第366話。グレモリー・グリモワールの日常…61…使徒の条件。
チュートリアル終了時点。
名前…フェリシア・グリモワール
種族…【ハイ・エルフ】
性別…女性
年齢…13歳
職種…【魔導士】
魔法…【闘気】、【風魔法】、【回復・治癒】、【気象魔法】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】、【才能…風魔法、気象魔法、空間魔法】
レベル…19
グレモリー・グリモワールの養子。
私達は【サンタ・グレモリア】に帰還した。
この後、昼食を食べてから、チュートリアル参加者に、泉の妖精からもらった【贈物】について説明をする予定。
とはいえ、特段難しい事はない。
概ね、それぞれの人物の専門や得意な分野が【才能】として発現したからだ。
ディーテ達、【ハイ・エルフ】の古老達には、いちいち説明なんかしない。
あんた達は、魔法のエキスパートなんだし、永年人生経験を積んだ知識レベルが高い優秀な人達なんだから、自分でなんとかしなよ。
実際、既に、覚えたての【転移】も使い熟しているんだから、問題ないでしょう?
ユーザーは、チュートリアルが終わると説明や解説なんかなしに、いきなり広大な異世界に放っぽり出されるのだ。
それでも問題はないんだから、ディーテ達だって大丈夫だろう。
私は、その他のメンバーに諸々の解説をする事を優先する。
ま、とりあえず昼食を食べよう。
私とアリスの帰還を聞きつけて、アリス・タワーに干物工場から連絡が入った。
どうやら、私達がチュートリアルをしている間に、ソフィアちゃんが、フラリ、と工場にやって来て、干物を欲しがったので、たくさんあげたら、お返しに大量の牛乳やバターやチーズをくれたらしい。
【ブリリア王国】では、乳製品は高級品なので有り難いね。
ソフィアちゃんは鮮度管理の目的で【宝物庫】ごと膨大な量の乳製品をくれたのだ。
だから、生乳も品質が劣化する事はない。
もちろん、使い終わった後で【宝物庫】は、ソフィアちゃんに返却する約束をしているようだ。
私が庇護している【サンタ・グレモリア】の住人に、まさか神様を騙そうとする人はいないと思うけれど……一応、ソフィアちゃんから預かった【宝物庫】の管理は、干物工場長から、メイド長のキャリスタさんに責任移譲する。
ソフィアちゃんは、面白い子だ。
思いつくまま好きなように振舞っているように見せて、内実は色々と考えて行動している。
ソフィアちゃんは、フラフラと【サンタ・グレモリア】の各施設を見て回っていたらしい。
それで、色々とアドバイスなんかもくれたのだ、とか。
保育園からの報告では、さっきまで子供達と遊んでいたらしいのだけれど、保育士役の聖職者達を集めて……子供達の栄養状態を良くする為に、渡した乳製品を優先的に子供達に与えるように……と要望したらしい。
私は、すぐ、それを正式な施策として採用し、キャリスタさんに保育園の給食と、各家庭への配給を指示しておいた。
こうして、今後、【サンタ・グレモリア】の子供達には、毎食、牛乳とチーズを食事にプラスして与える事が決まりとなる。
これで【サンタ・グレモリア】の住人の食料事情は……お腹いっぱい食べられる……という最低限の水準から……栄養状態の向上……という一段高い水準に引き上げられた。
これは、貧困層では、未だ満足に食べられない人も多い【ブリリア王国】にあっては画期的な事。
ソフィアちゃんには、感謝しなければならないね。
・・・
アリス・タワー。
私達は、ナカノヒト達と一緒に、お昼ご飯を食べる。
メニューは、湖魚、湖魚の干物、湖魚の練り物、【パイア】、【地竜】、【湖竜】……。
一応、【サンタ・グレモリア】名産品尽くしだけれど、ナカノヒトやソフィアちゃん達は、毎日、最高の食事をしているのだろうから、こんな田舎料理は口に合わないかもしれない。
でも、これが私達に出来る精一杯の、おもてなし、だ。
ナカノヒト達からは、【氷竜】料理とホールケーキが差し入れられる。
さっきの干物と乳製品の交換もそうだけれど、お礼のレベルが、コッチのサービスの数百倍返しなんだけれど?
