第328話。アルフォンシーナからの相談。
名前…ガブリエル
種族…【擬似神格者…ハイ・ヒューマン】
性別…女性
年齢…なし
職種…【魔法槍宗】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…槍術、調整、加工】など。
レベル…99(固定)
副天使長。
天軍槍士長。
【ドラゴニーア】西方都市【ラウレンティア】。
夕刻。
私達は、【ラウレンティア】の中央神殿上空にやって来ました。
カティサークから、神殿の礼拝堂に【転移】します。
礼拝堂には、【ラウレンティア】の神殿長であるゾーラさんと、彼女の部下である【修道女】の皆さんが揃っていて、私達を迎えてくれました。
「こんばんは、ゾーラさん。いつも、すみません」
私は、ゾーラさんに頭を下げます。
「いいえ、ノヒト様の、お役に立てれば幸いでございます」
ゾーラさんは、言いました。
少し情報交換などをして、ゾーラさんと【修道女】の皆さんは、順番に一礼して退室して行きます。
さてと、チュートリアル、チュートリアル。
まず初めに、原則を【契約】してもらいました。
原則とは……つまり、いつものアレ。
世界の理に違反しない事。
ノヒト・ナカとノヒト・ナカの身内に敵対しない事。
法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に違反しない事。
ノヒト・ナカが命令したら従う事。
世界の発展と平和に貢献する事。
プリンシプルを遵守する限り、ノヒト・ナカは敵対しない。
チュートリアルを受ける者は、チュートリアルについて口外しない事。
という約束事。
皆さん、プリンシプルの内容に同意して、【契約】を交わします。
私は、簡単なチュートリアルの説明をしました。
特段、難しい事は何もありません。
チュートリアルの道中では、私の幻影が案内役を務めてくれますし、あらかじめ想定問答を準備してある簡単な質問には答えてもくれます。
そもそも、ウチのハリエットでさえ問題なくチュートリアルをクリア出来たのですから、基本的な理解力があれば、チュートリアルの仕様は混乱を生じさせるような内容は何もありません。
「さあ、誰から挑みますか?」
「なら、私から……」
ペネロペさんが一歩踏み出して言いました。
私は、ペネロペさんをチュートリアル用の転移魔法陣の上に立たせて、【神竜】が守護竜に現身した姿を模った彫像を、360度クルリと回します。
すると、瞬時にペネロペさんの姿が、かき消えました。
・・・
1秒後。
ペネロペさんは、チュートリアルから帰還しました。
ペネロペさんの手には、【鋼の剣】と【ドラゴニーア金貨】1枚が握られています。
「面白かったーっ」
ペネロペさんは言いました。
「ペネロペさん。泉の妖精から、贈物を、もらえましたね?」
「はい。【収納】と【鑑定】と【マッピング】と、【才能】で【操作】を覚えました」
ペネロペさんは答えます。
「個別の獲得能力などの説明は、明日また行います。今日は、もう夜になってしまいましたからね。なので、新しく取得した魔法や能力は、今日の内は1人で試したりしないようにして下さい。皆さんもですよ。中には、取り扱いに注意を払わなければならないモノが、あるかもしれませんしね。良いですか?」
皆さん、同意してくれました。
プリンシプルの【契約】で拘束力が働きますので、私との約束は守られます。
このように釘を刺しておけば、安全管理上の問題は発生しません。
ペネロペさんに続いて、月虹のメンバーが順番にチュートリアルに挑戦して行きました。
その後は、私の寄子である【樹人】達がチュートリアルを受けたのですが……。
【ハマドリュアス】の4人が、全員、上位種である【ドライアド】に昇華しました。
【ハマドリュアス】は【人格】、【ドライアド】は【聖格】です。
うん、喜ばしい事ですね。
次に、ジリオさん達一家3人がチュートリアルに挑戦し、最後はコンタディーノ家の8人。
こうして、今回のチュートリアルは、終了しました。
私は、【ラウレンティア】神殿長のゾーラさんに、お礼と挨拶をして、チュートリアル参加者を各自の家に送り届けます。
カスターニョとメロとペロと、コンタディーノ家をソフィア農場に。
オリーヴォとペスコとチリエージョを【タナカ・ビレッジ】に。
ペネロペさん達月虹を竜都の自宅屋敷に。
明日の夕刻(今度は、コンタディーノ家の夕食前)に、再び私が迎えに行って、【ワールド・コア】ルームに集合してもらい、改めて今回チュートリアルで得た【贈物】について説明をする約束をしました。
