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第349話。月にかかる虹…9…バーゲンセール。

【アルバロンガ】


【ドラゴニーア】第4の都市。

【サルバトーレ火山】のふもとに広がる主要都市。

主要産業は農業と畜産。

火山から降る灰に土壌を肥沃にする作用があり、農業が盛んで、豊富な農作物を餌として畜産も盛ん。

それらの豊富な食材を使って、世界的に有名な【アルバロンガ】料理が花開いた。

 私達が【パダーナ】の首都【ナープレ】に到着したのは、夜になってから。

 もう、辺りは真っ暗で……【ナープレ】を見ずして死ぬな……と云われる美しい街並みを上空から見る事は出来ませんでした。


 その日は、真っ直ぐにホテルに向かい宿泊します。

 ホテルは、ガッレリアと呼ばれるガラス天井のアーケード街の中にある、その名も【ホテル・ガッレリア】。

【ナープレ】最高のホテルである【ホテル・ナープレ】に匹敵する高級ホテルでした。

 父が、ルフィナから忠告されて奮発したのです。


【ナープレ】では出費を惜しむと逆に損をする……という格言があるのだとか。


 つまり、安いホテルに宿泊すると、シャワーのお湯が水に変わったり、そもそも水が出なくなったり、ネズミやゴキブリが発生したり、と、とにかく酷い目に遭うそうなのです。

【ナープレ】では、相応の格のホテルに宿泊し、ホテルの従業員達にキチンとチップを払う事……これがルフィナからのアドバイス。


 まあ、南の方に暮らす人々の性格を考えれば、あり得る話ですね。

 北に暮らす人々は、勤勉で質実剛健。

 南に暮らす人々は、良くも悪くも鷹揚。

 これが半ば世の中の常識です。


 ノース大陸や、【ドラゴニーア】以北の人々は、基本的に真面目でした。

【アルバロンガ】は多少、南の鷹揚さが混ざっていますが、それでも呆れるような酷い対応はありません。


【ナープレ】の人々は、悪人だとは言いませんが、真面目でない事は【ナープレ】の人々本人達でさえ否定しません。

 俗に……【ナープレ】時間……などと言って約束した時間を守らないなんて当たり前、契約書面を交わしたり【契約(コントラクト)】していなければ、【ナープレ】の人々との約束は基本的に守られないと考えておいた方が良いでしょう。


 彼らは、明るくて情が厚く情熱的でフレンドリーですが、反面、何ごとにも鷹揚でいい加減……。

 買い物などでも、不良品を掴まされたりしないように、気をつけなければいけません。


 また、治安もあまり良くはないので警戒が必要。

 殺人や強盗などの凶悪犯罪はほとんど起きませんが、スリや置き引きや詐欺などは日常茶飯事。

 商店などでは、釣り銭詐欺が当たり前。

 現金で支払いをする場合は、必ず、その場でお釣りを数えなければならないそうです。


「一枚足りないじゃないか!」


「ごめんなさい。つい、うっかりです。ワザとじゃないんですよ」


 ……と、いう、やり取りが起こるのが当たり前でした。


 もちろん、ワザとです。

 何故なら、現金で決済すると、毎回必ず、一枚二枚、お釣りが足りないそうですので……。

【ナープレ】では……お釣りを数えない客の方が悪い……お釣りを数える、という面倒を店側にさせる為の手間賃だ……という文化なのだそうです。

 彼らは、釣り銭詐欺だけでなく、税金ですら誤魔化そうとしますからね。

【ナープレ】は、セントラル大陸の中で脱税摘発件数が最も多い地域なのです。


 けれども富裕層は脱税はほとんどしません。

 セントラル大陸では、法律によって、脱税額の大きさ、と、保有資産額の大きさによって、脱税の追徴課税率や罰則が大きくなる仕組みですので……。

 これも、セントラル大陸の他の地域の人達から【ナープレ】の人達の品性が疑われ白い目で見られる理由に、なっています。

 罰が大きくなるとルールを守れるなら、最初から守れ……という訳ですね。

 外交の条約や協定の履行、輸出入や貿易に関する契約などでも【ナープレ】の人達は、正直に正確にルールを遵守しています。

 他地域に迷惑をかけるのならば、それを……ローカル・ルールや地域性だ……などと笑って済ませず、いちいち武力を用いて対応する……という脅しが、【ドラゴニーア】の大神官様より厳命されているそうですので。

