第302話。油断大敵。
本日2話目の投稿です。
カティサークの甲板。
昼食のバーベキューの後を片付けました。
【ガレリア海】で、100頭単位の【クラーケン】が獲れる事がわかったからか、ソフィアは気前良くグレモリー・グリモワールに大量の【クラーケン】肉を分けてあげています。
ゲンキンな娘ですね。
しかし違法な事をしている訳ではないので、欲望に忠実なソフィアの性格を、私は、むしろ好ましいと思います。
片付けを終えた私は、カティサークの中に入りました。
・・・
カティサーク船内。
「ノヒト先生。私達、また結構レベルが上がったんだよ」
ハリエットが言いました。
ふむふむ、なるほど。
ファミリアーレは、平均して、3ほど、レベルが上がっています。
ブート・キャンプ終了時から考えれば5〜7ほどはレベル・アップしていました。
順調に育ってくれていますね。
サブリナとフェリシアとレイニールは、一気に10ほどのレベル・アップです。
【静かの森】のブート・キャンプ時に比べて、30階層の遺跡は、魔物の強さは低いですが、エンカウント率は高いのです。
一見、レベル・アップ効率は悪いようですが、多くの戦闘を経験する事で、熟練値も上がり、トータルで見て、遺跡の方が強化に寄与している、と言えました。
「良かったですね。午後も頑張って下さい」
「わかりました」
ハリエットは元気良く言います。
他のファミリアーレのメンバーも、口々に気合いを入れていました。
「グレモリー。これを渡しておきましょう」
私は、グレモリー・グリモワールに【神蜜】を渡します。
「ね、【神蜜】っ!」
グレモリー・グリモワールは【鑑定】して驚きの声を上げました。
「グレモリーが必要と感じたら自由に使って下さい」
「良いの?」
「はい。どうやら、私達なら、遺跡の90階層では、毎回【神蜜】が入手出来る仕様のようなので、ソフィアと相談して、一つ譲渡する事にしました。ファミリアーレを引率してくれる、お礼と考えて下さい」
「あ、そう。ありがとう。なら、遠慮なく貰っておくよ」
「では、ファミリアーレの事を、よろしく」
「お、任せておいてよ」
グレモリー・グリモワールは、鷹揚に頷きます。
レジョーネは、【ラドーン遺跡】90階層に向かって【転移】しました。
・・・
【ラドーン遺跡】90階層ボス部屋奥の転移魔法陣部屋。
「ヴィクトーリア。この先は、負荷が高いので、あなたは、【収納】に入っていて下さい」
「畏まりました」
ヴィクトーリアは素直に従います。
純正のスペックであるヴィクトーリアは、レジョーネの中で唯一の【高位】戦闘職。
他のメンバーは、【神位】と【超位】。
私がヴィクトーリアを守れば、おそらく大丈夫だとは思いますが、遺跡最深層では、念の為、安全を優先します。
「うむ。ヴィクトーリアよ、我が、この下の階層の【宝箱】から【超位覚醒のスクロール】を取って来てやるのじゃ。それまでの辛抱じゃぞ」
ソフィアは、もう【超位覚醒のスクロール】を獲得する気満々で言いました。
「ソフィア。【宝箱】の宝は、原則としてランダムですから、欲しいアイテムが必ず手に入る訳ではありませんよ」
「やってみなければ、わからないのじゃ。我ならば、獲れる気がするのじゃ」
ソフィアは自信満々で言います。
あ、そう。
私は、ヴィクトーリアを【収納】に回収しました。
「では、行きましょう」
「うむ。やってやるのじゃ」
ソフィアは言います。
「おーーっ!」
ウルスラが元気良く応じました。
他のメンバーも、ソフィアに向かって頷きます。
私達は、91階層に続く階段を降りて行きました。
・・・
91階層。
【ラドーン遺跡】の最深層は、森林エリアでした。
オーソドックスですが、樹木が林立する森林フィールドは、案外、進撃に苦労します。
レジョーネにとって森林だろうと、宇宙空間だろうと、戦闘には問題などありません。
樹木に視界が遮られても、【マッピング】で敵の位置は把握出来ますし、森の大木ごと魔物を倒してしまえますので遮蔽物にもなり得ません。
倒した魔物を回収するのが面倒で大変なだけなのです。
遺跡の91階層から先の最深層では、エンカウントする魔物は全て【超位】となります。
一般的に、遺跡最深層は、隔絶した難易度と見做されていました。
グレモリー・グリモワールと言えど、この階層になれば、ボス戦までは、基本的に魔物を避けて魔力を温存して進む事を選択します。
しかし、レジョーネは、というと。
「ウルスラ。吹くのじゃっ!」
「は〜い」
ブワ〜ッ、ブワブワ、ブワ〜ッ!
