第350話。月にかかる虹…10…百貨店の特売騒動。
本日2話目の投稿です。
【ナープレ】滞在3日目。
とはいえ、到着日は、もう夜でした。
なので、ホテルで眠っただけなので、観光は、まだ2日目です。
朝から、私達女性陣は、再びバーゲンに繰り出しました。
男性陣からは……またか……と呆れられましたが、キッ、と睨んでおきます。
これは、遊びではないのですよ。
戦いなのです。
昨日は高級ブランド・ショップをハシゴしましたが、今日は、地元の百貨店やモールや量販店のバーゲンに突撃予定。
お土産や転売用ではなく、自分達の普段使い用の服や食品などを買い込むつもりです。
量販店では、ノーブランドの既製服などは、馬鹿みたいに安くなっているそうですね。
けれども、量販店では、輸入品の粗悪品や、有名ブランドのコピー品なども多いそうなので、目利きの腕が試されます。
腕が鳴りますよ。
「取り合いが凄いかんな。あの売り場に群がる女のパワーは、そこいらの魔物より怖いぞ」
ペネロペが言いました。
「とりあえず。何でも良いからワゴンから取って確保しておいて、後からいらない物は返しに行くのよ。そうでないと選んでなんかいられないから。もう、ほとんど乱闘騒ぎよ」
ルフィナも言います。
「わ、わかった」
私は、力強く頷きました。
・・・
私達は、朝から百貨店のオープン時間前に並んで待ちます。
「もう間もなく開店いたしますが、店内では、けして走らないようにして下さい。大変に危険ですので、ご理解ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます」
百貨店の店員さんが、台の上に立って、拡声器で叫んでいました。
どこからともなく、開店時間のカウントダウンが始まります。
「「「「「5……4……3……2……1……0ぉ〜っ!」」」」」
途端、大半が女性の、お客達が、百貨店の入り口に殺到しました。
さあ、出陣です。
私達は、前日の夜にホテルの部屋に集まって入念に練り上げた作戦に基づき、手分けして各売り場に向かいました。
ルフィナと、ルフィナのお母さんは、化粧品。
ペネロペと、ペネロペのお姉さんは、服。
私と母は、食品。
ルフィナの家のメイドさん達は、手分けして各グループに付き従います。
私と母は、走らないように高速で歩きました。
自動階段は狭くて、結果的に遅くなるので、階段を降りますよ……昨日のシミュレーション通り。
角を曲がり、買い物カートをゲット。
買い物カートを押して燻製肉売り場に向かいます。
今日の目玉商品である……有名メーカーの【パイア】の腿肉の生ハム20kgの塊が、なんと30銅貨……安過ぎる。
お一人様2本まで。
準備数、先着500本。
きっと、数分で売り切れるでしょう。
私と母とルフィナの家のメイドさん2人……私達のグループで8本を確保しなければいけません。
食べ盛りの子が多いペネロペの家が4本、ルフィナの家と我が家が2本ずつという算段です。
私達が、売り場に到着すると、既に、50人ほどの行列が出来ていました。
どうやら、売り場に向かう順路にショートカット出来るポイントがあったようです。
くそっ、下調べが甘かったか……。
いや、大丈夫。
50人ならば、生ハムは問題なく確保出来ます。
けれども問題は、もう一か所の瓶詰食品売り場。
あちらのオリーブのシロップ漬けも、今日の目玉商品の一つ。
私達のグループは、列の先頭で生ハムを確保してから、すぐに瓶詰売り場へと向かって列に並び、オリーブのシロップ漬けも確保する予定だったのです。
あの、有名食品メーカーのオリーブのシロップ漬けは、3kg入り大瓶サイズで一つ5銅貨……超激安。
こっちの順番を待っているあいだに、あっちが売り切れにならないか、心配です。
ルフィナの家も、ペネロペの家も、お金持ちですが、それはそれ。
女子は、お買得品が大好物なのです。
ほどなくして、燻製肉売り場では、私達の順番となり、生ハム2本を各自の買い物カートに入れて、合計8本を確保しました。
それから、私達は、瓶詰売り場を目指して激走(早歩き)しました。
瓶詰売り場に到着。
あー、これは、ヤバイかも。
瓶詰売り場には、黒山の人だかりが出来ていました。
私達は、列の最後尾に並びます。
「あと残り500個で〜す」
百貨店の店員さんが言いました。
オリーブの瓶詰は、1人10個まで……。
列に並んでいるのは……10……20……30……40……くっ、ギリギリか。
「残り200個となりました〜」
百貨店の店員さんは言います。
足りるか?
