第323話。ウルスラ、必勝の策。
本日3話目の投稿です。
【闘技場】。
レジョーネと【天使】選抜による団体対抗戦は、4試合を消化してレジョーネの4連勝。
レジョーネ側には、まだ守護竜3柱が残っていますので、もはや団体戦の勝敗はレジョーネの勝利が確定的でした。
しかし、直前の試合で大神官アルフォンシーナさんが見せた素晴らしい戦いに、観客のボルテージは白けるどころか最高潮に達しています。
「アルフォンシーナ様の勝利で終わった試合でした。さて、解説を、お願いしたいのですが。まずは、イルデブランド長官から、どうぞ」
実況アナウンサーは言いました。
「脱帽です。私は、アルフォンシーナ様の若い頃……ゲフン、ゲフン……今も若々しくていらっしゃいますが……つまり、数百年前以前の武勇伝を聞き及んでおりました。実際にアルフォンシーナ様の戦いを、この目で見られて、感動致しました」
イルデブランドさんは、途中、地雷を踏み抜きそうになりながらも、辛うじて持ち堪えて、感想を述べます。
「いやぁ、大変に、お強い方だったのですね。きっと多くの【ドラゴニーア】国民は、知らなかったのではないのでしょうか?どうですか、剣聖?」
実況アナウンサーは剣聖に話を振りました。
「俺は、若い頃、アルフォンシーナ様に稽古を付けてもらった事もあるから知っていた。当時は、まるで歯が立たなかった。修行して、今なら勝てると思っていたが……今の試合を見たら、自信がなくなった。あの婆さん……ゲフン、ゲフン、あ、いや、あの……つまり、アルフォンシーナ様は、バケモノ……あ、いや、その……とんでもなく強い……という事が、改めて、よくわかった」
剣聖は、完全に地雷を踏み抜き、しどろもどろになって、追い討ちで2個目の地雷を踏んでしまいました。
私は……剣聖が後で酷い目に遭う……という事が、よくわかりましたよ。
「……なるほど。さあ、第5試合に移りましょう。【天使】選抜からは……イスラフェルっ!レジョーネからは……ティファニー・レナトゥス法皇猊下っ!」
実況アナウンサーは、剣聖の不用意発言を華麗にスルーして、選手を呼び込みました。
私は、2人の選手に握手をさせます。
「始めっ!」
私は、試合開始を宣言しました。
イスラフェルのステータスは……。
名前…イスラフェル
種族…【天使】
性別…男性
年齢…193歳
職種…【魔法槍士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…槍術、先導】など。
レベル…99
イスラフェルの得物は、槍【ルーン】でした。
対する、ティファニーは、いつもの【聖杖】、【法皇の法衣】、【聖冠】などの法皇装備。
戦闘向きの装備ではありませんが、どうなるでしょうか?
イスラフェルが一気に間合いを詰めて、渾身の槍を突き込みました。
ティファニーは、【聖杖】で槍の穂先を脇に受け流して、そのままクルリと回って、上段後ろ回し蹴りをイスラフェルの側頭部目掛けて放ちます。
イスラフェルは、素早く、間合いを取って、ティファニーのエゲツない蹴りを躱しました。
ゴォーッ!
ティファニーの魔力を込めた蹴りの余波が空気を切り裂く音を立てます。
イスラフェルは、再びの突き込みをしました。
今回は、三段付き。
ティファニーは、【聖杖】で受け流しますが、3発目の突きで、弾き飛ばされてしまいました。
イスラフェルは、槍に、何か魔法を込めていましたね。
ティファニーは、【飛行】で衝撃を緩和しながら、着地しました。
そこに間髪を容れず間合いを詰めた、イスラフェルが魔法を槍に込めて高速で突き込み追撃します。
が、それは、ティファニーの罠でした。
ドッカーーンッ!ドッカーーンッ!ドッカーーンッ!
ティファニーは、魔法効果の発動を保留した【爆熱】を起爆しました。
イスラフェルは、爆発に巻き込まれます。
これは!
