表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/1238

第306話。計算と心理。

名前…ハロルド

種族…【(ヒューマン)

性別…男性

年齢…44歳

職種…【社長(プレジデント)

魔法…【闘気】、【収納(ストレージ)】、【鑑定(アプライザル)】、【マッピング】

特性…【才能(タレント)経営(マネジメント)

レベル…15


ソフィア(アンド)ノヒト(コンパーニア)社長。

経営と法務を担当。

果断な性格で、経営戦略は攻撃的。

奥さんは【犬人(コボルト)】。

【タナカ・ビレッジ】。

 イーヴァルディ(アンド)サンズ造船所。


 深夜。


 私は、1人で造船所の中で作業をしていました。

 ソフィア艦隊旗艦エクスプローラーの内装を造り込みながら、そのクルーとする【自動人形(オートマタ)】・シグニチャー・エディションを造っています。

 ソフィアに、せっつかれていますからね。


 その時、私の近くに3体の転移反応が発現しました。


 チーフ……【コンシェルジュ】を送りました。


 ミネルヴァが念話(テレパシー)で伝えて来ます。


 3体の【コンシェルジュ】が現れました。


 ミネルヴァ……ありがとう。


 私は【念話(テレパシー)】で礼を言います。


 さてと、この【コンシェルジュ】達は、エクスプローラーに配備される者達でした。


「あなた達には、このエクスプローラーの指揮に当たってもらいます。あなたは艦長、あなたは副長、あなたはレーダーと艦載機と火器の管制官です。各自、持ち場に就いて、エクスプローラーの内装を完成させるよう差配しなさい」


「「「了解しました」」」

【コンシェルジュ】達は動き出します。


 これで良し。


 私は、先程、グレモリー・グリモワールから言われた事を思い出していました。

 ファミリアーレの大半のメンバーは、戦闘職として超一流には、育たない……という内容です。


 うん。

 グレモリー・グリモワールの常識で言えば、そうでしょう。


 超一流の戦闘職とは、かつてで言えば、グレモリー・グリモワールやモフ太郎氏などのトップ・プレイヤーの事を指します。

 現在なら、()()()()()()()()()()()()、剣聖クインシー・クインやディーテ・エクセルシオールやアルフォンシーナさんが、その範疇に入るでしょう。

 彼らは、全員が、潜在能力(ポテンシャル)に恵まれた、いわば天才でした。


 対して、ファミリアーレのメンバーは、誤解を恐れずに言えば、凡庸。

 彼女達は、ゲーム時代の感覚で言えば、リセマラの最中に生まれれば、迷わずキャラ・メイクをやり直すような外れ潜在能力(ポテンシャル)しかありません。


 潜在能力(ポテンシャル)とは、チュートリアルで泉の妖精から貰える【贈物(ギフト)】の【才能(タレント)】とは、また違う概念です。

 潜在能力(ポテンシャル)とは、ランダムで現れる初期ステータス。

 一方、【才能(タレント)】とは、ステータス値とは別の、いわゆる特殊技能と見做されます。


 ややこしいのですが、これは、そういうモノだと、丸っと飲み込んで下さい。

 運営側の立場としては、そう言う他ありませんので。


 グレモリー・グリモワールは、暗にファミリアーレの大半のメンバーには……事細かな指導は時間の無駄で、必要ないのでは……と言っていたのです。

 私も、自分のマイ・キャラの初期設定値がファミリアーレと同じだったら、落胆して、リセットし、リセマラからやり直した事でしょう。


 しかし、だからと言って、()()()ゲーム設定では、……ファミリアーレが超一流になれない……という訳ではありません。

 ただ……物凄く大変なだけです。


 私は、ファミリアーレ育成の明確なイメージがありました。

 まず、今度のハロウィン・イベントのクエストをクリアして、ファミリアーレのメンバー全員に、とあるアイテムを取得させます。


 そのアイテムは、【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】。

勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】は、熟練値のステータスがキャラ・メイクの長所・短所や得意・不得意に関わらず全ての項目で成長し易くなるというモノ。

 代わりに、経験値のレベル・アップ換算率が低くなります。


 この【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】と正反対の効果を発揮するのが、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】。

天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】は、熟練値のステータスが全体的に伸び(にく)くなる代わりに、経験値のレベル・アップ換算率が高くなります。


 これらは、いわゆるブースター・パックと云われる、育成補助アイテムでした。


 ユーザーによると、まず【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】を使用してレベルを上げ、後に【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】を用いて各ステータスを伸ばす事がキャラ育成の確立したセオリーとして定着しています。