「あと、100個です」
百貨店の店員さんが言いました。
良しっ!
私達の前には6人……計算上ピッタリ足ります。
が、その時、私の脇から、太ったオバちゃんが横入りして来ました。
なっ!
このっ!
「横入りしないでよ。オバちゃんっ!」
私は抗議します。
母とルフィナの家のメイドさん達2人は、各自の分を確保しましたが、私の分を、太ったオバちゃんが横入りして、奪ってしまいました。
「オリーブのシロップ漬けは、完売致しました〜」
瓶詰売り場の店員さんは言います。
はっ?!
あのオリーブのシロップ漬けは、私のだし。
ふざけんなし。
「店員さん、このオバちゃんが列に横入りしました。このオリーブの瓶詰は、私のです」
「何をデタラメな事を言っているんだよ。この子は馬鹿だね。私は、キチンと並んでいたよ」
太ったオバちゃんは悪びれもせずに言います。
瓶詰売り場の店員さんは、絶対に順番をわかっていたはずなのに、苦笑いするばかり。
気が弱い人みたいです。
そこに、オリーブの瓶詰を確保した母達が戻って来ました。
「キトリー。どうしたの?」
母は訊ねます。
「このオバちゃんが、列に横入りして、私の瓶詰を盗ったんだよ。返してよ」
太ったオバちゃんは、私が子供だと思って見くびっていたのでしょう。
私に大人の連れが3人もいるとわかり、ヤバイ、という顔をして見せます。
「どういう事ですか?不正をしたのですか?」
母は、いつもの優しい口調ではなく、会計士をしている時のビジネス・モードの口調に変わって、太ったオバちゃんに言いました。
「わ、私は、ちゃんと列に並んでいたよ。この子が嘘を付いているんだよ」
太ったオバちゃんは、言います。
「私の後ろに娘は並んでいました。あなたが、娘の前に並ぶ事は、あり得ません」
母は理路整然と反駁しました。
「嘘だねっ!あんたは、善良な市民である私を陥れようとしているんだっ!この売女がっ!」
太ったオバちゃんは、怒鳴ります。
売女って、売春をする人の事ですよね。
私は、両親から……職業差別をしてはいけない……と躾けられて育って来ましたので、自らの選択で売春をする人達の事を蔑んだりはしませんが……この場合、太ったオバちゃんは、私の母に対する、侮辱の言葉、として、その職業名を言っているのでしょうね。
口が悪いオバちゃんです。
「嘘でなかったら、どうしますか?」
母は、訊ねました。
「絶対に嘘だね。あんた、言葉の発音が【ドラゴニーア】訛りだね?【ドラゴニーア】の者だろ?私は、地元の【ナープレ】の者だっ!半竜人の国の奴らが、この【ナープレ】で、大きな顔をするんじゃないよっ!」
太ったオバちゃんは、言います。
半竜人とは、【ドラゴニュート】に対する蔑称でした。
【ドラゴニーア】の大神官様の種族は【ドラゴニュート】です。
だから、【ドラゴニーア】=半竜人の国。
この太ったオバちゃんは、職業差別の他にも、種族差別や、国籍差別までしました。
どうやら……酷く品性と教養が低い人みたいです。
「もしも、娘が言っている事が嘘でなかったら、出る所に出ますよ」
母は、きっぱりと言いました。
「わ、私は、嘘なんか吐いていない。このガキが嘘吐きだ。この子にして、この親ありだね。まったく、キ〇ガイ親子の相手はしていられないよ」
太ったオバちゃんは、マズイ、と思ったのでしょう……慌てて、その場を離れようとします。
私のオリーブのシロップ漬けを持ったままでした。
ガッシリ。
母が、太ったオバちゃんの買い物カートのフレームを掴みます。
「なっ!は、放せ、この売女がっ!気でも狂ってるのか?この、半竜人の国の汚らわしい淫売のキ〇ガイ親子どもがっ!」
太ったオバちゃんは、訳のわからない事を散々わめき散らしました。
「キトリー。アレを見せてあげなさい」
母は、太ったオバちゃんの買い物カートを掴んだまま、冷静に言いました。
あ、そうか。
頭に血が上っていて、ウッカリ忘れていましたね。
私は、洋服の胸ポケットに入っていた、記録装置のボタンを押して、直前の映像と音声を記録しました。
私は、瓶詰売り場の店員さんに向かって、記録装置の映像を見せます。
そこには、太ったオバちゃんが私の脇から、列に横入りする様子がバッチリ映っていました。
