第325話。出オチ。
名前…ヴァレンティーナ・ベルルーティ
種族…【エルダー・ホビット】
性別…女性
年齢…56歳
職種…【社長】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など。
特性…【才能…業務処理】、【商才】
レベル…30
ソフィア・フード・コンツェルンCEO。
【神格者】であるソフィアに対しても、ビジネスに関する事は物怖じせずに主張する有能な人材。
竜城の【闘技場】。
レジョーネ対【天使】による9対9の団体対抗戦。
現在までレジョーネの8連勝。
残すところ、あと1戦。
ソフィア、対、天使長ミカエル。
正に、【地上界】と【天界】の現役最強NPC同士の1戦。
まあ、元【天界】最強だったルシフェルは今【魔界】に移ってしまいましたし……ミカエルが【地上界】に来たら、ずっと下位の方にランク・ダウンするはずですが……。
「さあ、数々の熱戦が繰り広げられた、今回の団体対抗戦も、いよいよ、あと1試合を残すのみとなりました。本日のメイン・イベントぉっ!【天使】側より登場するのは……天使長にして、天軍剣士長……ミカエルっ!レジョーネ側より登場するのは……皆さま、ご存知……至高の叡智を持つ天空の支配者にして、セントラル大陸の守護竜……そして【ドラゴニーア】の国家元首……我らが【神竜】様で在られる……ソフィア様ぁあああっ!」
実況アナウンサーが両選手を呼び込みました。
「「「「「うぉーーっ!」」」」」
観客席の興奮は、もはや狂乱と言っても過言ではありません。
ドカーーンッ!ドカーーンッ!ドカーーンッ!ドカーーンッ!
西側の入場ゲートから巨大な火柱が上がりました。
荘厳な入場テーマ曲をバックに、両刃の長剣を携えたミカエルがユックリと入場して来ます。
対するソフィアは……。
ファヴがペンギン、リントがモズでした。
ソフィアは、どんな鳥のコスプレなのでしょうか?
卵マニアのソフィアですから、私の予想は鶏でしょうかね。
ドカーーンッ!ドカーーンッ!ドカーーンッ!ドカーーンッ!
東の入場ゲートに巨大な火柱が上がりました。
ファンシーな曲調の入場テーマ曲が鳴り響きます。
ゴロゴロゴロゴロ……。
ソフィアだと思しきモノが転がりながら入場して来ました。
はぁ?
何だコレ?
いや、ソフィアのコスプレは一目瞭然ですよ。
デカイ卵です。
もはや、鳥ですらない。
壮大な、出オチです。
ゴロゴロ……ゴロゴロ……ゴロゴロ……。
しかし、ソフィアは、真っ直ぐに転がらず、あちらこちらへと、迷走します。
「くっ、この、真っ直ぐ転がらぬのじゃ」
ソフィアが卵の中から苛立たしげに言いました。
それは、そうでしょうね。
卵型なのですから。
「ソフィア。縦に転がったらどうですか?」
「おーっ、そうじゃな。うむ、縦回転ならば……」
ソフィアは、卵の中から言いました。
ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン……。
ソフィア卵は、縦に回転しながら、ようやく試合場の中央に到着します。
「死亡、意識不明などによる戦闘不能、ギプアップのみを勝敗条件とします。現在の装備品、及び、【収納】内の武器類の使用は無制限。試合時間は最長30分で、それを経過した場合は引き分けです」
私は、【拡声】を行使して、会場中に聞こえるように言いました。
ミカエルは、頷きます。
ソフィアは……ジェスチャーは、よくわかりませんが、フロネシスを通じて思念を読み取ると……どうやら、同意しているようですね。
「双方、握手……って、手がないし……」
私は両選手に握手を促そうとして、困惑しました。
ソフィアは、卵なので手も足も出せません。
そもそも、このコスプレで、どうやって戦うつもりなのでしょうか。
少なくとも、近接格闘戦は無理だと思います。
握手の代わりに、ミカエルが卵の上に、そっと手を置きました。
まあ、良いでしょう。
両選手が間合いを取りました。
「始めっ!」
私は、試合開始を宣言します。
ミカエルのステータスは……。
名前…ミカエル
種族…【擬似神格者…ハイ・エルフ】
性別…女性
年齢…なし
職種…【魔法剣宗】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…剣技、王威、王権】など。
レベル…99(固定)
ミカエルの得物は…【神の遺物】のロング・ソード【キアレンツァ】。
ほお、【キアレンツァ】ですか。
【キアレンツァ】は、私が、愛用していていた【アルタキアラ】や、剣聖の愛剣【アロンダイト】や、【オートクレール】と兄弟剣と呼ばれる4振りの内の1振り。
極めて高性能なロング・ソードです。
私が長年愛用し、私の手と魔力に馴染んだ【アルタキアラ】は、リントとの戦いで粉砕されてしまいました。
ゲームマスター本部の【無限ストッカー】から新しい【アルタキアラ】を補充してありますが、あの【アルタキアラ】には愛着があったので、惜しい損失です。
「天使長ミカエル……いざ、参るっ!」
ミカエルが、【キアレンツァ】を下段に構えて踏み込みました。
ガキーーンッ!
