第301話。深海の魔物の正体。
名前…コンスタンティン・ヴェルレーヌ
種族…【人】
性別…男性
年齢…享年65歳
職種…【貴人】
魔法…なし
特性…【才能…献身】
レベル…22
故人。
パトリシア女王の夫(王配)。
剣聖クインシー・クインの友人で、当時の王命により剣聖の想い人であったパトリシアと結婚する事になったが、剣聖との友情は生涯変わらなかった。
カティサークの甲板。
レジョーネ、ファミリアーレ、グレモリー・グリモワールの一行は、【クラーケン】をメイン食材にしてバーベキュー・パーティを行なっていました。
刺身、ボイル、マリネ、醤油焼き、ガーリック醤油焼き、バター焼き、香草焼き、醤油煮込み、味噌煮込み、トマト煮込み、白ワイン蒸し、中華風五目炒め、パエリア、ピッツァ・ペスカトーレ(いわゆるシーフード・ピザ)、リングイネ・アッラ・ペスカトーレ(いわゆるシーフード・パスタ)……などなど。
【クラーケン】以外にも、海洋エリアの魔物を中心に、多様なシーフードが満載です。
マリオネッタ工房製のマルチ・グリルが大活躍ですよ。
すっかり仲良くなった、ファミリアーレとフェリシアとレイニールが一かたまりになって、笑顔で海鮮を食べていました。
子供の笑顔とは良いものです。
この為に、大人は、世界を、より善くしなければいけません。
さてと、私も海鮮バーベキューを味わいましょう。
どれもこれも美味い。
やはり、【クラーケン】の味は格別です。
私は、【クラーケン】のバター焼きと中華風五目炒めが特に気に入りました。
【クラーケン】は、イカよりも歯応えが柔らかく、それでいてカマボコのようにプリッと歯切れが良いところが魅力。
この感じなら、もしかしたら、ミンチにしてツミレやハンバーグやムースなどとしても活用の幅があるかもしれませんね。
グレモリー・グリモワールが、私の所にやって来ました。
「【オピオン遺跡】はクリアしちゃったんだけれど。レベル上げが目的だから、午後もリセットされた【オピオン遺跡】に、もっかい潜るよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
グレモリー・グリモワールは、遺跡のエキスパートですし、パーティ・メンバーの育成も何度も経験していました。
任せておけば間違いないでしょう。
「任せます。ファミリアーレは、どうですか?」
「優秀だよ。個人の能力評価はともかく……皆、良い子達だし、チーム・ワークも良いし、功名心や欲に目が眩んだりしないで、全員が、皆の為に役に立とうとしている。良いパーティ……あ、いや、良いクランだね」
グレモリー・グリモワールはファミリアーレを手放しで褒めてくれました。
「ありがとう」
「きっと、師匠の仕込みが良いんだろうね」
グレモリー・グリモワールは、私の顔を覗き込みながら言います。
「私は、知識を伝えた他は、ほとんど何もしていませんよ。ファミリアーレが良いクランだとするなら、それは、彼らの努力の賜物です」
「ま、そゆこと、にしておいてあげるよ」
「事実ですから」
私とグレモリー・グリモワールは、同時に笑いました。
「しっかし、大漁だね?海洋エリアは、普通は、難易度が高いデスゾーンで、獲り放題の漁場じゃないはずなんだけれどね」
グレモリー・グリモワールが半ば呆れながら言います。
グレモリー・グリモワールは、料理を口に運びました。
グレモリー・グリモワールの手にも、山盛りの【クラーケン】入り中華風五目炒めが載っています。
私達は、食の好みが同一ですからね。
「はい。リントが加入したので、遺跡討伐率が8割以上に上がっています」
「8割?」
「ええ、遺跡の各階層の全魔物の8割以上を狩っています。討ち漏らしは、2割以下という事です」
「それ、チート過ぎるよ……」
グレモリー・グリモワールは、白目を剥きかけます。
「同感です。特に、【クラーケン】は、ソフィアの好物なので、海洋エリアでは念入りにサーチしました。海洋エリアに限れば、9割を超える討伐率だったと思いますね」
「凄まじいね?」
