第334話。文明の発展とは?
名前…ハニエル
種族…【天使】
性別…女性
年齢…180歳
職種…【魔導師】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…統率、風格】など。
レベル…99
ルシフェルとミカエルの娘。
【ムームー】王都【ラニブラ】。
王城の女王専用の通用門近くの駐機場。
私、ソフィア、トリニティ、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリアは、王城の駐機場に来ていました。
【ムームー】側からは、国家宰相のキアッフレードさんと、護衛が2人同道してくれています。
他の皆さんは、チェレステさんの即位・戴冠式が終わった後から、大広間で開かれる晩餐会に雪崩れ込みました。
まだ、こんな午後の早い内から晩餐会ですか?
ホストであり、今日の主役でもあるチェレステさんは、大変そうです。
絶対に面倒臭いでしょうね。
王様というのは、私には、とても務まらない役職です。
なので、私は、こちらに避難して来ました。
晩餐会なんか、ご免こうむりますよ。
私は、【収納】から、チェレステさんに贈呈する【王族の馬車】を取り出して、駐機場に置きました。
とはいえ、私の魔改造によって、もはや馬車要素は消滅して、ティルト・ローター式垂直離着陸舟へと変わり果てています。
「おーーっ!ノヒトよ、これは、格好良いのう。我も同じモノが欲しいのじゃ」
ソフィアが興奮気味に言いました。
私謹製の女王専用ティルト・ローター式垂直離着陸舟は、ソフィアには好評です。
問題は、チェレステさんが、気に入ってくれるか、どうか……。
「こ……これは?」
【ムームー】宰相のキアッフレードさんは、怪訝そうに言いました。
「チェレステさんの馬車です」
はい、私は、コレを、あくまでも馬車と言い張ります。
【鑑定】で見ると、今でも間違いなく【王族の馬車】と表示されているのですからね。
「馬車……と申されますと、馬は、どこに繋ぐのですか?」
キアッフレードさんは当然の疑問を口にしました。
くっ……そこだけはスルーして欲しかったです。
「馬は、心の綺麗な人だけに見えます」
私は、苦し紛れに、適当な事を言って、その場の微妙な雰囲気を和ませようと試みました。
「なぬーーっ!馬がいるのか?それにしても、心が綺麗な者にしか見えぬとは……精霊の類か?」
ソフィアは、驚きます。
あー、信じちゃった娘がいますよ。
「はい?」
キアッフレードさんは、素っ頓狂な声を上げます。
くっ……キアッフレードさんには、渾身のオヤジ・ギャグが通用しなかった。
駄目か……駄目なのか……40代半ばに差し掛かろうかという、オッサンの茶目っ気はウザいだけなのですか?
世知辛いですね。
会社員時代、30代半ばくらいまでは、私が寒い冗談を言うと、私専属の事務員さん達は……やだ〜、チーフ、ウケるんですけど〜……と、笑ってくれていたのです。
しかし、40代になった途端に……チッ、仕事して下さい。あとプラモデルは、経費で落ちませんよ……と舌打ちするようになりました。
こちらの世界に転移して来て以来、私のアバターは、20代後半くらいに若作りしてあります。
しかし、中身がオヤジだと、色々と駄目みたいです。
「うむ、見えるのじゃ。我には、確かに馬が見えるのじゃ」
ソフィアは、フンスッ、と胸を張って言います。
私が思わず……心が綺麗な者にしか見えない……などと戯言を言ったので、心が汚いと思われたくないソフィアは嘘を吐きました。
「え〜。アタシには何も見えないよ」
ウルスラが言います。
「それは、ウルスラが心が汚れておるからじゃ。我の、プリンを盗み食いしたから、心が汚れたのじゃ。エンガチョ、なのじゃ」
ソフィアが言いました。
「あれは、ディエチが私の分に、って作ってくれたヤツだよ」
ウルスラは反駁します。
「アレは、我のじゃ。その証拠に、盗み食いをしたウルスラは、馬が見えなくなっておるではないか?我は、馬が見えておるのじゃ。つまり、あのプリンは、やはり我のモノじゃったのじゃ」
ソフィアは言いました。
「あっそ……なら、ソフィア様、どんな馬がいるの?毛色は?」
ウルスラが訊ねます。
「むむっ!くっ……」
ソフィアは答えに窮します。
おバカですね。
こんな、下らない事で、嘘を吐くからですよ。
まあ、私が、くだらな過ぎる軽口を叩いた事が原因ですけれどね。
「く?く、って何?」
ウルスラは、訊ねます。
「く、栗毛のような……鹿毛のような……芦毛のような……そこはかとなく……赤みがあるような……」