ソフィアが卵コスプレの表面に全開の【防御】を展開して、ミカエル渾身の斬り上げを受け止めます。
ガキーーンッ!ガキーーッ!ガキーーンッ!
ミカエルの凄まじい剣撃が繰り出されますが、ソフィアは、その尽くを防ぎました。
というか……ソフィア卵は、ピクリともせず、ただ、その場に佇んでいるだけ……。
うーん、ソフィアは、一体、何をしたいのでしょうか?
ミカエルの一太刀一太刀は、強大な魔力を込められた、どれも必殺と形容出来るモノ。
しかし、ソフィアの強力無比な【防御】によって守られた卵には、傷一つ付きません。
ミカエルは、一度、間合いを取って、【キアレンツァ】に強大な魔力を流し込みます。
ため斬り。
ミカエルは、この一撃に全てを込めるつもりなのでしょう。
「はぁあああーーっ!」
ミカエルは、気合いと共に斬り込みました。
以前に私が対戦した剣聖のそれを上回る、剣速と威力を秘めた、超音速の一閃。
ガキーーンッ!
ピシッ!
グシャッ!
ソフィア卵の表面に、わずかなヒビが入りました。
「痛ぅ……」
ミカエルは、【キアレンツァ】を取り落とします。
見ると、ミカエルの両手首は、完全に破壊されて、グニャリ、と歪んでいました。
「ま、参りました」
ミカエルは、降参します。
「うむ。ミカエルよ。我の【防御】を抜いて、卵の殻にヒビを入れるとは……其方、なかなかやるのう。誇っても良いのじゃ」
ソフィアは、卵の中から言いました。
観客のリアクションは……ポカーン……。
「ミカエル選手の全身全霊を込めた渾身の一撃を、ソフィアが【防御】で防ぎ、ミカエル選手の両手首が完全に破壊されてしまい、ミカエル選手が……参った……を宣言しました。よって、勝者、ソフィア」
私は、【拡声】を行使して、会場中に聞こえるように言いました。
すると……。
「「「「「うぉおおおーーっ!」」」」」
観客席から、雷鳴のような歓声が上がりました。
私は、ミカエルの手首を【治癒】で治療します。
うわー、これは酷い。
ミカエルは、手首だけではなく、両腕と、背骨までグシャグシャに骨折していました。
また、全身の筋肉と腱も全てズタズタに破壊されてしまっています。
これだけの反作用を受けるほどの、剣撃の威力だったのですね。
【超・超位】の一閃。
ソフィアが知性体フロネシスの補助を借りてまで、張った【超・神位】の【防御】を、わずかとはいえ貫通してみせた斬撃。
見事でした。
「ノヒト様、ありがとうございます」
ミカエルは、私に礼を言って退場して行きます。
「ミカエル、あなたの技と戦いぶり……とても、立派でした」
「うむ。人種が剣の技を極めると、あの境地まで到達出来るのじゃな。我は、人種の可能性に希望を見出したのじゃ」
ソフィアは、感慨深そうに良い事を言いました。
ふざけた格好なので、全て台無しでしたが……。
「ソフィア様の勝ち……という結果ですが、今の一戦は、どうだったのですか?イルデブランド長官」
実況アナウンサーは、訊ねました。
「ミカエル選手は、自らの生命をも注ぎ込むようにして、文字通り一太刀に全てを賭けて斬り込みました。しかし、ソフィア様は、それを正々堂々受け止めて、耐えきってみせたのです。ミカエル選手は、自らの敗北を悟って降参しました。正に騎士道精神のぶつかり合う、見事な一戦でした」
イルデブランドさんは、感極まったのか、泣きながら言います。
「なるほど。あの試合に、そのような深い、やり取りが……。さて、剣聖にも、ご感想を頂きましょう」
実況アナウンサーは、剣聖に話を振りました。
「ミカエル選手の、あの最後の一太刀は、俺が理想とする太刀筋だった。悔しいが、今の俺の技ではミカエル選手には及ばない。修行のやり直しが必要だ」
剣聖は、口惜しそうに言います。
「なるほど。当代随一と呼ばれる剣聖を上回る剣の達人、ミカエル選手。今日、また新たな伝説が生まれたのですね。しかし、剣聖すらも理想と称えるミカエル選手の最高の一撃を受けてすら、微動だにしなかったソフィア様は、もはや、筆舌に尽くしがたい圧倒的な強さ。これぞ【神竜】様の真の力。恐れ入りました。えーと、たった今、ソフィア様からの談話が入って参りました。代読させて頂きます……ミカエルは、我の【防御】を抜き、卵の殻にヒビを入れた、誠にあっぱれなのじゃ……と、いう事です。さあ、本日のソフィア様率いるレジョーネ対ミカエル選手率いる【天使】選抜の団体対抗戦は、9戦全勝でレジョーネが勝利しました。解説の、お二方、本日は、ありがとうございました」