皆さん、おやすみなさい。
私は、カティサークを運んで竜城の中庭に【転移】しました。
・・・
竜城の中庭。
私が、竜城の中庭にカティサークを係留していると、アルフォンシーナさんから、【念話】で呼びかけられました。
私は、礼拝堂に向かいます。
・・・
礼拝堂。
アルフォンシーナさんとエズメラルダさんとゼッフィちゃんが待っていました。
今夜は満月。
周期スポーンがありました。
アルフォンシーナさんは、セントラル大陸の安全保障を担う【ドラゴニーア】軍の最高司令官です。
アルフォンシーナさんは、徹夜で戦闘指揮所に詰めて、万が一の事態に備えなければいけません。
基本的にセントラル大陸の周期スポーンには、私とソフィアと神の軍団が対応します。
既に、各地の周期スポーン・エリアには、神の軍団を展開済でした。
各師団、各部隊は、担当地区にて待機中です。
しかし、【ラウレンティア】西方【静かの森】の周期スポーン・エリアだけは、【ドラゴニーア】軍と、ソフィアの近衛である竜騎士団が対処する予定。
それが彼らのプライドなのだそうです。
【ドラゴニーア】軍と竜騎士団なら、問題なく【静かの森】の周期スポーン・エリア・ボスである【翠竜】を倒せるでしょうから、そのプライドは私としても受容可能。
【静かの森】の周期スポーンは、【ドラゴニーア】の軍と竜騎士団を信頼して任せましょう。
被害を出さずに倒しきれもしない癖にプライド云々という中身のない戯言をほざくならば、私は彼らからの頼みを無視しました。
仕事における誇りや矜持とは、成果を最大にして損害を最小にする結果を得られる時にだけ宣う事が認められるのです。
チームに対して利益とならない使命感や義務感や責任感は、逆に迷惑なだけで悪質な観念なのですよね。
例えば、インフルエンザなどの感染症に罹患している状態で無理をして出勤して来たあげく、社内に感染を広げるような事です。
こういう場合、それは、単なる迷惑行為であって、仕事のプライドとは正反対の事。
私は、それを是認しませんし、絶対に誉めたりなんかしません。
閑話休題。
今夜、アルフォンシーナさんは、事前の準備に追われ、また周期スポーンが起きたら、彼らの戦いぶりを見守り、場合によっては直接指揮を執り、作戦が完了したら事後処理の差配もしなくてはならないのです。
なので、もちろん今夜は眠れません。
ご苦労様ですね。
アルフォンシーナさんは、セントラル大陸で最も多忙な人物なのではないのでしょうか?
そんな事を言ってアルフォンシーナさんを労ったら、逆に……世界で一番、ご多忙なのはノヒト様ですね……などと言われてしまいました。
まあ、お互い様ですね。
責任の範囲は違いますが、個人は皆、誰であれ、それぞれに為すべき事というモノがある訳です。
私は、アルフォンシーナさんと、今夜の段取りを打ち合わせました。
今夜、私は、セントラル大陸の東、南、北……サウス大陸の東、西、南、北……ウエスト大陸の北の周期スポーンに対応します。
セントラル大陸の西は、【ドラゴニーア】の軍と竜騎士団……ウエスト大陸の西はグレモリー・グリモワールが対応する予定。
ノース大陸は、【エルフヘイム】軍を中心とした【ユグドラシル連邦】軍が対応に当たります。
【エルフ】達は強力ですから、こちらは、何とかなるでしょう。
アルフォンシーナさんは、イースト大陸の東、西、南の周期スポーンにも【ドラゴニーア】の現地駐留軍と、【ドラゴニーア】から援軍を派遣して対応しているのだそうです。
私から……イースト大陸でも手を貸しましょうか?……と話を向けたところ、アルフォンシーナさんからは、感謝はされたものの、やんわりと断られました。
【ドラゴニーア】との安全保障協定に批准するイースト大陸諸国に対しては、第一義的に【ドラゴニーア】が危機に対応する事が重要なのだそうです。
あなた達の為に、【ドラゴニーア】は血を流していますよ……というアピールが、ひいては【ドラゴニーア】への信用に繋がるのだ、とか。
なるほど……理屈はわかりました。
しかし、やはり政治は面倒臭いですね。
アルフォンシーナさんとの情報共有で、一つだけ気になる事がありました。
それは、イースト大陸の【ゴブリン自治領】について。
イースト大陸の中央国家【アガルータ】と、北方の国【ザナドゥ】と、東方の国【タカマガハラ皇国】とに挟まれた場所にあるのが、【ゴブリン自治領】。
その名が示す通り、【ゴブリン】達による自治領でした。