 そういう……本当にヤバい相手に対しては正直に接して、そうでない相手に対しては常にズルをしてやろう……という【ナープレ】の人達の卑怯な性根が、真面目で規範意識の高い【ドラゴニーア】の国民などからすると、軽蔑されている事は否定出来ません。


 案の定というか、ペナルティが軽い低所得者層は、ほぼ全世帯が税金を過少申告するそうです。


 脱税や、税逃れを指摘されると……ごめんなさい。つい、うっかりです。ワザとじゃないんですよ……と全員が悪びれもせず答えるのだとか。


 まったく……都市ごと全部が詐欺師の集団ですか?


 それから、ブラック・ハンドと呼ばれる組織暴力団の存在も問題です。

【ドラゴニーア】では、組織暴力団の(たぐい)は、現在の大神官様による流血の対応により、完全に駆逐されていました。

【ドラゴニーア】には、組織暴力団の構成員である、というだけで死刑になる法律がある為に、数百年前から【ドラゴニーア】には組織暴力団員は1人もいません。

 けれども、【ナープレ】には、ブラック・ハンドがいます。

 彼らは、半ば、もう一つの地方自治体のような形で市井で隠然たる影響力を持っていました。


 まあ、基本的にブラック・ハンドが、私達のような外国人に対してチョッカイを出す事はありません。

 ブラック・ハンドは、【ナープレ】市民からの、みかじめ料を主たる収入源としていました。

【ナープレ】は観光地としても有名です。

 ブラック・ハンドが観光客に手を出せば、観光客は減少してしまうでしょう。

 そうなれば、当然、観光客が落とす、お金も減少します。

 商店や飲食店は、売り上げが下がるでしょう。

 収入が減った商店や飲食店から徴収出来る、みかじめ料は、当然少なくなりますよね。

 自分達の収入源を、自分達で攻撃するようなバカな振る舞いは、ブラック・ハンドもしないのです。


 特に、私達【ドラゴニーア】からの観光客には、ブラック・ハンドは絶対に手を出しません。

 何故なら、【ドラゴニーア】は、自国の国民の生命・財産が不当な手段で毀損された場合……相手国に戦争を仕掛けてでも、それを絶対に守ろうとしますので……。

【ドラゴニーア】の国民に手を出せば、必ず【ドラゴニーア】から全力で報復されます。

 はっきり言って、本気で怒った世界最強の軍事超大国【ドラゴニーア】と正面から外交で向き合える国は、世界中のどこを探しても存在しないでしょう。

 そんな事は、暴力を生業とするブラック・ハンドは百も承知なのです。


 そんな色々と、お国柄に問題がある【ナープレ】にも、唯一の救いとでも言いましょうか……良い所がありました。


【ナープレ】には、孤児や路上生活者は1人もいません。

【パダーナ】の政府予算の規模は、【ドラゴニーア】とは比較にならないくらいに小さく、また福祉や行政の支援も脆弱なのに……まったく、見事なまでに、どこにも路上生活者はいませんでした。

【ドラゴニーア】には、もちろん路上生活者は、1人もいません。

 神竜神殿が、完全に保護していますので。

 けれども、この旅の途中、私は【ロムルス】では、チラホラと路上生活者の姿を見ましたので……【ナープレ】にも当然、そういう人達が少なくない数いると思っていたのです。


【ナープレ】に路上生活者の姿はなし。

 とはいえ、【ナープレ】の行政は小さくて非効率なので、公的に、そういう社会的弱者を助けている訳でありません。

【ナープレ】や【ロムルス】を含む【パダーナ】では、小さな政府、を標榜していました。

 伝統的に税金が安い【パダーナ】の行政は慢性的に貧乏なので、孤児院なども公立では、ほとんど運営されていないそうです。

 一部、【パダーナ】の各都市にある神竜神殿の孤児院や、寄付で運営されている慈善団体の孤児院などはあるそうですが、【パダーナ】の孤児や生活困窮者の総数は、【ドラゴニーア】の数百倍とも言われているので、とても間に合いません。