瓶詰売り場の店員さんは、困り顔。
オロオロするばかりで、太ったオバちゃんには何も言えません。
この瓶詰売り場の店員さんは、トラブルを、なあなあ、で済まそうとして、余計に問題を大きくしてしまうタイプの人なのでしょう。
きっと仕事が出来ないのでしょうね。
こういう場合、毅然とルールに則って対処した方が、お店の信用は傷付かないモノなのです。
ラチがあかないので、私は、記録装置の映像を、近くにいた野次馬の人達にも見せて回りました。
「これが動かぬ証拠です。お約束通り、あなたを詐欺罪で告発させて頂きますので、悪しからず」
母は、仕事口調で言います。
そこに、騒ぎを聞きつけた百貨店の偉い人と思われる人が現れました。
「お客様、どうなさいましたか?」
百貨店の偉い人は訊ねます。
「この、半竜人の国から来たキ〇ガイ親子が、私を詐欺師呼ばわりしたんだよっ!私は、生粋の【ナープレ】の者だ。あんたも【ナープレ】の者だろう?あんたは、当然、私の味方になってくれるんだろうね?」
太ったオバちゃんは、叫びました。
「こちらの方が、列の順番に横入りして、娘の買うはずだった商品を奪ったのです。これが証拠です」
母は、記録装置の映像を、百貨店の偉い人に見せます。
「なるほど。わかりました。失礼ですが、こちらの商品は、このお嬢様に購買権があると存じます。ご返却頂きますので……」
百貨店の偉い人は、太ったオバちゃんに告げました。
うん、この百貨店の偉い人は、キチンとした対応が出来ます。
偉くなったのも当然ですね。
「何だって、この百貨店も地に落ちたね。こんな馬鹿げた事は、認めらない。半竜人の国の奴らに媚を売って、地元の【ナープレ】の者を締め出すのかい?話にならないよっ!あんたら、【ナープレ】で商売出来なくしてやるからね?」
太ったオバちゃんは、わめき散らします。
「いえ。あなたが列に横入りした証拠があります。大人しく、指示に従って頂けないなら、警備を呼びますよ」
百貨店の偉い人は、毅然として言いました。
「そうだ、あんたが間違っているぞっ!」
「そうだ、そうだ。その、お嬢ちゃんに、商品を譲って、謝れよ、オバさん」
「オバさん、あんた【ナープレ】の者の代表みたいな事を言うな。私ら【ナープレ】の者は、あんたとは違う。恥を知れっ!」
「「「そうだ、そうだ」」」
野次馬の人達は、全員、私達の味方です。
「くっ、こんな安物の不味い瓶詰なんか、最初から、いらなかったんだよっ!」
太ったオバちゃんは、吐き捨てるように言いました。
そして、自分の買い物カートを無理矢理に引き倒したのです。
ガッシャ〜ンッ!
買い物カートは倒れ、オリーブのシロップ漬けの瓶詰は、床に叩きつけられて割れました。
私の脚に飛び散った、オリーブのシロップ漬けがかかります。
あ、なんて事を……って、痛っ!
私の脚に大きくて重い瓶がぶつかりました。
太ったオバちゃんは、買い物カートを放置して、その場を、そそくさと立ち去ろうとします。
私は、何故だか……逃してはいけない……と思い、太ったオバちゃんの腕を両手で捕まえました。
「この、ガキっ!放せっ!」
太ったオバちゃんは、私の顔を殴り付けます。
ゲンコツで、ですよ。
私は、太ったオバちゃんの腕を放して、殴られた顔を押さえました。
太ったオバちゃんは、出口の方向に向かって、走り出します。
私は、顔を押さえていましたが、顔よりも鋭い痛みを感じて視線を下げると……私のスネ辺りがザックリと切れて、ドクッドクッ、と凄い勢いで血が吹き出していました。
どうやら割れた瓶が、私の脚を傷付けたのです。
へっ?
あれ……私、怪我してるじゃん。
「い、痛ぁ〜……」
私はうずくまって、傷口を押さえました。
「キトリーッ!」
母が叫びます。
あれれ、何か、貧血が……。
私は、意識が遠のいて行きました。
最後に見た光景は、一目散に逃げようとする、太ったオバちゃんを、ルフィナの家のメイドさんが追いかけて、タックルを仕掛け、馬乗りになって拘束している様子。
メイドさん、強っ……。
そして、私は気を失いました。
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