「はい。ソフィアは以前から【クラーケン】を食べたがっていたのですが、例のアドム・イラル・シャムル・オックのせいで、【ガレリア海】の【クラーケン】の漁場が海域封鎖されてしまっているので、お預けを食らってしまいました。なので、無我夢中で狩っていましたよ」
「あははは、その姿の想像が付くよ。ところで、ノヒトが、今度そのアドム・イラル・シャムル・オックを討伐しに行くんだって?」
グレモリー・グリモワールは訊ねました。
「はい。17日から出動します。グレモリーも参加しますか?」
「私は、パス。実は、冒険者ギルド経由と、アルフォンシーナさんから直で、声はかかったんだけれど……面倒いから断っちゃったんだよね」
「そうだったのですか?」
「うん。依頼があったのは、ノヒトに話が行く以前に、だね。たぶん、ゲームマスターに依頼するのは万策尽きた後の最終手段だったんじゃないかな?まず、軍や、冒険者ギルドや、私ら在野の者達に依頼が来たんだと思うよ。でも、【ドラゴニーア】軍は深海では任務遂行が不可能だって判断して、私ら民間も誰も受けなかったから、最後の望みでノヒトの所に、お鉢が回ったんだと思う」
「なるほど」
そんな経緯があったのですね。
知りませんでした。
単なる魔物の討伐依頼なら、私もグレモリー・グリモワール同様に拒否した可能性もありましたが、謎の魔物の討伐依頼ならば、調査の意味も含めて、断る理由はありません。
アルフォンシーナさんは、私に気を使ったのでしょうか?
いや、ゲームマスターの私に、一方的な借りを作る状況を避けたかった、という可能性が高いですね。
アルフォンシーナさんも、【ドラゴニーア】政府も、良心的で、良識派でした。
グレモリー・グリモワールが言うように……ゲームマスターである私に頼るのは、自分達が最大限努力しても対処が難しい場合の最終手段と考えていたのでしょう。
うん。
人として好感が持てる立ち居振る舞いですね。
だからこそ、私は、私的に【ドラゴニーア】へ協力しているのです。
「でも、アドム・イラル・シャムル・オック、って何なんだろうね?ゲームマスターのノヒトや、ミネルヴァでも知らない新種の海洋生物なんて、そもそも存在するのかな?」
「この世界の設定上、生物学的に進化が起こって新種の生物が発生する可能性は、あり得ます。しかし、私は、どうもアドム・イラル・シャムル・オックという名前に聞き覚えがあるのですよね。しかし、私や、ミネルヴァや、【知の回廊】の記録を検索しても、ヒットしないのです。【完全記録媒体】である【世界樹】にアクセスしたら、わかるかもしれません。ディーテさんに頼んでみましょうかね」
「うーん……私もさ、聞き覚えがあるんだよね。アドム・イラル・シャムル・オック……アドムイラル・シャムル・オック、アドムイラル・シャムルオック……アドミラル・シャムロック……あっ!」
グレモリー・グリモワールは、突然声を上げました。
私も、同時に気が付きます。
「グレモリー!間違いありません。それですっ!」
「「提督・シャムロック!」」
私と、グレモリー・グリモワールは、同時に言いました。
シャムロック提督とは、900年前に有名だったユーザーです。
海洋活動専門のユーザー・アルトのリーダーでした。
アルトとは、登録人数99人までの比較的大規模のパーティの事ですね。
シャムロック提督は、強力な民間海軍を組織して、傭兵として公海上での商船などの護衛任務を行い、収益を上げていました。
海洋には、強力な魔物が出没しますし、NPCによる海賊などもいます。
【ドラゴニーア】や【ユグドラシル連邦】などは、自前で飛空船団や飛空艦隊を持ちますので、民間海軍に頼る事はありません。
しかし、海洋を航路として利用する、小国や商業ギルドや個人商などから、シャムロック提督の民間海軍は非常に頼りにされていました。
「つまり、今、巷を騒がせている……謎のクジラに似た魔物の群……というのは、シャムロック提督の潜水艦隊ですよ」
「そだね」
シャムロック提督の海上艦隊は、ユーザー大消失後、ユーザー・アルトの個人資産として、返却を前提に亜空間倉庫で管理されているはずです。
ミネルヴァ……ユーザーのシャムロック提督と、彼の運営するアルト、及び、サークルの資産は、どこの政府が管理していますか?
