第324話。コスプレ。
名前…クイーン・タナカ
種族…【自動人形】
性別…女性型
年齢…なし
職種…なし
魔法…【闘気】、【高位魔法】、【追尾誘導光子砲】
特性…【自動修復】
レベル…99(固定)
ソフィア・フード・コンツェルン共同出資者。
【タナカ・ビレッジ】で900年間、ユーザー大消失によって消えた主人であるユーザーのエンペラー・タナカの帰りを待ちながら、エンペラー・タナカの農業開拓村を守り、たった1人で孤独に暮して来た。
高い農業の知識と技術を持つ。
ノヒトやソフィア達と出会い親交を結んでいる。
【闘技場】。
レジョーネと【天使】の9対9団体対抗戦も、あと3試合を残すのみ。
レジョーネの6勝……つまり5勝以上を上げたレジョーネの団体戦勝ち越しは、既に決定していました。
そして、レジョーネ側で残る出場選手達は、ソフィア、ファヴ、リントの守護竜3柱。
もはや、レジョーネの全勝は確定ですが、席を立つような観客は1人もいません。
【神話の時代】以来の守護竜の戦闘というモノを間近に見られるからです。
まあ、私とソフィアは、軍や竜騎士団や衛士機構の者達の前で、変則ルール(ソフィアが私を3度攻撃し、私が一歩でも退いたら、ソフィアの勝ち)でのハンデキャップ・マッチを戦った事はありますし……サウス大陸奪還作戦や遺跡攻略……また、つい先日、私とソフィアとファヴは、リントと戦いましたが、市民は誰も、それを知りません。
古に聞く、神の力とは?
観客は興味津々です。
第7試合。
いよいよ満を持して、守護竜が登場します。
対する【天使】は、ミカエル、ガブリエル、ラファエル……現役最古参の【熾天使】にして【改造知的生命体】達。
実は私も、この対戦が少し楽しみだったりします。
ただ……1つだけ気になる事がありました。
それは、ソフィア達は、人化して戦うつもり、のようなのです。
まあ、守護竜形態に現身して戦おうと、人種の姿に化身して戦おうと、もちろん構いません。
ルール違反などではないのです。
しかし、人化して戦うとなると、ソフィア、ファヴ、リントは、衆人環視の元に人化した姿を晒す事になりました。
一応、今まで、ソフィア、ファヴ、リントの人化した姿は、公然の秘密、として機密扱いになっています。
しかし、ソフィア達は……人化した姿を衆目に晒して戦う……と言いました。
今後、プライベートで出歩く時に……守護竜だ……と気付かれて、面倒なのではないのでしょうか?
ましてや、このレジョーネ対【天使】選抜の団体対抗戦は、世界中継の生放送が放映されているのです。
オラクル、ヴィクトーリア、ティファニーは、ソックリな容姿の、私が造った【自動人形】・シグニチャー・エディションが【ドラゴニーア】などの一部地域では結構な個体数が活動していますし、マリオネッタ工房製の【自動人形】・オーセンティック・エディションと【自動人形】・レプリカ・エディションも販売数と出荷量が増え、最近では竜城や主要ギルドや街中で、私の身内以外の所有による個体もチラホラと見かけるようになって来ていますので、誤魔化せると思いますが……。
ソフィアとファヴとリントは、特長的な幼稚園児仕様ですから目立ちますからね。
放送の録画などが出回ると、明らかに個人が特定されてしまいます。
どうするつもりなのでしょうか?
