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1話

贔屓にしている武器屋をあとにして、俺は魔灯の灯る道へ出た。武器屋で話し込んでしまったのか、もう既に日は落ち、辺りが闇に包まれていた。

ここに来たのが6時くらいだから、2時間もここにいたことになる。

………またこんな時間か。

 俺の所属するギルドは基本放任主義で、朝まで出掛けていてもあまり咎められないという近頃では珍しいギルドだ。


だからこんな時は、あそこに行くのに限る、と今出たところの右隣の建物に目をやる。そこにはこじんまりとした2階建ての木造の家があった。

所々薄っすらと茶色いシミのある黒い壁に、傷んだ様子の焦げ茶色のレンガ。扉は若干薄緑味(うすみどりみ)がかっていて、10cm四方くらいのガラスが4ヶ所、扉の上部にはめられている。

そしてその扉の前にウッディプレートが置いてあり、そこにはこう書いてある。



『⇦アルク酒場こちら 営業時間 20:00~1:00』


それを見て俺は内心苦笑する。もう少しなんとかならないのだろうか。

俺はその酒場の前に立ち、扉を引き開ける。扉にくくりつけてあるベルがからん、となった。







ここは幾多の冒険者がダンジョンへ一攫千金を夢見、そして儚く命を散らしていく。数多の欲望を持つ者達が入り混じり、ダンジョンの周りに居住していき出来た都市。


ダンジョン都市、ソフィア。


都市の中心に唯一あるダンジョンの名前はアークスといい、その周りを根城にしようと昔の冒険者達は考えたのか、家や店を同心円状に建てていった結果、円形の都市が出来上がったと言われている。

階層になっているダンジョンは、冒険者達の貴い犠牲と何年もの研鑽によって、32層まで攻略が進んでいる。



「これで最後か」


その都市の東端。スプリトと呼ばれる地域の一角にあるアルク酒場という店で、俺、アルク・ロットはキッチンでカチャカチャと音を慣らしながらジョッキや皿を洗っていた。

最後のジョッキを布巾でくまなく拭き、木製の食器棚へと戻そうとする。

すると突然扉が開き、ベルがなった。


「いらっしゃい」


俺はジョッキを棚へ置き、振り向きながらいつもの決まり文句を言う。


「おう」


入ってきたのは茶髪に茶色い目の男だ。身長は平均的で170cm半ばといったところだろうか。年齢は俺より年上のように見える。


「なんだ、ヒースか」

「なんだってことはねぇだろう!」


入ってきたのはここの常連であるヒースだった。


「今日は早いな」

「あぁ。今さっきまでそこの武器屋で買い物してたんだよ。で、ちょうど良い時間だから来たわけだ」

「お前また行ってたのか」

「だって格好いい剣と防具があるんだぞ?お前も一端(いっぱし)の冒険者なら分かるだろ!」

「何故怒鳴られているのか分からないし、何故そんなに執着するのか俺には分からないんだが」


剣なんて一週間に一度研いでもらうくらいで剣を買うことは滅多にない。今使っているダガーも半年前に買って以来ずっと使っている。

だがヒースは2ヶ月に一回くらいの頻度で買い替えている。ヒースの装備は片手剣に盾だが、少し前になぜこの装備にしたのか聞いてみたところ、装備に盾というジャンルが加わって装備の選択肢が増えるのと、片手剣は一番一般的で種類と数が多く楽しいから、という意味の分からない答えが返ってきた。

それほどまでに、武器に執着している。ヒースがアークスに潜っている目的もこれなのではないかと未だに疑問に思うところがある。


「で、注文は」

「いつもので頼む」

「分かった」


ヒースの端的な答えに俺は酒樽からビールをジョッキへ注ぎ、漬物と一緒にヒースへ差し出す。


「はいよ」

「もうちょい愛想良く出来ないもんかねぇ」


ぶつぶつと文句を言いながらジョッキを傾ける。

ヒースが呑んでいる間に俺は野菜炒めを作る。豚肉にキャベツと人参と………もやしでいいか。

キャベツと人参を手頃な大きさに切り、フライパンへ油を垂らし火をつける。フライパンが温まったところで事前に下準備していた豚肉を投入し、炒めたあとキャベツとニンジンを放り込む。

数分炒めてしんなりしてきたところで皿に移し完成だ。

俺はそれをヒースの席へ持っていく。


「お待たせしました」


俺は出来る限り笑顔で言ってみる。するとヒースは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「………やっぱり、いいや」

「お前自分から言っておいてそれはないだろ」


ごゆっくり、とさらに愛想良く振る舞ってみる。

今度はヒースは顔を背けた。

そんなにマズイのか、俺の顔。

俺の顔は童顔で背は160cmちょっとだ。

15歳を過ぎたあたりから背が伸びないと焦りはじめ、20歳となった今ではもう諦めてしまっている。

しかし未だに客から13歳?とか聞かれると結構なショックを受け、その日はあからさまに気分が落ちている、とヒースに言われたことがある。


        ・・・・・・・・

「それはそうと、姉さんは元気か?」


突然ヒースがキッチンに立っている俺に話しかけてきた。


「………今日は、何のようだ?」

「いや、30層のマップをちょっと欲しくて」

「分かった、それなら5000エスクだな」

「はいよ」


そう言ってヒースは手元のポーチの財布から5000エスクを取り出し、座っているテーブルに置いた。

俺はそれを受け取り、マップを手渡す。


「いつも言っているが公表するなよ」

「分かってるって。公表したら俺にも損だしな」


まぁそうだなと答え、俺はキッチンへ戻りフライパンを洗い始める。





俺の職業は酒場の店主だけではない。というか酒場の店主のほうが仮の職業だ。


俺は、情報屋をやっている。


ダンジョンのフロアマップからギルドの情報までいろいろと扱い、売買している。

仕事を依頼する方法はただ一つ。合言葉『姉さんは元気か』と言うだけだ。

俺には2人の兄しかいないため、合言葉を言えばすぐに分かる。

何故この合言葉になったのかだが、ヒースが俺の兄を見て女だと勘違いしたからだ。俺の兄____正しくは次男だが____は見た目が中性的でなおかつ美形だ。女性から告白されるのはもちろん、性別を知らない男からも告白をよくされていた。

一ヶ月後にヒースが来店した時、お前の姉さんは元気なのかと言われた時にはひどく狼狽した覚えがある。







ヒースが食べ終わったのか、唐突に口を開く。


「ごちそうさん」

「はいよ、750エスクだ」


ヒースは座っていたテーブルの上に代金を載せ、足早に扉へと向かった。


「また来るわ、今度は……31層のマップを頼みにか」


扉を開きながらこちらへ向き直り、そう言った。


「おう、またよろしくな」


ヒースが店から出ていく。それを俺はテーブルに置いてある代金を回収しながら見送った。



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