ソフィアは、言いました。
「ソフィア。馬はいません。私が軽口を叩いたのです。それから、あのプリンは、ウルスラのです。容器に……ウ……とシールが貼ってありました」
ソフィアの脳に共生するフロネシスとのパスを通じて、プリン騒動の顛末は知っています。
あれは、ウルスラ用に、ディエチが作り置きしておいたプリンで間違いありません。
「なぬーーっ!騙したのかーーっ?!酷いっ!ノヒトは酷いのじゃっ!そして、あのプリンは、我のじゃ」
ソフィアは言いました。
「嘘を言って申し訳ありません。でも、アレはウルスラのでした」
「ぐぬっ……ウルスラよ、もしかしたら我の思い違いだったのやもしれぬ……」
ソフィアは言います。
「アタシこそ、事前にソフィア様に、アタシ用にプリンを作ってもらった事を言っておけば良かったよ〜」
ウルスラは言いました。
何だか、わかりませんが、ソフィアとウルスラのプリン騒動は解決したようです。
「では、やはり馬は、いないのですね?」
キアッフレードさんが言いました。
「はい。馬なしで、縦横無尽に空中を高速移動出来ます。堅牢性、安全性、居住性に加え、火力も十分です。見た目は、こんなですが、性能は超一流ですよ。是非、活用して下さい」
「わ、わかりました」
キアッフレードさんは言います。
私達は、守護竜の間、に戻りました。
・・・
【ラニブラ】王城。
守護竜の間。
私達が、守護竜の間に戻ると、レジョーネとグレモリー・グリモワール一行と、チェレステさんがいました。
皆、肩がこる晩餐会から抜け出して来たのだ、とか。
「チェレステよ。晩餐会は良いのか?」
ソフィアが訊ねます。
「はい。今、着替えをするという名目で下がって参りました。余興で楽団が演奏し、場を繋いでくれています」
チェレステさんは、答えました。
お色直しに、余興……結婚披露宴みたいですね。
「チェレステさん。馬車を駐機場に置いておきましたよ。レジョーネとグレモリーとディーテさんからの女王就任祝いです」
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
チェレステさんは言いました。
「それから、これも贈呈します。【アンサリング・ストーン】です」
私は、【収納】から【アンサリング・ストーン】を取り出して、チェレステさんに手渡します。
「うむ。チェレステは、まだ信頼のおける配下が少ないであろう。活用するのじゃ」
ソフィアが言いました。
「重ね重ね、ありがとうございます」
チェレステさんは、礼を言って、側仕えに【アンサリング・ストーン】を受け渡します。
「ところでチェレステ。ノヒトに施政について訊ねたき事があるのでしょう?」
リントが言いました。
「いえ。あまりにも茫漠とした質問ですので……もう少し、考えがまとまってから、日を変えて、お訊きしたいと存じます」
チェレステさんは言います。
「チェレステよ。他人から馬鹿だと思われても良いから、訊きたい事があれば、すぐ単刀直入に訊いてしまうのじゃ」
ソフィアは言いました。
ソフィアの言う事が正しいですね。
「では……私は、【ムームー】を、どんな国に導いて行けば良いのでしょうか?【ムームー】を文明国とするには、どうすれば?申し訳ありません……あまりにも、抽象的な質問過ぎますよね?」
チェレステさんは訊ねました。
随分と茫漠としていますが、これで良いのです。
チェレステさんのような立場の人は、茫漠とした質問を相手に投げかけて、それに答える立場の相手側に適切な解を考えさせれば事が足りるのですから。
「私は……文明の発展……とは……より多くの人口を飢えさせず、穏当に養って行ける状態である……と、定義します」
「養う?」
チェレステさんは、首をひねりました。
「はい。例えば、人種が増えて都市を埋め尽くしたら、どうなるでしょう?限られた食料や資源を奪い合って争いが起きるかもしれません。その時には、食料生産力を向上させたり……資源を、より効率良く使える方法を考え出さなければならないでしょう。私やグレモリーが生まれた地球では、文明が養える人口限界が訪れそうになると、人々が知恵を絞って、その限界をブレイクスルーする技術革新を考え出し、より多くの人口を養えるようにする、というサイクルを繰り返して、文明を発展させて来ました。おそらく、こちらの世界でも、そういった歴史の流れを辿ると思います。身も蓋もない事を言えば、より多くの人々が飢えないように食い扶持を稼ぐ。これが、文明の発展、だと私は考えます」