グレモリー・グリモワール(私)が得意とする遅延式ブービー・トラップ魔法です。
それも同時に3発。
どうやら、ティファニーは、【ワールド・コア】ルームの訓練場で行われた、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールの手合わせの映像を分析して、自力で遅延式ブービー・トラップの再現に成功したようです。
イスラフェルは、甚大なダメージを被りました。
得物の【ルーン】も、イスラフェルの手を離れて地面に転がっています。
ティファニーは、イスラフェルにトドメを刺しに動きました。
が、今度は、イスラフェルの罠です。
ティファニーの死角から、【ルーン】が飛来しました。
【ルーン】は、自動攻撃のギミックがあるのです。
ティファニーの背後に迫る【ルーン】。
しかし、ティファニーは、そのままイスラフェルに接近します。
【ルーン】がティファニーの背中に突き刺ささると思った刹那。
ティファニーが紙一重で身を翻して、【ルーン】を躱しました。
グサーーッ!
イスラフェルは、呆然としていました。
何故なら、【ルーン】は、イスラフェルの胸に深々と突き刺さっていたからです。
血を吐くイスラフェルに対して、ティファニーが【光子砲】を放ちました。
「勝者、ティファニーっ!」
私は、ティファニーを指差して宣言しました。
「「「「「おーーっ!」」」」」
観客の歓声が響きます。
「ガッ!ゴフッ!グエッ!ごめんなさい……」
ん?
マイクを通じて、会場に、何か、雑音が入りましたが……とりあえず、それは無視しましょう。
幸いにして、会場の大歓声に、かき消されて、観客には気付かれていませんので……。
第5試合は、チェス・ゲームのような読み合いを制して、ティファニーが勝利しました。
もっとも、ティファニーは、随分と余力を残しています。
いいえ、ティファニーだけではありません。
オラクルもヴィクトーリアもです。
彼女達は、誰も【追尾誘導光子砲】を使いませんでした。
あれを撃って、飽和攻撃をすれば、もっと楽に勝てたはずです。
にも拘わらず、【追尾誘導光子砲】を温存して勝ちきってしまいました。
実は、彼女達の試合は、全て見た目以上の圧勝だったのです。
「えー……さあ、今の試合の解説を、お願いします。イルデブランド長官」
実況アナウンサーが促しました。
「あ、ああ、はい。えー、一見すると、イスラフェル選手の自爆に見えますが、そうではありません。まず、何やら、不思議な魔法による攻撃でティファニー様が、布石を置いたのです。それに対してイスラフェル選手が罠を仕掛けて応戦しましたが、ティファニー様は、それすらも利用して勝った。いやぁ、なかなか高度な心理戦でしたよ。はははは……」
イルデブランドさんは、多少、乾いた笑いをしながら解説します。
「なるほど……剣聖はいかがですか?答えられますでしょうか?」
実況アナウンサーは、訊ねました。
「あ、ああ、イルデブランド長官と同じ意見だ……」
剣聖は、何やら、くぐもった声で答えます。
ああ、剣聖は、さっき、実況席に乱入したアルフォンシーナさんから、しこたま殴られていましたからね。
まあ、自業自得です。
「さあ、5試合を終わって、レジョーネの全勝。この時点で、レジョーネのチームとしての勝利は確定しましたが、我らが守護竜たるソフィア様は、レジョーネの全勝を宣言しておいでです。さあ、この後の熱戦を、ご期待下さいませ。コマーシャルを挟み、ハーフタイムショーで【ドラゴニーア】竜騎士団による編隊飛行のデモンストレーションがあって、その後、後半戦を再開致します」
実況アナウンサーは、言いました。
会場も、このタイミングで休憩を挟みます。
私は、観客席に戻りました。
まずは、実況席にいる、瀕死の剣聖を治療してから、貴賓席にいるレジョーネとファミリアーレに合流します。
・・・
【闘技場】の貴賓席。
私は、レジョーネとファミリアーレがいる貴賓席に、やって来ました。
ファミリアーレは、興奮頻り、という様子。
レジョーネは、平常心。
アルフォンシーナさんは、どことなくスッキリとした表情でした。
まあ、そこは触れないでおきましょう。
アルフォンシーナさんの左腕には、新しい義手が装着してありました。
ふむふむ、凄い技術ですね。
どうやら、アルフォンシーナさんの魔力を使って射出されるギミックのようです。
射速は音速で、攻撃威力値は【超位】。
強力です。
1発しか撃てないのが弱点ですが、これだけの威力なら、十分な武器でしょう。
私は、お茶を飲んで一服します。
「次は、ウルスラじゃ。手はず通りにやれば、必ず勝てるのじゃ」
ソフィアは、ホットドッグを食べながら言いました。
「わかった〜。楽勝だかんね」
ウルスラは、シュッ、シュッ、とシャドー・ボクシングのような動きをしながら言います。
大丈夫でしょうか?
