第307話。マジック・エンジン(魔導内燃機関)。
本日2話目の投稿です。
異世界転移、43日目(10月13日)。
イーヴァルディ&サンズ造船所。
早朝。
アラームが鳴ったので、私は、【超級飛空航空母艦】のエクスプローラーの建造と、【自動人形】・シグニチャー・エディションの製造を切り上げました。
エクスプローラーの機関部は、ほぼ完成です。
メイン・エンジンは、【魔導内燃機関】方式でした。
これは、【ドラゴニーア】艦隊の【超級飛空航空母艦】である【グレート・ディバイン・ドラゴン】や【グレート・ドラゴニーア】や、私の技術協力で新造中の【グレート・ヴァレリオ・ロマリア】などにも採用されている汎用性が高い機関部方式です。
構造は単純。
端的に言えば、自動車のエンジンみたいな構造です。
ガソリンの代わりに魔力を使い、爆裂系の魔法をエンジン内部で炸裂させ、その爆発力によってピストンを動かすというモノ。
魔力の燃費効率的には、あまり高くありませんが、強大な出力を発生させられ、また短時間で鋭い起動を行えるという利点がありました。
エンジン気筒に当たる部分には全て個別の【超位魔法石】が連結されており、それらが、それぞれ【超位儀式魔法】を発動し、爆裂系の魔法効果を発生させるのです。
なんと、100気筒エンジンなのですよ。
しかし、この【魔導内燃機関】には、燃費以外にも弱点がありました。
デカ過ぎるのです。
このエンジンを搭載する為には、巨大な船体がなければエンジン・ユニットが収まりません。
なので、私はカティサークに、この方式を採用しなかったのです。
エクスプローラーの【魔導内燃機関】は、ミネルヴァのフル・スイング魔改造によって、従来方式より、かなりの小型化と軽量化が図られていましたが、それでも、馬鹿デカい事には違いがありません。
また、【魔導内燃機関】は、その機構上、【超位儀式魔法】クラスの爆発力に耐え得るエンジン強度が要求される為に、極めて頑丈な素材が必要となります。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】級に搭載されている【魔導内燃機関】にはオリハルコンとアダマンタイトの複合材が使用されていますが、エクスプローラーには、小型化と軽量化を実現する為に【ラドーン遺跡】の99階層の【ダンジョン・ボス】を倒して手に入れた竜鋼を混ぜて超・超合金を造り使用していました。
【ラドーン遺跡】の戦利品である竜鋼の流用は、レジョーネ、ファミリアーレ、グレモリー・グリモワール達には許可をもらっています。
当然ながら、それだけの高硬度素材は、いずれも途轍もなく高価ですし、極めて高度な加工技術を要求されるというデメリットもありました。
民間商船では、費用対効果の面で絶対に採用出来ない、動力機関方式でしょうね。
私は、エクスプローラーに、カティサークで使用した、99個の【超位魔法石】を利用した魔導・タービン・ファン方式も併設しました。
こちらは魔力で力学的に回転軸を回し、タービン・ファンが発生させる流体推進力を利用するという方式。
こちらは、【魔導内燃機関】に比べて燃費に優れますが……最高速に加速するまでに時間がかかったり、鋭い起動が行えない弱点があります。
まあ、予備動力としての意味合いや、高速巡航中に【魔導内燃機関】と切り替えて省エネ航行を行う代替機関ですね。
こちらにも【超位魔法石】を99個使っていました。
我ながら、中々、良い出来栄えです。
エクスプローラーの建造と並立して行っていた作業で、50体の【自動人形】・シグニチャー・エディションも造り上げました。
この50体の【自動人形】・シグニチャー・エディション達は、このまま、エクスプローラーの建造に携わり、エクスプローラー完成後にはクルーともなります。
50体の製造は、もちろん最高記録更新。
いやはや、大変でした。
まして今回は、オラクルとティファニーの、お手伝いはなし。
イーヴァルディ&サンズ造船所に所属する【自動人形】・シグニチャー・エディション達には、手伝ってもらいましたが、【超位工学魔法】を使えるのは、私1人だけだったのです。
うん、私は頑張りました。
ブラックな……いや、可愛いソフィアからの要望とはいえ、こんなに頑張る必要はあるのでしょうか?
