第309話。ピュトン・ダンジョン門前町。
本日2話目の投稿です。
【タナカ・ビレッジ】。
昼食後。
私達は、夕食を【ワールド・コア】ルームで食べる約束をして、それぞれの行動に移ります。
「じゃ、ちょっくら遺跡をクリアしてくるよ」
グレモリー・グリモワールが言いました。
「ファミリアーレの事を、よろしく」
「はいよ」
グレモリー・グリモワール、ディーテ・エクセルシオール、フェリシア、レイニール、ファミリアーレは、【アペプ遺跡】に【転移】して行きます。
オラクルが、ヴァレンティーナさんを迎えに行く為に、竜都【ドラゴニーア】のソフィア・フード・コンツェルン本社に【転移】しました。
「ノヒトは、午後は何をするのじゃ?」
ソフィアが訊ねます。
「私は、【ピュトン遺跡】にも、遺跡門前町を造るつもりです」
「そうか。ならば、【ラドーン遺跡】で我らが建築した卵料理専門店と同じ物を【ピュトン遺跡】門前町にも造っておいて欲しいのじゃ」
ソフィアは言いました。
「全く同じモノを、ですか?」
あの、卵型の建造物ですか?
少し抵抗感がありますね。
「そうじゃ。目立つじゃろう?看板の代わりになるのじゃ。言っておくがな、ノヒトよ、あのフォルムは、計算され尽くされた奇跡的な造形なのじゃぞ。卵型は美しいのじゃ」
ソフィアはキッパリと言います。
「はいはい。寸分違わず同じモノを造りますよ」
私は、サーチした造形物と全く同じモノを造る事が出来ました。
ほどなくして、オラクルとヴァレンティーナさんが【転移】で現れます。
「ではの。行ってくるのじゃ」
ソフィアは言いました。
「気を付けて行ってらっしゃい。オラクル、ヴィクトーリア……ソフィアの事を頼みます」
「「畏まりました」」
オラクルとヴィクトーリアは、完璧なシンクロ率で言います。
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア、クイーン、ヴァレンティーナさんは、【ムームー】王都【ラニブラ】に【転移】して行きました。
「ノヒト。サウス大陸の為に町造りをしてくれて、ありがとうございます」
ファヴが頭を下げて言います。
「いいえ、何ほどの事もありませんよ。ファヴは、午後は、どうしますか?」
「調べ物があるので、僕とウィルヘルミナは【ワールド・コア】ルームの図書館に行きます」
ファヴは言いました。
「そうですか。わかりました」
ファヴは、勉強熱心なのですよね。
ソフィアにも少しは見習って欲しいのですが……。
いや、やっぱり、あの娘は、あのままで良いですね。
ファヴとウィルヘルミナは【シエーロ】に【転移】して行きました。
「妾は、【サントゥアリーオ】の様子を見てこようかしら。夕食前には、【ワールド・コア】ルームに参りますわ」
リントが言います。
「わかりました」
リントとティファニーは、聖都【サントゥアリーオ】に【転移】して行きました。
「さてと、私達も行きましょう」
「仰せのままに」
トリニティが言います。
私とトリニティは、【ピュトン遺跡】に【転移】しました。
・・・
【ピュトン遺跡】入口。
「ノヒト様。私は、もっとノヒト様の、お役に立ちたいと思います。建築魔法を教えて頂けないでしょうか?」
トリニティが言いました。
トリニティは、攻撃魔法偏重の魔法職です。
なので、土木・建築など生産系の魔法は、あまり得意ではありません。
しかし、トリニティは【超位】までの魔法適性を持っていますので、熟練値が上がれば生産系も【超位】まで問題なく使い熟せるはずです。
誰しも得意、不得意というモノはあるので、相当な時間と労力は必要でしょうが……。
私の役に立ちたい……というトリニティの気持ちは、率直に言って嬉しいですね。
トリニティは、私に【調伏】された従魔です。
従魔には、主人への絶対服従の拘束力が働きますし、【命令強要】を行使すれば、どんな指示にも従わせる事が可能でした。
ただし、従魔は、自我や感情や意思を持ちます。
実は、主人に対して、従魔が叛意を抱く事も珍しくありません。
それは、【知の回廊】の人口知能に隷属させられていた、ルシフェルの例からも明らかです。
例えば、主人の命令を恣意的に拡大解釈したり曲解したりして、従魔が主人を害するように行動する事もあり得ました。
なので、従魔への命令は、恣意的な解釈の余地を与えないように確実に行う事が常識なのです。
私(主人)を守れ……だとか……敵を倒せ……だとかというように。
