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「ルシアンよ!」と呼んだら乙女ゲームが崩壊しました。〜メリバ転生した大天使は最強騎士で全ルート救済する〜  作者: 久茉莉himari


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【53】会いたくて、会いたくて。〜神よ、この片想いをお守り下さい〜

陸と吾朗はアンジュに会うなり、

「会えて良かった~!」と口々に言った。


そして、ニコニコと笑って続ける。


「ゼリーなら好き嫌いないかなって思って! 果実入り!冷やして食べてね!」


アンジュの青い瞳がきらきらと光る。


「なんと!素晴らしいな!!

陸と吾朗よ!礼を言うぞ!」


そして、他愛のないお喋りが始まる。


陸と吾朗は、事件のことには一切触れなかった。


アンジュが休んでいる間の学校の出来事を面白おかしく話し、まるでアンジュがいつも通り教室にいる時のように接してくれる。


その内、陸が笑いを抑え切れないように言い出した。


「橘がさ~、女子高生みたいにノート取っててさ~!」


吾朗もアハハと笑って話し出す。


「今までそんなこと、したことなかったのに、

急にカラーのボールペンを使い分けて、

蛍光ペン使いまくって……逆に目がチカチカすんのよ!」


「そ、それはアンジュにメールする時に分かり易いように……」


颯真が真っ赤になって反論する。


「まあ、アンジュちゃんも学校来たら、 橘のノート見せてもらいな! チョー笑えるから!」


陸がゲラゲラ笑って言う。


「うるせえ!」


そう言って、颯真が陸と吾朗の頭をはたく。


三人が笑う。


アンジュも引きつりながら、微笑んだ。


何故なら―― アンジュは、それどころではなかったからだ。


(え、えーと……!お見舞い回答例……その1……その1は……)


そう、この後の脚本のセリフを必死に思い出していたのだ。


そして、何とか言葉を捻り出す。


「ぜっぜっぜっ絶対に、その!ノートが見たいッ!!ノートが!!」


余りにも力んでしまったが、颯真は全然気にする様子もなく応える。


「アンジュまでそんなこと言うなよ~」


そして、颯真が真っ赤な顔のまま、テーブルに突っ伏す。


「あ!ビーズクッションと抱き枕、使ってくれてるんだ!」


陸の嬉しそうな声に、一瞬アンジュが固まる。


(キタッ……!!ロクシーの言う通りだ!

回答例その2……回答例その2……)


アンジュが微笑みの下で、回答例その2を必死に思い出している最中にも、会話は続く。


颯真がフンと笑う。


「アンジュは抱き枕を殴ったりしてねーからな!」


陸と吾朗が顔を見合わせて言う。


「なんだ~つまんねー」


(今だ……!!)


アンジュが即座に口を開く。


「陸よ、吾朗よ! 感謝する!

すごっすごーくっ……気に入っておるのだ!!」


(ふう……言えた!

まあ、私は感謝の言葉は得意だし♪

神よ……!あなたのお陰です!)


アンジュが心の中で、神に感謝していると、

陸と吾朗は同時に「良かった~」と嬉しそうに笑った。


そして、ゲームのシナリオ通り、陸も吾朗も 「アンジュちゃんが疲れると悪いから」と、 1時間半程で帰ると言い出す。


最後まで二人は事件のことには触れなかった。


アンジュを励ますでも、慰めるでもなく、 ただ学校にいる時と同じように笑って帰って行く。


颯真は「まだ少しアンジュと話があるから」と残った。


パソコンの前のロクシーが強炭酸水をグビッとあおる。


「アンジュちゃん……!

もうちょっとだよ!! 頑張って!!」


陸と吾朗は笑顔で、「じゃあ、アンジュちゃんまたね~」と帰って行った。


颯真はアンジュと二人きりになると、やさしく微笑んだ。


「頑張ったな」


(そう!私は頑張っておる……!!じゃなくて!

回答例3……!!3は……)


アンジュはそう思いつつ、慎重に口を開く。


「たたた楽しかったしなっ!そう!楽しい!!Happy!!」


ロクシーがドンとテーブルに強炭酸水を置くと、鋭い声を出す。


「アンジュちゃん……!!Happyはいらない!

傷ついた女の子の設定だよ!!

それに、回答例にもないでしょ!?」


それでも、颯真の視線は限りなくやさしい。


「でも陸と吾朗のお見舞いの品の話の時、ちょっと事件を思い出したよな?