「食い扶持を稼ぐ……ですか。素晴らしい技術を生み出し、人種を崇高な存在に導く事が文明の発展ではないのですか?」
チェレステさんは訊ねます。
「違うと思います。素晴らしい先進技術を開発する事などは、単なる手段であって、目的ではありません。それをして、文明の発展とは云わせしめないと考えます。また、人種を崇高な存在に導く……などというのは、基準が全くわかりませんし、どのように定義するのかすら曖昧です。数量的に施策の結果を検証出来ない目的は、意味がありません。そういう、観念的な、お題目を唱えると、私の上司なら……ここは学級会じゃない……と怒るでしょうね。数量的に結果の検証が行える事。目的とは、そういうモノでなければ、いけないのです」
「なるほど……」
チェレステさんは、大きく頷きました。
「うむ。何事も丼勘定はダメじゃ。民からの血税は、1銅貨たりとも無駄にするでないぞ。【ドラゴニーア】建国間もない頃は、我が自ら1銅貨単位で決済し、統計も全て諳ずる事が出来たほどじゃ。国家運営で大切な事は数値じゃ。予算と統計……特に、この2つは、キッチリするのじゃぞ。チェレステ自らやらずとも良い。キアッフレードにやらせるのじゃ。我は、その為に、キアッフレードをチェレステに付けてやったのじゃからな」
ソフィアは言います。
「はい。ありがとうございます」
チェレステさんは頭を下げました。
私達は、お茶を飲み始めます。
チェレステさんは、なかなか晩餐会に戻らず、レジョーネやグレモリー・グリモワール一行に色々と質問をしていました。
どうやら、大広間の楽団が、一生懸命に間を繋いでくれているようです。
ゲスト達も、楽団の見事な演奏に聞き惚れていて、チェレステさんが戻らない事に対して不満を口にする者は誰もいないのだ、とか。
その楽団は、よほど腕が良いのですね?
宮廷楽団ですか?
雇いの旅楽団?
ほほう、何という楽団ですか?
プルチネッラ楽団。
あー、【ラウレンティア・スクエア】のイベントに来ていた、あの楽団ですか?
全員、黒いマスクを被った、一見怪しげな楽団ですが、確かに腕は一級品でしたね。
その時、私のスマホが鳴りました。
ダビンチ・メッカニカの技術部門取締役のザクリスさんからです。
内容は、【砲艇】のライセンス生産について……。
私がコンパーニアとは別で運営する軍需企業イーヴァルディ&サンズと、ザクリスさんのいるダビンチ・メッカニカと、イプシロンさんのいるニュートン・エンジニアリングとの3社合弁事業として、【砲艇】を生産する計画なのです。
あ、忘れていました。
しまった。
月末から生産開始の予定だったのです。
既に、生産ラインも確保済。
後は、私が【プロトコル】を造って送る約束だったのですが……。
ヤバイ。
私は、明日の朝一に【転送装置】で、【プロトコル】を送る約束をしました。
ひえ〜。
リマインダーの日付を一月間違えていました。
おバカですね。
コンパーニアの経営は、ハロルド、イヴェット、イアンを中心とする首脳陣が優秀なので、私は、実務を丸投げにする事が出来ます。
しかし、イーヴァルディ&サンズの方は、経営者が私しかいません。
これは、可及的速やかに経営人材を確保しなければ、早晩、事業が回らなくなりますね。
何とかしなくては……。
私は、通話を終えました。
「ノヒト様とグレモリー様は、ご親戚筋なのですって?」
チェレステさんはグレモリー・グリモワールに訊ねます。
「うーん、ま、そんな感じの何かしらだね」
グレモリー・グリモワールは核心部分をぼやかして答えました。
私とグレモリー・グリモワールが元同一自我だ、などと説明しても理解が難しいでしょうし、話がややこしくなりますからね。
私とグレモリー・グリモワールは親戚みたいなモノ……このように説明しておくのが良いでしょう。
「それは、大変に失礼な事を致しました。申し訳ありません」
チェレステさんは頭を下げて謝罪しました。
「ん?何か、申し訳ない事をされたっけ?」
グレモリー・グリモワールは、頭の上に、?、を浮かべて訊ねます。
「はい。グレモリー様の席次を後列に追いやってしまいました。ノヒト様の、ご親戚筋であるならば、グレモリー様は、神の、ご親戚筋。ゲストの中でも、最上位の席次を、ご用意するべきでした。何卒お許し下さいませ」
チェレステさんは、言いました。
「いや、私とノヒトの出自がどうであれ、それは、こちらの世界では関係ないっしょ?」
グレモリー・グリモワールは言います。
「しかしながら、【神格者】様の、ご親戚筋という立派な、お血筋で在られるグレモリー様を末席に着かせたとあっては、【ムームー】は、非礼の誹りを免れ得ません」