ウルスラが【誘引の角笛】を高らかに吹き鳴らしました。
途端に、魔物が怒涛のように集まって来ます。
私達は、魔物の大群と、がっぷり四つに組んで、なおかつ一方的に蹂躙して進むのですよ。
一撃で倒せるなら、【低位】の魔物であろうと【超位】の魔物であろうと、倒す労力は同じ。
全く問題はありません。
ソフィアとウルスラが先頭……ファヴとリントが両翼……トリニティ、オラクル、ティファニーが中団……私が最後尾からパーティ全体を守ります。
私達は、森林の大木と魔物達を一緒くたに、なぎ倒しながら、91階層のボス部屋に到達しました。
・・・
91階層のボスは、翼を持つ虎の魔物【スーグ】。
虎系の魔物としては、相当に強力な【超位】の魔物でした。
この上位には、【白虎】という虎系最強の魔物がいるだけです。
【スーグ】や【白虎】は、自然界では、イースト大陸に多くスポーンしますね。
ボスの【スーグ】は、【眷属】として、11頭の【スーグ】を率いていました。
「そいやーーっ!」
ソフィアが、ボスを瞬殺してしまいます。
ボスを失って混乱する【眷属】達の中にファヴとリントが突撃して、瞬く間に死体の山を作って行きました。
【スーグ】は、強力な魔法を駆使しますが、3柱の守護竜達は、全く反撃を許しません。
ものの数十秒で戦闘は終了しました。
【宝箱】の中身は……。
【圧縮箱】と、【コンティニュー・ストーン】が3つ。
【圧縮箱】とは、大き過ぎて【宝箱】に入りきらないサイズのアイテムが入っている容器です。
ソフィアが、【圧縮箱】を【宝箱】から取り出して、床の上に置きました。
出現したのは、豪華な装飾が施された箱馬車です。
【鑑定】すると【王族の馬車】と表示されました。
「ただの馬車じゃ」
ソフィアが言いました。
「いや。騎竜にも牽引させられる仕様みたいだから、【竜】を連結すれば、空飛ぶ馬車になるね」
「ふむ。じゃが、大砲などはないようじゃの……。つまらぬ。これは、いらぬな」
ソフィアは、【王族の馬車】の屋根や床の下などを調べて言います。
「まあ、売ってしまうか、チェレステさんや、ゴトフリード王あたりに、あげましょう。【王族の馬車】と表示される乗り物に、王族以外が乗ると紛らわしいですからね」
「ならば、チェレステにあげるのじゃ。【ムームー】は、何もかもが足りておらぬ故、喜ぶじゃろう」
「ソフィアが、そう言うなら、そうしよう」
私達は、92階層に向かいました。
・・・
92階層。
【誘引の角笛】で魔物を集めて狩り、あっという間にボス部屋に到着。
92階層のボスは、【サンダーバード】。
眷属は【サンダーバード】12羽。
【サンダーバード】は名前が示す通り、雷の属性持ちの鳥です。
種族的には炎の属性を持つ【フェニックス】の近縁種という設定でした。
【フェニックス】同様に不死と設定されていますが、【サンダーバード】も【フェニックス】も不死身ではないので、殺せば存在は滅びます。
ややこしいですが、この世界では、不老不死、と、不死身は区別されて設定されていました。
不老不死とは寿命がない状態を指しています。
なので、殺されたり、自殺したり、事故に遭ったり、病気にかかったり、と外的要因では死ぬ事はあり得ます。
つまり、トリニティや、オラクル達(非生物NPC)のような者達の事。
対して、不死身とは、私のように全く死なないか、ソフィア達のような守護竜や、盟約の妖精であるウルスラや、ユーザーであるグレモリー・グリモワールのように、死んでも復活可能な場合を指します。
そうこうする間に、ソフィア、ファヴ、リントが、呆気なく【サンダーバード】を倒してしまいました。
若干1名、【サンダーバード】の群の中へ、無造作に突貫して、雷撃の集中放電を食らっている者がいたようですが……。
「ノヒトよ。舌がピリピリ痺れるのじゃ」
【サンダーバード】の【超位雷撃】の直撃を受けたソフィアが言います。
「はいはい」
私は、ソフィアに【治癒】をかけてあげました。
【宝箱】の中身は……。
【オリハルコンの盾】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
ソフィアは、もはや【神の遺物】や超絶レアでなければ、宝に興味を示しません。
私達は、93階層に続く階段を降りて行きました。
・・・
93階層のボスは、【毒竜】。
【眷属】は、13頭の【毒竜】。
名前が示す通り、世界で……自然界最強クラスの毒……を持つ、【古代竜】ですが……それだけの事です。
【超位】の毒に、【神格】を持つ、私、ソフィア、ファヴ、リントは、完全耐性がありました。
【自動人形】である、オラクル、ティファニーには、そもそも毒は効きません。
ウルスラは、死んでも復活可能。