極端な事を言えば、敵と戦闘になった場合などに……魔法を撃て……や……攻撃をしろ……などと命令すると、従魔は、主人に向かって魔法を撃ったり、攻撃をする可能性すら、あり得る訳です。
もちろん、そういう不測の事態が発生しないように、事前に事細かな命令を与えておき、従魔の行動を縛っておく事は【調伏士】界隈では常識なのですが……。
ともかく、従魔が主人に従うのは、【調伏】による強制効果であって、必ずしも、忠誠などではない……という事なのです。
しかし、トリニティは、本心から私に忠誠を尽くしてくれていました。
それは、パスを通じて伝わって来る、トリニティの思念からわかります。
従魔として強制的に主従関係になったのだとしても、主人と従魔は信頼し合う関係に至る事が出来ました。
私とトリニティ、ジェシカとウルフィ、モルガーナとジャスパーのように。
私は、【調伏】とは、最終的に全てのケースで、そのような信頼の絆によって結ばれた関係になるべきだ、と考えています。
「わかりました。では、まず【鑑定】で、物質の素性を理解する事から始めましょう。戦闘でも……敵を知り己を知れば百戦危うからず……と云いますしね。工学魔法も同じなのです。まず、対象の物質の素性をキチンと理解する。これが肝心。何よりも大切な事なのです」
「はい、わかりました」
こうして、私は、トリニティに土木・建築や工学魔法の基礎を教えながら、【ピュトン遺跡】の門前町を造り始めました。
町のレイアウトは、【ラドーン遺跡】門前町と全く同じにします。
そうした方が作業の効率化が図れますからね。
参道を真っ直ぐ伸ばして、その両側に建物を配置。
町役場、銀行ギルドや冒険者ギルドなどの出張所、武器・防具屋、宿屋、飲食店、酒場、町の住人達の家屋、市場、学校、病院、神殿……などなど。
参道は、二車線の馬車道が余裕を持って交互通行出来る四車線。
その脇に、馬車の荷台の高さに合わせた歩道を造ります。
馬車道の横断用に歩道橋を渡しました。
建材は、【サンタ・グレモリア】の地下鉄工事で出た膨大な量の土砂から耐火煉瓦を造り用います。
内装、家具、調度には、【ラドーン遺跡】で伐採した、大量の高級木材があるので、それを活用しました。
おお、ギルドや酒場のカウンターも重厚な無垢材を使うと高級感が溢れますね。
もちろん、ソフィアから頼まれた卵料理専門店も建築しましたよ。
意外にも……と言ったらソフィアに悪いですが、ソフィアの卵料理専門店は、見た目は奇想天外な建物ですが、内部は使い勝手が良いように考え抜かれて設計されていました。
厨房の設えなどは、私も真似したいと思うような工夫がいっぱいです。
この店は、存外、悪くないですよ。
営業を始めたら、流行りそうな気がします。
【ピュトン遺跡】門前町は、完成。
内装は完全ではありませんが、そこは住人や商店主達が使いやすいように各自で、やって貰えば良いでしょう。
まだ、夕食の時間には早いですね。
どうしましょうか?
エクスプローラーの建造作業でもしに行きますかね。
「トリニティ。時間までエクスプローラーの建造作業をしに行きます」
「仰せのままに」
私とトリニティは、【タナカ・ビレッジ】に【転移】しました。
・・・
【タナカ・ビレッジ】。
クイーンは、ソフィア達と【ラニブラ】に向かっていて留守なので、留守番役のハートのキングと、警備責任者のジョーカーに挨拶をしておきます。
私とトリニティは、イーヴァルディ&サンズ造船所に向かい、作業を始めました。
【超級飛空航空母艦】のエクスプローラーは、もう外装と機関部とは出来上がっています。
後は、兵装の一部や配線系や内装を仕上げれば完成なのですが……。
如何せん、エクスプローラーは500m級と巨大な為に膨大な作業が必要となりました。
ただし、【タナカ・ビレッジ】のイーヴァルディ&サンズ造船所に所属する【自動人形】・シグニチャー・エディション達は数が多いので、任せておけば、昼夜を問わず作業を継続して、どんどんエクスプローラーは出来上がって行きます。
因みに、コンパーニアやイーヴァルディ&サンズなどの工場は、全ての施設で、丸っと【防音】化されているので、外部に音は漏れず、夜間に作業をしても騒音の問題は発生しません。
ああ、艦載機も、まだ1隻もありませんよね。
艦載機がない空母など、ただの船です。
現在、ミネルヴァが、ゲームマスター本部の【神の遺物】工場で建造中の【輸送機】を10機と……【砲艦】を50隻……エクスプローラーに配備する事は決まっていました。
それらが出来上がれば、順次艦載していきましょう。