確かに、ウルスラの【気絶・捕縛】は強力ですし、仮に【超位】級の相手でも、当たれば無力化出来ると思います。
しかし、当たるでしょか?
対戦相手は、【熾天使】。
【超位】級の魔法戦闘職です。
ウルスラには、【気絶・捕縛】しか攻撃手段はありません。
【気絶・捕縛】は近接攻撃魔法です。
【天使】は高速で飛べるのですよ。
高速飛行する相手に、近接して【気絶・捕縛】を当てる事が可能なのでしょうか?
何か、ソフィアに策があるようですが……。
どうなるでしょうか?
ハーフタイムショーの竜騎士団の編隊飛行のデモンストレーションが終わって、後半戦が始まりました。
私は試合場に戻ります。
・・・
【闘技場】の試合場。
「さあ、第6試合を開始します。【天使】側……ラミエルっ!レジョーネ側……【妖精女王】ウルスラ様っ!」
実況アナウンサーが選手を呼び込みます。
ド派手な演出があって、私は、入場した双方の選手を握手させました。
「始めっ!」
私は、試合開始を宣言します。
ピューーンッ!
途端、ウルスラは、脱兎の如く、逃走しました。
まあ、それは、そうでしょう。
ウルスラには、相手に効かせられる有効な攻撃手段が近接攻撃しかないのです。
相手の隙を突いて、乾坤一擲の勝負をするタイミングまでは、逃げ回るしか打つ手がありません。
ウルスラの対戦相手であるラミエルのステータスですが……。
名前…ラミエル
種族…【天使】
性別…女性
年齢…190歳
職種…【魔法剣士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…剣技、規律】など。
レベル…99
ラミエルの得物は、バスタード・ソード【ガスティガ・フォリ】。
ラミエルは、【ガスティガ・フォリ】を振るって、刀身から魔法を放ちますが、ウルスラは逃げ回り、当たりません。
ウルスラのサイズも、的が小さくて、厄介な様子。
ラミエルは、高速で飛行しながらウルスラを追撃しますが、逃げの一手のウルスラは、意に介さず、逃げ回ります。
ウルスラは、逃げ隠れするのは得意ですからね。
ん?
ウルスラが何やら魔法陣を空中に設置して発動を保留しています。
儀式魔法?
ですが、ウルスラの攻撃魔法は、儀式魔法だとしても、攻撃威力値が、激弱に下方修正されてしまう、というナーフ補正がかかる設定でした。
なので、どちらにしても相手を倒せるような魔法ではないはずです。
ラミエルは、ウルスラを追撃しながら、魔法を放ち、徐々に、ウルスラの逃走経路を制限して行きました。
これは、捕捉されてしまうのも時間の問題でしょう。
「ヤバっ!」
ウルスラが急ブレーキをかけました。
ウルスラが止まった鼻先に、ラミエルが放った強力な魔法が通り過ぎます。
あー、これは追い詰められた。
ラミエルは、魔法を放とうと詠唱を……。
と、その瞬間。
一瞬早く、ウルスラが儀式魔法を発動しました。
すると……。
ザッバーーンッ!
ウルスラがコソコソと設置して回っていた無数の魔法陣から、膨大な水が噴き出したのです。
ラミエルは、その噴き出した爆流の一筋に巻かれて、魔法の詠唱を中断させられてしまいました。
何をしたのですか?
私は、ウルスラが設置した儀式魔法の魔法陣の構造を解析しました。
すると、ウルスラの設置した魔法陣は、転移座標。
ん?
どういう事でしょう?
