第061話 ~強さと声の大きさ~
俺達は店を出る。
人通りも多く、皆どこか目的があって移動しているようだ。
少し装備の壊れた冒険者もちらほら。
あっちは恋人同士なのか、仲良さそうに手を繋いで歩いている。
リア中爆ぜろ。
空を見上げる。
空が半分位紫色っぽくなっており、少しだけ星が見え、日が沈む方角はまだほんのりと赤みがある。
この世界も俺のいた世界も、同じように日が暮れ、そして朝が来る。
陽の光に照らされた三人少女はみな輝いて見える。
「行いきましょうか」
「近いのか?」
「すぐそこよ。ここからでも店は見えるわ」
俺達はルエルに案内され、武器防具店に向かう。
「ユーキ兄は武器や防具は装備しないんですか?」
「俺は商売人だ。剣も鎧も楯も必要ない。ダンジョンに行くなら、その時にそろえるさ」
「そうそう、お兄ぃと私は冒険者じゃないし、何より弱いの!」
「愛。多分愛は強いと思うぞ。元の世界じゃ結構格闘技でいい線いっていただろ?」
「対人ならいいかもしれないけど、熊とか鷲とかそれっぽいのは自信ないなー」
「今度フィールドとかダンジョンにでも行ってみるか?素材欲しいし」
「ユーキ。そんな適当な気持ちでダンジョンに行かないで。命を落とすわよ」
「わかった。じゃぁ、真剣に考えよう!」
「お兄ぃ。まだ適当な感じだね。ルエルさんはダンジョン行ったことあるの?」
「何度かあるわ。この国の北側に地下ダンジョンがあるので、素材を取りに家族で行ったことがあるの」
「おぉ!ルエルさんすごいね!ダンジョンって怖い?」
「まだ階層が浅いから、あまり怖さを感じなかったわね。多分今でもソロで地下五階位ならいけると思うわ。」
「ルエ姉、ソロで潜ったことあるのですか?」
「昔に一度だけね。イリッシュはあるの?」
「私は一度だけ護衛の方と一緒にダンジョンを見に行きました。地下一階で戻りましたけどね」
「ダンジョンもみんなで行けばそれなりに攻略できるのか?」
「このメンバーだと、イリッシュとアイが前衛、私が後衛サポート。ユーキはお荷物かしら?」
「ぷぷっ!お兄ぃお荷物だって!あははっ!」
「ルエ姉、さすがにお荷物ではちょっとかわいそうです。荷物持ち位じゃないと」
「ぶはっ!お兄ぃ荷物持ちにジョブチェンジだ!うひひ、苦しぃ。お腹が、い、痛い」
「俺はお荷物の荷物持ちなのか!そんなに戦闘スキル低くないと思うんですが!」
「ユーキ。今この場で、私達三人に勝てる?」
「ルエルは魔法あるし、イリッシュは普通に強いだろうし、愛も多分勝てないな。あれ?俺弱いの?」
「ユーキ。それが現実なの。もっと腕を磨いたらダンジョンに行きましょうね。ユーキをまだ死なせたくないわ」
「私は、全力でユーキ兄を守るので、大丈夫ですよ!心配しないでください!」
「イリッシュ。ユーキは弱いの。みんなで守ってあげましょうね」
「はい!私、この命に代えてもユーキ兄を守ります!」
「イリッシュ。自分の命が優せんよ。命を粗末にしないで。自分もユーキも守るの」
「わかりました!」
俺は、なぜか弱い設定になっている。
ほ、本気を出せば勝てるんだからねっ!能有る鷹はってやつだ!
「お兄ぃ。顔が怖いよ。これから食事会に行くんだから、もっと笑顔にならないと」
「愛は笑いすぎだ。もっと清楚な女性を演じろ。そんなニヤついた顔、失礼じゃないか」
外に鎧が置かれた店が見えてくる。目的地はあそこかな?
