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第362話。グレモリー・グリモワールの日常…57…容疑者G。

名前…ジュディシャス

種族…【ハイ・エルフ】

性別…女性

年齢…なし

職種…【軍師(ウォー・ロード)

魔法…【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】など。

特性…【才能(タレント)洞察力(インサイト)謀略(プロット)

レベル…99


ゲーム時代、グレモリー(ノヒト)の【イスタール帝国】庇護活動に協力したユーザー有志の1人。

 目が覚めた。

 私の手足はガッチリと強固な金属で固定されている。


 魔力も練れない。

 これは……魔力封じ。

 相当に強力な儀式魔法だね。


宝物庫(トレジャー・ハウス)】も押収されていて、私の【不死者(アンデッド)】軍団も、なかのひと、の手の内にある。

収納(ストレージ)】の中のアイテムは、取り出せるかもしれないけれど、手足が使えず魔力が練れない状態では、【神の遺物(アーティファクト)】のアイテムを持っても、ただのガラクタだ。


 これは……詰んでいる。

 ま、ゲームマスターに実力行使に及ばれている時点で、抵抗してみたところで無意味だと思うけれどね。

 異世界では、ゲームマスターの力は強力無比。

 どんな手段を講じても、絶対に勝てっこない。


 ステータス画面を開き、ログを確認する。


 ふむふむ、なるほど。


 自分の身に起きた事を理解した。

昏睡(コーマ)】を使われたらしい。

 私の【超位】級の【魔法障壁(マジック・シールド)】を、いとも簡単に貫通し、【抵抗(レジスト)】すら不可能な、とんでもない効果の【昏睡(コーマ)】だ。

 どうやら、ゲームマスターの、なかのひと、は、私を無力化して拘束したようだね。


 状況を整理すると、私は、何かしらゲームマスターに取り締まられるような事をしてしまったらしい。


【ウトピーア法皇国】との戦争絡みかな?

 いや、アレはゲーム・ルール上問題ないはず。

 だとしたら、何?

 色々と過去にしでかした、悪さ、には、身に覚えがある。

 でも、記憶にある、あれやこれやは、ゲームマスターから怒られるような事ではない……と思うんだけれど……。

 私は……ゲームマスターに取り締まられるような事にならないように……という事だけには常に気をつけて行動して来たのだ。


 ならば、どうして?

 わからないね。


 ま、朗報もある。

 私は生きていた……というか生かされていた。

 ゲームマスターは、その気になれば、ユーザーだろうが、NPCだろうが、いつでも自由に滅殺出来るし、その責任は一切問われないという、善悪を超越した人達。

 私を滅殺しようと思えば裁判を経たりしなくても思いのままに滅殺出来るし、それは異世界的に完全なる、()()、として事後確定される。


 でも、現状の私は、単に拘束されているだけ。

 つまり、滅殺されるほどの罪状ではなかった、という解釈が出来る。


 とりあえず、話を聞いて、私がゲームマスターの指示に従えば解放される可能性が高いのではないだろうか?

 とにかく、まずは話を聴いてみよう。


「ふぇっ?何?……え〜と、これは、どんな状況なの?」


「グレモリーちゃん。良く聴いて。これは、大事な話だからね……」

 ディーテが言う。


 ディーテの説明によると……私の存在そのものが、ゲームマスターから危険視されていて、私が【契約(コントラクト)】などによって、ゲームマスターの管理統制下に入れば問題ない……らしい。


 なかのひと、が提示した原則(プリンシプル)というモノに同意して【契約(コントラクト)】すれば、私は解放されるのだとか。


 原則(プリンシプル)なるモノの内容は……。


 世界(ゲーム)(ことわり)に違反しない事。

 ノヒト・ナカとノヒト・ナカの身内に敵対しない事。

 法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に違反しない事。

 ノヒト・ナカが命令したら従う事。

 世界の発展と平和に貢献する事。


 プリンシプルを遵守する限り、ノヒト・ナカは敵対しない。


 世界(ゲーム)(ことわり)に違反しない事……と……法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に違反しない事は、問題ない。