ただの転移座標に水を噴き出させる効果などありません。
ああ、これは、【転送】の出口ですか。
つまり、転移座標の先には、どこか大量の水場に繋がっていて、【転送】の【魔法装置】から大量の水が送り出されて来ているのでしょう。
この間【ラニブラ】に行った時、【自動人形】・オラクル・エディションを派遣して、【ムームー】の南方沖合の海底に【転送】の【魔法装置】を大量に設置しておいたのじゃ。
ソフィアが【念話】で伝えて来ました。
うわ〜……きったねぇ〜。
まあ、ギリギリ、ルール違反ではありませんが、正々堂々とは言い難い事前工作です。
このまま、試合場が水没すれば、ラミエルは溺死。
対するウルスラは【妖精】。
呼吸をしなくても死にません。
コレが、ソフィアが用意したウルスラ必勝の策ですか……卑怯ですね。
ソフィア・フード・コンツェルンの流通網構築の為に、私は、ソフィアに【転送】の【魔法装置】を大量に渡してあります。
それを、今回のコレの為に流用したのでしょう。
転移座標から噴き出した爆流は、猛烈な勢いで【闘技場】の試合場を埋め尽くし、どんどん水位を増して行きます。
しかし、観客席には、【創造主】の【結界】の効果で全く水は流れて行きません。
「くっ……」
ラミエルは、かなり面食らっています。
しかし、ラミエルは、すぐに最適解を導き出しました。
試合場が冠水して、水没する前に、ウルスラを倒してしまえば良いのだ……と。
ラミエルは、猛烈な勢いで魔法の集中砲火を、ウルスラに浴びせました。
ウルスラは、逃げ回っていますが、とうとうラミエルに捕捉されてしまいます。
ラミエルの魔法がウルスラに直撃……と思った刹那。
ガキーーンッ!
ラミエルの魔法は、何か大きな物体に阻まれました。
「危っな〜っ!ギリギリ、セーフだね〜」
ウルスラは、そう言うと、その大きな物体のハッチを開けて乗り込みます。
ウルスラは、【収納】から、ソフィアの、お風呂の玩具シリーズの1つ……潜水艦を取り出して、実寸大に再現。
それを盾に、ラミエルの攻撃を防いだのです。
き、きたね〜っ!
乗り物を持ち出しやがったよ。
もはや、スポーツマン・シップもヘッタクレもありません。
ルールの不備を突いた、完全なズル。
この手のズルは、良く良く考えてみれば、誰かが、やっていてもおかしくはなかったのですが……少なくとも私は過去に見た事はありません。
さすがに武道大会に潜水艦だとか、【砲艦】だとかを持ち込むのは、ダメだろうという良心的な共通認識があったのだ、と思います。
何故なら、武道大会は、武道の大会だから。
潜水艦って、武道と関係ないじゃん!
これは……乗り物などを【収納】に入れて持ち込み、試合に使用する事は禁止……とルールに明記する改正が必要でしょう。
しかし、現状では、ルールの不備により、このズルは、セーフ。
つまり、ウルスラ……そして、ソフィアの暴挙を止める事は審判である私にも出来ません。
潜水艦に乗り込んだウルスラは、水中から、ラミエルに魚雷やハープーン・ミサイルを撃ち込み始めました。
ずり〜。
マジで卑怯ですね。
これは、もう試合ではありません。
イジメです。
それでもラミエルは、必死に戦っていました。
私は、密かにラミエルを応援してしまいましたよ。
うん、ラミエルは、本当に良く戦いました。
立派です。
……が、辛うじてラミエルが戦えていたのは、試合場が完全に水没しきるまで。
試合場が水没した後、ラミエルは半ば溺れながらも必死に抵抗の構えを見せていましたが……。
ウルスラの乗る潜水艦からの魚雷攻撃の集中砲火を浴びて、最後は息が続かなくなり、溺死してしまいました。
可哀想なラミエル……。
私は、【超神位魔法】で、大量の転移座標を全て消して回り、水の供給源を止めた上で、試合場を埋め尽くした膨大な海水を、丸っと【収納】に回収します。
生物は【収納】に回収出来ないので、試合場の床面には、多様な魚介類や海藻やプランクトンが残されました。
「勝者……ウルスラ」
私は、多少、投げやりに宣言します。
観客からの冷ややかな視線。
明らかに……ズルなんじゃね……というリアクションです。
私は、観客に……ウルスラの戦い方は、現状のルール上は辛うじて違反行為ではない……と、説明しました。
観客達は微妙な表情。
「ウルスラ。良くやったのじゃ。ルール上違反でないのならば、それは正当な戦法なのじゃ。これは、戦術の勝ちなのじゃ」
ソフィアが貴賓席から大声で言いました。
それを合図に観客席からは、パラパラと拍手が起こります。
ソフィア……色々と言いたい事もありますが、ルール上セーフなので何も言いません……とりあえず【転送】の【魔法装置】は、キチンと回収しておいて下さいね。
私は、ソフィアに【念話】で伝えました。
うむ……既に回収を命じたのじゃ。
ソフィアは、【念話】で答えます。
この試合に関しては、イルデブランドさんと剣聖の解説は、なし。
兎にも角にも、レジョーネは6勝目を上げました。
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・・・
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