この【ゴブリン自治領】は、そもそも、世界の世界観には存在しない……つまり【創造主】が創造していない領域区分なのです。
私達がゲームで遊んでいた900年前には、世界地図に、こんな場所はありませんでした。
【アガルータ】、【タカマガハラ皇国】、【ザナドゥ】の三か国が、お互いの国境地帯で同じ面積の土地を出し合い緩衝地帯として作ったのが、この地域だったのだそうです。
そこに何故か、世界中から【ゴブリン】が集まって来て勝手に住み着き居座ったのが、この【ゴブリン自治領】の起源。
イースト大陸の正規の国家である【アガルータ】、【タカマガハラ皇国】、【ザナドゥ】の三か国は、そもそも、お互いが争わないように緩衝地帯として作った場所で、また埋蔵地下資源的にも土地の豊かさでも価値が低い場所だったので、土着化した【ゴブリン】の存在を無視・放置しました。
それが問題の始まり。
やがて、この三か国の国境地帯に暮らす【ゴブリン】達は、自らが住み着いた地域を【ゴブリン大王国】などと自称し始めました。
また、【ゴブリン】達のリーダーは、大王を僭称しています。
しかし、もちろん、これらの僭称行為は、現代に至っても国際的な承認は全く受けていません。
国際法上、この地域は【ゴブリン自治領】と呼称されているのです。
この【ゴブリン自治領】は、歴史的に【アガルータ】、【タカマガハラ皇国】、【ザナドゥ】の三か国の内、その時々で強い勢力の下に服従して、弱い勢力に攻撃を仕掛けるという事を繰り返しています。
風見鶏やコウモリ外交などと揶揄されていますが、【ゴブリン自治領】の連中は……これが、最も賢明的な立ち回り方だ。自分達は、国際政治のバランサーなのだ……などと吹聴するなどして、全く悪びれる様子もありません。
嘘を吐く、騙す、盗む、裏切る……常に平気でこれらの事をする【ゴブリン】は、世界中で忌み嫌われていました。
もちろん、全ての【ゴブリン】に問題がある訳ではありません。
セントラル大陸などに暮らす【ゴブリン】達は、法や規範を守ってコミュニティの一員として社会に貢献して暮らしています。
あくまでも、【ゴブリン自治領】の【ゴブリン】が問題なだけでした。
当然です。
【創造主】は、特定の人種を、生れながらに悪意を持った状態には創っていないのですから。
ソフィア曰く……教育の問題じゃ……という事です。
【ゴブリン自治領】では、大人達が子供達に……他人を騙して、他人から盗んで、他人を裏切れ……と教えていました。
三つ子の魂百まで……こうして成長した【ゴブリン】は、もう、人格矯正が困難で、世界からは国際法や国際規範に従わない人種文明には受け入れ難い、悪意ある存在として疎まれてしまうのです。
「【ゴブリン自治領】は、この数百年ほどは、【ザナドゥ】の属国でしたが、ここ最近では、【ザナドゥ】を裏切って【タカマガハラ皇国】の方に付こうとしています。【タカマガハラ皇国】の背後にいる【ドラゴニーア】の同盟勢力が力を増しているからだと思います」
アルフォンシーナさんは言いました。
【ゴブリン自治領】が、この数百ほど【ザナドゥ】の属国だったのは、国境を接する三か国の内、【アガルータ】と【ザナドゥ】の二か国が同盟を結んでいたからです。
【アガルータ】、【タカマガハラ皇国】、【ザナドゥ】の三者均衡の中で【アガルータ】と【ザナドゥ】が結び、【タカマガハラ皇国】は孤立した。
もちろん、【ゴブリン自治領】は、即座に強い勢力の下に服従したのです。
こうして現在、【ゴブリン自治領】は、【ザナドゥ】の影響下にあり、【タカマガハラ皇国】の国境を度々脅かしていました。
その状況が変わります。
歴史的に永らく友好関係にあった【タカマガハラ皇国】と【ドラゴニーア】が安全保障協定を締結しました。
【タカマガハラ皇国】は世界最強の【ドラゴニーア】の後盾を得たのです。
この安全保障協定は、やがて深化し、もう間もなく安全保障条約に格上げされる予定。
この世界的には……。
安全保障協定には、自動参戦条項はありませんが……安全保障条約には、自動参戦条項があります。
つまり、【ドラゴニーア】と【タカマガハラ皇国】の間に安全保障条約が締結されると【タカマガハラ皇国】に攻め込んだ勢力に対しては、【ドラゴニーア】が無条件で反撃する事になりました。
【タカマガハラ皇国】の敵は、自動的に【ドラゴニーア】の敵になるのです。
【ゴブリン自治領】は、焦りました。
今まで、【アガルータ】と【ザナドゥ】の二か国の下働きとして、【アガルータ】・【ザナドゥ】同盟と対立する【タカマガハラ皇国】に、しつこくチョッカイを出して来た【ゴブリン自治領】。
