第8話
姉のアシュトレイトの助言通り、アスタロトは一通り人間界のパーティーを覗いてから、地獄管理界へと戻って行った。
◇
彼が管理界へ帰って来ると、何やら大広場が騒がしい。大勢の役人やら住民達でごった返し、男女の怒号が飛び交っている。
広場付近の、天界へと続く壮大な階段にいた数人の連中からもヤジが飛んでいた。その人だかりの中に、一際目立つ、大柄な人影が数人見えた。その大柄な人物達の背中からは、まるで威嚇するかのような大きな翼が突き出ている。
特にその中の一人の翼は、見覚えのある派手な緋色の翼が。
「おいっ! ここで何してる?」
人だかりが一斉にアスタロトを振り返る。
呼ばれた人物も、ゆっくりと振り返った。
大天使の一人、カマエルだった。
翼と同じ、真っ赤な甲冑を身に付けている。その部下達も同様だ。
「アスタロト様! カマエル様が我々の中に盗人がいると……」
近くにいた住人の一人が、怯えながらもこうアスタロトに伝えてきた。
「どういう事だよ、カマエル?」
アスタロトは感情を抑えながら、緋色の翼の大天使に歩み寄って行った。
目の前にしたカマエルの両腕には、びっしりと羽根のタトゥーが施されている。
かなり長身である彼は、小馬鹿にしたようにアスタロトを見下ろす。
「やっと長官様がやって来たか。ふん、けどお前じゃ話しにならんな」
「はい?」
(相変わらず、いけ好かない野郎だ)
「さっきの者から”盗人”と聞いたけど?」
すると周囲の者達が、一斉に抗議の声を上げた。
「決めつけるな! 俺達の中に、そんな奴いるわけないだろ!」
「そうだ! 証拠はあるのかよ!」
「出て行け! 今すぐ出て行け!」
またも住民達が騒ぎ始めた。役人達は冷製になるよう収めようとしたが、無駄であった。
「ふん! ”悪魔”は平気で嘘をつくからな」
アスタロトは”悪魔”という言葉に反応した。
「おい! 口を慎め! 俺を含め、ここにいる者達は決して”悪魔”なんかじゃないぞ。人間達が勝手にそう呼んでるだけだ!」
「それはどうかな? 理由が無ければ(悪魔とは)呼ばないだろ?」
「俺は平気で嘘をつく、あんたのお仲間を知ってるけどな」
アスタロトは、ある元天使の名前を思い出していた。
あの男は確か……。
「いったい何が盗まれたんだ?」
「ウリエルが管理していた地獄界があったろう?」
アスタロトは、カマエルの口から彼女の名前が出された事にドキリとした。
「あそこはもう閉鎖されてるはずだが」
「その閉鎖されてるはずの地獄だがな、何故かそこの鍵が無くなっているんだよ」
――――えっ? そんな馬鹿な!
「俺は天界は勿論、地獄界隈を監視しているんでね。その時ある噂を聞いたんだよ。閉鎖されたはずの地獄で、何かおかしな動きがあるとね」
「……動き?」
もはや使われてもいない場所で、何が起きてるんだ?
アスタロトは不安になった。




