第320話。カニング・フォーク(呪医)。
本日2話目の投稿です。
竜城の【闘技場】。
私は、【闘技場】に、やって来ました。
ファミリアーレの訓練の気を散らさないように、観客席側から覗きます。
「ほー、航空騎兵戦ですね」
見ると、竜騎士団とファミリアーレが入り乱れて飛行格闘戦を繰り広げていました。
モルガーナとジェシカ以外のファミリアーレは、【自動人形】・シグニチャー・エディションに背負われての参戦。
モルガーナは【青竜】のジャスパーに騎乗し、ジェシカはウルフィに跨っていました。
訓練の状況は、竜騎士団側がファミリアーレを圧倒しています。
それは、そうでしょう。
あちらは本職なのです。
また、【自動人形】・シグニチャー・エディションと、【竜】を乗り物にして空戦を行えば、機動力の点でファミリアーレに分が悪いのは仕方がありません。
「おや?ノヒト様」
声をかけられました。
竜騎士団長のレオナルドさんです。
レオナルドさんは、全体が見渡せる位置から、訓練の様子を観る為に、観客席の高い位置に陣取っていました。
「どうも。弟子達が、お世話になっています」
「いえいえ。我々の方も大変に訓練の助けとなっております。ファミリアーレの皆さんは、我々の予想を超える奇想天外な戦闘方法や戦術を繰り出して来ます。それらは、我々だけで訓練をしていては経験も想定も出来ないものばかり。ファミリアーレの皆さんとの訓練を通して、竜騎士団の対応力は、より高まっておりますよ」
「そうですか?見たところ、随分と派手にやられていて、訓練の助けになっているとは思えないのですが?」
ファミリアーレ側で最後の一騎となっていたアイリスが複数の竜騎士団に囲まれて、たった今、撃墜されたところです。
「ははは。今戦っていたウチの連中は、竜騎士団の最精鋭である【神竜】様近衛の……それも上級指揮官だけで組織したオールスター軍団なのですよ。現役部隊との同数の空戦では、もはや、竜騎士団はファミリアーレの皆さんには敵わないのです。オールスター軍団でも、徐々に接戦を演じるようになって来ました。ウカウカしていると、早晩、同数の空戦では負けるかもしれません。こちらは空戦が本業なのに、です。ファミリアーレの皆さんは、お世辞抜きに強いですよ」
レオナルドさんは言いました。
あ、そう。
どうやらファミリアーレは頑張っているようですね。
最近忙しさにかまけて、私はファミリアーレに直接指導をしてあげられていません。
毎晩、ファミリアーレから送られて来るメールには、丁寧に返信をしていますが、ブート・キャンプの時のように四六時中一緒にいる訳ではないのです。
もう少し、頻繁に指導してあげたいのですが……忙しくて、なかなか時間が取れません。
シャムロック提督の潜水艦隊の問題を片付けたら、私は【エルフヘイム】に向かいます。
その時はファミリアーレも連れて行くつもりでした。
【エルフヘイム】は政情が安定していますから、危ないという訳ではないですからね。
なので、今回の【エルフヘイム】行きは、ちょっとした旅行気分。
ディーテ・エクセルシオールには……儀式典礼や公式行事、また、こちらから頼んだ訳ではない会談や面会には、一切、出席するつもりはない……と釘を刺してありますので、そういう面倒事に巻き込まれる心配はありません。
旅行中は、ファミリアーレにタップリと時間をかけて指導してあげられると思います。
私は、ファミリアーレがいる【闘技場】の中央部に降りて行きました。
・・・
トリニティが車座になったファミリアーレに指導をしています。
「ジャスパーを装甲艦と見立てて、遠隔攻撃組のジェシカとサブリナとリスベットを背後に守らせて……という意図は理解出来る。が、そうした為に最大火力のジャスパーの機動力が死に、敵の的にされてしまったわね。それを、罠にしてハリエットやグロリアが斬り込むところまでも、相手は想定済だったわ。対面視界だけでモノを考えてはいけない。常に俯瞰視点を意識して全体の動きをイメージするのよ。特に集団戦ではね」
トリニティは言いました。
「「「「「はい、トリニティ先生」」」」」
ファミリアーレは返事をします。
「さあ、そろそろ、昼食の時間だ。シャワーを浴びて、礼拝堂に集合しなさい」
トリニティは、言いました。
「「「「「はい、トリニティ先生」」」」」
ファミリアーレは元気良く返事をして立ち上がります。
私は、ファミリアーレの方に近付きました。
「あ、ノヒト先生だ〜」
ハリエットが私に気が付きます。
「みんな、お疲れ様」
「ノヒト先生。観てた?」
ハリエットが言いました。
「最後の試合だけです」