 けれども、【ナープレ】では、両親が死んで身寄りがない子供や、失業したり病気や怪我で働けなくなったような人達は、血縁者でなくても引き取り手が現れて、誰かしらが生活の面倒を看てくれるそうです。

 金持ちではなくともですよ。

 自分達の家計が苦しくても、困っている人が身近にいれば、近所の人達が寄ってたかって助けてあげるそうなのです。

 困っている人や社会的弱者を放置しない。

 それが【ナープレ】に暮らす人々の美点なのです。


 私達家族は、そのようにルフィナから【ナープレ】について、教えてもらいました。


 ・・・


 翌朝、私達は早速【ナープレ】の街に観光に繰り出します。


「海が見られる。楽しみだなぁ〜」


「キトリー。海は、明日以降よ。今日は、買い物。夏場に【ナープレ】に来たら、何をおいても、まずバーゲンセールよ」

 ルフィナは言いました。


「バーゲン?」


「そう。知らない?」

 ルフィナは訊ねます。


「バーゲンセールくらい知っているよ」


 サマー・バーゲンや、クリスマス・バーゲンは、【ドラゴニーア】でもありました。

 大型店では、定価から1割2割の値引きがされます。

 ウチも、高額商品に関しては、バーゲン期間は値引きしますので。


「【ナープレ】では、7割値引きは当たり前なのよ。それに、値切れば、もっと安くなるし、ワンピースを10着買うと8着は無料なんて場合もあるのよ。だから、みんなでお金を出し合って買って、後から分けたりするわね」

 ルフィナは目を輝かせて言いました。


 ルフィナの説明によると……。


 セントラル大陸の大半の地域では日常的に適正価格で品物を販売します。

 そんな事は当たり前ですね。

 商売の基本です。


 けれども【ナープレ】では、値札はあってないようなモノ。

 値切り交渉が普通……つまり値札に表示してある定価は、まず間違いなくボッタクり価格なのです。

 なので、普段は、生活必需品以外あまり品物は売れません。


【ナープレ】で服や靴やアクセサリーやバッグや化粧品や玩具……などなどの生活必需品以外を扱う商店では、夏場のバーゲン期間と、クリスマス商戦で、売上を一気に伸ばして一年分の帳尻を合わせるのです。

 バーゲンの時期は、ファッション関係やコスメ関係の商品が、軒並み、適正価格以下に値下がりするのだとか。

 そして【パダーナ】は平素から【ドラゴニーア】よりも物価が安いのです。

 服飾や化粧品などは、【ナープレ】のバーゲンセールで買えば、竜都で同じ品質の商品を買うよりも、平均して5割も、お買い得なのだとか。

 もちろん、露天商などから商品を買うと、お店に並べてある商品の中には、相当数の粗悪品も混ざっているらしいので、気を付けなければならないそうですが……。


 商習慣が【ドラゴニーア】とは随分と違いますね。


 竜都に本社を構えるような外国資本の有名なブランド・ショップでは、偽物などは売られませんので、安心です。

 まあ、それでもショップ店員さん達は、【ナープレ】の人達なので、現金払いの際は、つり銭の確認は必須ですけれどね。


 ルフィナは商売人の娘ですし、私も職人の娘なので、目利きには自信があります。

 ならば、買い物に行きましょう。

 女性陣は勢い込んでバーゲンセールに挑もうとブランド・ショップ街に繰り出しました。


 女性にとって、買い物は戦いですので。


 因みに、男性陣は午前中、のんびりとヨットに乗ってクルーズ・ツアーに出かけるそうです。

 私達は、正午に予約してある海が一望出来る有名レストランで待ち合わせをしました。


 ・・・


 私達は、まずガッレリアの中にある高級ブランド店を回ります。


 ペネロペは、普段から持ち歩いている大きな肩掛け鞄を2つ持っていました。

 これは、【収納(ストレージ)】アイテムです。

 ルフィナも、【収納(ストレージ)】アイテムを持って来ていました。

 ルフィナが持って来たのは、【宝箱(トレジャー・ボックス)】……秘宝級の【収納(ストレージ)】アイテムですね。

 ルフィナの家のメイドさん達が車輪付きの【宝箱(トレジャー・ボックス)】を乳母車を押す要領で、運んでいます。

 そんなに大量の買い物をする気なのでしょうか?