チェレステさんは言いました。
「そんなもんは関係ないね。地球ではね、私やノヒトのレベルの人なんか、きっと掃いて捨てるほどいるよ。それに立派な血筋とか、卑しい血筋とか、そんなもんは世の中にはない。あるのは、私やノヒトの行動が立派なもんかどうかだけだね。私やノヒトが立派な振る舞いをすれば他所様から好ましく思われて、そうでなければ軽蔑される……それだけの事だよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「立派で、正しい、お考えだと思います。しかし、ノヒト様やグレモリー様のような方が掃いて捨てるほど、いらっしゃるとは。何と申しますか、神界とは凄い所なのですね?」
チェレステさんは言いました。
「いや、逆に考えてごらんよ。私らみたいのが、ゴロゴロいるんだから、私らは全然立派でも偉くもない」
グレモリー・グリモワールは言います。
「そんな事はありません。先程のグレモリー様のお言葉をお借りすれば、ノヒト様やグレモリー様は、立派な行動をなさっておいでです。それは、誇るべき偉業であり、賞賛されるべき美名でございます。ノヒト様やグレモリー様が、ご自身の功績を、ご謙遜なさるなら、私達、下々の者は、誰一人、功績を誇れなくなります」
チェレステさんは言いました。
「それは、世界の理が、異世界と地球で違うからなんだよね。地球には、魔法がない。私もノヒトも異世界転移する前の状態では魔法が使えなかった。だから、もしも異世界の【魔法使い】が魔法が使える状態で、地球に飛ばされたら……もしかしたら、今の私らみたいに、神とか英雄とか呼ばれるような立場になるかもしれない。でもさ、その【魔法使い】が、地球で、自分の魔法の力をかさにきて、居丈高に振舞ったら、どうかな?ソイツは、ただの嫌な奴だよね?私もノヒトも、そういうふうに思われないようにしてるだけ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「そうですか……」
チェレステさんは言いました。
「私とグレモリーの故郷である地球の日本という国には、こういう常識があります。外国に出かけた時は、その国の人達から、自分が母国の代表として見られていると思いなさい……外国の人々から……日本人は立派な人達だ……と思ってもらえるように襟を正して振る舞いなさい……と。きっと、私もグレモリーも、それが心の中にあって、今まさに地球人の代表として、こちらの世界の人達に……地球人は傲慢で不躾な連中だ……などと思われないように心を砕いているのだと思います。まあ、とはいえ、無意識でやっている事なのですけれどね」
「そだね。無意識だけれど、そういう感性ってか、価値観ってか、行動原理みたいなもんは、あるかもだね」
グレモリー・グリモワールは言います。
「ふむ。じゃが、普通は、それが出来ぬのじゃ。ノヒトやグレモリーの振る舞いは、端的に言って、やはり立派じゃ」
ソフィアが言いました。
「だとするなら、私やノヒトじゃなく、私らの故郷の人達が立派なんだよ。私らは、それが普通だかんね」
グレモリー・グリモワールは言います。
「そうですね。私やグレモリーが、こちらの世界の基準でいって立派な振る舞いをしているように見てもらえるのであれば、それは、親の躾や、国やコミュニティの教育に感謝するべきでしょうからね」
「うむ。それは、こちらの世界でも大いに参考になるのじゃ。我ら庇護者や、アルフォンシーナやチェレステのような統治責任者や為政者が、公的教育の質を高め、国家の品格を追求する努力をすればこそ、自ずから、その国の民は立派な者達になり得るのじゃ。我は、そのように民を導いて行きたいのじゃ」
ソフィアは、決意を込めて言いました。
その場にいた一同は、ソフィアの言葉に強く同意しています。
程なくして、チェレステさんは、晩餐会に戻る事になりました。
私達は、このタイミングで、【ラニブラ】を後にする事にします。
「チェレステよ。一生懸命にやるのじゃぞ。そうすれば、我や、ファヴや、ノヒトは、其方が困った時には、手を貸しに来る。また、会いに来るのじゃ」
ソフィアは、言いました。
「はい。ソフィア様、アルフォンシーナ様の教えを胸に一生懸命に相勤めます」
チェレステさんは、言います。
私達は、【転移】で、【ラニブラ】を後にしました。
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