第321話。レジョーネ、対、熾天使(セラフィム)対抗戦。
名前…ヨリック
種族…【エルフ】
性別…男性
年齢…15歳
職種…【研究員】
魔法…【風魔法】(未習得)、【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…風魔法】
レベル…7
ソフィア&ノヒト(コンパーニア)傘下アブラメイリン・アルケミー所属。
孤児院出身者。
【ドラゴニーア】竜城。
私達は、そのまま【闘技場】に向かいました。
今日は、これから、レジョーネ対【天使】選抜との試合が行われます。
試合形式は、9対9の星取り団体戦。
先に5勝した方が勝利となります。
・・・
【闘技場】。
へ?
何ですか、このカオスは?
【闘技場】には、立錐の余地もなく超満員。
興奮の坩堝と化していました。
私は、試合に観客を入れる、などとは聞いていなかったのですが?
アルフォンシーナさんがやって来ました。
「ノヒト様。ご覧のように超満員札止め。立ち見を含め、8万5千人が詰めかけております」
アルフォンシーナさんは、ニッコリと微笑んで言います。
「観客を入れたのですね?」
「いけませんでしたでしょうか?ソフィア様に、ご許可を頂きましたが?」
アルフォンシーナさんは言いました。
「うむ。市民の娯楽じゃ。それに、チケット代、賭けの収益、売店の売上も莫大じゃ。ウッハウハなのじゃ。因みに、我は、レジョーネの全勝に賭けておる。皆、敗けは許されぬぞっ!」
ソフィアは、レジョーネに気合いを入れます。
あ、そう。
まあ、【ドラゴニーア】では、収入や資産状況に応じて、個人個人に年間の賭けへの上限金額が定められていますので、破産したり、ギャンブル依存症になったりする心配はありません。
ソフィアとアルフォンシーナさんがOKなら、私がとやかく言う事でもないですけれどね。
そうこうしていると……【天使】の選手団が到着した……という一報がありました。
私は、ガブリエルに、竜城に転移座標を設置させてあります。
ガブリエルが選手団を連れて、【シエーロ】から竜城にやって来た訳ですね。
彼らは、チュートリアルを経て全員【転移】の能力に覚醒しているので、帰りも【転移】で問題なく帰れます。
アルフォンシーナさんが、【女神官】に【念話】で指示して、【天使】選手団を【闘技場】へと誘導案内させました。
【天使】側は、今回、【熾天使】から出場選手を選抜して試合に参加します。
【熾天使】は10人。
この内、【回復・治癒職】であるラグエルを除いた9人が試合に出場します。
彼らは全員チュートリアルに参加している個体でした。
この選手選考は、当然の事。
そもそも、今回の団体戦が行われるキッカケになったのは、【天使】達が……【魔界】のスタンピードを止める為に軍を組織して攻め込みたい……などと言い出した事に端を発します。
【魔界】のスタンピードは、レジョーネが止める予定でした。
【天使】の将兵達は、それを手伝いたい、と言うのです。
しかし、私やソフィアは、脆弱な【天使】達が、戦場に、しゃしゃり出て来ると、逆にレジョーネの足手纏いになり邪魔なので、許可しませんでした。
しかし、好戦的で脳筋バカが多い【天使】達は、全く納得しません。
なので、レジョーネと戦って勝利して……自分達が足手纏いでない事を証明してみろ……という理屈。
私とソフィアの指示で、今回の試合の出場選手は、【天使】からは、最強の者達が選ばれました。
なので、必然的に最上位者である【熾天使】からの選抜という訳です。
【天使】は、完全な階層構造社会を持ちました。
最強の上位者である【熾天使】がレジョーネに負ければ……レジョーネを手助けしてスタンピードを止める為に戦いたい……などという迷惑な志願者を封殺する事が出来る訳です。
厳密な事を言えば、【魔界】の庇護者として送り込んだルシフェルと彼の陣営の者達からも出場選手を選抜しなければ、真の【天使】選抜チームとは言えません。
しかし、ルシフェル陣営の最強個体達は、管理上グレモリー・グリモワールの【眷属】となっていました。
そして、私は、その主人代行権限者となっています。
ルシフェル達9人は、私に従うようにグレモリー・グリモワールから【命令強要】されていますので、試合の公正が担保出来ない、という判断で、今回の試合のメンバー選考から除外されていました。
しばらくして。
【天使】選手団は、【闘技場】の入場ゲートから現れました。
皆、武装しています。
途端。
ブゥウウウウーーーーーー……。
観客席を埋め尽くした【ドラゴニーア】の市民による容赦ないブーイングが鳴り響きました。
完全アウェー。
まあ、ソフィア率いるレジョーネにアルフォンシーナさんを加えたチームと対戦するのですから、こうなる事はわかりきっています。
【天使】達は、何故か、笑顔で観客に手を振ったりしていますね。
もしかしたら【シエーロ】には、ブーイング、という文化はないのでしょうか?