 当然の事なのだから。


 ノヒト・ナカが命令したら従う事……も至極当たり前の話だ。

 ゲームマスターの命令とは、あらゆる法規や規範に優先する強制力なのだから、世界の公理のようなモノ。

 ゲームの中で、それに従うのは当然だし、否が応もない。


 世界の発展と平和に貢献する事……というのは、随分と曖昧模糊(あいまいもこ)としているけれど、理解の範囲内。

 これも受け入れ可能。


 問題は……ノヒト・ナカとノヒト・ナカの身内に敵対しない事……という条項。

 ノヒト・ナカ……つまりゲームマスターに敵対しない……などというのは、当たり前の話だから、問題はない。

 逆に、ゲームマスターに敵対しようなんて奴らがいたら……馬鹿じゃないのか……とさえ思うよ。


 ゲームマスターは完全なる強さの象徴。

 存在そのものが最強という言語定義を具現している。

 戦ったって絶対に勝てない。


 ラノベとかにありがちな、意表を突いた裏技的な方法で、どうにか……なんて事も物理的に不可能。

 だからこその最強。

 1mmの隙もなく、最強なのだ。

 ゲームマスターは、もはや、強いとか弱いとかという尺度の枠外にいるデタラメな人達だからね。


 ゲームマスターは、スペック上、宇宙を一瞬で破壊するような攻撃でも傷一つつかないし、逆に、ゲームマスターの攻撃力は無限大と言われている。

 ゲームマスターは、限りなく全能に近く、馬鹿馬鹿しいほど桁外れに()()


 問題なのは、つまり……ゲームマスターの身内に敵対しない……という一文。

 これって、定義が曖昧。

 ゲームマスターの身内って誰なのかわからなければ、後付けで何とでも拡大解釈が可能だ。


 その点を詳細に確認する。

 なかのひと、も丁寧に説明してくれた。

契約(コントラクト)】の内容確認は、異世界的には常識。

 それは、なかのひと、も尊重してくれているらしい。

 そこに関しては良心的だね。

 言う事を聞かないのなら死ね……と言ってしまう事が許されている絶対的な権限があるのが、ゲームマスターなのだから。


 なかのひと、の身内とは……つまり、レジョーネと呼ばれる軍団と、ファミリアーレと呼ばれる冒険者パーティと、コンパーニアと呼ばれる、なかのひと、の会社に所属する人達と、神の軍団と呼ばれる【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】の従魔達と、クイーン・タナカと呼ばれる【自動人形(オートマタ)】を指すらしい。

 リストを作ってもらい、私の、ステータス画面のメモ機能に転送してもらった。


 なるほど、なるほど。


 これは、今後、対象が増える事もある、と。

 その場合は、直ちにリストを更新して送ってくれるらしい。


 うん、問題ないね。

 リストに名前がある人達や従魔と敵対する予定も理由もない。


「こちらが敵対する意思がなくても、このリストに名前がある人達の方から、私や私の身内に攻撃を仕掛けて来たらどうするの?その時も一切抵抗出来ないの?」

 私は、当然の疑問を口にする。


「あなたが、プリンシプルを【契約(コントラクト)】するなら、あなたも私の身内という扱いになります。身内同士で争いが起きた場合は、基本的に私は、どちらか一方に加担する事はしません。世界(ゲーム)(ことわり)と、法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に則って裁定、または、仲裁します」

 なかのひと、は、言った。


 あ、そう。

 そういう事なら何も問題ないね。

 丸っと飲み込める条件だ。


「何だかわからないけれど、この状況じゃ、仕方がないね。ゲームマスター相手に抵抗しても無意味だし。私には拒否権もないんでしょう?」


 私が拘束されている、そもそもの理由については、よくわからないから、全てに納得した訳ではないけれど、ゲームマスター相手に不平不満を述べたところで、そんなモノは無意味だ。

 ゲームマスターは、一度、実力行使に及べば、それは即ち最終決定であって、交渉や話し合いなんかで、条件や結果が変更されたりなんかしない。

 要するに、私が、受け入れるか、さもなければ、滅殺されるか、というだけの二者択一。

 つまり、初めから議論は無駄。


 横暴だ……なんて言ってみても仕方がない。

 この世界は、万物の摂理や法則の前提に、ゲームマスターなど運営の存在がある。

 ゲームマスターに従わないのなら、この世界で生きて活動する資格や権利は、誰にも認められないのだ。


「そうよ、グレモリーちゃん。拒否権はなし。今回だけは、変な意地は張らないでよ。相手は、神。抵抗して、どうにか出来る存在じゃないわ。あなたには育てなきゃいけない子供達もいるのよ。わかるわね?」