私は、ミネルヴァに【念話】で訊ねました。
シャムロック提督……彼のアルトは【リーシア大公国】に本拠を置いていました……シャムロック提督、及び、彼のアルト・メンバーの所有不動産は、対価を支払って【リーシア大公国】が接収しましたが、動産資産は、【リーシア大公国】の亜空間倉庫で管理されています……シャムロック提督に関するサークルの登記はされていません……シャムロック提督の資産管理番号を照会して、亜空間倉庫の保管品目を差し押さえますか?
ミネルヴァは、【念話】で言います。
いえ、差し押さえは必要ありません……ミネルヴァ、調べてくれて、ありがとう。
私は、ミネルヴァに【念話】で言いました。
お役に立てたなら幸いです。
ミネルヴァは、【念話】で言います。
私は、ミネルヴァから聴いた情報をグレモリー・グリモワールに伝えました。
グレモリー・グリモワールは……謎は解けたよ、ワトソン君……などと返答します。
ユーザー資産の取り扱いに関する国際条約によって、ユーザーの動産資産は、全て保全される事が決められていました。
現状を鑑みれば、あまり期待は出来ないのでしょうが、もしも、シャムロック提督などのユーザー達が、この世界に戻って来たら、それらの動産資産は名義人や所有権者に返却されます。
同じ国際条約により、消失したユーザーの不動産は、対価を各ユーザー名義の銀行ギルド口座に支払って、各国政府が接収する事が出来ました。
土地は、他に移したり、倉庫にしまったり出来ませんので、管理者が行方不明のまま放置しておくのは、不経済です。
また、ユーザー名義の土地や建物は、主要都市の一等地にある事が珍しくないので、空家状態で放置しておくと、色々な不具合が発生しました。
端的に言えば、邪魔で無駄なのです。
ユーザー大消失後の、この世界の人々が、ユーザーの所有不動産を接収する判断をしたのも、致し方ありませんね。
「異世界の政府や機関が存在を知らなかった、シャムロック提督の潜水艦隊が、どこかの海底秘密基地なんかに停泊させてあって……何かの拍子に、それらが起動して勝手に動き出してしまったんだろうね?」
グレモリー・グリモワールは推理しました。
「なるほど。こちらから攻撃しなければ反撃してこない、などという情報とも整合性が取れますね」
「つまり、放置しておいても平気なんじゃない?こっちから、チョッカイを出さなければ安全なんだから」
「まあ、そうなのでしょうが、現代のNPCには再現出来ないオーバー・テクノロジーの強力な潜水艦隊ですからね。それを、国際条約に反してでも鹵獲しようとする不埒な輩が現れるかもしれません。その手の邪な誘惑の種は未然に処理しておいた方が良いでしょう。一応、私が行って、潜水艦隊を確保して、【リーシア大公国】の亜空間倉庫のシャムロック提督の資産保管場所に入れておきますよ」
「なら、この問題も解決?」
「まあ、そうですね」
「さすが、ゲームマスター。仕事が早い」
グレモリー・グリモワールは、笑いました。
「しかし、シャムロック提督の潜水艦隊が何故動き出してしまったのか、については調査が必要です」
「おっ、新しいフラグが立ったね?」
「縁起でもないですから、そういうフリは止めて下さい。私は……何事もなく平穏無事な毎日……を、ゲームマスターとしての最終目標にしているのですから」
「それは無理なんじゃね?人種が悪さをするのは本能だし、歴史上トラブルが絶えたためしはない。これからもノヒトは忙しく働いて異世界を守り続ける運命なんだと思うよ。ま、適当に息抜きしながら、頑張りなよ」
グレモリー・グリモワールは、愉快そうに笑います。
「はあ、私は苦労性なのでしょうかね」
私は、溜息を吐きました。
「むしろ、ワーカホリック?」
「そうかもしれませんね」
ソフィア達が、バーベキューを堪能して、私の所にやって来ます。
「ノヒトよ。何を話していたのじゃ?」
「ソフィア。アドム・イラル・シャムル・オックの正体がわかりました」
「なぬっ!アドム・イラル・シャムル・オックの正体とな?」
「はい。アドム・イラル・シャムル・オックとは……」
私は、ソフィア達に、判明した事実と、推定情報を説明しました。
ソフィアは、潜水艦隊と聴いて……欲しいのじゃ……などと言い出しましたが、ユーザーの資産なので、ダメです。
代わりに、潜水艦隊を私が造って、ソフィアにプレゼントする事になってしまいました。
リマインダーの項目が、また増えます。
どうやら、私はグレモリー・グリモワールが言うように、ワーカホリックなのかもしれません。
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