「ルフィナ。香水は何個まで免税されるんだっけ?」

 ペネロペがルフィナに訊ねました。


「200ml入り瓶なら、10個までよ」

 ルフィナは、香水のサンプルの香りを確かめながら答えます。


「これと、あれと、それから、あっちも買うよ。これは、新商品?うーむ、なら、これをやめて、こっちにしよう……」

 ペネロペは、店員さんに香水を指差しながら、言いました。


「香水なんて、そんなにいる?そもそもペネロペは香水なんか使わないじゃん?」


「転売するに決まってるだろ。同級生の親に定価の8掛けで売りつければ、差し引きで3割は丸儲けなんだぜ。ボロい商売だよ」

 ペネロペは言います。


「え!私も、買おう。あー、先に教えてよ。私、お小遣い、そんなに持って来てないのに〜。お母さ〜ん、お金建て替えて〜」


「キトリー。個人輸入の場合は免税される個数が商品ごとに細かく決まっているから気を付けろよ。それを超すと、没収されたり、【ドラゴニーア】に入ってから課徴金を払う羽目になるからな。あくまでも個人の買い物とか、お土産の範疇を超えないようにするんだ」

 ペネロペは言いました。


「わかった」


 そこからは、戦争のような状況……。

 私の母も目の色が変わりましたね。


 私達は、ブランド・ショップをハシゴして大量のブランド品を買い込みました。

 大半は転売を目的としています。

 これを商売と考えると、交通費などを考えれば、それほど旨味はありませんが、旅行のついで、自分達が使う物のついでに買って帰ると考えれば、お得。

 ふふふ、良い買い物をしましたね。


 特に、以前から欲しかった、有名ブランドの牛革製ブックカバーを格安で手に入れられたのは、収獲でした。


 さてと、そろそろ男性陣との待ち合わせ場所である丘の上のレストランに向かいましょう。


 ・・・


 私達は、【ナープレ】旧市街の雑踏を歩きます。

 この辺りは、治安が、あまり良くありません。


 ルフィナの家のメイドさん達が、スリなどに遭わないように、私達をガードしてくれています。

 ペネロペも油断なく周囲に睨みを利かせていました。

【ホーラブル・ベアー】を倒すようなペネロペがいれば、セキュリティは安心ですね。


 因みにルフィナの家のボーイさん達は、男性陣の護衛に付いてくれています。


 私達は、チャーターしたバスに乗り、目的地のレストランに向かいました。


 ・・・


 丘の上のレストランに到着して、私達は、テラスに出ます。


「これが海……広っ!何これ、ヤバくない?」

 私は、思わず感嘆の声を上げました。


 映像受像機や絵葉書なんかで見た海とは迫力が違います。

 水平線の彼方から、海上船が段々と迫り上がってくる様子を見ると……この世界は球体なんだ……と実感出来ますね。


「キトリー。今日は、風が穏やかだから、テラスで食事しようか?」

 ルフィナが言いました。


「そうだね」

 私は答えます。


 私達は、素晴らしい絶景を見ながら、美味しいランチを食べました。

 本場のアクアパッツァ……最高でした。


 ・・・


 午後も、私達女性陣はバーゲンに繰り出します。

 当然です。

 これは、乙女と淑女の、審美眼と誇りを賭けた戦争なのですから。

お読み頂き、ありがとうございます。

ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。


・・・


【お願い】

誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。

心より感謝申し上げます。

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ご意見などは、ご感想の方に、お寄せ下さいませ。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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