唯一、毒で死ぬ可能性があるのは、トリニティですが、遺跡の【徘徊者】であり、遺跡の中では戦闘力がブーストされているトリニティが、【古代竜】ごときに、後れを取るはずもありません。
全く問題にもならず、殲滅してしまいました。
【宝箱】の中身は……。
【鼓舞の太鼓】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
ドンドコドン、ドコドコドコ……。
ソフィアは、【鼓舞の太鼓】を叩きます。
「これが、どうしたのじゃ?」
「一応、この【鼓舞の太鼓】の音が聞こえる範囲にいる味方陣営の士気が上がる、というアイテムなんだけれどね。私や守護竜の常時発動能力や、ウルスラの祝福の方が、上位だから、使い所がないね」
「つまり、ガラクタじゃな?」
「【ドラゴニーア】軍にでも、あげちゃおうか?」
「要らぬじゃろう。【ドラゴニーア】軍の士気は最高じゃ。戦場で士気が揺らぐようなヤワな鍛え方はしておらぬ」
「精神耐性を上げる効果もあるのだけれど、同じ事かな?」
「要らぬ。グレモリーの庇護する街の領軍にでも、あげてしまえ」
あ、そう。
なら、グレモリー・グリモワールにあげましょう。
私達は、94階層に続く階段を降りて行きました。
・・・
94階層のボスは、【アルミラージ】。
巨大なウサギで、頭に一本の角を生やしています。
【眷属】は、【アルミラージ】が14頭。
「弱そうじゃ。さあ、我が軽く捻ってやるのじゃ」
ソフィアは、また、無造作に突貫して行きました。
「あ、ソフィア……」
バタン、キュ〜……。
ソフィアは、15頭の【アルミラージ】から同時に、念波攻撃を受けて、うつ伏せにバッタリと倒れました。
すぐにトリニティが、【短距離転移】でソフィアを救出します。
その後、ソフィア以外のレジョーネによる遠隔飽和攻撃で、【アルミラージ】は殲滅されました。
「むにゃむにゃ……」
ソフィアは眠っています。
私は、【治癒】でソフィアを覚醒させました。
「ソフィア。起きて下さい」
「ん〜……ノヒト、おはよう、なのじゃ……はっ!我は、いつの間に眠ってしまったのじゃ?」
ソフィアは目を覚ましました。
「【アルミラージ】は、世界中、最強クラスの【睡眠】効果がある念波を放って来ます。魔法詠唱ではなく、念波なので、兆候が全くなく、いきなり眠らされるのですよ。油断のし過ぎです。もう少し慎重に立ち回って下さい」
私は、ソフィアを叱ります。
「面目ないのじゃ。しかし、【超位】の【睡眠】ならば、【抵抗】出来るはずじゃ」
「【アルミラージ】が15頭で同時に念波攻撃を放ち、ソフィアが完全に油断していたからです。【アルミラージ】の弱そうな外見に騙されてはいけません。【アルミラージ】は、【超位】の魔物なのですからね。来るとわかっていれば、ソフィアなら【抵抗】出来ます。眠らされたのは、ソフィアの油断のせいです。反省して下さい」
「重ね重ね、面目ないのじゃ。同じ間違いは、二度としないのじゃ」
ソフィアは、シュンとします。
私は、ソフィアを正座させて懇々と説諭しました。
こういうソフィアの油断が怖いので、私は、ソフィアに単独行動をさせないのです。
ソフィアは、知性的には至高の叡智を持ちますが、性格的には少々頭がアレですからね。
本当に目が離せずに手がかかる娘です。
まあ、保護者役としては、そこが可愛いところでもあるのですが……。
で、叱った後は、フォローも忘れずに。
「休憩にしましょう」
私達は、お茶と、お菓子で休憩にしました。
因みに、【宝箱】の中身は……。
【肥沃の鍬】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
【肥沃の鍬】は、耕した土地が1作期の間、守護竜が張る【神位結界】の中と同等に豊穣の実りをもたらすようになる、という効果を持つアイテム。
中々に有用ですが、ソフィア農場も、クイーン農場も、それぞれ、ソフィアとファヴの【神位結界】による恩恵を受けている地域。
私の陣営には、必要がないアイテムです。
また、所詮は鍬なので、広大な土地を、セッセコ、セッセコと耕して回らなければならないので、案外、使い勝手が悪かったりします。
「これも、グレモリーの街にあげてしまいましょうか?あるいは、チェレステさんでも良いですが」
「うむ。どちらにしても、我は要らぬ」
ソフィアは、バケツ・プリン(焼きプリン・タイプ)を食べながら言いました。
ファヴやリントも要らないというので、譲渡先は後で考える事にします。
私達は、お茶と、お菓子を食べながら、束の間リラックスをしました。
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