本当に有り難いね。
施しではなくて、あくまでも、私達のもてなしや便宜への、お礼という形にしてくれるところが、ナカノヒトやソフィアちゃん達の品性の高さなんだと思うよ。
これなら、相互の関係性は対等を維持出来る。
いや、ま、ナカノヒトやソフィアちゃんは、神様だから、当然偉い。
人種とは、対等な立場なんかではないのだけれどね。
つまり……【サンタ・グレモリア】の住人達に、過度の負目や申し訳なさを与えないように配慮してくれている……という事を私は言いたい訳。
これは大切な事。
貧しい人達にとってプライドは最後の財産なのだ。
プライドを失ったら、貧しい人達は、犯罪に走ったりもする。
ナカノヒトやソフィアちゃんは、貧しい人達のプライドを傷付けずに、援助をしてくれた。
それを、さり気なく出来るから、この神様達は万民から崇敬されているのかもしれない。
【サンタ・グレモリア】の住人達からすれば……私が作った干物を偉大な神様が欲しがってくれた……オラの畑を褒めてくれた……俺の陶器に興味を示してくれた……となれば、今後、より一層仕事に精を出してくれるだろう。
湖魚で作った練り物の、ゆで卵巻きを大量に口に詰め込んで、満パンに頬張っているソフィアちゃんを見ると、そんな深い考えはなさそうに思えるけれどね。
「予定より早く終わっちゃったから、午後は、こっちにいるよ。だから、集合場所は、【サンタ・グレモリア】神殿の礼拝堂に変更で」
私は、ナカノヒトに言った。
「わかりました。しかし、25人に……グレモリー・グリモワールの使徒……の特性が生えるとか……」
ナカノヒトは驚いている。
「何か、よく、わからないんだけれどね〜」
今回、チュートリアルを受けた26人の内、ナディアを除いて25人が、私の使徒になっていた。
ナディアは、私の【眷属】。
【眷属】は精神支配状態という扱いになる為、ゲームの設定上、使徒特性は生えない。
「そう言えば、ディーテとイーリスさんは、ノース大陸の守護竜【ニーズヘッグ】の使徒じゃないんだね?」
私は訊ねた。
「もう、違うわね。公的な立場を引退すると使徒じゃなくなるのよ。その時に【ニーズヘッグ】様とのパスも途切れるわ。もちろん、広義の意味では、ノース大陸の人種は、全員【ニーズヘッグ】様の使徒ではあるのだけれど、引退と同時に、特性としての、使徒表示は消えるわね」
ディーテが言う。
「へえ、知らなかった」
「まあ、生前に聖職者を引退して代替わりするのはノース大陸だけだから、他の大陸では知られていないんじゃないかしら?」
「なるほど……ソフィア様とファヴ様は、ご存知でした?」
私は、たくさんの使徒を持つ、守護竜の2柱に訊ねた。
「うむ。ごく少数じゃが、罪を犯して【女神官】の地位から廃される者もおるから知っておったのじゃ」
「僕も知っていました」
なるほど。
「ノヒト。そう言えば、使徒、の条件て何?」
私は、ナカノヒトに訊ねた。
「それは、ゲームマスターの遵守条項に抵触するので、厳密なルールは言えません。ただし、既知の知識も、さほど間違ってはいませんよ」
ナカノヒトは答える。
「えっと、既知の知識って、ディーテ、何だっけ?」
「信仰対象に対する無条件の信頼」
ディーテは答えた。
うん、前に聴いたね。
「そう、それそれ。つまり、皆は、私に無条件の信頼を寄せてくれているって事だよね?何か、変な気分だよ」
私は、他所様から信頼されるより、疑惑の目を向けらたり、嫌われる事の方が多かった。
ま、そういう事を覚悟して、ダークサイドのロールプレイをしていたんだけれどね。
「グレモリー。街区整備ですが、既存の領軍の訓練場は、予定通り、港と私の会社の工場予定地にしました。元の港のあった場所はショッピング・モールにします……サンタ・グレモリア・スクエアです」
ナカノヒトは言った。
「何それ?」
「スクエア……。ほおーー、あれを、ここにも造るのか?」
ソフィアちゃんが言う。
ナカノヒトは移設した港の跡地に、スクエアと呼ばれる建造物を造るつもりなのだ、とか。
「まあ、ショッピング・モールを造るのだ、と思っていてもらえば良いですよ」
ナカノヒトは言った。
「あ、そう」
「それから、西側に新たに4つの街区を増やしました。南側は、東に稲作水田……西に畜産牧場です。北側は、東に住宅地と商業地を兼ねた街区……西に移設した領軍の訓練場です。中身は、基礎までしか着手していませんが、午後は、住宅地と商業地の新街区と、港と私の会社の工場の新街区を建築しますよ」
「助かるよ。建築が一番魔力を食うからね〜。……でもさ、港が動くと、既存の商業区が不便になるかな?」
「【転送】の【魔法装置】があるので、街の中の物流は、それで対応して下さい。人の行き来は、小型の飛空舟でも巡回させれば良いでしょう」
「艦隊の全艦船用のドックも作っておいてね」
「大き過ぎて、多過ぎます。上空に停泊させておいて下さいよ。あれらは【自動修復】と汚損防止の【バフ】で、さほどメンテナンスはいらないのですから、幾つかのドックに順番に入れてメンテナンスする体制で問題ないはずです」
