第303話。手持ち無沙汰。
名前…ボールドウィン・アトランティーデ
種族…【人】
性別…男性
年齢…享年55歳
職種…【王家】
魔法…なし
特性…【風格、先導】
レベル…30
故人。
元【アトランティーデ海洋国】王太子。パトリシア女王の長男。
【大密林】侵攻作戦で主力飛空艦隊を率いて従軍し全滅……自身も戦死した。
【ラドーン遺跡】最深層。
私達は、オヤツ休憩を終えて、95階層に足を踏み入れました。
「ウルスラ。角笛じゃ」
「は〜い」
ブワ、ブワブワ、ブワ〜ッ!
ウルスラが【誘引の角笛】を吹き鳴らしました。
途端、魔物が、こちらに向かって来ます。
ウルスラが【誘引の角笛】を吹き、3柱の守護竜が猛威を奮い、後続のメンバーが魔物の死体を回収して回る……という、もはや完全な作業。
全く危なげがありません。
私のところに魔物が流れて来る事は皆無なので、暇です。
手持ち無沙汰なので、私は、途中、森の中で、良さげな巨木を切り倒し、木材を大量に【収納】に回収したりしていました。
通常の冒険者なら、遺跡の中で、樵の真似事なんかしないと思います。
木なんか切っても、かさばるだけですからね。
しかし、遺跡の森は、手付かずの原生林なので、意外と価値の高い木が生えていたりします。
おっ!
この楢は、推定樹齢千年。
あっちには、良さげなマホガニー……あっちにも見事な紫檀が……。
伐採、伐採。
無限容量の【収納】を持っている私ならば、どんな巨木を回収しても、容量を圧迫する心配はありません。
私達は、狩と伐採をサクサク進めて、あっという間にボス部屋に到着しました。
・・・
95階層のボスは、【ボナコン】。
【ボナコン】は、牛の角のような双角を持つ【古代・竜】でした。
【眷属】として、15頭の【ボナコン】を率いています。
「ノヒトよ。此奴らは、何か特殊攻撃を持つのか?」
ソフィアが訊ねました。
ソフィアなりに反省して、慎重に立ち回る事を覚えたようです。
「角による突貫と……超高熱の排泄物……つまり、糞を撒き散らします。後は【古代竜】と同じです」
「うげっ、何とバッチい攻撃なのじゃ」
ソフィアは眉をひそめました。
ソフィア、ファヴ、リントは、【ボナコン】には近付かず、遠隔から魔法とブレスで殲滅します。
「しかし、超高熱のウンチを出すなど……よく、お腹の中が火傷しないものじゃな?」
ソフィアは、言いました。
「大気中の酸素と反応して、発熱するのですよ」
「なるほどのう」
私は、【ボナコン】の腸内に溜まっていたブツを、魔法で分解してから、死体を【収納】に回収します。
【宝箱】の中身は……。
【名札】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
「これは、どう使うのじゃ?」
ソフィアが【名札】を持って訊ねました。
「【名札】は、一度だけ、魔物を100%【調伏】出来ます。ただし、既に固有名を持っている【ダンジョン・ボス】や【神格】の守護獣などには使えません」
「ほほう、ならば次の階層のボスで試してみよう」
ソフィアが言います。
「遺跡の階層ボスは、倒し切らないと、次の階層に降りられない仕様だから、もしも、階層ボスに【名札】を使うなら、倒して、【宝箱】と扉が開いて、その後になるね。つまり、【神蜜】を使って一度倒した階層ボスを復活させなければならないんだよ」
「なるほど、それは勿体ないのじゃ」
ソフィアは言いました。
「うん。それに、私なら、やろうと思えば、狙った魔物を必ず【調伏】出来るからね。使い所がないかな」
「うむ。ならば、これも譲渡してしまうか?」
「そうなりそうだね」
私は、【名札】と【コンティニュー・ストーン】を【収納】にしまいます。
私達は、96階層に続く階段を降りて行きました。
・・・
96階層。
私達の快進撃は続きます。
ん?
