第063話 ~空き部屋と夜の街~
「ルー!鍵は開いたか!」
「おじ様、お店の入り口を開けたわ!」
ボム家は店舗の入り口からドカドカ店内に入っていく。
「ルー!空き部屋はどこだ!」
「二階に二部屋あるわ。案内しますね」
ルエルはボム一家を二階へ案内する。
しかし、ベッドや簡易工房セットとか重くないのか?
それとも何か魔道具を使って運んでいるのか?
ボム一家は二階に行き、ルエルの案内した部屋に荷物を下ろす。
「ルエルさん!私も何か手伝う?」
「大丈夫よ、おじ様達に任せておけば、なんとでもなるわ」
二階の一部屋、空き部屋だったところにボム家三人が集まっている。
「さぁ、仕事だ。四十数えるぞ!」
おば様は掃除をしながら片付け。おじ様はベットや小型家具をすごい速さで組んでいく。
フィルは身の回り品を整理している。
まぁー、なんという事でしょう。
少しホコリっぽかった空き部屋が、匠の技によって生まれ変わりました。
小さなタンスは、とても上品に仕上がっています。
ベッドも簡単に組んだものとは思えない、仕上がりに。
これで、毎晩ぐっすり眠れますね。
小さなテーブルと椅子のセットも部屋の雰囲気に合わせて、とてもおしゃれです。
椅子も二人分あるので、お友達が来ても大丈夫ですね!
って!何だこりゃーー!
殺伐とした空き部屋が、立派な部屋になってる!
「三十八、三十九、四十!終わったか!?」
「こちらは終わりましたよ」
「…終わった」
「じゃぁ、フィル頑張るんだぞ!春には迎えに来る!」
「頑張ってね。何かあったらいつでも戻ってきていいのよ」
「…またね」
「ルー!後はよろしく頼むぞ!」
「おじ様。任せてください」
「ユーキ殿!フィルを一人前にしてやってくれ!」
「はい。できる限りは」
「後!必要なアイテムや素材、装備品があったら声をかけてくれ!」
「わかりました。必要なときには」
そして、嵐のようにボム夫婦は去っていく。
「ルエル。いつもこんな感じなのか?」
「今日はまだいい方だと思うわ。昔は扉を破壊したり、こっちに話を持ちかける前に行動したりね」
「そうか。いい方なのか。すごいなボムおじさんは」
「そうね。でも、名工なのよ。腕は確かなの。本当よ」
「お兄ぃ、いつまでここに居るの?」
「え?あ、あぁ、そうか一度これからの事について話をするか。よし、皆、一階に行こうか」
「じゃぁ、お茶でも入れましょうね」
「わ、私手伝いますね!」
「愛、フィル、行くぞ」
俺達はフィルの部屋から一階の店に移動し、テーブル席に着く。
ルエルとイリッシュはお茶の準備でカウンターにいる。
テーブルには俺と愛、フィルの三人。
「なぁ、フィル。急にこんな事になって平気か?」
「…問題ない。以前から聞いていた」
「聞いていたのか?俺はさっき知ったぞ」
「…父さんは口下手」
「そうか。フィルはボムおじさんと違って、声が小さいんだな」
「…父さんは大きすぎ。耳がいたくなる」
「やっぱそうなのか」
「でも、おばさんは声の大きさ普通だったね!フィル君は大声じゃないんだね」
「…声は相手に聞こえればいい」
ルエルとイリッシュがお茶を持って席に着く。
「お待たせ。みんな同じお茶だけどいいかしら?」
「淹れた後に断れないから、みんな同じでいいんじゃないか?」
「ユーキ、変なツッコミはいいわ。クッキーもあるから、食べてね」
みんな、お茶を飲みながらホッとひと息。
「さて、仲間が増えたな」
「そうだね!仲良くしたいな!」
「フィルはしばらく、工房と店と半々でお仕事でいいかしら?」
「…それでいい。早く一人前にならないと」
「一人前になったらどうするんだ?」
「…最強の武器を作りたい」
