第038話 ~イリッシュと沐浴~
ルエル、愛、イリッシュの三人は楽しそうに会話をしながら歩いている。
女の子、三人も集まれば会話にも華が咲くだろう。
俺は一人、三人の後を一人歩く。
一人、黙々と考えていた。
風に飛んで行った布の事ではない。
これからのルエルの店『フェアリーグリーン』、借金そしてイリッシュの事だ。
断じて、白い布の事についての言い訳を考えているわけでは無い。
勢い余ってイリッシュの奴隷契約を破棄してしまったが、あの場はあれで良かったのでろうか?
あの場を見なかったら、そのままルエルの借金はなくなっていたはず。
でも、イリッシュを見て見ぬふりして、あの場を去るのが正しいのか?
否。それは違う。少なくとも、俺には見過ごせなかった。
俺は、正しい事をしたのだろうか?
あの二人はまだ何も言ってこない。あとで何か言われるだろうか?
不安になる。
それと、店の事だ。
どう見ても繁盛していない。
この世界に来て、多くの店を見たわけではないが、あまりにも客足が少ない。
売り上げや経費、仕入れ値など一切見ていないが、あの状況だと確実に赤字運営だ。
イリッシュの事を早々に何とかし、店舗を軌道に乗せ、借金を返す。
俺の力で、どこまでやれるか。
ルエルは危機感を持っているのか、かなり不安だ。
俺が悶々と考えている中、前を歩く三人は終始笑顔で話している。
笑顔で話せるっていい事だよね!
しばらくはいいか・・・。
しばらくして、ルエルの店フェアリーグリーンに帰ってくる。
店の扉を開け、三人が中に入る。
俺も続いて中に入り、買ってきた物をキッチンに置く。
「ユーキ、それはそのまま食べるからテーブルに置いておいてもらえるかしら」
「この袋の果物でいいのか?」
「ええ、食後にみんなで食べましょうね」
4人掛けのテーブルには俺とイリッシュが座り、ルエルと愛はキッチンにいる。
家と店の兼用であるキッチンはけっこう広い。
正面にちょこんと座ったイリッシュは、俺をじーっと見ている。
さて、何から話せばいいか・・・。
「えっと、イリッシュだっけ。君の名前は」
「はい。えっと・・・」
「改めて、俺はユウキ。ルエルの世話になっている。よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ユーキ様」
「様はいらない。ただのユウキでいい」
「いえ。それはいけません。主従関係は初めが肝心です」
「だったら、イリッシュの主はルエルだ。俺はルエルに雇われている」
「それは関係ありません。私を買ったのはユーキ様です」
頑固だ。
見た目小学生くらいの銀髪少女。髪はセミロング、肩まで伸びているがボサボサ。
瞳も銀色で大きく、くりっとしているがその顔は傷だらけ。
腕は白く細いが、こっちも擦り傷多し。服もボロボロの薄汚れた布の服だ。
奴隷として買われたから、当然の仕打ちかもしれんが、年頃の女の子にこの格好は無いな。
「ルエル!ちょっと風呂場かりるぞ!イリッシュ、ちょっとそこで待ってろ」
俺は風呂場に行き、大きめのタライを準備する。
ここで役立つ、混合魔法。さくっとお湯を出しましょう。
オーユー。ユー。
一度できた魔法は、二度目は出やすい。慣れの問題もあるのか?