まあ、良いでしょう。
「ご列席の紳士、淑女の皆様。いよいよ、至高の叡智を持つ天空の支配者にして、我らが国家元首で在られるソフィア様と……【ドラゴニーア】の統治者にして、首席使徒たる大神官アルフォンシーナ様が率いるレジョーネ・チーム対……【シエーロ】からやって来た刺客達、【天使】チームの9対9の対抗戦が行われます。尚、この試合の模様は、【ドラゴニーア】ニュース社、及び、【ドラゴニーア】国営放送の協力で、世界5大陸に同時中継されます」
【闘技場】の中に、実況アナウンサーの軽妙な語りが流されました。
「「「「「おーーっ!」」」」」
観客から、凄まじい歓声が上がります。
「さて、本日のゲスト解説者の、お2人を、ご紹介致します。まず、お1方は、人種最強の一角とも名高い【ドラゴニーア】軍のイルデブランド長官。長官、よろしくお願いします」
「よろしく、どうぞ」
会場にイルデブランドさんの声が響きました。
「そして、もう、お1方は、人種を超えた【聖格者】……冒険者ギルドのグランド・ギルド・マスターにして、当代の剣聖……ご存知、クインシー・クイン殿です。よろしくお願いします、剣聖」
「ああ、よろしく」
会場に剣聖の声が響きます。
ふぁ?
剣聖は、今日、【ドラゴニーア】にやって来る、と聞いていましたが……一体何をしているのですか?
「さあ、お2方に、戦前の予想を、お伺いしたいのですが……まずは、イルデブランド長官から」
実況アナウンサーが訊ねました。
「はい。何分と【天使】側の情報がわからないので難しい分析となりますが……ソフィア様、ファヴ様、リント様の守護竜お3柱の勝利は、揺るぎないでしょう。賭けの興味は、【天使】側が何秒耐えられるか、の一点に絞られましたね。それから、【調停者】ノヒト様の従者様で在られるトリニティ様も強力無比です。我々は、日頃、トリニティ様と、訓練にて手合わせを、お願いする事もありますが、瞬殺です。まるで、勝負にもなりません。トリニティ様は、たぶん【神格者】に匹敵する戦闘力があるでしょう。レジョーネ側の、この4勝は盤石で確定でしょう。ウルスラ様、オラクル様、ヴィクトーリア様、ティファニー様に関しては、詳細不明ですが、この4名は、ソフィア様とリント様の従者様や首席使徒様です。弱い訳はないと思います」
イルデブランドさんは淀みなく解説しました。
「なるほど。トリニティ様と言えば、先頃、【調停者】様代理という職責に、正式に、ご就任あそばされた、とか。つまり、名実共に【神格者】に匹敵する訳ですね。では、次に剣聖……戦前の予想をお願いします」
実況アナウンサーが情報を補足します。
「正直言って予想は難しいが……神話の時代から戦闘種族として有名な【天使】が、どういった戦いを見せるのかは、興味深い。今日は、楽しませてもらいたい」
剣聖は言いました。
「なるほど。剣聖をして……楽しみな試合……と言わしめる、世紀の一戦、という訳ですね。これは、否が応にも、興奮して参ります。さあ、ここで、本日の審判を、ご紹介致しましょう。先程も話題に上がりました、最高神たる【創造主】様の御使にして、現代唯一の【調停者】様で在らせられる、ノヒト・ナカ様の登場ですっ!」
実況アナウンサーが私の名前をコールします。
「「「「「うおーーっ!」」」」」
観客の歓声が響きました。
は?
何この晒し者感。
凄く、嫌なのですが……。
「さあ、ノヒトよ。早う、入場せよ」
ソフィアが私を促します。
私は、不承不承、【闘技場】に入場しました。
・・・
【闘技場】試合場。
私は、観客席の四方に向かって順番に礼をしました。
観客席からは、万雷の拍手が鳴り響きます。
「いやぁ、【神竜】様ご復活記念武道大会のエキシビションの衝撃以来、【調停者】ノヒト様の人気は凄まじいですね。本日の試合には、参加なさいませんが、ノヒト様は、巷では、世界最強との呼び声も高いお方です。さて、本日のゲスト解説者である剣聖は、ノヒト様と手合わせをなさったのですが……ノヒト様の強さは、いかほどでしょうか?」
実況アナウンサーは訊ねました。
「間違いなく現在の森羅万象世界最強だ。これは、ノヒト様と立ち合って負けたから言う訳ではなく、ソフィア様も同様の見解を仰っていた」
剣聖は言います。
「本日の試合に参加なさらないのは残念ですが、ノヒト様に勝てるモノなど存在しないので試合が成立しない、という事なのでしょう。因みに、先頃、ノヒト様、ソフィア様の、お2柱を中心としたレジョーネは、900年あまり魔物に支配されていたサウス大陸を人種文明に奪還なさいました」
実況アナウンサーが情報を補足しました。
「「「「「おお〜っ!」」」」」
観客から再び凄まじい歓声が上がります。
「さあ、いよいよ始まります……」
実況アナウンサーが言いました。
すると、会場の照明が暗転しました。
「第1試合の出場選手が入場します。【天使】選抜……サリエルっ!レジョーネ……オラクル様っ!」
実況アナウンサーが呼び込みをします。
ボンッ、ボンッ、ボンッ!