 ディーテは噛んで含むようにして言う。


 変な意地なんか張った事なんか……あ、結構あるね。

 ま、ゲームマスターの怖さは、ディーテより私の方が、よく知っていると思う。

 フェリシアとレイニールを遺して死ぬ訳にはいかないのも、その通りだ。


 ま、なるようにしかならない。

 丸っと受け入れよう。


「良いよ。今聴いた内容は大した【契約(コントラクト)】でもないし。命令への無条件服従条項に関しては多少、抵抗感があるけれど、相手はゲームマスター……まあ、悪用はされないと思うしね。それで、良いんでしょう?ナカノヒトさん」


「良いのですか?」

 なかのひと、は少し意外そうに確認した。


 私が、その条件を蹴っ飛ばすとでも思っていたような口ぶりだね。

 私は、そんなに馬鹿じゃないよ。


 それは、そうと……何だか、さっきから背中が無性に痒いんだよね……。

 猛烈に背中を掻きたい。


「良いよ……ってか、どうせ、拒否権ないんだし。ねえ、これ、早く外して欲しいから、【契約(コントラクト)】するなら早くしてくんない?さっきから、背中が、超(かい)〜いんだよね……」


 私は原則(プリンシプル)を【契約(コントラクト)】する。


 なかのひと、は、私に施した拘束と魔力封じを解除して、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】を返却してくれた。

 私は、背中に手を回して掻こうとするけれど、肩甲骨の間の、やや下辺りという絶妙な位置で、どうしても手が届かない。


「あー、背中が痒い……」


 孫の手……なんかないね。

 何か、長い棒状のモノは、と。

死神の(サイス・オブ・)大鎌(グリムリーパー)】……ダメダメ、これで背中を掻いたら普通に死ぬから……。

 他は【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】くらいしかないね。

 仕方がない。


 私は、【収納(ストレージ)】から【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】を取り出して背中を掻く。


「グレモリーちゃん。【漆黒のローブ】の上から掻いても【バフ】がかかっているから効かないんじゃないかしら?」

 ディーテが言った。


「あ、そっか……よいしょっ……うっ、苦しい……」

魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】の柄を襟元から、背中に挿し込もうとして首が絞まる……。


 なかのひと、は、私を呆れたような表情で見ていた。

 痒いもんは、仕方がないじゃんか……。


 そういえば、この人は、()()ゲームマスターの、なかのひと、なんだよね。

 世界中のメディアにも出ている超有名人だ。

 確かタ〇ム誌の表紙にもなっているんだよね。


 サイン貰おう。

 とはいえ、色紙なんかないしな。

 あ、これで良いか。


「あ、そうだ。ナカノヒトさん……ついでにサイン下さい」

 私は【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】を差し出した。


 なかのひと、は、困惑しながらも私の【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】の柄に、サインしてくれる。


「フェリシア、レイニール。2人もサインしてもらいな。これはレアだよ」

 私は、2人に促した。


 フェリシアとレイニールは、訳もわからずに、私と同じように【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)・レプリカ】を、なかのひと、に差し出す。


「おや?【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】の純正品(オリジナル)ではありませんね?」

 なかのひと、は、言った。


「ああ、これは【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)・レプリカ】と呼んでいる。私の手作りだよ」


「素材は?」


「【世界樹(ユグドラシル)】の枝だよ」


「大した技術ですね。非常に良く出来た【魔道具】です」


 えへへ……魔法の象徴みたいな、なかのひと、に褒めらちったよ。

 何だか照れるね。


 ・・・


 兎にも角にも、状況が落ち着いたので、私達は席を設けて会談を始めた。

 フェリシアとレイニールとグレースさん……それから、なかのひと、が連れて来た人達は、別室に移動する。

 私達の特等船室(キャビン)に残ったのは、私とディーテ、なかのひと、と、小さな女の子の4人。

 私達は、改めて自己紹介をした。


「この娘は、ソフィア。【神竜(ディバイン・ドラゴン)】と言えばわかるでしょうか?」

 なかのひと、は言う。


「【神竜(ディバイン・ドラゴン)】!」

 思わず、大きな声が出てしまった。


「【神竜】様!」

 ディーテも驚愕する。


 この小さな女の子が、【神竜(ディバイン・ドラゴン)】?