「な〜んだ。私が、3騎撃墜した試合は、観てないのか〜」
ハリエットはガッカリします。
最後の試合、ハリエットは、集中砲火を浴びて真っ先にヤラれていましたからね。
見事なまでのハリネズミ(複数の【投槍】で貫かれた状態)でした。
ファミリアーレは、充実した表情でシャワーに向かいます。
まだ、入団間もないサブリナをグロリアとハリエットが構ってあげて、早くファミリアーレに馴染めるように心を砕いている様子が見えて、ホッコリしますね。
ファミリアーレは、本当に良いクランです。
「トリニティ。いつも、ありがとう」
「いいえ。趣味でしている事ですので……」
トリニティは恐縮しました。
私が、ファミリアーレの訓練に、あまり顔を出さなくても問題がない理由は、トリニティの存在が大きいのです。
トリニティは、極めて知性が高い魔法のエキスパート。
武器戦闘、集団戦術への造詣も深く、ファミリアーレの指導教官としても頼りになります。
また、パスが繋がっているので、トリニティの目を通して私はファミリアーレの訓練の様子を見る事が出来ますし、何かあれば、私がトリニティ経由で間接的にファミリアーレに対して指導を行う事も出来ました。
なので、私は、ファミリアーレの訓練を直接観に来る事は珍しいのですが、弟子達の成長の過程は良く知っているのです。
おそらくトリニティも、それがわかっているので、頻繁にファミリアーレの訓練に足を運んで、私に間接的に訓練の様子を見せようとしてくれているのではないのでしょうか。
そんな気がします。
トリニティも汗を流しに向かいました。
私は、レオナルドさんと竜騎士団の皆さんに、挨拶と、多少の情報交換をしてから礼拝堂に向かいます。
・・・
礼拝堂。
レジョーネとファミリアーレが集合しました。
「ノヒトよ。ヴァレンティーナから報告が来たのじゃ。ジリオらを運んでくれて、ありがとうなのじゃ」
ソフィアが言いました。
「ついで仕事ですから、お安い御用です」
「うむ。それで、ジリオ一家の事で少し相談もあるのじゃ」
ソフィアは言います。
相談?
何でしょう?
グゥウ〜。
ソフィアの腹の虫が盛大に鳴きました。
「ソフィア。話は食事の後にしましょう」
「そうじゃな。お腹が減ったのじゃ」
ソフィアは、お腹をさすりながら言います。
私達は、【シエーロ】に向かって【転移】しました。
・・・
【シエーロ】中央都市【エンピレオ】。
【知の回廊】最深部。
エントランスに【転移】した私達は、【ワールド・コア】ルームに入場しました。
「チーフ、トリニティ、おかえりなさい。皆さん、いらっしゃい」
ミネルヴァが迎えてくれます。
皆、口々にミネルヴァへ挨拶しました。
「では、自由時間にします。【ワールド・コア】ルームからは出ないように。1時半にエントランスへの通路前で集合して下さい」
皆、返事をして、動き出します。
ここでも、グロリアとハリエットがサブリナを囲んで甲斐甲斐しく面倒を看ていますね。
サブリナは、ファミリアーレ最年少。
もしかしたら末っ子の妹が出来たような感覚なのかもしれません。
いや、孤児院出身の子達は、全員が姉妹兄弟みたいなモノ。
元来、年長の子は、年少の子の面倒を看るのが当たり前の文化なのかもしれませんね。
「ノヒトよ。我らは、しゃぶしゃぶ屋に行くのじゃ。ついて来るのじゃ」
ソフィアは言いました。
さっき、何やら……ジリオさん一家の事で相談がある……と言っていましたからね。
私、ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア、トリニティは、しゃぶしゃぶ屋に向かいました。
・・・
しゃぶしゃぶ屋。
早速、メニューを開いて色々と注文しました。
ソフィアは、もう慣れたモノ。
しゃぶしゃぶは、ソフィアの好みでもあるそうです。
しゃぶしゃぶ鍋が、大量に並びました。
シンプルな昆布出汁、豆乳を使ったスープ、トマト・ベースのスープ、【地竜】の骨から取った出汁……などなどがテーブル狭しと並べられます。
全て、ソフィアのチョイスでした。
つけダレは、ポン酢、ゴマダレ、ピリッと辛い唐辛子入りダレ……ソフィアは生卵……など。
私は基本的に昆布出汁にくぐらせて、ポン酢で食べるのが好きですが、途中から味変して、大量の青ネギや、もみじおろしをポン酢に投入するのが、フェイバリット。
肉は、牛、豚、鶏ツミレ、羊、【氷竜】、【地竜】……などなど。
鍋の上を飛び回ると危ないので、ウルスラはヴィクトーリアの手に乗って、オラクルがしゃぶしゃぶを代行します。
ザッラーーッ、ジャバジャバジャバ……。
「あー、あー、ソフィア、そんなに一度に肉を入れたら、出汁が濁って雑味が出ますよ」