「えー、上空に飛ばすと日陰になるよ。それに、戦争とかで、いっぺんに壊れたら、どうすんのさ?」
「日陰にならない位置に絶えず移動させれば良いのでは?【自動修復】で間に合わないような甚大な損害を受けたら廃船ですよ。新しい艦を造るしかありません」
「うーん……」
「軍用艦は、安全面から言っても、常に飛ばしておくのが一番じゃぞ。なまじドックなどに格納すると艦隊は敵の破壊工作などの標的になるのじゃ」
ソフィアちゃんが言う。
ソフィアちゃんの言う通り。
異世界には【魔法石】という汎用性が高い物質がある。
一定以上の大きさの【魔法石】は、自ずから、自然界に遍在する魔力を集めて、魔力を溜める性質があった。
なので、大きな【魔法石】を機関部に使った魔力で動く飛空船は、基本的に燃料の補給は必要としない。
補給船などで、クルーの交替をしたり、物資を補給しゴミを回収してもらいさえすれば、空中に永久に巡航させておく事も出来る。
軍艦にとって、これが一番安全なのは間違いない。
「そうです。船は陸地に置いてある時が一番無防備なのですからね」
「知っているよ。でも、ドックの中にある艦隊を眺めて、ご飯を食べるのがロマンなんだよ……。ノヒトは、わかるでしょう?」
ナカノヒトは、私だったんだから、それを理解出来るはずだ。
ま、仕方がないね。
あれは、道楽だ。
あのドックの建造で私は、当時の財産の半分を吹き飛ばしたからね。
今回は、合理的な運用をしよう。
・・・
昼食後。
私は、昼便の駅馬車を迎えて、患者さんを治療する。
神殿のケイト・ローレン、モリーを含む聖職者と、当番の医療留学生達を引き連れて、指導しながらの治療。
戦争が近いからか、やたらと患者さんの人数が多い。
大した事がない痛みや不調を訴えて、私に診察させる人がいるのだ。
人間ドック代わりなんだろうね。
この人達は、私に診察させて、悪い病気などがない事を確認した上で、それを最後に【イースタリア】から逃げ出すつもりなのだ。
ま、それは個人の生き方の選択の問題だから、私は、とやかく言うつもりはない。
診察も治療も、ちゃんとしたよ。
でも、そういうふうに【イースタリア】から避難して、新天地に移れる人達は、経済的に余裕があるんだろうから、資産状況をキッチリ調べて、高額な診察代を請求しておく。
そっちが私を利用するなら、こっちも、あんた達を利用させてもらう。
これは、お互い様だよ。
駅馬車は、【イースタリア】に出発した。
・・・
私は、チュートリアル組の指導をする。
ナカノヒト達は、怒涛の勢いで建築をしまくっていた。
【魔法装置】の製造ライン用の【プロトコル】も造ってくれたらしい。
給水給湯、空気浄化、厨房設備、冷暖房、照明……などの【魔法装置】を製造出来る【プロトコル】だ。
何から何まで……有り難いね。
ナカノヒトに、お返しする対価が大変そうだよ。
ソフィアちゃん、ウルスラちゃん、【自動人形】のヴィクトーリアは、保育園で子供達の遊び相手になってくれている。
しばらくして、リマインダーのアラームが鳴った。
時間だね。
グレモリー……もう、そろそろ時間ですが、大丈夫ですか?
ナカノヒトが【念話】で言う。
こっちは終わったよ……今から集合場所に行く。
私は【念話】で伝えた。
私は、アリス、【ハイ・エルフ】の古老達、ピオさんに、留守を頼んで【サンタ・グレモリア】神殿に向かう。
・・・
【ドラゴニーア】から【門】を通じて【シエーロ】に向かうのは、ナカノヒト陣営のレジョーネの他は、私とディーテだけ。
当初の予定では、フェリシアとレイニール、グレースさんを【ドラゴニーア】までは連れて行くつもりで、ディーテは留守番だった。
チュートリアルを経て、ディーテも【転移】が使えるようになったので、【サンタ・グレモリア】に何かあれば、すぐ戻れる。
そして、チュートリアル後、【ハイ・エルフ】の古老達が、私の使徒になった事で、彼女達の信用度が増した。
つまり、現状、ディーテがいなくても、【ハイ・エルフ】の古老達は、フェリシアとレイニール、それから【サンタ・グレモリア】をキッチリ守ってくれる、という確信がある。
予定変更は、現実主義者の行動には、良くある事。
状況が変われば、最善策も変わるのは当たり前。
以前は、こう言っていたじゃないか……変節者め……などと批判されたりもするけれど、私は、そういう計画至上主義者やイデオロギー至上主義者には、こう言ってあげている……計画や思想に縛られて状況の変化に対応出来ない者は滅びる……と。
ま、そんな批判を私の所に寄越す連中は、どっちにしろ、私からの反論には聞く耳を持たないけれどね。
他人の意見に耳を傾けて、計画を適切に変更出来る人物は、現実主義者……つまり、私の側の人間なのだから、初めから私を批判したりなんかしないのだ。
閑話休題。
私達は、セントラル大陸の【ドラゴニーア】に向かって【転移】した。
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・・・
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