まあ、私は根っからの作業厨でワーカホリックなので、ブラック労働は得意なのですが……。
そんな事を得意にはなりたくなかったです。
さてと、頑張り過ぎたので、お腹が空きました。
朝ご飯を食べに行きましょう。
私は、クイーンに挨拶をして、【ドラゴニーア】の竜城に【転移】しました。
・・・
竜城。
「おはようございます、ノヒト様」
「おはようございます」
私が、朝ご飯を食べに大広間に到着すると、アルフォンシーナさんとゼッフィちゃんが挨拶をしてくれました。
「おはようございます。アルフォンシーナさん、ゼッフィちゃん」
私は、挨拶を返します。
「改めて、ですが、【ラドーン遺跡】と【オピオン遺跡】の攻略、おめでとうございます」
アルフォンシーナさんは言いました。
ああ、そうですね。
一夜明けて、気分的には、もう終わった事だと思っていましたが……ユーザー大消失後の世界では、遺跡攻略は偉業。
賞賛されるべき事なのですよね。
「ありがとうございます」
私は、お礼を言いました。
「昨夜は、ソフィア様も……サウス大陸奪還作戦の折に不覚を取った【ラドーン】に対して、リベンジを果たせた……と、大変に、ご機嫌も麗しくていらっしゃいましたよ」
アルフォンシーナさんは言います。
アルフォンシーナさんは、【神竜】の首席使徒。
ソフィアが機嫌良くしている事が、何よりの喜びなのでしょう。
【ラドーン】へのリベンジ……ですか。
そう言えば、そんな事もありましたね。
サウス大陸奪還作戦の初戦。
【大密林】で、スタンピードによって外界に出ていた3頭のダンジョン・ボスと遭遇戦になったソフィアは、当時、編み出したばかりの必殺技【神竜砲】を試し撃ちしようとして、魔力の収束に失敗してブレスをパンクさせ、無防備なところにラドーンの反撃を喰らい、危うく食べられかけたのです。
自尊心の強いソフィアの事……あれは、相当に悔しい思い出だったのでしょう。
程なくして、トリニティが大広間に姿を現しました。
私達は、挨拶を交わします。
ファヴとウィルヘルミナ、リントとティファニーが起き出して来ました。
私達は、挨拶を交わします。
最後に、ソフィアとウルスラとオラクルとヴィクトーリアが現れました。
私達は、挨拶を交わします。
「ノヒトよ。今日と明日で【ピュトン遺跡】をクリアしたら、【プレスタンツァ】に行けるのじゃろう?」
ソフィアが開口一番言いました。
【プレスタンツァ】とは、サウス大陸の4つの遺跡をクリアすると【パラディーゾ】の中央塔にある【門】が開いて往来出来るようになる、隠しマップです。
つまり、【ドラゴニーア】の竜城から【門】を通って行ける【シエーロ】に相当する場所でした。
「行けますね。それが、どうしました?」
現状、私は【プレスタンツァ】に何か用がある訳でも、懸念がある訳でもありません。
「我は思い出したのじゃ」
ソフィアは、ギリギリと奥歯を噛み締めて言いました。
おや?
アルフォンシーナさんの話では……【ラドーン】にリベンジを果たせたので、ソフィアは機嫌が良い……という事でしたが?
明らかに、ソフィアは、憤懣やるかたない、という態度です。
アルフォンシーナさんの方を見ると……理由がわからない……という困惑した表情をしていました。
「思い出した、とは、何を?」
「我は、すっかり忘れておったのじゃが、【プレスタンツァ】には、アンの奴めが暮らしておるのじゃ。ぐぬぬぬ……アンの奴めは、我の大切にしていた至宝を奪った盗人なのじゃ。絶対に許せぬ、のじゃ」
アンて誰?
ソフィアの至宝?
話が、まるで、わかりません。
「ソフィア。順を追って話して下さい。アンとは誰ですか?至宝とは何ですか?」
「アンは、盗人の名前じゃ。至宝は、我の大切にしていた宝じゃ」
ソフィアは、地団駄を踏みます。
あー、ソフィア、話が堂々巡りしていますよ。
「ノヒト。アンお姉様は、妾達の姉。長姉であるソフィアお姉様の、すぐ下の妹である守護竜ですわ」
リントが解説してくれました。
なるほど。
アンとは……つまり、【プレスタンツァ】の守護竜である【アンピプテラ】の事ですね。
ようやく主語の対象がわかりました。
「で、ソフィアの大切にしていた至宝とは?」
「さあ、それは妾にも、わかりません」
リントは肩を竦めます。
「ぐぬぬぬ……思い出したら、許せぬのじゃ。何としても、折檻してやるのじゃ。場合によっては、【プレスタンツァ】を攻め滅ぼす事も厭わぬのじゃ。アンめ、待っておれよ。この恨みを晴らさでおくべきか、なのじゃ」
ソフィアは、顔を真っ赤にして言いました。
守護竜が、守護竜に対して折檻を加えるなどとは、穏やかではありませんね。
ましてや、【プレスタンツァ】を攻め滅ぼす、などと。
場合によっては、世界大戦が勃発してしまいます。
ゴ〇ラとキン〇ギドラの対決のようなモノ。
巻き込まれる人種にとっては、本当に、たまったものではありません。
「ソフィア。【アンピプテラ】に何を盗まれたのですか?それを返してもらう事は出来ないのですか?」
「アンの奴めは、我が大切に飼っていた【黄金の卵を産む鶏】を、焼き鳥にして食べてしまったのじゃ」
ソフィアは言いました。
く……くっだらねーーっ!