良く考えたら、私は、60階層で【血蜘蛛】を3頭倒しただけで、後は木ばっかり切っていますね。
ちっとも遺跡に潜っている感じがしません。
まあ、良いでしょう。
私達は、96階層のボス部屋に到着しました。
・・・
96階層のボスは、【酸竜】。
【眷属】として、16頭の【酸竜】を率いています。
「【酸竜】は、【酸・ブレス】を吐いてくる他、体液も超強酸性です。装備が酸化腐食したり傷んだり溶けたりしますので、魔法やブレスで仕留めましょう」
「わかったのじゃ」
ソフィアが【神竜砲】で、ファヴとリントは【収束ブレス】で、瞬く間に【酸竜】を血祭りに上げてしまいました。
私は、【酸竜】の体液を、魔法的に中和処理してから死体を【収納】に回収します。
【宝箱】の中身は……。
【スクロール】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
「出たのじゃ!【スクロール】じゃ!」
ソフィアは喜びました。
「いや、この【スクロール】は、【超位魔法全覚醒のスクロール】ではないよ。【超位】の【気絶・捕縛】を覚えられる【スクロール】だね」
「何じゃ。【スクロール】違いじゃったか」
ソフィアは、あからさまにガッカリして興味を失います。
「ソフィア。これは、そんなに悪い【スクロール】ではありません。【気絶・捕縛】は、いわゆる精神攻撃系。この手の魔法系統は、才能があったり、訓練すれば覚えられる、というモノではありません。なかなかに有用なのですよ」
「我は、既に【気絶・捕縛】が使えるのじゃ。必要ないのじゃ」
ソフィアは言いました。
「いいえ。ソフィアの【気絶・捕縛】は、あまり使っていないので、熟練値が低いですから、相手が強力な精神耐性持ちなら、【抵抗】される可能性があります。しかし、この【スクロール】で覚えた【気絶・捕縛】なら、魔法を覚えると同時に熟練値がカンストします。相当に【抵抗】が難しいでしょうね。ダメージを与える類の魔法ではありませんが、【超位】の魔物でも高確率で気絶させますからね。戦闘時における効果はエゲツないですよ」
「なぬーーっ!ならば、我が覚えるのじゃ」
「ソフィアは、元々【気絶・捕縛】を持っているのですから、熟練値を上げて下さい。勿体ないですよ。これは、【気絶・捕縛】を持たない魔法職に覚えさせる方が合理的です」
「うーむ。ならば、誰が良いのじゃ?」
「ウルスラです。ウルスラは攻撃威力値が最低クラスの設定です。つまり、ほとんど攻撃手段を持ちません。これはウルスラに使わせるべきですよ」
「なるほど。わかったのじゃ。ウルスラ、【気絶・捕縛】を覚えるのじゃ」
「やった〜っ!これでアタシの最強ロードが、また一歩、実現に近付いたよ〜」
ウルスラは、【スクロール】を使います。
【スクロール】は、書かれた文字が光に置き換わり、ウルスラの体に吸収されて行きました。
やがて、【スクロール】は、光の粒子になって消滅します。
「ウルスラよ。どうじゃ?」
ソフィアは訊ねました。
「うん。何か、チョ〜強くなった気がする」
ウルスラは、言います。
「【気絶・捕縛】は生体にしか効果はありません。なので、非生物NPCや、【不死者】などには効きませんよ」
「わっかりました〜。【気絶・捕縛】……早く、使ってみたいな〜」
ウルスラは言いました。
ウルスラは、【気絶・捕縛】発動時のポーズを、ソフィアと相談し始めます。
ポーズとか、関係ありませんよ。
まあ、良いですけれどね。
私達は、97階層に続く階段を降りて行きました。
・・・
97階層。
ウルスラが、何度か、【気絶・捕縛】を詠唱しますが……。
「ウルスラよ。射程圏外じゃぞ。もっと近接せねば、届かぬのじゃ」
ソフィアが言いました。
「だって〜。チョ〜怖いよ〜。あんな、デッカい魔物に近付くなんて無理無理。やっぱ、【スクロール】は返すよ〜」
「ウルスラ。一度使った【スクロール】は、もう元には戻せませんよ」
「近接せねば【気絶・捕縛】は発動せぬのじゃ」
ソフィアは、言います。
「まあ、護身用として、いざという時に使えれば良いのですよ。ウルスラは【前衛】ではありませんからね」
「うん。アタシは、戦闘時には、ソフィア様の背後に隠れるのが、定位置だからね」
ウルスラは、さも当然かのように胸を張って言いました。
ウルスラは不死身なのですが……。
私達は、97階層のボス部屋に到着しました。
・・・
97階層のボスは、【タラスク】。
【眷属】として、17頭の【タラスク】を率いています。
【タラスク】は、背中に硬い甲羅を背負う【竜】族の巨大な魔物。
管理上、【古代竜】に分類されていますが、翼はなく、生物学上は【地竜】の近縁種です。
特長は、背中の甲羅による堅牢性と……。
「ソフィア。【タラスク】も【ボナコン】同様に、超高熱の排泄物を武器とします。他にもブレスも強力ですよ」