「スープを交換してもらえば大丈夫じゃ。一枚ずつは面倒じゃから、我は、いつも、このやり方なのじゃ」
ソフィアは言いました。
ソフィアは、そういうと、ジャブジャブと鍋を、かき混ぜて、一気に肉の塊を掬い上げて、ベシャッと生卵に浸して、食べ始めます。
あー、あんな大量の肉を一度に投入するものだから、一回で鍋にブクブクとアクが泡立って、出汁が死んでしまいました。
私は、ソフィアにペースを乱されないように、私用の澄んだ昆布出汁が張られた鍋で1枚1枚、肉をしゃぶしゃぶして行きます。
ポン酢にくぐらせて、食べると……。
これは、美味い。
トリニティも、1枚ずつ、肉をしゃぶしゃぶしています。
うん、正攻法。
私は、途中で白菜や長ネギなどを出汁に投入して、野菜も味わいます。
しゃぶしゃぶは、アクを取りながら、こうして出汁を大切に育てれば、最後に雑炊という、ご褒美が待っているのですよ。
締めは、チーズを入れたリゾット風雑炊や、うどんや、ラーメンというパターンもありますけれどね。
ザッラーーッ、ジャバジャバジャバ……。
ソフィアは、鍋の中がアクがブクブクになると放棄して次の鍋に、というスタイル。
あれでは雑炊は味わえません。
散々、肉を食べて、いよいよ締めの雑炊タイム。
私は、ご飯を注文して、自分の鍋と、トリニティの鍋を雑炊に仕立てて行きました。
「ノヒト。それは、何じゃ?」
ソフィアが目を剥きます。
「雑炊だよ。さてと、仕上げは卵を、と」
私は、生卵を雑炊に回しかけました。
「卵っ!何じゃ、その雑炊というモノは?我は、知らぬぞっ!我も、同じモノが食べたいのじゃ」
ソフィアが言います。
「ソフィアは、出汁をアクだらけにして、何度も交換してもらっていたから、美味しくないよ。この雑炊は、キチンと自分の出汁を育てた者への、ご褒美なんだよ」
「ノヒトぉ〜。後生じゃ〜。我にも雑炊を分けてくれ〜」
ソフィアは、泣きそうな声を出しました。
「はいはい。どうぞ」
私は、ソフィアに、雑炊をよそった器を渡します。
もう、この展開は読めていましたので、私とトリニティの鍋を分けて、ソフィアの分も雑炊を作れるように、段取りしていたのですよ。
「これはっ!何と美味しいスープなのじゃ〜っ!そして、卵が最高に合うのじゃ〜」
ソフィアは、雑炊の味にウットリとして言いました。
それは、そうでしょう。
全ては雑炊にする事を逆算して、肉をしゃぶしゃぶしたり、野菜を煮たり、丁寧にアク取りをして来たのですからね。
私も雑炊を頂きます。
多めの青ネギを振って、と。
美味いっ!
うん、今日も上手く出来ました。
これを食べる為に、しゃぶしゃぶをしていると言っても過言ではないかもしれません。
「「ご馳走様でした」のじゃ」
満腹です。
・・・
食後。
デザートと、お茶を飲みながら、マッタリとします。
あ、そう言えば。
「ソフィア。ジリオさんの一家について相談がある、とか言っていましたよね?」
「ん?ああ、そうじゃった。ヴァレンティーナから頼まれたのじゃ。ジリオの妻のシメネーラは、自立した女性なのじゃ。【呪医】という職種を持ち、【オフィール】に住んでいた時には、薬草を調合したり、患者を診察して薬を処方したりしていたらしい。【ドラゴニーア】でも仕事を続けたい、という希望があるようじゃ。じゃが、【ドラゴニーア】では医師法と薬事法で、【ドラゴニーア】の医師免許や薬剤師免許を持たぬ者は、患者に薬を処方する事は出来ぬのじゃ。で、なのじゃが、アブラメイリン・アルケミーの研究所で働かせてやって欲しいのじゃ。シメネーラは、薬学の知識があり、魔法にも熟達しておるのじゃ。経験をリスベットに指導する事も出来るはずじゃ。どうじゃろうか?」
ソフィアは、バケツ・プリン(ホイップクリーム乗せ)を食べながら言いました。
【ワールド・コア】ルームの飲食店は……持ち込み禁止……などというルールはありません。
「構いませんよ。いつからでも出勤して下さい。ハロルドとイヴェットには言っておきます」
「ありがとう、なのじゃ」
ソフィアは、言います。
私は、すぐにハロルドとイヴェットと……ヴァレンティーナさんにチャット通話で、話を伝えました。
後は、3人が諸々の段取りをしてくれます。
しばらくして、時間となったので、私達は、集合場所に向かいました。
・・・
レジョーネとファミリアーレは、エントランスに続く通路前で集合します。
私達は、ミネルヴァに挨拶をしてエントランスに出て、【ドラゴニーア】に向かって【転移】しました。
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