第330話。スキ焼きのシメ。
名前…ラミエル
種族…【天使】
性別…女性
年齢…190歳
職種…【魔法剣士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…剣技、規律】など。
レベル…99
ルシフェルとミカエルの娘。
異世界転移46日目(10月16日)。
(【ドラゴニーア】標準時を基準とする)。
私達レジョーネは、ウエスト大陸中央国家【サントゥアリーオ】の北方にいました。
ここは、【サントゥアリーオ】と【ウトピーア】の国境に横たわる広大な森林領域です。
その名も【黒の森】。
【黒の森】は、手付かずの原生林。
樹木の枝葉が天井のように地上に影を作り、人種の侵入を拒むかのように蔓植物が繁茂していました。
森の地面に光が差し込まず、日中でも夜のように暗い事から、【黒の森】と呼ばれています。
軍隊の演習地として管理・手入れされていて適切に間引かれているセントラル大陸の【静かの森】とは明らかに様相が異なります。
人種にとって【黒の森】は、樹木も魔物も濃い危険な領域でした。
まあ……レジョーネに危険があるのか……と問われれば……それは全くありません。
私達は、ダンジョン最深層の森林エリアですら、散歩がてらにクリアしてしまえました。
地上にある森なんか、私達レジョーネにとっては、まるでショッピング・モールのキッズ・ランドみたいに安全そのものなのです。
私達は、【黒の森】のエリア・ボス【マルコシアス】を討伐して、今夜の満月周期スポーン対応を締めくくりに来ていました。
レジョーネは【マルコシアス】のスポーン・エリアの近くで、テーブル・セットを出して、くつろぎながら待機中。
【マルコシアス】は【魔狼】族の頂点に君臨する魔物でした。
生物学者の中には【魔狼】族の頂点は【フェンリル】だと云う者がいますが、それは完全な誤りです。
【フェンリル】は【神格】の守護獣。
【魔狼】ではなく【神狼】なのです。
「ノヒトよ。我は、お腹が空いたのじゃ」
ソフィアが自分の、お腹をさすりながら言いました。
おっと、そんな時間でしたか。
ソフィア達が夕刻に夕食を食べてから、8時間ほど経っています。
ソフィアは夕食後に4時間ほど仮眠を取り、仮眠から目覚めた直後、調理パンや菓子やジュースでカロリー補給をしたのだ、とか。
それ以後4時間ほどは何も食べない状態です。
もう、そろそろソフィアの、お腹の虫は大合唱を始める頃です。
日中のソフィアのオヤツ・タイムは、9時、3時とリマインダーに組み込まれていました。
しかし、夜間は、ソフィアは眠るので、オヤツ・タイムは設定されていません。
それに、今日は時差がある大陸間の移動を行いながらの作戦行動だったので、すっかり、ソフィアのカロリー補給の事を忘れていました。
これは、私のウッカリですね。
「夜食にしましょう」
私は、宣言します。
「うむ」
ソフィアは、私の言葉を予想していたのか、即座に何やら大きくて底の浅い鍋を【宝物庫】から取り出しました。
オラクルが阿吽の呼吸で携帯コンロをテーブルに設置して、ソフィアがその上に大鍋を……どっこらしょ……とセットします。
コンロを点火。
途端、グツグツと鍋が煮え始めました。
【氷竜】のスキ焼きですね。
ソフィアが、出来立てアツアツのスキ焼きを鍋ごと【宝物庫】にストックしておいたモノです。
ソフィアにとって【氷竜】と卵という好物が2つ同時に味わえるスキ焼きは、特別な料理でした。
ソフィアは……スキ焼きのストックが残りわずかになっている……とかで、温存していた最後の大鍋を、ここで投入したのです。
さっき【氷竜】が補充出来たので温存の必要がなくなったという事なのでしょうね。
ソフィアは生卵を5個溶いて、良い塩梅に火が通った【氷竜】の霜降り肉を生卵に絡ませて食べ始めます。
ヴィクトーリアが、ソフィアが肉を食べる横から、新しい肉や割り下を、順次鍋に追加して行きました。
ソフィアは、まるで気体を吸い込むようにして、肉を食べて行きます。
野戦食で本格的なスキ焼きを食べる者はソフィアくらいなのではないでしょうか?