店はレンガ調で、外にはフルプレートアーマーが展示されている。
値札もついているし鎧は商品なんだな。
盗難防止用に鎖でつながれている。
下には花壇があり、何かの花が咲いている。
「二人とも、着いたわよ。入ってもいいかしら?」
「「はい!」」
俺と愛はシャキーンとする。
紳士と婦人のような振る舞いで、クールな顔つきに、立ち方をきりっとし、ポーズをとってみる。
ドドドドドド!とかズッキューーン!ような効果音が似合いそうだ。
「ユーキ兄、アイ姉、変です。普通にして下さい」
「わ、わかった。愛、普通にしていいみたいだ」
「このポーズ、腰とか腕が痛いんだよね。普通が一番!」
「入るわよ」
カラン コローーン
あ、フェアリーグリーンと同じ音だ。
「今日はもう店じまいだ!なんだ、ルーじゃないか。思ったより早かったな!」
店の奥には大人の男がいる。
でかいな。俺よりも頭一つでかいんじゃないか?
ごっついな。マッチョだ。でも、顔は結構二枚目だ。
ブラウンの長髪を後ろで縛って、髭も整えている。モテそうなオーラを出しているな。
「かぁーさぁーーん!ルーが来たぞ!聞こえるか!!」
「父さん、声が大きいわ。聞こえてるから大丈夫よ。すぐ隣にいたのに、そんな大きな声を」
「なんだ!隣にいたのか!すまんすまん!」
「おじ様、おば様、今日はお招きいただきありがとうござます」
「あらあら、ルー、そんなに気を遣わなくてもいいのよ。あら、可愛い服着ているわね、みんなおそろいなのね」
「はい。うちのお店の制服です。今日からこれを着ているの」
「素敵ね。さ、立ち話もなんだし、こっちにいらっしゃい。そこの頭に耳の子と頭に尻尾の子もね」
頭に耳の子と頭に尻尾の子?
頭に耳の子はイリッシュだよね、耳付いているし。
頭に尻尾の子って愛か?ポニテが尻尾か!
「愛。頭に尻尾の子だって。うぷぷっ」
愛は俺の太ももを思いっきりつねる!
「い、痛たぁぁぁぁい!」
「ユーキ、何叫んでるの?行くわよ」
「ひゃい。行きます」
愛は俺の事を見向きもせず、さっさとルエルの後を追っていく。
「イ、イリッシュ後でヒールして。痛い」
「わ、わかりました。あとで見せてくださいね」
俺とイリッシュもルエルについていく。
店の奥に入る。
そこには大きなテーブルに椅子が八個。
「母さん!席は適当でいいのか!」
「好きな席でいいわよ。父さん、少し声を抑えて。小声でも聞こえるわ」
「そうだな!客人もいる事だし、騒がしいのは控えた方がいな!」
声が出かいな。もう少し、音量下げても聞こえるよ?
「さぁ、好きな席に座りたまえ!」
口調が何となく王様っぽいのは気のせいか?
お誕生席にはお父さんが座っている。
隣にはルエルが妥当だな。
俺はルエルの隣に座って、俺の反対隣には愛だな。
愛の隣にイリッシュに座ってもらおう。
みんな席に着く。おば様は料理を運んできている。
「みんなよく来てくれた!感謝する!今日はどんどん食べて飲んでくれ!」
「父さん、そろそろ呼んだら?」
「おぉ、そうか!そろそろ呼んでもいい頃か!」
おじ様は席を立ち、後ろの扉を開ける。
「おぉぉぉいぃ!!フィル!!ルーが来たぞぉ!」
「父さん。だから、声が大きいわ。ごめんなさいね、騒がしくて」
「うちも騒がしいので、気にならないわ。ねぇ、ユーキ」
「そうだな。こっちは気にならないので、いつも通りで大丈夫ですよ」
「それなら良かったわ。うるさかったら遠慮なく言ってね」
しばらくたつと、扉から一人の子が出てくる。
「…ルー。来たんだ」
「フィル、久しぶり。元気だった?」
「…普通」
随分ハスキーな声の男の子だな。
おじ様と違い、声が聞き取りにくい!
もっと大きな声で話して!