鑑定(アプライザル)】したら、間違いなく【神竜(ディバイン・ドラゴン)】だった。

 人化している、と。

 ソフィアちゃん、なんて呼んだら不敬かもしれないけれど、ソフィアちゃん、としか言いようがない容姿なんだよね。

 本当に可愛らしい子だ。


 因みに、さっき、なかのひと、が連れていた人達の中に小さな男の子がいたんだけれど、あの子はサウス大陸の守護竜【ファヴニール】だったらしい。

 凄い陣容だね。


「なのじゃ。ディーテ・エクセルシオールは大神官の目を通して知っておる。グレモリー・グリモワールは、恩寵を与えた時に会ったのじゃ」

神竜(ディバイン・ドラゴン)】のソフィアちゃんは、言った。


「覚えてくれていたんですか?あの時にもらった【避難小屋(パニック・ルーム)】は、今も大事に使っていますよ」


「もちろん覚えておるのじゃ。我は、至高の叡智を持つのじゃからな」

 ソフィアちゃんは、フンスッ、と胸を張って言う。


 その時、テーブルに乗せられた、漬物石のような形状をした謎鉱物がピカッと光る。

 光ったのは、なかのひと、が取り出した【アンサリング・ストーン】。

 近くの者が嘘を吐くと光るギミックがある。


「ごめんなさい、なのじゃ。グレモリー・グリモワールに会った事は覚えていないのじゃ」

 ソフィアちゃんは、申し訳なさそうに白状した。


 謝った?

 それも、どうでも良いような事で。

 現世最高神にしては、随分と敷居と腰が低い神様だね。


「あはは、仕方ないですよ。900年前は、毎日、降臨イベントで物凄い数のユーザーに会っていたんですからね」

 私は、空気を読んでフォローしておいた。


 ソフィアちゃんは、安心したように、ニッコリ、笑う。

 可愛いね。

 頬っぺをプニプニしたい。

 ま、相手は、現世最強と云われる【神竜(ディバイン・ドラゴン)】なんだけれどね。


「2人は、【アンサリング・ストーン】の事は知っていますね?」

 なかのひと、が訊ねた。


 私とディーテは、頷く。


「では早速、単刀直入に訊ねます。グレモリー・グリモワール……あなたは誰ですか?」

 なかのひと、は、質問した。


 ん?

 誰って、私の事は知っているでしょう?

 ゲームマスターなら、他者のステータスやログなんかも全て自由に閲覧出来るのだから。


 哲学?

 禅問答?


「え?誰って……グレモリー・グリモワールだけれど……」


 あ、いや、待て。

 もしかしたら、ゲームのユーザーとしてのハンドル・ネームではなく、外の世界の本名を訊ねているのかも。

 あり得るね。

 だとすると困ったな。

 私は、私自身の事についての記憶が欠落している。


 それを答えられないと、何か問題があるのかな?

 でも、思い出せないモノは仕方がないよ。


「ハンドル・ネームではなく、本名を言って下さい。本来は個人情報なので公開義務はありませんが、これは、必要な取り調べだと考えて下さい」

 なかのひと、は言った。


 やっぱりか……。

 どうしよう。

 困ったな。


「ノヒトよ。グレモリー・グリモワールが本名であろう?【鑑定(アプライザル)】で見ても、そのように表示されておるのじゃ」

 ソフィアちゃんは、言う。


「ソフィア。私達、ゲームマスターやユーザーは、この世界(ゲーム)で暮らす時に用いる名前(ハンドル・ネーム)とは別に、地球(神界)で使っている名前(本名)があるのです」

