第310話。ローカル・ルール。
名前…イアン・ファブリツィアーニ
種族…【ドワーフ】
性別…男性
年齢…36
職種…【技師長】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…加工】
レベル…16
ソフィア&ノヒト(コンパーニア)技術責任者。
技術管理を担当。ソフィア&ノヒト(コンパーニア)の傘下企業マリオネッタ工房の実質的社長。
先祖は、伝説的鍛治職人集団「暁の高炉」のメンバーで、後に【ドラゴニーア】国家技師団となった。
【シエーロ】中央都市【エンピレオ】。
【知の回廊】最深部【ワールド・コア】ルーム。
私達は、割烹料理屋にいました。
お店選びは、グレモリー・グリモワールのチョイスです。
お昼ご飯がワイルドなバーベキュー・パーティーだったので、夕ご飯は、どちらかと言えば格式張りたい……と言う、リントとディーテ・エクセルシオールの希望を汲んで……当初、私は懐石料理のお店に洒落込もうと考えていたのですが……。
お子様気質であるソフィアとハリエット……そして正真正銘の、お子様であるフェリシアとレイニールには、懐石料理はハードルが高いのでは……と、グレモリー・グリモワールから待ったがかかりました。
確かに……。
ならば同じ日本料理でも、庶民(金持ちの……)料理から発展して来た割烹ならば、多少、敷居は低くなるのでは、という事。
グレモリー・グリモワールから説得力のある根拠を明示されてしまっては、私に否はありません。
私は、毛筆で手書きされた、お品書きを開きました。
割烹料理屋の今夜のコース・メニューは、というと。
先付……季節の前菜。
椀物……松茸の土瓶蒸し。
向付……旬の魚介のお造り、又は、桜肉の刺身。
鉢肴……鮑のステーキ、又は、シャトーブリアンのステーキ。
強肴……天ぷら盛り合わせ、又は、鴨鍋。
止め肴……季節の酢の物、又は、季節の和え物
食事……ご飯、味噌汁、漬物。
甘味……胡麻豆腐の黒蜜かけ、又は、果物。
ふむふむ、どうやら選べるのですね。
迷わせて来ますね〜。
胃袋の容量が限られている私は、ソフィアと違って……全種類……などという身も蓋もない注文の仕方は出来ません。
私は、2種類から選べるモノは……お造り、鮑のステーキ、鴨鍋、和え物、果物……にしてみました。
晩餐なので、多少、純米大吟醸なども嗜みます。
先付は、しめ鯖と秋茄子の、おろし葛餡かけ。
柚子の風味がアクセントになっています。
椀物の松茸の土瓶蒸しは、まず土瓶から蕎麦猪口に出汁だけを注いで芳醇な香り漂う出汁を頂いた後、お椀に入れられ素晴らしい香りを醸す焼き松茸に出汁を注いで頂きました。
二度美味しい。
向付は……本マグロ、戻り鰹、スルメイカの柿併せ、秋刀魚の肝和え、秋鮭の炙りとイクラの親子造り……の五種。
間違いありません。
鉢肴は、鮑のステーキ。
煮切りの酒をふって、ワカメと木の芽と一緒に焙烙鍋で蒸し焼きにされていました。
柔らけ〜……何だ、この鮑。
鴨鍋は……ほほう、割り下で煮た、すき焼き風ですね。
生卵を絡めて頂きます。
美味い。
和え物は、鹿肉と山栗の白和え?
いや、生湯葉和えですか。
美味い。
ご飯、味噌汁、漬物も、それぞれが、ただモノではありません。
全て、特級の美味しさ。
お見それ致しました。
最後に果物の枇杷を頂きます。
美味しゅうございました。
食後、ほうじ茶を頂きながら、マッタリと……。
いやあ、美味しいモノを食べると幸せですね。
「グレモリー。そう言えば、鍛冶職人を探していたのは、どうなりましたか?」
「あ、見つけたよ。腕利きを3人ね。ディーテの伝手で、【ニダヴェリール】から来てもらえる事になったんだ。ラッキーだったよ」
グレモリー・グリモワールが言いました。
ディーテ・エクセルシオールは、元【エルフヘイム】の【大祭司】です。
【エルフヘイム】は【ユグドラシル連邦】の盟主国。
【ユグドラシル連邦】に所属する【ニダヴェリール】にもディーテ・エクセルシオールの顔が利く、という事なのでしょう。
「しかし、【ニダヴェリール】が良く腕利きの鍛冶職人を手放しましたね?【ニダヴェリール】は腕の良い職人は、皆、国家鍛冶士として囲い込んでいるのに」
「それが、ちょっち、訳ありでさ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「訳あり?前科者とかですか?」
「違う違う。みんな女の子なんだよ。腕は一流なんだけれど、若い女性達だったから、スカウト出来たんだ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「なるほど」
【ニダヴェリール】には、若い女性の鍛冶職人は少ない……いや、ほとんどいないのではないでしょうか。
【ドワーフ】が信仰する対象は、【創造主】とノース大陸の守護竜である【ニーズヘッグ】の他にも、もう1柱いました。
それは、【ドワーフ】だけが崇める【鍛冶神】。
この世界に【鍛冶神】などという神は実在しません。
しかし、世界の理から言えば、【創造主】と守護竜を信仰してさえいれば、ついでに、よくわからないローカル神を信仰する事も別に禁止はされてはいませんでした。
グレモリー・グリモワール自身も、庇護している【サンタ・グレモリア】では、【創造主】や守護竜の【リントヴルム】と並んで信仰対象になっていますしね。
【ドワーフ】の信仰する【鍛冶神】は女神なのです。