「最強の武器ってなんだ?」
「…聖剣」
「作れるのか?」
「…わからない。でも腕は必要」
「じゃぁ、一人前になるまでは、色々なものを作ってみないとな。何事も経験だ!」
「お兄ぃ、今日はこれからどうするの?」
「どうしようか?ルエル、ギルドはまだ開いているのか?」
「夜の鐘が鳴るまでは開いているわ」
「じゃぁ、俺はちょっと仕入れに行ってくる」
「私も行きたい!」
「あ、私も行ってみたいです」
愛もイリッシュも一緒に行きたいと声を上げる。
「ルエル、二人も一緒に連れて行って大丈夫か?」
「大丈夫よ。じゃぁ、私とフィルは裏庭の工場を確認しておきましょう」
「じゃ、行ってくる」
「行ってきます!」
「ルエ姉、何か買ってくるものありますか?」
「まだパン屋が開いていたら、明日の朝食用のパンを買ってきて」
「わかりました」
何気にイリッシュは気が利くな。
俺達三人は夜の街を歩く。
街並みは中世をイメージさせ、街灯も明るく街は明るい。
あっちの酒場では外にテーブルとイスが出ており、そこで何人か飲んでいる。
「今日!俺は!例の彼女にパーティー申請をした!」
「「「おぉ!」」」
「何と言って誘ったんだ!」
「俺は彼女の前で!『お前が好きだ!俺と一緒にパーティーを組んでほしい!』と叫んだ!」
「「「おぉおおおお!」」」
「お前!大胆だな!見直したぞ!!」
「で、結果は!結果はどうなったんだ!!!」
「俺は今日ソロを卒業だ!明日から固定でペアだぁぁぁ!!!!」
「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」
「乾杯だ!おーーーい!店員さぁーん!エール10杯追加!」
も、盛り上がってるな。まわりに丸聞こえだ。
「お兄ぃ。やっぱり日本と違うね。なんか色々な人たちがいて、ちょっと怖いな」
「大丈夫だろ。急に襲ってはこないさ」
体の大きい獣人族は、俺でも怖い。目を合わせてはいけない!
「ユーキ兄、警戒はしておいた方がいいですよ。何があるかわかりませんから」
おふっ!ちょっとだけ動揺してしまった。
確かに、この世界は日本ではない。危険な国だと思って警戒した方がいいだろう。
左には愛が、右にはイリッシュがいる。
「二人とも、はぐれないようにな」
俺はちょっとだけ心配になって、二人に声をかけた。
右腕に愛が腕をからませてくる。
左腕にイリッシュが腕をからませてくる。
「ちょ、二人ともくっつきすぎだ」
「お兄ぃはこの方が安全。お兄ぃは弱いから」
「ユーキ兄を守るために、必要な事です。ごめんなさい」
うーん。こんな所でも俺ってそんなキャラなんだ。
しかし、この状況。
捨てたもんじゃない!
なかなかグッとくるね!
両手に花状態。でも、歩きにくい。
二人とも少し背が低いから。俺にぶら下がっているような感じだ。
「どこまでこの格好で行くんだ?」
「目的地まで」
「もう少しで着くから、ほら見えてきた」
そして、目の前には商人ギルドの扉が見える。
「よし、さっさと仕入れして帰るか!」
俺はギルドの扉を開け、中に入る。
目の前に男が一人。はて、どこかで見たような?
「何だ小僧じゃないか。こんな時間にデートか?」
えっと、誰だっけ?
細マッチョひげのツルっとしたおじさん。
「あ!おじさん!確か偉いおじさんだ!」
「嬢ちゃん。ブロッサムだ、特許ギルドのブロッサム。そろそろ名前を憶えてもいいんじゃないかね?」
そうだ!思い出した!ルエルの店でワインを飲んでお金払ったブロッサムだ!
「ブロッサムこそ、こんな時間に何を?」
「喜べお前ら。コームの販売開始だ」
はやーい!
何それ?昨日の今日でもう出来たって事?




