第062話 ~ごちそうと移設~
「さぁ、フィル!ここに座りなさい!」
「…わかった」
「かぁーさぁーーん!早く座りなさい!」
「はいはい。ちょっと待ってください。これが最後よ」
テーブルの上にはご馳走の山が。
愛はジーとご馳走を見ている。あ、よだれ出てるよ。
「おば様、こんなに沢山。準備大変だったでしょう?」
「大丈夫よこれくらい。父さん、準備はいいわよ」
「どれ、みんなにグラスはあるな?」
おじ様はみんなのグラスに飲み物をついでくれる。
「では!早速いただきましょうか!かんぱーい!」
「「「「かんぱーい」」」」
「…かんぱい」
良かった!お酒じゃない!ジュースだ!
愛も普通に飲んでるし、イリッシュも問題なさそうだ。
これがワインだったらみんなで、ぶはっ!ってなるところだったね。
しかし、フィルはテンション低いなー。参加したくないのかな?
「母さん!ほら!みんなに取り分けて!」
「はいはい。今、分けますからね」
おば様はみんなに色々と分けてくれる。あ、俺肉多めがいいです!
「おじ様、皆の自己紹介をしてもいいかしら?」
「いいぞ!」
「じゃぁ、ユーキ、アイ、イリッシュの順でお願いね」
「俺は構わない、では改めまして。ルエルの店で世話になっているユウキと申します」
「私もルエルさんのお店でお世話になってるアイと申します。モグモグ。これおいしいですね!」
「初めまして。私は銀狼族のイリッシュと申します。私もルエ姉のお店でお世話になっています」
「みんな、ありがとう。今はこの三人と一緒にお店をしているの。最近はユーキに任せている部分が多いわ」
「そうか!随分とにぎやかになったもんだな!ルーが一人で店をしているのは心配だったぞ!」
「そうですね。最近はにぎやかになりました」
「では、こちらも自己紹介だな!わしはボム。ドワーフの加治屋だ!ほら、母さんもフィルも自己紹介しなさい!」
「ようこそ我が家へ。私はボムの妻、ヘレンというの。フィルの母でもあるわね。今日はたくさん食べて行ってね」
「…ボクはフィル。見習い鍛冶師」
「フィルはうちの跡取りでな!結構腕はいいと思うんだ!」
「おじ様?フィルもそろそろ一人前になるのかしら?」
「そうだな!もう少しで一人前だな!最近ルーの店に卸しているナイフはフィルが打っている!まぁまぁのできだろ!」
「そうだったの。知らなかったわ。フィルも腕を上げてきたのね」
「今日、そのナイフを見たお客さんがほめていたぞ」
「そうだろ!」
フィルは相変わらず話をしてこない。場になじまないのか?
たわいもない話をしながら食事が進み、ほとんどの皿が空っぽになっている。
愛もイリッシュも満腹になったかな?
「そろそろ、デザートとお茶にしましょうか?」
「そうだな!」
おば様は果物のカットと紅茶を持ってくる。
「ちょうどいい感じにお茶が出たわね」
部屋に紅茶のいい匂いが広がる。
「おば様、この紅茶いい匂いですね」
「そうでしょ。初摘みの葉を貰ったの。きっとおいしいと思うわ」
みんなで紅茶を飲みながら、果物を食べる。
甘ーーい。この世界の果物、結構なんでもおいしいな。
「お兄ぃ!これ凄く甘い!」
「そうだな。これはなかなか。甘くてすっきりする味だな」
みんなでシャクシャク食べる。
「ルー。ちょっとまじめな話をいいか?」
おっと、声が急にダンディーになった。真面目な話の時は大声じゃないのね。
「おじ様、急に改まって。なんでしょうか?」
「フィルをルーの店にしばらく預けたい」
「それは急にですね。でも、いったいなぜ?」
フィルは下を向いたまま、果物を食べている。
「フィルはこの店の跡取だ。鍛冶師としての腕は伸びた。しかし、腕だけでは店はできない」
「そういいますと?」
「ルーの店で接客の部分を学ばせてほしい。フィルはこの性格だ。俺と同じようにハキハキ声が出せん」
あ、あの声は接客の声だったのね。ハキハキというか大声なだけなような気が。
「店の運営についてはユーキに任せているの。ユーキ、どうかしら?」
「ルエルの店は儲かっていない。余計な出費は避けたいのが本音だ」
「支度金位ならわしが出す」
「お金の問題もあるが、フィルを受け入れた場合、ルエルの店にメリットはあるか?」
「鍛冶師としての仕事をしてもらえる。腕はわしが保証する」
「寝泊まりは?」
「家のベッドを移設する」
「それは大変では?」
「四十数える間に移設できる。問題ない」
「ルエルの店に工場は無いぞ」
「ルー。確か裏庭に納屋が有ったな?」
「ほとんど使っていないけど、裏庭には納屋があるわ」
「四十数えている間に工場に改築する」
「今日はもう遅いから、明日以降の対応になるな」
「今夜からでも問題ない」
「今夜からって…」
「フィル!四十数える!四十で支度だ!母さんはベッドと簡易工房セットを!」
「ちょ!俺はまだ!」
ボム家が全員席を立ち、ばたばた行動に移っていく。
「ル、ルエル。これはいったい?」
「おじ様はすぐに行動に移すの。もう諦めらめて。さ、帰る準備をしましょう」
四十っていたらナイフとランプをカバンに入れて、ハトを逃がしたら終わりだよね?
そんな短時間で準備はできるのか?
「…終わった。ルーの店に行く」
「母さん!行くぞ!」
「準備は終わったわ。さぁ、行きましょう」
早ーい。一体どんなマジック使ったの?
ボム家三人は俺たちを残し、大荷物を持って飛び出していく。
「ちょっ!ルエル!愛!イリッシュ!俺たちも行くぞ!」
「急がないと、店の扉を破壊されるわね」
「えー、まだ食べ終わっていないよー」
「急ぎましょう!まだ間に合います!」
俺達は紅茶とフルーツを半分残し、テーブルを後にする。
急げ!
しかし!食べた後の全速力はきつい!
でも、愛もルエルもイリッシュも全力の俺より先に行っている。
おかしい!俺だって足早いほうなのに!
ま、負けないぞ!!
そして、ボム家が裏庭で納屋の改築を終わらせている所に俺たちは店に着いた。
「ルー!早く扉開けてくれ!中に入れん!」
なんてこったい。今夜も忙しくなりそうだ!




