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成り代わり?いいえ身代わりです  作者: 工藤麻美
孤児から侯爵令嬢に至るまで
2/2

2話

あの後、彼に手を引かれて連れてこられた場所は街の一角の少し大きな家だった。


「ここが俺たちの家。どうだ。でかいだろ!」


「うん。君はここに家族と暮らしてるの?」


「ああ、兄弟たちと暮らしてる。まあ血は繋がってないんだけどな」


入るぞ、といわれたので大人しくついていくと中は見た目以上に広々としていた。そこにいたのは私を連れてきた少年よりも年下に見える子供たちとスラッと背の高い一人の青年。


「ただいまー」


「おぉ、おかえりアーディル……って誰だそいつ?」


アーディル、おそらく私を連れてきた彼の名前だろう。その名を呼んだ青年はこちらを見て驚いたような、不思議そうな顔をしていた。私の姿を上から下へと確認するとますます不思議そうに首をかしげるとそのまま歩み寄ってきた。


「お前、ほんとにスラム街のやつか?でもまぁ服はボロボロだし……」


納得がいかないようにブツブツ言いながらこちらを観察する青年に居心地が悪くなる。まあ少年によれば私はスラムじゃ珍しい金髪らしいし仕方ないのかもしれない。


気まずそうにしてる私に気づいたのか青年は苦笑いして謝ってきた。


「いきなりこんなことされてもいい気しないよな、ごめんな」


悪気はないんだ、と言ってくれた彼に大丈夫と言う意味で首を振る。すると安心したような顔をしてまた話し始めた。


「俺はエドアルド。親のいない子供たちをまとめてる。気軽に兄ちゃんって呼んでくれよ!」


歯を見せて笑った彼の笑顔はアーディルと呼ばれた少年の笑顔によく似ていた。血の繋がりは無くとも、兄弟なんだなと分かる。精神年齢的に下の子を兄と呼ぶのは憚られたけど断るのも妙なのでそれに従っておこう。


「分かってるかもしれねぇけど、アーディルだ。二年前からここで兄ちゃんたちと暮らしてる。よろしくな!えっと……」


どうやら彼らは私を仲間に入れる気満々らしい。それに戸惑いつつ私も名乗ろうとして口を開いた。


「名前は(さき)って言うんだ。にしても本当にいいの?急に一緒に住まわせてもらうなんて……」


「気にすんなよ!もうこんだけの大世帯だ。今更一人二人増えたところで変わんないし。にしてもサキか。珍しい名前だな」


そう言われてあ、と気づいた。彼らの名前と街の風景から察するにここは日本じゃない。なのに日本人の名前、しかも金髪の人間なんて違和感ありまくりに決まってる。


「あ、あー……よく言われるよ」


渇いた笑いをこぼす私に怪訝そうな顔をしつつも、エドアルド兄さんは家の隅でこちらの様子を伺っている小さな子供達を手招いた。


「ほーら、新しいお兄ちゃんだぞ。挨拶しなさい」


兄さんに言われてパタパタと集まってきた子供たちは5人。皆こちらの様子を伺うように見てくる。それが身長の関係でどうしても上目遣いになっていて、そのうるうるとした瞳に私のハートは撃ち抜かれた。


警察官だった頃、交番勤務の場所は小学校の近くだった。交番前を通るたび、小学生の子供たちが挨拶する元気な声とその笑顔に何度励まされたことが。


あの日夜問わない仕事の中の無垢な笑顔は唯一の癒し。もともともそうであったが、その影響で私はより子供好きになった。しかし同僚には「頼むからお前をしょっぴかせないでくれ」と念を押され、友人には「あんたの目は犯罪者の目だわ……」とドン引かれた。なぜだ……私は子供が好きな善良なる警察官だ!!


「クレト……よろしくな、サキ兄ちゃん」


小さい子たちの中では一番年上と思われる男の子がにへらっと照れくさそうに笑った。


変な叫び声を上げそうになるのをグッとこらえ、口元を緩める。


「うん、よろしくね。クレト」


そう言って頭を撫でるとクレトは気持ちよさそうに目を細めた。猫の耳と尻尾が見える。クレトは猫だった……?


そんな錯乱を起こしつつ、先程から気になっていたことを心の内で叫ぶ。


私は女だから!!!


兄ちゃんって呼んでるけどれっきとした女だから!!え、女だよね?確認してないけど女だよね!?……後で確認しておこう。


「り、リリィです。よろしくね……お、お兄ちゃん」


まあ私の性別は置いといて、顔を真っ赤にした赤毛の女の子に挨拶を返そうとしたらその子はピャッと逃げて兄さんの後ろに隠れてしまった。


「恥ずかしがり屋なんだ。気にしないでやってくれ」


「うん、名前教えてくれてありがとう。リリィ」


「う……ぅん」


コクリと小さく頷いたリリィに悶えそうになるのを必死に堪える。見たところ女の子はこの子一人みたい。


「ぐぇっ……」


リリィの姿に和んでいると腰に衝撃が疾った。振り返ればいたずらっ子のようにニシシ、と笑った子供が腰のあたりに抱きついている。


「こーら、ジョン。早速いたずらしない!」


兄さんに怒られてるその子は悪びれた様子もなく私の方を見てまたニヒッと笑った。


「ジョンって言うんだ!後ろのがヒースとケイト。俺ら三つ子なんだぜ!」


そう言ったジョンの後ろには彼と似た少年が二人いた。


「三つ子かぁ、初めて見たな。よろしくね、三人とも」


「よーし!これで全員終わったな。じゃあ次は街を案内するから着いてこいよ」


ジョンたちの紹介が終わったところで玄関先にいたアーディルが手招きした。


それに返事をして外に出ようとしたら服の裾をくいっと引かれる。不思議に思って振り返るとそこには真っ赤な顔をしたリリィが立っていた。


「い、いってらっしゃい……お兄ちゃん」


か細く震えた声で言われたそれに、あっと思った。


そうか。これからはこの人たちが私の家族なんだ。もう前までの家族はきっとこの世界にはいないんだ。


死ぬ前に散々後悔した数々のこと。その多くが家族についてだった。だから、


「行ってきます!」


大切にしよう。


これからはこの人たちと過ごす日々が日常になるんだ。後から入ってきたけど、家族だと胸を誇れるようになろう。兄(姉?)として慕われるようになろう。


今度こそ、悔いの残らないように。





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