食べ物の恨みは恐ろしい、などと言いますが……そんな事で、世界大戦勃発の危機ですか?
何だか馬鹿馬鹿しくなって来ましたよ。
【黄金の卵を産む鶏】。
あれは、超絶難易度のイベント・クエストの景品でした。
「アルフォンシーナさんは、ご存知でしたか?」
「いいえ。初耳です」
アルフォンシーナさんは、困惑気味に答えます。
【黄金の卵を産む鶏】をソフィアが飼っていた、などという設定を私は知りませんし、ゲームの世界観にも設定されていませんでした。
また、アルフォンシーナさんも知らない、という事は、歴史には記されていないゲーム発売以前のソフィアのプライベートな出来事なのでしょう。
「アンの馬鹿め……【黄金の卵を産む鶏】は【黄金の卵】を産む事に価値があったのじゃ。親鶏の肉を食べてしまったら、もう卵を産まないのじゃ。あれは、我の至宝じゃったのに……うわーーん、うわーーん」
ソフィアは、突然、号泣し始めました。
ふぁ?
まったく……【神格者】が泣くほどの事ですか?
まあ、ソフィアは、無類の卵好き。
天上の美味と云われる【黄金の卵】は、ソフィアにとって、これ以上ない大好物のはず。
ましてや、大切に世話をしていたペットを食べられてしまった悲しみを合わせて考えれば、泣きたい気持ちも理解出来ないではありませんが……。
そう言えば、私も子供の頃に、自分が買ったコーラを弟に無断で飲まれて無性に腹が立った事を思い出しました。
大人になってから思い出すと、何で、あんな事で怒ったのか、意味がわかりません。
「ソフィア。【黄金の卵の産む鶏】なら、また入手出来ますよ。私が一緒に行ってあげますから、機嫌を直して下さい」
「ぐす……本当か?あれは、本当に貴重な【聖鳥】じゃと聞くのじゃ。また、捕まえられるのじゃろうか?」
ソフィアは、泣き止みました。
【黄金の卵を産む鶏】は、不老不死の【聖鳥】。
キチンと世話をすれば、永遠に生きて、毎日1つの【黄金の卵】を産み続けます。
【黄金の卵】は、天上の美味とされ、また、【黄金のリンゴ】と同様に、食べれば【回復】と【治癒】の効果も持っていました。
しかし、【黄金の卵を産む鶏】は、設定上、雌鶏しかいません。
有性生殖が出来ない為に、繁殖して数を増やせませんでした。
つまり、【黄金の卵を産む鶏】を殺して肉を食べてしまえば、【黄金の卵】を得る機会は失われてしまうのです。
【黄金の卵を産む鶏】を入手する方法は、イースター(この世界では春分の日の後の最初の満月の翌日と設定されている)に、各大陸の中央国家で発生するイベント・クエストをクリアする事。
「ソフィア。来年の春になれば、【黄金の卵を産む鶏】を入手出来ますよ。半年後です」
「半年後……」
ソフィアは不満気に呟きました。
「半年なんて、あっという間ですよ。ソフィアは永遠の生命を持っているのですからね」
ソフィアは、おそらく千年単位の大昔の恨みを現在も根に持っているくらいなのですから、対比で言えば、半年後など、ほんの一瞬です。
「わかったのじゃ。待つのじゃ。じゃが、アンの奴めは1発ブン殴ってやらねば気が済まんのじゃ」
ソフィアは言いました。
「まあ、殺さない程度なら、姉妹喧嘩に口を出すつもりはありません。それから、【プレスタンツァ】を滅ぼすのも禁止です」
「うむ。【黄金の卵を産む鶏】が、また手に入るのならば、それは勘弁してやるのじゃ」
ソフィアは、ようやく怒りを収めます。
何は、ともあれ、【プレスタンツァ】へ通じる【門】を開くには、【ピュトン遺跡】をクリアしなければいけません。
その為には、まずは、朝ご飯です。
腹が減っては戦は出来ないのですからね。
私達は、テーブルに着き、朝ご飯を食べ始めました。
今日のメニューは、洋食と和食から選べる方式。
私は、和食。
ソフィアは、ゆで卵をジッと見て、【黄金の卵を産む鶏】の事を思い出しているようでしたが、再び入手出来る、とわかったからか、とりあえずは怒り出す事も泣き出す事もありませんでした。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。
ご意見などは、ご感想の方に、お寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