タライにお湯を張り準備OK。
「ルエル。イリッシュに沐浴してもらおうと思うんだが、タオルと服の準備してもらっていいか?」
「そうね。私も同じことを考えていたの。珍しく気が合うわね」
「お兄ぃ!イリッシュちゃんと私、一緒に入ってもイイよ!」
「ああ。愛、頼むよ」
「じゃぁ、二人で先に入っていて。タオルと着替えはあとで私が持っていくわ」
「イリッシュちゃーーん!沐浴行こう!」
愛は元気だな。その元気を、ちょっとイリッシュに分けてほしいものだ。
イリッシュの事も含め、ルエルにも話をしないといけないな・・・・。
「アイ様。私など奴隷の身。沐浴など・・・」
「お兄ぃ。拒否される」
「イリッシュ。いいか、奴隷契約の紙はもうないんだ。ここに居るのはただのイリッシュ。奴隷のイリッシュではないんだぞ」
「そうよ、イリッシュ。アイと一緒に沐浴してきなさい。傷もあとで見てあげるから」
「いいのですかルエル様」
「いいのよ、せっかくの楽しいランチですもの。きれいな格好で食べた方がおいしいでしょ?」
「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えて・・・」
「よーし!イリッシュちゃん!行こう!お風呂場はこっちぃーー!」
愛はイリッシュの腕をつかみ、扉の向こうに消えて行った。
まだ、小さいイリッシュは引きずられるかのように、愛に引っ張られていく。
「さて、二人はいなくなった。ルエル、これからイリッシュをどうする?考えはあるか?」
「正直なところ、あの子任せね。家に帰りたいのか、ここに居たいのか。あの子の意思を確認したいわ」
「それで、帰ると言ったら?」
「帰ってもいいと思うわ。両親がいるのであれば、一緒にいた方が幸せですもの。きっと」
「そうか。ここに残す選択もあるが」
「それならそれでもいいわね。一緒にお店をするのも楽しいそうね」
「どっちつかずだな」
「あの子次第ですもの」
「二人が戻って来る前にランチの準備をしてしまいましょう」
「そうだな。手伝うよ」
俺はルエルと二人でキッチンに立つ。
ルエルが依頼した内容を俺がこなす。ただそれだけだが、心地よく感じた。
「ユーキ、倉庫にこれと同じ食器のセットがあるから持って来てもらえるかしら?」
「これと同じセットだな。ちょっと待っててくれ。今持ってくる」
俺は扉を開け、倉庫に繋がる廊下にでる。倉庫の扉を開けようとした時、お風呂場から声が聞こえてきた。
「イリッシュちゃん!見かけによらず大きいね!」
「そんなこと無いですよ。私の年齢ではこれが普通だと思います」
「でも綺麗で、さわりごごちいいね。気持ちいー」
「ひゃん!そ、そんなところ触らないでください、あひゅ!」
「リッシュちゃん、かわいいねー!」
「あ、アイ様!からかわないでください!」
「こんなに大きくて気持ちいいんだもん。自分でもたまに触るの?」
「そ、そんなには触りません。たまにです、たまに」
「やっぱり、自分でも触るんだ!そうだよね!こんなに気持ちいもんね!」
なんか、前にも同じような会話を聞いたことがあるような、無いような。
そうか、イリッシュは思ったより大きいのか!
どの位なんだ!この位か!!
「アイ様は、その無いんですね」
「そうなんだよねー。でも、これが私の普通」
「そうなんですか。いつか大きくはなるんですか?」
「きっとならないなー。残念だけど、そこまで成長はしないね!」
愛。あきらめるな!
愛はまだ成長中だ!これからきっと大きくなるはずだ!!
俺は、ずっと応援してるぞ!
「それにしても、イリッシュちゃんの尻尾大きいね!」
「大人になるともう少し大きくなるらしいですね。父様が言っていました」
「私は尻尾無いからね。ちょっとうらやましいなー」
ですよねー。尻尾ですよね!わかってましたって!
銀狼族は獣人族だから、耳と尻尾あるの、俺ちゃんと知ってましたよ!
あ、食器セット早く取りに行かないと!
ルエルにまた何かいわれてしまう!
俺は倉庫から食器セットをもち、早々にキッチンに戻った。
「お帰りユーキ。遅かったわね」
「すまん、遅くなった。なかなか見つからなくてね」
「てっきり、お風呂場でも覗いているかと思もっちゃったわ」
「そんな事は断じてない。そろそろ戻って来るんじゃないか?」
「そうね。私は着替えとタオルを置いてくるわね。終わったら、食事を運びましょう」
戻ってきたルエルと二人で食事をテーブルに置く。
イリッシュはこれから、どうするのだろうか?彼女の事は何も知らない。
でも、不幸にはなってほしくないな。
「たっだいまー!」
「ありがとうございました。お湯、とっても気持ち良かったです!」
イリッシュを迎え、ランチタイムが始まる。




