蒸気船は、お風呂の玩具シリーズだね。
ザッバ〜ンッ……。
おっと。
突然、私達の近くに潜水艦が浮上して来た。
潜水艦のハッチが開く。
ソフィアちゃんが顔を出した。
「グレモリーよ。模擬海戦をやるのじゃ。我とウルスラが率いる水中軍、対、其方らが率いる水上軍で戦うのじゃ。攻撃は、模擬弾と、模擬魔法によるマーカーにて撃沈判定をするのじゃ」
ソフィアちゃんが言う。
私は、ゆっくりと、お湯に浸かっていたかったのだけれど、半ば無理矢理、模擬海戦に参加させられてしまった。
・・・
やってみたら結構面白かったね。
潜水艦、対、水雷駆逐艦のクラシカルな対決の構図。
水中・水上と交替しながら10戦も遊んだよ。
戦績は、1勝8敗1引き分け。
ソフィアちゃん達のウミガメ戦術にしてやられた。
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・・・
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