ソフィアは……ちゃんと考えておるのじゃ。我は至高の叡智を持つのじゃ。抜かりはないのじゃ……と自信満々でしたが……。
因みに、私は、【超神位】魔法による【認識阻害】によって、見た人達の認識を改変する技を使い始めたので、少し前から素性を隠す必要がなくなりました。
これはミネルヴァからアドバイスされた実に上手い方法なのです。
ミネルヴァは、やはり凄いですね。
目から鱗、逆転の発想、コロンブスの卵ですよ。
今までの私は、プライベートで素性を隠す為に、私という肖像とゲームマスターという肩書きが結びつかないように情報を管理・統制して来ました。
【認識阻害】の指輪で魔力反応を消し、【誓約】や【契約】によって、私の素性や正体を、いわば機密として扱い、他人に情報漏洩させないようにして来たのです。
端的に言えば……喋るなよ……と口止めして回っていました。
これは、漏洩する情報の末端を塞ぐ考え方。
しかし、私の正体を知る人物が増えれば、自ずから漏れ出る可能性がある穴の数も増えて行きます。
言うなれば、無数の網の目を、手で1つ1つ押さえて、漏れる水を防ごうとするようなモノ。
完全に情報を管理するのは、無理があります。
しかし、ミネルヴァの策では、私が素性を隠す必要はありません。
ただ、私を見た市井の人々で、私がプライベートの素性や正体を教えるつもりがない人達に対して、記憶改変の情報操作を【常時発動能力】として行うだけで良いのです。
これで、私と会ったり話したり、また私を、たまたま見かけたりした人達は、全員、ゲームマスターの肩書きを示して公的な活動をしている私と、プライベートで街中をブラブラしている私とを同一人物として認識出来なくなります。
いわば記憶の曖昧さや、誤解や、思い過ごしや、勘違い……などを強化した【常時発動能力】。
もちろん、【超神位】による【常時発動能力】ですので、比類なく強力。
バッチリ、私の姿や名前などを知っても、ゲームマスターの私と、プライベートの私とが、全く結び付かなくなる訳です。
「あれ、ノヒトさん、て、あの【調停者】ノヒト様に、よく似ているね?」
「はい、本人ですから」
「まさか〜。あははは……まあ、でも、【調停者】様に似ているなんて、凄いね」
「いや、面倒ですよ。皆さん……な〜んだ、よく見たら、本物じゃない……って、ガッカリしますからね」
「有名人に似たら、それは、それで大変なんだね?あははは……」
と、いう具合に完璧に誤魔化せる訳です。
私が……本人だ……と言ってすら、【超神位……認識阻害】が効いている状態では、ゲームマスターの私と、プライベートの私は、完全に別人として認識されてしまいました。
今まで、こんな便利な能力の運用法に気が付きませんでしたが、これは大発明ですよ。
ミネルヴァ、ありがとう。
しかし、この方法は、【超神位】による【常時発動能力】を前提としていますので、私以外には使えません。
ソフィア、ファヴ、リントは、どうするつもりなのでしょうか?
まあ、これから試合を見ればわかりますね。
「さあ、気を取り直して参りましょう。第7試合は、【天使】側より……天軍弓士長、ラファエルっ!そして、レジョーネ側は、【パラディーゾ】の国家元首にして、サウス大陸の守護竜……【ファヴニール】様ぁっ!」
実況アナウンサーが呼び込みを行いました。
ラファエルが愛想良く手を振りながら、入場します。
一方のファヴは、と言うと。
「えっ!何あれっ?」
「やだ、可愛いっ!」
「あれがファヴ様?ファヴ様って、守護竜じゃないの?」
ペタペタペタペタ……。
ファヴ?
……と思しきモノが、ペタペタと足ヒレを鳴らして歩きながら、入場して来ました。
黒い丸っこいフォルム、黄色い足ヒレ、黄色いくちばし、翼……ではなくフリッパー。
ペ……ペンギン?
そうです。
ファヴは、ペンギンのコスプレ姿で現れたのです。
これは、ギャグ・アイテムの【神の遺物】……【ペンギン・スーツ】。
3頭身のアニメチックにディフォルメされた、ペンギンの着ぐるみでした。
この世界のギャグ・アイテムは、案外、馬鹿に出来ない性能があります。
ウルスラがラミエル戦で使った、お風呂の玩具シリーズの潜水艦もそうですが、実用にも耐えうる強力なアイテムが目白押しでした。
【ペンギン・スーツ】は、寒地対応で、潜水能力、高速遊泳能力があり、寒水中域では、とても役に立つ着ぐるみなのです。
私は、ファヴ・ペンギンとラファエルに握手をさせました。
ファヴが差し出したのは、手ではなくフリッパーでしたが……。
「始めっ!」
私は、試合開始を宣言しました。
ラファエルのステータスは……。
名前…ラファエル
種族…【擬似神格者…エルダー・ドワーフ】
性別…女性
年齢…なし
職種…【魔法弓宗】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…弓術、光魔法、攻撃魔法】など。
レベル…99(固定)
ラファエルの得物は、【擬似神弓】。
【擬似神弓】?
うーむ、何でしょう、この武器は?