 これは、戦闘においては、第一義的にレベルがキャラの強さに直接関わるからでした。


 レベル1で熟練値カンストのキャラより、レベル99で熟練値が初期値のままのキャラの方が圧倒的に強いのです。

 レベル差が98もあれば、文字通り、指先で相手をプチれますよ。


 ゲームを始めて、すぐの頃は、レベルを速やかに上げた方が効率良くキャラ育成が出来ました。

 ゲーム・プレイ時間で10倍以上、レベルを先に上げた方が早くキャラが育つ、という実証動画も動画投稿サイトに多数上がっているくらいですからね。


 また、ある程度のレベルがないと、あっという間にユーザーは死にます。

 ユーザーが死ぬと、レベル半減と所持金半減のコストを支払って復活する訳ですが、これが非効率、不経済。

 何度も死ぬと、せっかく育てたキャラが〜……と、落胆も大きくなりますしね。


 なので、ユーザー達は、ある程度までは、無我夢中でレベルを上げるのです。

 その時に【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】は大変に役立ちました。


 一方で、先に熟練値を上げようと【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】を使うユーザーはほとんどいません。

 先の動画投稿サイトの実証動画などによる予備知識により、それが非効率だ、という定説が確立してしまっているからです。

 熟練値は、強さに直接的には作用しません。

 作用はしていますが、レベルほどには劇的な作用ではないのです。


 なので、育成の順番としては、後回しになりました。


 つまり、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】を使用してパワーやスピードや魔力量など、大きな影響があるステータスを先に育成し、後に【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】を使用して細かなステータスを上げて行く。

 これが鉄板の育成のセオリー。


 しかし、これには落とし穴がありました。

 ゲームの設定上、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】と【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】の、どちらを先に使うべきか、などという差は全くありません。

 どちらを先に使っても、設定上、理論上、悪影響はないのです。

 また、動画投稿サイトに上がっている実証動画からもわかるように、育成の効率論で言えば、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】を先に使うべきなのは自明のような気がします。


 しかし、それは計算上のプロセス論。

 結果は、実は、ほとんどの場合で逆となります。


 何故ならば、先にレベルを上げたユーザーは、概して、戦術を組み立てたり、敵戦力を分析をしたり、技術を磨き上げたりする意識が希薄になるからでした。


 高レベルのユーザーは、遺跡(ダンジョン)の深層に潜れるようになり、また、高難易度クエストなどにも挑戦出来るようになります。

 つまり、戦闘負荷や、リスクが高い場所にも足を踏み込めるようになる訳ですね。


 そのように、強い敵が現れる場所で活動出来るユーザーは、必然的に効果が高いアイテムを入手したり、手に入れたアイテムを換金して、必要なアイテムを買う事も出来るようになります。

 それが、戦闘を、さらに楽にしました。


 熟練値をチマチマ上げているレベルが低いユーザーには、こういう高付加価値アイテムは入手も購入も出来ません。

 明らかにジリ貧。


 なので、ユーザー達は、ほぼ全員が【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】を先に使うのですが……。


 ここで先の問題提起に回帰します。


 高レベルのユーザーは、戦術を組み立てたり、敵戦力を分析をしたり、技術を磨き上げたりするでしょうか?


 必要ないのに、です。

 おそらく、ほとんどのユーザーは、しません。


 するにしても、戦術を組み立てたり、敵戦力を分析をしたり、技術を磨き上げたりしなければ生き残れない……先に【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】を使用しているユーザーに比べれば、必死さは希薄になるでしょう。

勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】組は、毎回、一生懸命に事前準備をして、必要な技術を磨き上げ、情報収集をして、情報分析をして、戦術を組み立てて、敵に挑むはずです。

 生き残るには、そうする他ないからでした。


 対して、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】組は、そこまで一生懸命にやるでしょうか?

 ある程度アバウトに戦っても、高レベルならゴリ押しで何とか出来てしまいますし、仮に失敗しても、高付加価値アイテムなどを使えば、敵を倒せたり、死なずに済んでしまいます。


 毎回、毎回、律儀に面倒な事前準備や情報収集・分析をして、戦闘時に局面を劇的には好転させないと、わかっている技術を磨き上げたりするのでしょうか?


 私は、元来、面倒臭がりなので、毎回はやらないかもしれません。

 おそらく、大半のユーザーも同じではないでしょうか?


 高レベルなら、準備をしなくても、雑に戦っても、敵を倒せるし必要ないから、やらない。

 失敗しても高付加価値アイテムをいっぱい持っていて、幾らでも挽回出来るから、やらない。

 そもそも、そんな事をしなくても敵を倒せるのに、何で、こんな無駄な事をしなくちゃならないんだ……馬鹿馬鹿しい。


 こうなると、情報収集、情報分析、戦術、技術……などなど、スルーされた、たくさんのステータス項目の熟練値は、伸びません。


 キャラ育成上、それが必要だとわかっている一部の、やり込みユーザーでも……。


 本当は、キャラ育成上必要かもしれないけれど、毎回それをやるのは面倒だから今回は……まあ、良いか……。


 と、なるのではないでしょうか?