それなのに、アンジュはちゃんとお礼を言ってたし。 凄いよ」


「おう!」と思わず胸を張って答えてしまうアンジュ。


そして、どこからか「まさしく!」というルシアンの声が響いた。


颯真がパッと振り返る。


「ルシアンくん!?来てるの!?」




その夜。


理事長室でロクシーは頭を抱えていた。


「アンジュちゃんの綱渡りの演技……!!

そして……ルシアンの余計な『まさしく!』発言のせいで!

颯真の締めのセリフ……『ルチアーノたちとのお見舞いも、大丈夫だよ』が出なかった!!

もう……こうなったら……!!」


ロクシーが顔を上げて、ビシッと警棒をルチアーノに向ける。


ソファに座ったまま、ピョンと跳ねるルチアーノ。


「ハルのお見舞いをぶち壊さないように、あんたがやらなきゃ!!」


ルチアーノは瞬時に立ち上がり、ロクシーに向かって敬礼する。


「ハルの涙の対面!了解でありますッ!!」




それから一日空けて、ルチアーノ達のお見舞いの日がやって来た。


先日の陸と吾朗のお見舞いとは違う。


あの二人は、アンジュを笑わせ、いつもの学校の日常をそのまま部屋まで運んで来てくれた。


だが今日は―― ロクシーから何度も念を押されている。


遥斗との『お見舞いイベント』。


アンジュは朝からロクシーからのメッセージを何度も繰り返し読んで、スタンバイしていた。


午後、ルチアーノ達は時間通りにやって来た。


トントンと階段を上がってくる複数の足音。


先日と同じ、お見舞いに来た友人達の足音。


それなのに、アンジュは妙に緊張していた。


(どうか……ロクシーが教えてくれた回答例を正確に言えますように!!

神よ!あなたの未熟なしもべに、どうかお力をお貸し下さい!)


ノックの後、母親の声がする。


「アンジュちゃん、ルチアーノくん達が来てくれたわよ」


アンジュが高らかに応える。


「よかろう!」


ドアが開くと同時に――


ルチアーノ達がアンジュの部屋に飛び込んで来る。


先日のような、賑やかな笑い声は無かった。


ルチアーノ、翔太、遥斗の順で、アンジュのベッドを取り囲む。


三人とも、まずアンジュの顔を見た。


ルチアーノが髪の毛をふわっとかき上げ、腕をくるりと前に回して笑顔で言う。


「アンジュちゃん……会いたかったyo☆」


パソコンを見るロクシーの目が殺気を帯びる。


「yo☆じゃないだろ……!!」


ロクシーの怒りの呟き。


翔太が黒目がちの瞳を潤ませながら言った。


「こうしてまた会えたんだ! 俺、安心したよ!」


すると、ルチアーノが翔太の肩を抱いた。


「俺様の友達、中野!泣くな!

みんなでケーキを食べてお話しよう♪」


そして、アンジュに向かってパチパチとウインクするルチアーノ。


アンジュが合図通り、小さく頷くと――


それまで何も言わなかった遥斗が、二人を押し退けた。


そして、アンジュの枕元に跪く。


先ほどまでの空気が、一瞬で変わった。


アンジュとルチアーノの視線が再び交わる。


遥斗は、掛け布団から出ていたアンジュの手をぎゅっと握った。


(今だ!!)


アンジュは心の中で、自分を鼓舞する。


そうして、今まで天界ですら出したことない、最小限の声で言った。


「……ハル……?」


「……アンジュちゃん」


遥斗の瞳には溢れんばかりの涙が浮かんでいる。


「……会いたかった……」


遥斗の瞳から涙が零れて落ちる。


ルチアーノが翔太の肩を抱いたまま、一歩後ろに下がった。


「会いたくて……会いたくて……」


遥斗はそれ以上言えず、アンジュの手を握ったまま咽び泣いている。


先日、陸と吾朗が持ち込んだ笑い声とは正反対に、 部屋には遥斗の嗚咽だけが響く。


アンジュは一度息を吐くと、心の中で祈る。


(神よ……!! この敬虔な信徒をお守り下さい!)


遥斗は途切れ途切れに言葉を続ける。


「し、心配したんだ……」


アンジュは慈悲深い声で言った。


正に大天使ガブリエル。


「ハルよ、感謝するぞ。

心配をかけて済まない。

私も会いたかったぞ……!」


遥斗がアンジュの言葉に顔を上げる。


遥斗の涙で霞んだ目に、

アンジュの首筋に掛けられた『ラッキーマン』がプレゼントした木彫りのネックレスが光って見えた。


そして――


ロクシーのパソコンに、虹色のエフェクトが出現した。


『お見舞いイベント成立』と。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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