私が知る限りゲームの公式アイテムには存在しない弓でした。
どうやら【知の回廊】が製造した弓のようですね。
【鑑定】すると、性能は【神の遺物】の最強クラスの弓である【アルテミスの弓】や【ディアナの弓】に劣ります。
擬似とはいえ、神と冠してある弓ですが、私の本物の【神弓】には、性能の面で全く及びません。
まあ、【神の遺物】の弓の全てと比較すると、性能的には中の上クラス。
しかし、ラファエルに合わせて最適化してあるようです。
なるほど。
「ペンギンさん、可愛いけど……本気で攻撃するよーーっ!」
ラファエルは、言います。
シュパッ、シュパッ、シュパッ、シュパッ。
ラファエルは、【擬似神弓】を射ました。
矢は、魔力で形成されるタイプのようです。
光の矢が、残光を糸引きながら、飛んで行きます。
ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ。
ファヴ・ペンギンが両手……もとい、両フリッパーで光の矢を、簡単に、ペチペチと、はたき落としました。
「えっ!何で、魔法矢を弾き返せるの?」
ラファエルは驚愕します。
ファヴは、身体に魔力を流し、濃密な【闘気】を練って、魔法矢を、はたき落としたのです
ふざけた格好をしていますが、この辺りは、さすがファヴ。
「えーっと、じゃあ……【光子砲】」
ラファエルは、【超位光魔法】を放ちました。
ステータスから推測するに、おそらくラファエルの最高の攻撃魔法だと思います。
「クワーーッ!」
ファヴ・ペンギンは、くちばしを開きました。
キュイーンッ、チュドンッ!
【収束神位ブレス】。
ファヴの最強攻撃です。
ファヴの【収束神位ブレス】は、ラファエルの【光子砲】を消失させながら飛び、ラファエルに直撃しました。
ラファエルは、最後まで、キョトン、とした顔をしたまま、消滅してしまいます。
「勝者、【ファヴニール】っ!」
私は、ファヴを指差しながら、宣言しました。
「「「「「わぁああーーっ!」」」」」
ペコリッ。
ペタペタペタペタ……。
ファヴは、貴賓席にいるソフィアに一礼してから、足ヒレをペタペタ鳴らしながら退場して行きます。
「さて、ペンギン……いや、【ファヴニール】様の完勝でしたね?どうでしたか?イルデブランド長官?」
実況アナウンサーが訊ねました。
「正に、神の力。ラファエル選手の攻撃は、いずれも、【超位】級。戦慄するような威力でした。しかし、それを、避けもせず、真正面から粉砕し、圧倒的な【神位ブレス】で捩じ伏せた。守護竜様の強さの一端を垣間見ましたね」
イルデブランドさんは、感嘆します。
「なるほど。剣聖は、どうでしたか?」
実況アナウンサーは訊ねました。
「最後の【神位ブレス】は、おそらく収束させて、威力を上げていた。面制圧ではなく、対個体に特化した恐るべき破壊力を持った【ブレス】だな。あれは、人種には防ぎようがない。ただただ、強い」
剣聖は、嘆息します。
「なるほど。良くわかりました。さて、第8試合に移ります。【天使】側からは、天軍槍士長……ガブリエルっ!レジョーネ側……【サントゥアリーオ】国家元首にして、ウエスト大陸守護竜……【リントヴルム】様ぁっ!」
実況アナウンサーが呼び込みを行いました。
第8試合。
ガブリエルは、彼女の小柄な身体には長過ぎると思える2mほどもある槍を持って入場します。
対するリントは……。
リントは、何だか、よくわからない鳥のコスプレでした。
スズメ……いや、ウズラか?
モズじゃ。
ソフィアが【念話】で教えてくれました。
あ、そう。
【鑑定】で見ると【着ぐるみ】としか出ません。
公式アイテムではなく、ユーザーかNPCが作ったモノのようです。
ファヴがペンギンで、リントはモズ。
鳥類シリーズ?