今後は、【タカマガハラ皇国】にチョッカイを出すと、【ドラゴニーア】に反撃されてしまいます。
少し前の事、【ゴブリン自治領】は、【ドラゴニーア】に使者を送って来て……安全保障条約を結びたい……などと言って来ました。
【ドラゴニーア】は無視。
国際法上、国として承認されていない地域の者達と、二国間条約など結べる訳がありません。
すると【ゴブリン自治領】の使者達は、暴挙に出ました。
外交のルールを無視して、竜都の国際港に現れて、自分の首に刃物を当てながら……安全保障条約を結ぶ交渉をしてくれなければ、自殺するぞ……と要求したそうです。
「それが【ゴブリン自治領】の、いつものやり方なのです」
アルフォンシーナさんは、溜息を吐きながら教えてくれました。
【ドラゴニーア】は、その使者達を武力を用いて一瞬で制圧し、本国に送還しました。
とはいえ、【ゴブリン自治領】は国家承認されていませんし、彼らの事実上の宗主国である【ザナドゥ】とも、【ドラゴニーア】は国交がありません。
辛うじて国交があった【アガルータ】を通じて強制送還したのです。
【ゴブリン自治領】の思惑は、強い勢力の下に服属する事。
つまり、【ドラゴニーア】の影響下に入りたくて仕方がないのです。
【ドラゴニーア】は、それを拒否。
そんな、迷惑な連中と仲間になるなんて絶対に嫌でしょうからね。
【ゴブリン自治領】は、今度は……【ドラゴニーア】が【ゴブリン自治領】を庇護してくれないなら、【ドラゴニーア】の友邦国である【タカマガハラ皇国】を攻めるぞ……と脅して来ているのだそうです。
つまり……自分の事を庇護して欲しい……とお願いしている相手に……庇護してくれないなら、お前の友人を攻撃するぞ……と脅迫して来ている訳ですね。
意味不明で支離滅裂。
言っている事と、やっている事に全く整合性がなく、もはや訳がわかりませんよ。
「厄介な連中ですね」
「ええ、本当に……。もしも、この先【タカマガハラ皇国】に手を出したら、【ドラゴニーア】は、【ゴブリン自治領】を全力で攻撃し、【ゴブリン自治領】の【ゴブリン】を全滅させるつもりですが……ノヒト様の公式の立場としては、それに反対なさいますか?」
アルフォンシーナさんは訊ねました。
「ゲームマスターは、国家紛争には介入しませんよ」
「【ゴブリン自治領】は、国家では、ございませんので……」
アルフォンシーナさんは言います。
「ならば、もしも【ゴブリン自治領】が【タカマガハラ皇国】に攻め込んだら、それは、単なる犯罪。犯罪の摘発と処罰は、そもそも私に許可を取る必要のない案件ですね。世界の理と、国際法と、【ドラゴニーア】法と、【タカマガハラ皇国】法で認められた方法でなら、お好きなようにして下さい」
「それは、つまり仮に【タカマガハラ皇国】に手を出して来たら、【ゴブリン自治領】の【ゴブリン】を全滅させても問題ない、と?」
アルフォンシーナさんは真面目な顔で訊ねました。
「ゲームマスターとしては、全く問題ありませんね。単なる、犯罪者の処罰、という扱いです。まあ、個人的には、色々と思う事がないではありません。ゲームマスターの業務を離れた私は平和主義者ですからね。しかし……私の公式の立場……つまりゲームマスターとしての立場を訊ねられているのならば、全く問題ない、というのが唯一の答えです」
「畏まりました」
アルフォンシーナさんは言います。
まあ、可能な限り穏当な方法で片が付けば良いのですが……。
しかし、過去そうして、なあなあ、で対応して来た結果、【ゴブリン自治領】などという訳のわからない場所が発生し、そこに住む【ゴブリン】達の不法行為を助長していました。
ルールを守らなければ報いを受ける……と、わからせる事も必要でしょう。
これも、ある意味では、割れ窓理論。
仮に【ゴブリン自治領】が地図からなくなっても、【ゴブリン】は世界中に大勢いますので、種が絶滅したりはしません。
【ゴブリン自治領】の連中は……まあ、自業自得ですね。
ゲームマスターとして、私は【ゴブリン自治領】の行く末に関与するつもりはありません。
私は、アルフォンシーナさんとの周期スポーンの対応を最終確認してから、【ワールド・コア】ルームに【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。
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何卒よろしくお願い申し上げます。