実況アナウンサーは、言いました。
「ありがとうございました」
イルデブランドさんは言います。
「どうも」
剣聖は言いました。
「【ドラゴニーア】ニュース社と【ドラゴニーア】国営放送の協力で、世界5大陸に同時生中継で、お送りして参りました本日の試合は、これで終了致します。なお、予定より早く、試合が終了致しましたので、この後午後6時までは、先日行われました、ドラゴン・レース秋のチャンピオン・シップの模様と、チャージ・プレイオフ決勝の模様をダイジェスト版にて再放送致します。本日の実況は、アルトゥーロ・アゴスティーニがお送り致しました。皆様、ご機嫌よう、さようなら……」
実況アナウンサーは、中継放送を締めます。
私は、試合場を後にしました。
・・・
竜城の【闘技場】。
レジョーネ側、選手控え室。
ソフィア、ファヴ、リントは、既にコスプレを脱ぎ、平服に着替えていました。
控え室の床には、ソフィアが散らかしたのでしょう……割れた卵の殻が散乱しています。
私は、【理力魔法】で卵の殻を拾い集めて、ゴミ箱に捨てました。
「ソフィア。どうして一切攻撃をしなかったのですか?」
ソフィアは、ミカエルの攻撃を受けていただけです。
初めから、ミカエルの攻撃を受け切って、負けを認めさせる気だったのでしょうか?
違うでしょうね。
ソフィアは、肉弾突貫娘です。
そして戦い方は基本的に、先手必勝を好みました。
「うむ。周りが何も見えず、武器も取り出せなかったのじゃ。ミカエルの位置は【マッピング】機能でわかったのじゃが……どうやって戦おうか……と思案している間に、ミカエルが勝手に降参したのじゃ」
ソフィアは、言いました。
おーい。
ノープランだったのかーい。
全く、お馬鹿過ぎて、呆れ返りますよ。
ミカエルが逃げの一手、という戦術を取ったら、引き分ける可能性もあった訳です。
考えなしですね。
まあ、お遊びのエキシビション・マッチですから、私としては勝敗など、どうでも良いのですが……。
おっと、スマホに着信が……。
「はい、もしもし。ノヒトです」
「あ、ノヒト様?ペネロペです。予定より遅れましたが、たった今、竜都に戻りました。今は東門にいます」
ペネロペさんは言いました。
飛空船港ではなく、東門……。
つまり、ペネロペさん達は陸路を移動して来たのですね。
今日、ペネロペさん達の冒険者パーティ月虹には、チュートリアルを受けてもらう予定です。
多少、遅い時間になりますが、【ラウレンティア】の神殿には根回しをしてあるので問題ありません。
また、ペネロペさんの他、私の寄子である【ドライアド】の2人と、【ハマドリュアス】の4人にもチュートリアルを受けさせます。
「あー、では、これから、私達は夕食なので、一緒に如何ですか?」
「わかりました。えーと……どちらに伺えば良いでしょうか?」
ペネロペさんは言いました。
「そうですね。では、東門に近い、東歓楽街の入口辺りで待っていて下さい。迎えに行きます」
「わっかりました。あの、旅装を解きたいので、一度、自宅に寄って下さいますか?」
ペネロペさんは言います。
「了解しました。では、だいたい30分後に現地に向かいます」
「はい。では、後ほど……」
ペネロペさんは言いました。
私は、レジョーネに【ワールド・コア】ルームへ向かってもらうように指示します。
夕食に同席するのは、レジョーネ、ファミリアーレ、アルフォンシーナさんとゼッフィちゃん、団体対抗戦に出場した【天使】達9人と付き添いのラグエルを含む10人の【熾天使】……そして、これから迎えに行く、ペネロペさん達月虹のメンバー、【ドライアド】2人と【ハマドリュアス】4人、それからクイーン。
ミネルヴァにも連絡しました。
「トリニティ。私は、ペネロペさん達と、クイーンと【ドライアド】達と【ハマドリュアス】達をピックアップしてから行くので、皆をよろしく」
「仰せのままに致します」
トリニティは、言います。
ならば良し。
さてと、まずは……。
私は、【転移】しました。
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・・・
【お願い】
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