まあ、何でも良いですよ。
リント・モズの翼と、ガブリエルの手で握手をします。
「始めっ!」
私は、試合開始を宣言しました。
ガブリエルのステータスは……。
名前…ガブリエル
種族…【擬似神格者…ハイ・ヒューマン】
性別…女性
年齢…なし
職種…【魔法槍宗】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…槍術、調整、加工】など。
レベル…99(固定)
ガブリエルの得物は、ルシフェルが造ったのだという無垢のオリハルコンの槍。
銘は【デストリュクシオン】。
【神の遺物】ではありませんが、私が見ても、なかなか良い出来栄えの【魔法槍】です。
ルシフェルは、鍛治も出来るのですね。
私は、ルシフェルの評価を1段階上方修正しました。
「うらぁーーっ!」
開始の合図と同時にガブリエルが打ち込みました。
ガブリエルは、槍を突かずに、なぎ払って使うスタイルのようです。
棍や杖のように長柄の鈍器としての用途のようですね。
無垢の総オリハルコン製の長い鈍器ですから、魔力を流して打てば、尖端で突き刺さなくても、相手を殺せる訳です。
ガブリエルは、縦横左右と槍を回転させながら、また、時には、自分が回転しながら、2mの長槍の中心部を持って、短い間合いから猛烈な連撃を繰り出しました。
リントに魔力を収束させる暇を与えず、ブレスも魔法も封じようという戦術。
強力な魔法職と戦う時のセオリーです。
これは、武道大会レギュレーションのように、開始の合図の前に魔力収束や魔法の詠唱保留などをする事が認められておらず、また、近接した状態からヨーイ・ドンで戦闘が始まる場合には、案外有効でした。
リント・モズは、ダッキング(モズ・イングかもしれませんが……)、ウィービングなど体捌きを駆使して、ガブリエルの連撃を回避します。
凄いっ!
ガブリエルの連撃は、恐ろしく高速です。
速過ぎて、槍が空気を割く音が遅れて聞こえるほど。
オリハルコンは、超硬度を誇り、軽量ながら弾性が低い金属なので、しなりがありません。
その分、取り回しがダイレクトでシャープ。
レスポンスが必要とされる高速の連撃には向いています。
ガブリエルは、自分の背中を通したトリッキーな動きから横なぎを仕掛けました。
リント・モズは、スウェー・バックして躱します。
しかし、槍の中央部付近をグリップしていた、ガブリエルは、スルーッ、と握りを滑らせて、石突きをグリップ。
長槍の、2mのリーチをフルに使って、リント・モズを追撃しました。
リント・モズは、槍を跳躍して躱します。
ガブリエルは……不味い……という表情を見せました。
本来、攻撃を跳躍して回避するという行為は、武道では悪手とも云われています。
空中にいる間は、機動変更が出来ず、無防備になるからでした。
しかし、それは、魔法が使えない者の場合。
リントは、魔法が使えます。
当然、空中に跳躍した直後、直角に機動変更してガブリエルに向かって近接しました。
対するガブリエルは、槍を長く使って振った為に、回旋半径が大きくなり、槍の手元への戻りが遅くなっています。
無防備なのは、ガブリエル。
ガブリエルは、魔法を詠唱してリント・モズを迎撃しようとしましたが、一瞬で超音速に加速したリント・モズに対して間に合うはずもありません。
グシャーーッ!
ガブリエルの頭部は、リント・モズのフライング・ニー・パットで破壊されてしまいました。
「勝者、【リントヴルム】っ!」
私は、リントを指差して宣言します。
「この子、人種にしては、なかなかヤルわね」
リント・モズは、満足気に言って、悠然と退場して行きました。
「「「「「おおぉーーっ!」」」」」
観客席からは、地鳴りのような大歓声が上がります。
「ガブリエル選手が素晴らしい槍の妙技を見せてくれましたが、それを上回る体術を披露した【リントヴルム】様が勝ちました。えーと……これを、お知らせすれば良いのですね?……えー、たった今、とある関係者様からの情報が入りました。【リントヴルム】様の装いは、モズ……えー、鳥類のモズなのだそうです。さあ、イルデブランド長官、今の一戦を振り返っての、ご感想をお願いします」
実況アナウンサーは、謎の関係者からもたらされた情報を読んだ後、イルデブランドさんに話を振りました。
ソフィアが何故、モズ、に拘っているのかは、わかりません。
「リント様の強さは、わかりきっています。ほとんど魔法も使わず、ガブリエル選手を倒してしまいました。しかし、ガブリエル選手も強かったです。ガブリエル選手は世界最高レベルの槍使いです」
イルデブランドさんは言いました。
「ほお、元竜騎士団長で、ご自身も偉大な槍使いであもあったイルデブランド長官をして、世界最高レベルの評価ですか?ガブリエル選手も強かったのですね。剣聖は、どう見ますか?」
実況アナウンサーは、言います。
「あのガブリエル選手は、本物だ。一度、手合わせしてみたい」
剣聖は言いました。
「剣聖をして、そこまで言わしめるガブリエル選手は凄い。しかし、そのガブリエル選手を向こうに回して、圧倒した【リントヴルム】様の強さは、もはや計り知れません。いやぁ、見応えのある一戦でした」
実況アナウンサーは、言います。
本当にそうですね。
良い試合でした。
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・・・
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