ソフィアは、もちろんスキ焼きを私達に分けてはくれないので……私とファヴとリントとトリニティとウルスラは、思い思いに軽食を食べてカロリー補給をしていました。
オニギリやサンドイッチやホール・ケーキです。
軽食を食べる私達の隣で、たった1人でスキ焼きを頬張りムシャムシャ食べるソフィア。
このスキ焼きはソフィア個人の所有物ですから、ソフィア1人で食べていても文句はありません。
まあ、私なら、皆でシェアしたと思いますが……。
ファヴやリントやトリニティやウルスラが可哀想なので、私がストックしていた温かいスープや豚汁やホット・チョコレートなどを出してあげました。
「ノヒトよ。我も豚汁とホット・チョコレートが欲しいのじゃ」
ソフィアが言います。
「あー、はいはい」
ここで……ソフィアはスキ焼きを分けてくれないからダメ……などと子供のような事は言いません。
ソフィアが我儘なのは、もはや当たり前の事なのです。
いちいち目くじらを立てるような事ではありません。
また、ソフィアは、私が本当に言う事を聞いて欲しい時には聞き分けが良いので、どうでも良い事は基本的にソフィアのさせたいようにさせる……これが、ソフィアにも、私達にもストレスがないのです。
一度我儘を許せば、さらに調子に乗って我儘が酷くなる?
いいえ、ソフィアの場合は、そのような事にはなりません。
ソフィアは、【神格者】。
人種の心理構造のソレとは違うのです。
本物の神様は、それほど愚かではありません。
人種のように一度我儘を聞いてもらえたら、味を占めて要求や頻度をエスカレートさせるような事を、ソフィアは一度も私に対してした事はないのです。
もはや、ソフィアの我儘は、普遍的様式美のようなモノ。
それに対して眉をひそめるような者は、どこにもいません。
現世最高神というソフィアの格式に見合った当然の振る舞いなのです。
さてと、そろそろ、周期スポーンの時間ですね。
「ソフィア。そろそろ0時ですよ。準備は良いですか?」
「あー、ノヒトに任せるのじゃ。我は、シメのウドンがまだなのじゃ。スキ焼きの後のウドンは、格別なのじゃ」
ソフィアはオラクルにウドンを作ってもらいながら言いました。
甘辛い割り下と絡んだ焼ウドン風のスキ焼きのシメは、美味しいですからね。
それを外すという選択肢は、ソフィアにはあり得ないのでしょう。
ならば仕方がありません。
・・・
私、ファヴ、リント、トリニティは、【黒の森】の周期スポーン・エリア上空に戦闘隊形で展開しました。
5秒前……4……3……2……1……今っ!
【マルコシアス】がスポーンします。
私は、【マルコシアス】の魔力を封じながら、【理力魔法】で、スポーン・エリアの外に【マルコシアス】を引きずり出しました。
リントが魔力を込めて投げた【アキレウスの槍】が【マルコシアス】の頸部に深々と突き刺さり、簡単に屠ります。
はい、任務完了。
何も、問題ありません。
リントが手を伸ばすと、【アキレウスの槍】は【マルコシアス】から抜けて空中を飛びリントの手に戻ります。
リントは、【アキレウスの槍】を一振りして【マルコシアス】の血を払い、【収納】にしまいました。
私は【マルコシアス】の死体を【収納】に回収します。
さてと、用は済みましたね。
因みに、グレモリー・グリモワールのいる【サンタ・グレモリア】の様子は、どうでしょうか?
私の脳の視覚野には、【サンタ・グレモリア】に駐留する神の軍団・神兵の視点が、パスを通じて見えていました。
周期スポーン・エリア【竜の湖】にスポーンした【湖竜】は、グリモワール艦隊による集中砲火によって瞬殺されています。
グレモリー・グリモワールは、【竜の湖】上空で、一応、【エルダー・リッチ】軍団とディーテ・エクセルシオール率いる【ハイ・エルフ】達と、待機していましたが、全く仕事はなし。
当然ですね。
「では、【ドラゴニーア】に帰還しましょうか」
私達は、ソフィア達がいるテーブル・セットの場所まで戻って来ました。
あー、そろそろヤバいかもしれない、と予測していましたが、シメのウドンがトドメとなったのですね……。
「オラクル。ソフィアとウルスラは、寝落ちですか?」
「はい。シメのウドンを召し上がった後、お二人ともエネルギーが切れたように……」
オラクルは、困惑気味に言いました。
ソフィアとウルスラは、テーブルに突っ伏して眠っています。
まったく……ソフィアとウルスラは【黒の森】くんだりまで、スキ焼きやケーキを食べ散らかしに来ただけになってしまいました。
一体、何をしに来たのやら……。
完全に目的を見失っていますよ。
レジョーネは、周期スポーンの対応をしに来たのです。
まあ、良いですけれど。
それにしても……2人とも実に幸せそうな寝顔ですね。
「さあ、帰りましょう」
レジョーネの面々は頷きます。
私達は、テーブル・セットを片付け、【ドラゴニーア】に向けて【転移】しました。
・・・
セントラル大陸。
竜都【ドラゴニーア】の竜城。
熟睡しているソフィアとウルスラを大事に抱いたオラクルとヴィクトーリアは、寝室に向かいました。