「何じゃ、此奴も、バッチい仲間か?遠隔で仕留めてやるのじゃ」
ソフィアは、【神竜砲】を吐きました。
ソフィアの放った【神竜砲】は、【タラスク】の甲羅に当たって、致命傷は与えられなかったようです。
「くっ、この……【神竜砲】!」
ソフィアは、【タラスク】の甲羅に覆われていない部分を撃ち抜き、ようやく仕留めました。
私は、【タラスク】の腸の内容物を分解して、死体を【収納】に回収します。
【宝箱】の中身は……。
【神の遺物】の剣【フラガラッハ】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
【フラガラッハ】は、鞘から抜き放つと、剣が飛翔して自動的に敵と戦ってくれるという……いわゆる【自動剣】。
しかし、レジョーネは、あまり必要とはしませんね。
私達は、98階層に続く階段を降りて行きました。
・・・
98階層。
ウルスラが【誘引の角笛】を吹き、群がってくる魔物を3柱の守護竜がなぎ払い、私達バックアップ要員が死体を回収します。
淡々と、魔物を倒して、ボス部屋に到着しました。
・・・
98階層のボスは、【古代グリフォン】。
【眷属】として、18頭の【古代グリフォン】を率いています。
【古代グリフォン】は、【グリフォン】の最上位種。
10m以上という、【グリフォン】と比較すると相当な巨体を持ち、また、強力な戦闘力を持ちます。
希少な為、エンカウントする確率が低く、実物を見る事が珍しい魔物でした。
「大きな【グリフォン】じゃ。カッコ良いのじゃ。連れて帰りたいのじゃ」
ソフィアが言います。
「【神蜜】を使いますか?」
「ぐぬっ、それは勿体ないのじゃ」
「【グリフォニーア】の【グリフォン山】に行けば、稀にスポーンしますよ。今度、【調伏】しに行きましょう」
「うむ。そうするのじゃ」
ソフィア、ファヴ、リントが【古代グリフォン】に攻撃を仕掛けました。
【古代グリフォン】は、高速で飛行します。
ソフィア達の攻撃を躱す個体もいました。
また、さすがに19頭ともなると、手が足りなくなって来るのか、ソフィア、ファヴ、リントが討ち漏らした数頭が、私達のいる場所に攻撃を仕掛けて来ます。
おっ、久しぶりに出番が来ましたね。
トリニティ、オラクル、ティファニーが1頭ずつを仕留め、私が2頭を倒します。
私は、初めて実戦で【追尾誘導光子砲】を使ってみました。
えっ!
何、この便利さ。
【追尾誘導光子砲】は、詠唱時に狙いを定めれば、発動後は自動追尾して敵を勝手に倒してくれます。
さらに、もし万が一射線上に味方がいても、味方は避けてくれますので、誤射の心配もありません。
便利過ぎて、ヤバいですね。
私達は、【古代グリフォン】を殲滅しました。
【宝箱】の中身は……。
【キルケーの杖】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
「ほおーう。【キルケーの杖】じゃな?」
ソフィアが言いました。
「ソフィア。【キルケーの杖】を知っているのですか?」
「うむ。アルフォンシーナの主装備じゃからな」
ソフィアは頷きます。
へえ。
アルフォンシーナさんが使っているのですね。
【キルケーの杖】は、50cmほどの細長い棒状の魔法触媒です。
先端は尖っていますが、刺突など直接攻撃武器としては、あまり役に立ちません。
また、攻撃魔法をブーストする効果もないので、そもそも武器としての範疇には入っていないのです。
厳密な分類では、【キルケーの杖】は、アイテムと呼ぶべきでしょう。
【キルケーの杖】の真骨頂は、医学・薬学に関する魔法との高い親和性。
【回復・治癒】の効果を高めたり、【調合】を行ったり、痛みを除去したり、薬効を体内に浸透させたり、麻酔をかけたり、眠らせたり、消毒・殺菌したり……と、医学・薬学に関わりそうな多様な効果を発揮します。
それから、どうしてなのか、動物(人種や魔物を除く)を操る特殊効果も持っていました。
「これは、薬学の研究者を目指すリスベットに渡しましょう」
「うむ。それで良かろう。攻撃力のない武器など、我は全く興味がないのじゃ」
ソフィアは、何故だか、エッヘン、と威張って言います。
「さてと、次は、いよいよ99階層です」
「うむ。やってやるのじゃっ!」
「リント、ティファニー。私達が99階層に降りると、毎回、99階層の、ほとんど全ての魔物が待ち構えていて一斉に攻撃して来るのです。なので、面喰らわないようにして下さいね。すぐに戦闘が始まりますので、心と魔力の準備をしておいて下さい」
「わかったわ」
リントが頷きました。
「畏まりました」
ティファニーが言います。
私達は、【ラドーン遺跡】の一番最後の階層……99階層に続く階段を降りて行きました。
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