双方の入場ゲートから、火柱が上がりました。
ド派手な演出です。
入場テーマ曲のようなモノも鳴り響きました。
オラクルとサリエルが入場ゲートから現れると、2人にサーチ・ライトが照らされます。
サーチ・ライトは、中央に向かって歩く2人の歩調に合わせて徐々に近付き、やがて1つに重なりました。
「死亡、意識不明などによる戦闘不能、ギプアップのみを勝敗条件とします。現在の装備品、及び、【収納】内の武器類の使用は無制限。試合時間は最長30分で、それを経過した場合は引き分け。さあ、握手して」
私は、【拡声】を行使して、会場中に聞こえるように言います。
オラクルとサリエルは、握手をした後、間合いを取りました。
「始めっ!」
私は、宣言します。
さて、サリエルのステータスですが……。
名前…サリエル
種族…【天使】
性別…男性
年齢…197歳
職種…【死霊術師】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など多数。
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】、【才能…死霊術、隷属】など。
レベル…99
なかなか強力です。
仮に、トリニティが対戦相手なら戦術を練り上げれば、100回に1回くらい、マグレで勝てるかもしれませんね。
しかし……オラクルが相手では、相性が悪過ぎです。
「【暗転】、【認識阻害】、【闇霧】」
サリエルは、隠密系の魔法を次々に詠唱しました。
しかし、無意味。
【マッピング】で、サリエルの行動は丸裸です。
ただし、オラクルが反応しません。
サリエルの思惑に乗ってやるつもりなのでしょう。
最近、オラクルは、ソフィアとの交流で、かなり個性が出て来ました。
通常【神の遺物】の【自動人形】は合理的な行動を取り続けるモノなのですが、オラクルやヴィクトーリアは、こうした試合や訓練などでは、遊び心、を発揮するようになって来ているのです。
しかし、ソフィアから……敗けは許さない……と厳命されているので、力を抜いている訳ではありません。
計算し尽くした上で、確実に勝つ、という自信があるのでしょう。
サリエルは、幻惑・陽動しながら、オラクルとの間合いを詰め、死角から必殺の一撃を放ちました。
「【隷属】」
サリエルは至近距離から、強力な魔法の詠唱を完成させます。
【隷属】は、自身の魔力の半分以上を消費して放つ精神支配攻撃。
有効射程は0距離……つまり対象に接触しなければいけませんが、成功すれば、【抵抗】するのは、相当に困難。
【神格者】には効きませんが、普通の【超位】級の者なら、高確率で効果を発揮します。
【隷属】は、その名が示す通り、相手を隷属する事が出来ます。
オラクルは呆然と立ち尽くし、瞳から光が失われていました。
「オラクル。ギプアップを宣言しろ」
サリエルは、勝利を確信して静かに言いました。
「お断り致します」
オラクルは、即座に言い返します。
「えっ?」
サリエルは、驚愕しました。
「【【【【【【【【【【石化】】】】】】】】】】」
オラクルは、【自動人形】ならではの、超高速詠唱で、【石化】を瞬時に重ねがけします。
もちろん、オラクルが掲げる大盾【アイギス】に埋め込まれた【メデューサ】の瞼は、パッチリ開いていました。
サリエルは、さすがは【熾天使】。
始めの数十回ほどの【石化】には【抵抗】しています。
しかし、オラクルが一瞬にして繰り出した3桁を超える【石化】には、さすがに【抵抗】が間に合わず、石に変わってしまいました。
「サリエルは戦闘不能と判定。オラクルの勝利っ!」
私は、オラクルを指差して宣言します。
「「「「「うおーーっ!」」」」」
「きゃ〜っ!オラクル様ぁ〜。素敵ぃ〜っ!」
観客の歓声と、一部、婦女子による黄色い悲鳴がオラクルに向かって発せられました。
オラクルは、サリエルの【石化】を解除します。
サリエルは、ガックリと肩を落として退場して行きました。
サリエルの【隷属】は、完璧に発動しています。
しかし、元来、非生物NPCであるオラクルには、精神攻撃や精神支配は効き難いのです。
そして、私の【超神位魔法】でオラクル達レジョーネの【自動人形】とクイーンには【バフ】が施されていました。
実質、【ジャバウォック】の群の中にでも飛び込まない限り、オラクル達【超位】に覚醒したレジョーネの【自動人形】達には、精神攻撃や精神支配で効果を及ぼせないでしょう。
こうして、第1試合は、オラクルが勝利しました。
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