【ドワーフ】の信仰によれば、【鍛冶神】は、女神なので……鍛冶場に若い女性が入ると、ヤキモチを焼いて仕事の出来栄えを悪くする……と言い伝えられているのだ、とか。
なので、【ニダヴェリール】では、若い女性は、男の職人達が働く鍛冶場や工房には入れません。
若い女性の【ドワーフ】が、もしも鍛冶職人の道に進みたいのなら、自分1人、または、同じように鍛冶職人志望の若い女性達とグループを作って、独自の工房を構えて修行したり、仕事をする事になるのです。
伝統的に男性ばかりの職人の世界で、女性が鍛冶職人を目指しても、彼女達は、男性のいる鍛冶場や工房には足を踏み入れられません。
【ドワーフ】の鍛冶職人で、名人と呼ばれる人達は、大半が男性の職人です。
これは、男女の能力差ではありません。
若い女性の【ドワーフ】は、【鍛冶神】の嫉妬という言い伝えがあるせいで、男性が働く鍛冶場や工房には立ち入りが出来ず、腕の良い師匠や先輩から指導を受ける事が難しいから、でした。
このハンデキャップのせいで、【ドワーフ】の女性が、一流の職人に育つ事は男性よりも難しくなります。
この世界では、あらゆる職種で、生まれ持った素質に男女差は全くありません。
にも拘わらず、女性の方だけに、ハンデキャップが背負わされていました。
男女差別?
その通りです。
しかし、若い女性を完全に排除してしまわずに、女性だけの工房の存在を認めているなどという代替案を講じている点や、【ドワーフ】のコミュニティの大半が、その些か前時代的な伝統的ローカル・ルールを守り、支持しているので、私がゲームマスターとして、とやかく言う事ではありません。
こうして、グレモリー・グリモワールは、若い女性だから、という理由で、優秀な【ドワーフ】の鍛冶職人を3人も招聘出来た訳ですね。
因みに、若くない女性……つまり、中年や老年の、お姉様方は、自由に男性の鍛冶場に出入り出来るようになります。
女人禁制のタブーは、女神のヤキモチを根拠としているので、オバチャン……ゲフン、ゲフン、お姉様方は、ヤキモチの対象外と判断されるからだとか。
それはそれで失礼な話です。
「武器鍛冶、防具鍛冶、魔道具鍛冶……同時に3人ともスカウト出来たんだよ。私は本当に運が良いよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「良かったですね」
「でさ。【サンタ・グレモリア】に高炉を造りたいんだよね。電磁炉を造ってくれない?もちろん、報酬は払うからさ」
グレモリー・グリモワールは、私に手を合わせ頼みます。
「報酬はいりませんよ。電磁炉と魔導炉を造りましょう」
「魔導炉も?すっげ〜。ナイアーラトテップ式の魔導炉だよね?」
グレモリー・グリモワールは身を乗り出して訊ねました。
「もちろんですよ」
「ノヒト、グレモリー。ナイアーラトテップ式の魔導炉とは、どんな物なのじゃ?」
10回めのデザートの、お代わりを食べ終えたソフィアが訊ねます。
「歴史上最高の鍛冶職人である、【名匠】のナイアーラトテップさんが考案した竜鋼も溶かせる最高性能の高炉です」
私は、説明しました。
「ほおー、そのナイアーラトテップなる者は、凄いのじゃな?」
「「当然ですよ」だよ」
私とグレモリー・グリモワールの声はユニゾンします。
「ノヒト先生。そのナイアーラトテップ殿に、ご指導頂きたいです」
私達の話を聴いていたロルフが言いました。
「ユーザーなのです。大消失でいなくなり、未だ戻って来てはいません」
「そうですか……」
ロルフは、落胆します。
「ロルフ君。でもね、ノヒトは、【神位】の技術を駆使するし、鍛冶ステータスもナイアーラトテップさんより上なんだよ。ノヒトに指導を受けられるのは、ナイアーラトテップさんから教わるより、凄い事なんだよ」
グレモリー・グリモワールがフォローしてくれました。
「そうなんですね!頑張って、勉強します」
ロルフは、笑顔になって言います。
グレモリー……ありがとう。
私は、【念話】でナイス・フォローをしてくれたグレモリー・グリモワールに、お礼を言いました。
なんのこれしき。
グレモリー・グリモワールは、【念話】で答えます。
明日も、遺跡への挑戦で朝が早いので、私達は夕食会を、お開きにして帰る事にしました。
「では、また明日」
「また明日なのじゃ」
「お疲れ。明日の朝、竜城で」
グレモリー・グリモワールは言います。
あ、カティサークを【アペプ遺跡】に置きっ放しですね。
後で取りに行かなくては。
レジョーネとファミリアーレは【ドラゴニーア】に、グレモリー・グリモワール達一行は【サンタ・グレモリア】に、それぞれ【転移】して行きました。
私は、カティサークに【転移】します。
・・・
カティサーク。
私は、まず外に出て、緑師団の神兵達を労い、原隊への復帰を指示しました。
それから、カティサークを【転移】で【ドラゴニーア】竜城の中庭に運びます。
・・・
竜城の中庭。
私は、カティサークを中庭に停泊させ、今度は、【オピオン遺跡】に【転移】しました。
・・・
【オピオン遺跡】入口。
私は、今晩、【オピオン遺跡】と【アペプ遺跡】にも、遺跡門前町を造るつもりです。
昨日と今日に造った【ラドーン遺跡】門前町と【ピュトン遺跡】門前町は、サウス大陸中央国家【パラディーゾ】の管理地となりますが、今夜、今から造るつもりの【オピオン遺跡】門前町と【アペプ遺跡】門前町は、サウス大陸南方国家【ムームー】の管理地となる訳ですね。
ウィルヘルミナ……ファヴは、もう眠ってしまいましたか?
