008 カネなければなにもできない
ペルメル・エデンとの激戦から、10時間は経過しただろうか。シオンは、昏々とした眠りから目を覚ました。
「クソ、まだ内臓が痛いな」
シオンは腹部を抑えながら、ベッドから起き上がる。当然のごとく隣で寝ているベーラーを蹴り飛ばし、彼女は身体を伸ばす。
「いったぁ!!」
「オマエなんか、床で雑魚寝するのがお似合いだ。クソが」
シオンは毒づき、これからの展望を考え始める。
「パープルズに、完全にケンカ売っちまったな……。クソ。これじゃ、おちおち街も歩けないぞ……」
どれくらいの構成員がいるのか知らないが、ペルメルのような実力者が〝ナンバー2〟なのだから、トップにいる者は相当な実力を持っていると考えたほうが良いだろう。
「それに、カネがない。カネがなければ、資本主義社会じゃなにもできないしな」
こうなると、パープルズと闘いつつ、強盗の計画も立てなければならない。今、シオンはパープルズのチンピラから奪ったカネしか持っていないのだから。
「シオンさん! いけません!! 強盗など!!」
「不殺でいけば良いだろ? 大丈夫。〝おれ〟はカタギに攻撃はしないよ」
「それでも、ヒトからカネを奪うなど──」
「おれが奪うのは、腐った政府のカネだよ。思ったんだ。この〝アンゲルス連邦共和国〟は、どうも開発独裁を行っているとな」シオンは続ける。「無機質なビル群。そこに歴史はなく、おそらく30年間続いた建物はないだろうさ。それに……」
「それに?」
「おれは、強盗以外に稼ぐ方法を知らねェんだ」
今まで大量の悪事を働いてきたが、結局強盗が一番稼げる。シオンのような手慣れた強盗犯なら、なおさらの話である。
「さて、まずは仲間集めだな。ガンマン・ドライバー・ハッカーは必須。ガンマンは店や銀行の制圧を行い、ドライバーは逃走手段を用意する。ハッカーは、警報が鳴らないように制御しなければならない」
シオンはしばし考え込み、やがてひとつの答えにたどり着く。
「そういえば、街を歩いているとき、〝ギルド〟ってところがあったよな?」
「ギルド?」
「元は中世ヨーロッパの組合だが、この国にァまだ存在しているらしい」
シオンの記憶力は、もはや病気の部類だ。少しでも目視した場所は、完璧に覚えているのである。
「さて、パープルズの実力者に会わないことを祈りながら、ギルドとやらに行ってみるか」
*
シオンは、2キロほど離れた〝ギルド〟にたどり着く。幸いなことに、紫色のバンダナや服を着た連中と鉢合わせることはなかった。運が良い、と思いつつ、シオンはギルドのドアを開ける。
「酒臭いな……」
酒の匂いに、泥酔して壁に放尿する者。誰もが死んだ魚の目をしていて、覇気はまるで感じ取れない。
どうやら、負け犬が集まるところらしい。果たして、有能な仲間は見つかるか。
「マスター、バーボン・ウイスキーのロックをひとつ」
「……12歳くらいの子に酒を提供しろと?」
「こんな場所なんだから、治外法権みたいなもんだろ」
「まぁな……」
マスターは、酒をシオンに差し出す。カウンター席に座り、それをあおりながら、シオンは周りを見渡す。
「おうおう。ガキは帰ってママのおっぱいでも飲んでいろよ」
そうしていれば、いかにもチンピラのような男に絡まれた。髪の根元が紫で、先端部分が黒色。身長は少女のシオンよりも(当然だが)高く、どこか馬鹿っぽい話し方をしてくる。
「あぁ。親は蒸発してしまったものでね」
「そりゃあ、可哀想だな。で? なにしに来たんだ?」
「仲間集め。こんな騒がしいところだからいうが、強盗を考えているんだ」
そんな会話を交わす最中、ヘーラーはウォッカのボトルを一気飲みしていた。誰がカネを支払うと思っているのだろうか。