 なかのひと、は言った。


「そうなのか。あ、【創造主(クリエイター)】の本名が、ケイン・フジサカだ、という事と同じなのじゃな?」


「そうです」


「うむ、わかったのじゃ」


「ナカノヒトさん、私は、日本人だっていう記憶はあるんだけれど、自分がどこの誰だか、全くわからないんだよ」

 私は、正直に告白する。


【アンサリング・ストーン】は光らない。


 ゲームマスターに嘘は通じないからね。

【アンサリング・ストーン】なんか使わなくても、私のログなどを調べれば、それが事実かどうか、裏取り出来るのだから。

 この【アンサリング・ストーン】は、むしろ、なかのひと以外の同席者の為に置いてあるのだろう。


「どこまでの記憶がありますか?」

 なかのひと、が質問した。


 なかのひと、の口調は、冷静で穏やかそのもの。

 でも、一切の嘘や誤魔化しを許さない超然とした説得力がある。

 それに、何だか物凄く怖い。

 出来るだけ、自分がわかっている事を包み隠さずに話さなければ、という気分になる。


 そうか。

 これは、容疑者の尋問なのだ。

 私は、今もなお、ゲームマスターから、何らかの嫌疑をかけられている。

 身に覚えは、ないのだけれど……。

 これは、()()だね。

 もしも私に何か、なかのひと、から見て許せない事があれば、今からでも、罰を受ける可能性がある、という事なのだろう。

 つまり、まだ私は無罪放免された訳ではないんだね。


「自分のプロフィールとか、家族の事とか、仕事の事とか……自分自身の個人情報に関わる事がまるでわからないんだよ。忘れているとかってレベルじゃなく、スッポリない感じ。自分の本来の性別すらわからない」

 私は、ガタガタと小さく震えながら言った。


【アンサリング・ストーン】は光らない。


「グレモリーちゃん……性別がわからない……って、記憶が欠落しているとしても、それはないでしょう。一目瞭然なんだから」

 ディーテが、震える私の手を握って言う。


「向こうの世界(地球)から、こちらの世界(ゲーム)に移動する時に、英雄(ユーザー)は、外見を自由に変えられるのです。なので性別を変える事も可能なのですよ」

 なかのひと、が説明してくれた。


「そうなの?もしかしたら、グレモリーちゃん、男かもしれないって事?私、一緒に、お風呂とかに入ってるんだけれど……」

 ディーテは言う。


 お風呂?

 何、言ってんの?

 この張り詰めた雰囲気には相応しくないような話題だ。

 空気読めよ。


 いや……たぶん、ディーテなりに、私を庇おうとしているのかもしれない。


 私の手を握る、ディーテの温もりから、それを感じる。


「それが、そうかもしんないんだよね〜」

 私は、ディーテに向かって、精一杯おどけて見せた。


「どちらの性別の可能性も、あり得ますが、統計データによると、ユーザーは、本来の性別で、こちらの世界(ゲーム)に来る事が多いようですね」

 なかのひと、も、ディーテの下らない話題に乗っかって言う。


「まあ、グレモリーちゃんが男なら、裸を見られても別に良いけれどね」

 ディーテは言った。


「私も、本来の性別が男だったとしても、ディーテの凹凸がない裸を見ても、だから何、って感じだよ……」


 ディーテは、【エルフ】だから、スットーン、とした体型だ。

 シルエットで見たら、どっちが背中かわからない。

 私も他人の事は言えないけれど、ディーテよりは身体の起伏はあるからね。


「あーら、そう?」

 ディーテが、私の耳を引っ張る。


「イテテテテ……ディーテ、耳がモゲルよっ!」


「あら、ごめんあそばせ。耳を引っ張るのは、【エルフ】族では、親愛を示す行為なのよ。オホホホ……」

 ディーテは、言った。


 ディーテの言葉に反応して、【アンサリング・ストーン】がピカッと光る。


 嘘じゃんか!


 ま、多少、緊迫感が和んだね。

 それがディーテの狙いなんだろう。


 落ち着いて、何もかも正直に話して、自分の身の潔白を証明しよう。


 ディーテは高度な知能をフル回転させて、全力で私を守ろうとしてくれているのだ。

 有難いね。


「ノヒトは、性別を変えているのか?」

 ソフィアちゃんが訊ねた。


「私は、元の性別のまま。外見上も、あまり変わりません。多少、見た目を本来より若作りしているくらいです」

 なかのひと、が答える。


「私は、ナカノヒトさんの写真を見た事あるよ。設定集に掲載されていた」


 ディーテの必死の活躍で、何とか私は落ち着きを取り戻していた。

 ここまで来たら、もう開き直るしかない。

お読み頂き、ありがとうございます。

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活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。


・・・


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[気になる点] この場合、プリンシプルの  ノヒト・ナカとノヒト・ナカの身内に敵対しない事。 ってちょっとおかしくない? この後に、 「あなたが、プリンシプルを【契約】するなら、あなたも私の身内…
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