私は、ウィルヘルミナに【念話】を送りました。
もしも、ファヴが眠ってしまっていたのなら、起こすのも可哀想なので、ウィルヘルミナに明日、ファヴが起床したら、朝一で【オピオン遺跡】門前町と【アペプ遺跡】門前町について伝えてもらい、【ムームー】の関係者と連動してもらおう、と考えたのです。
明朝、私が直接伝えれば良いのですが、こういう連絡は早くて困る事はないのですよ。
ファヴが、まだ起きているなら、善は急げ、で話がスムーズですからね。
まだ、起きて書き物仕事を、なさっておいでです。
ウィルヘルミナが【念話】で答えます。
私は、改めてファヴに【念話】を送って説明しました。
ファヴから【ムームー】関係者への連動をしてもらう事を快諾してもらい、改めて謝意も伝えられます。
いえいえ、行き当たりばったりの思い付きで、やり始めた門前町開発。
そんなに畏まって感謝されるような事でもありません。
さあ、頑張って町造りをやりますよ。
私は、フル・パワーで魔法建築を始めました。
もう、2回も造った町ですから、目をつぶっていても同じものが出来ます。
・・・
深夜。
私は、【オピオン遺跡】門前町を完成させました。
良し、次!
私は、【アペプ遺跡】に向かって【転移】します。
・・・
【アペプ遺跡】入口。
私は、門前町開発に取り掛かりました。
私は、【神格者】というチートな体質なので、作業をこなしながら、別の事も同時並列で処理出来ます。
町造りをしながら、【自動人形】・シグニチャー・エディションを製造しながら、ミネルヴァと会議をしながら、思索もする……という具合に。
私は、色々な事を考えていました。
その中の1つにチュートリアルの事があります。
グレモリー・グリモワールは、自陣営の関係者26人のチュートリアルを行った後、私に……追加でチュートリアルを受けさせたい……とは、言って来なくなりました。
おそらく、グレモリー・グリモワールは……私がチュートリアルを受けさせている人数が以外に少ない……と感じて、自分も遠慮しているのだと思います。
そんな必要はありません。
私は、私の考えで、チュートリアルを受けさせるメンバーを決めているのです。
グレモリー・グリモワールも彼女の考えで、自陣営の関係者にチュートリアルを受けさせれば良いのです。
例えば、ヴァネッサさんとか、トリスタンさんとかですね。
それから、【ラピュータ宮殿】にいる【ドライアド】や【ハマドリュアス】達だって候補の内でしょう。
私も、ソフィア農場やクイーン農場に移住させた、私の寄子とした2人の【ドライアド】と、6人の【ハマドリュアス】達には、その内にチュートリアルを受けさせてあげるつもりです。
グレモリー・グリモワールが……信頼出来る……と思うのなら、その人物にチュートリアルを受けさせる事に、私も反対しません。
私とグレモリー・グリモワールは、元同一自我なのです。
私は、グレモリー・グリモワールの価値基準や行動原理を信頼していますからね。
明日、会ったら、グレモリー・グリモワールには、そのように伝えましょう。
未明、【アペプ遺跡】門前町も完成しました。
これでサウス大陸にある4つの遺跡には、全て門前町が出来ましたね。
ファヴや、【パラディーゾ】大巫女のローズマリーさんや、【ムームー】新女王のチェレステさんには、これらの遺跡門前町を役立ててもらいましょう。
私は、夜の間に完成させた【自動人形】・シグニチャー・エディションを【収納】にしまって、朝ご飯を食べに【ドラゴニーア】へと【転移】しました。
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