ファヴ、リント、トリニティも仮眠に向かいます。
2時間くらいは眠れるでしょう。
私は、リマインダーを開き、今日の予定を確認しました。
午前中、私は、内職。
私以外のレジョーネは、一度、朝食を食べてから、再び昼食まで仮眠します。
午後、レジョーネと、アルフォンシーナさん、エズメラルダさん、ゼッフィちゃん、竜騎士団の精鋭は、サウス大陸の【ムームー】に向かいます。
途中、【アトランティーデ海洋国】と【パラディーゾ】に寄って、両国の政府首脳達をピックアップしなければいけません。
今日、チェレステさんが【ムームー】の女王に即位・戴冠します。
私達は、その式典に参加する予定。
因みにファミリアーレは、通常通りの1日。
午前中は訓練、午後は自由時間。
夕刻、レジョーネ、ファミリアーレ……そして、昨日チュートリアルに参加したメンバーで再び集合して、夕食を一緒に食べ、その後チュートリアルでもらった【贈物】などの説明をします。
今日も安定の忙しさですね。
私は、リマインダーを閉じました。
すると、丁度、礼拝堂に繋がる通路の先を、アルフォンシーナさんとゼッフィちゃんが通りかかります。
アルフォンシーナさんは、私を見つけて、慌ててこちらにやって来ました。
「ノヒト様、お帰りなさいませ。お迎えにも上がりませんで失礼致しました」
アルフォンシーナさんは頭を下げます。
「いいえ。アルフォンシーナさんも忙しいのですから、出迎えは不要ですよ」
「恐縮です」
アルフォンシーナさんは言いました。
いつもはパスが通じて、ソフィアの行動把握をしている為、アルフォンシーナさをんは、私達の行動を予測して、ある程度先回りする事が出来ます。
しかし、今は、ソフィアが寝落ちしている為に、パスは役に立ちません。
アルフォンシーナさんは、レジョーネがいつ帰還したのかも、わからなかったのでしょう。
「アルフォンシーナさんも、これから仮眠ですか?」
「いいえ。残務処理がございます。今日は、このまま【ムームー】に向かいます」
アルフォンシーナさんは、少し疲労感を漂わせながら言いました。
「【完全回復】」
私は、アルフォンシーナさんとゼッフィちゃんに【完全回復】をかけてあげます。
これで、アルフォンシーナさんとゼッフィちゃんの眠気と疲労は完全に消えました。
「ありがとうございます」
アルフォンシーナさんは頭を下げて礼を言います。
「ありがとうございます」
ゼッフィちゃんも、ペコリ、と頭を下げました。
そもそも、アルフォンシーナさんは、昨日から、ずっと激務をこなしました。
ソフィアに命じられて【天使】との団体対抗戦に引っ張り出され激闘を演じ、その後は、周期スポーンへの対応で、戦闘指揮所に缶詰になっていたのです。
立ちながら眠りかけるくらいには、心身共に疲れていたのでしょう。
「では、また、朝ご飯の時に」
「はい。1時間半ほどしかありませんね」
アルフォンシーナさんは、苦笑しました。
「大変ですね」
「お互いに、ですね」
アルフォンシーナは、言います。
「まあ、職責ですからね」
「仰る通りですね」
私達は、笑い合いました。
私は、アルフォンシーナさんと別れて【シエーロ】に転移します。
・・・
【シエーロ】中央都市【エンピレオ】。
【知の回廊】最深部。
私は、【ワールド・コア】ルームにやって来ました。
「チーフ、お帰りなさい」
ミネルヴァが言います。
「ミネルヴァ、ただいま」
「【輸送艦】が5隻完成したので、それぞれ【コンシェルジュ】を28体載せて、【地上界】側の5大大陸に派遣しました」
ミネルヴァが報告しました。
「ありがとう」
【輸送艦】のクルーは3体……地上作戦要員が25体……合計で28体という意味です。
それが、【地上界】の各大陸に配備されました。
セントラル大陸、サウス大陸、ウエスト大陸、ノース大陸では、各大陸の中央国家の中央神殿に……イースト大陸だけは、【イスタール帝国】の帝都【バビロン】に配備されます。
この【輸送艦】部隊は、各大陸で調査活動や情報収集を行い、必要があれば査察も行う予定。
それで、何か変事が起きれば、私やトリニティが、飛んで行って対応します。
これだけで、大分、ゲームマスター本部としては、助かる事になりますね。
私は、【輸送艦】部隊の適切な運用をミネルヴァに頼んであります。
「ミネルヴァ。考えたのですが、全世界に大量のドローンを投入しましょう。ドローンの生産なら、あっという間に必要な監視の目が揃うでしょう?」
「しかし、建物の中などは、やはり【コンシェルジュ】による査察が必要です」
ミネルヴァは言いました。
「そうですね。あくまでも【ドローン】は急場凌ぎですよ。また、大量の【魔法石】が手に入ったので、丁度良いでしょう」
「わかりました」
ミネルヴァは了承します。
私は、1時間ほどの間にミネルヴァと諸々の打ち合わせをして、朝ご飯を食べる為に【ドラゴニーア】へと【転移】で戻りました。
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