しかし、それだけでは不十分なのですよね。
空母は、単独では運用出来ません。
必ず空母打撃群として艦隊を組まなければいけないのです。
どうしましょうかね。
【飛空戦艦】や【飛空巡航艦】や【飛空駆逐艦】も建造しなければならないでしょう。
時間がかかります。
とりあえず、エクスプローラーの護衛は、神の軍団を増強して、艦隊所属の新しい師団を創設して、配属しても良いですね。
私は、エクスプローラーの建造作業と、【自動人形】・シグニチャー・エディションの製造作業をしながら、トリニティへの【工学魔法】の指導も並行して行いました。
私は、トリニティに、ミスリル鋼材を手渡します。
ミスリル鋼材に魔力を流し、内部組成を理解させ、ゆっくりと物理的な変化を与える方法を教えて行きました。
私とトリニティは、パスが繋がっています。
私が、見本を見せれば、その魔力の扱い方をトリニティは瞬時に覚える事が出来ました。
パスは便利なのです。
しかし、普段、私が建築や金属加工などをする時には、【神位魔法】を使っている為に、トリニティには、それを真似して再現する事が出来ませんでした。
なので、今は、私が【低位】の【工学魔法】から順を追って見本を見せては、トリニティに再現させる、という方法で指導をしています。
程なくして、トリニティに【加工】の魔法が生えました。
一旦、覚えてしまえば、トリニティは【超位】の魔法職。
【中位】、【高位】、【超位】と【加工】を覚えてしまいます。
「トリニティ。とても上手に魔力を制御出来ています」
「ありがとうございます。ノヒト様のおかげです」
トリニティは言いました。
表情は変わりませんが、トリニティは、とても感動しています。
「トリニティ。後は、建築工学や土木工学などを学ぶ必要があります」
「【超位】の【工学魔法】を使えるようになったのに、まだ何か学ぶ必要があるのですか?」
トリニティは、少し驚いたように訊ねました。
「はい。そちらの学習時間の方が、魔法を覚えるより長い年月が必要なのです。例えば、建築構造計算が出来なければ、建物の荷重が、どの柱に、どのくらいかかるのかが、わかりません。柱が荷重に耐えられなければ建物は崩壊します。かと言って、柱を無闇やたらと頑丈にすると建材が無駄になり不経済です。魔法建築とは、魔法の行使より知識の方を習得するのに、より多くの時間がかかるものなのです。土木や建築に限りませんね……【医療魔法】など他の魔法系統も然りです。魔法による治療の技術より、病理学の知識を学ぶ方が大変でしょう。また、トリニティはゲームマスター代理となっていますが、ゲームマスターとして査察に入ったり、取り締まりをする時にも、広範で専門的で膨大な知識が必要です。魔法、物理学、化学、生物学、医学、心理学、法律、政治、経済……などなどです。もしも、トリニティが、本気で……私の役に立ちたい……と願うなら、そういった知識を得る時間と労力は、避けて通れない道ですよ。出来ますか?」
「はい……精進致します」
トリニティは、深刻そうな様子で言います。
私は、当面、トリニティを単独で査察に向かわせたり、トリニティに現場で裁定を下させるつもりは、ありません。
トリニティがゲームマスター代理として現場に出動するにしても、ミネルヴァに都度指示を仰がせ、【コンシェルジュ】達にフォローをさせるつもりです。
しかし、私とミネルヴァは、やがてはトリニティ自身に、調停や裁定を行わせる事にしていました。
「心配いりません。私とトリニティは不老不死です。時間は、それこそ永遠にあります。ゆっくり、少しずつ覚えて行けば良いのです。私もミネルヴァも、トリニティに何度でも指導をしますし、いつまでも訓練に付き合いますからね」
「はい。ありがとうございます」
トリニティは、嬉しそうに頷きます。
その時、リマインダーのアラームが鳴りました。
時間です。
「トリニティ。夕ご飯の時間です」
「はい」
私は、完成した10体の【自動人形】・シグニチャー・エディションを、そのままエクスプローラーの建造作業に投入しました。
それから、エクスプローラーの建造作業を現場で指揮している3体の【コンシェルジュ】に追加の指示を与えます。
そして、【タナカ・ビレッジ】の留守番をしている、ハートのキングと、警備責任者のジョーカーに挨拶をして、私とトリニティは、【シエーロ】の【知の回廊】最深部に【転移】しました。
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