 人間ですもの。


 しかし。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 繰り返しになりますが、ゲームの設定上、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】と【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】の、どちらを先に使っても、ゲーム・システムでは効果は完全に同じでした。

 本来、差が生まれるような事はありません。


 しかし、それは、あくまでも計算値の話。

 言うなれば、机上の空論なのです。


 実際にゲームをプレイして、アバターを操作するのは、人間。

 人間には、感情や心理があります。


 そうしなければならない、と、理屈では、わかっていても、結果的に必要がなかったり、面倒と思えばサボってしまう事もあるでしょう。


 矮小な敵を捻り潰す時に、もしも、自分が矮小な敵と同レベルだった時には、どうやって戦うべきか、どんな準備が必要なのか、などとは考えないのです。

 また、一撃で確実に死ぬとわかっている敵に、連続攻撃のコンボを当てる工夫や、パーティ・メンバーとの連携を磨いたり、などという事もしないでしょう。


 これは、計算値と心理の差。

 機械ではない人間心理の深い闇の部分でした。


 結論から言えば、私は、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】より先に【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】を使用して熟練値を上げた方が、育成においては有効だ、と考えています。

 これは、心理から起因しがちな、サボタージュを防ぐ為でした。

 これは、NPCであるファミリアーレの育成にも、適応されるはずです。


 しかしながら、ユーザーと違い、ファミリアーレは、死亡してしまうと、復活は出来ません。

 なので、最低限のレベルまでは育てておく必要がありました。

 また、肝心の【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】も、ハロウィン・イベント・クエストまでは、手に入らなかったという理由もあります。


天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】より先に【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】を使用するべき。


 グレモリー・グリモワールは、この事実に気が付いていません。

 グレモリー・グリモワールほどのプレイヤーなら、当然、知っていそうな事ですが……。


 実は、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】と【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】が実装されたのは、グレモリー・グリモワールや彼女のパーティ達が全員育成が終了した後だったのです。

 グレモリー・グリモワールは、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】も【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】も、自分で実際に使用してみた事はありませんでした。

 なので、必要に迫られなかったので、【天賦の宝珠(ジーニアス・オーブ)】と【勤勉の(ディリジェント・)宝珠(オーブ)】の使用による、効果のあれこれを深く掘り下げて考察してみる機会がなかったのでしょう。

 グレモリー・グリモワールの知識は、ユーザー達によって確立したキャラ育成の鉄板セオリーを、後から伝聞で知って得たモノ。

 自分達が、キャラ育成をしていた当時には存在しなかった理論だったのです。


 重度のゲーム廃人プレイヤーであるグレモリー・グリモワールでさえ知らない、キャラ育成の裏常識。


 いいえ、その表現は不正確ですね。

 グレモリー・グリモワールがキャラ育成をしていた当時なら、潜在能力(ポテンシャル)が低いキャラは、超一流には育たず……潜在能力(ポテンシャル)が高いキャラ・メイクとなるまで、何百回もリセマラするのが当たり前だったのです。

 しかし、ゲーム設定は、変わっていました。


 この設定改変が、今回の肝。

 一番重要なポイントかもしれません。


 どんな凡庸な才能(タレント)しかないキャラでも、知恵と労力と時間と……課金……をかければ、最強クラスにまで育つ。


 ゲームでは、そういう設定変更が行われていたのです。

 これは、ユーザーには、まだ非公開の情報でした。

 北米サーバー開放と同時に広報されるはずだった新システム。

 グレモリー・グリモワールであっても、知らなくても仕方がない新しいゲームの仕様だったのです。


 この改変に至る経緯には、幾つかの理由がありました。

 まずは過剰なリセマラ熱を緩和しようという運営側の意図。

 次にキャラ育成のセオリー画一化による各ユーザー・キャラの没個性と、パターン化、作業化、マンネリズム……などの回避。

 それから、外れと見做されてしまっている不人気な種族や職種(ジョブ)の復興。

 最後に……仮に外れ枠であっても愛着があるマイ・キャラを使い続けたい……というユーザーの救済。


 閑話休題。

 キャラ育成時に、ユーザーのほとんどが効率を追求した結果、ハマってしまう落とし穴。


 この落とし穴を避けて通れば、道は開けるのです。

 これが、一見凡庸とも思える潜在能力(ポテンシャル)しか持たないファミリアーレを、突き抜けたスペックを持つ超一流に育て上げる、私のシンプル極まりない方法論でした。

お読み頂き、ありがとうございます。

ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。


・・・


【お願い】

誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。

心より感謝申し上げます。

誤字報告には、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。

ご意見などは、ご感想の方に、お寄せ下さいませ。

何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