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13話

 



 王都から離れた場所にある、古びてはいるが、手入れの行き届いた邸宅。


 クリスティアンとマリーゴールドが到着すると、邸の門前には当主のガリクソンをはじめ、一家総出、およそ五十人ほどでの出迎えの陣が敷かれていた。


「……手紙は頂いたが、まさか本当に来られるとは。バルガスの魔の手から殿下を守るためとはいえ、今まで冷遇しておいて、いささか乱暴と言わざるを得ませんな」


 当主は慇懃無礼に頭を下げると、そのまま流れるようにまくし立てた。声には、隠しきれない棘が混じっている。


 クリスティアンは一歩前に出ると、王族としての凛とした佇まいで、静かに口を開いた。


「これまでの不遇、まずは深く詫びよう。……今の私には、王子としての序列も、そなたたちに即座に与えられる力もない。だが、だからこそ今、私に力を貸してほしい。私が将来、しかるべき地位を得た暁には、この恩、必ずや相応の返礼をもって報いると約束しよう」


「言葉は立派ですな。だが要するに、今出せる報酬はないということだ。将来のことなど、誰にも分からん。もしかしたら気が変わり、何も返してくれぬかもしれん」


 鼻で笑い、拗ねたように言い募る当主の言葉を、背後から響いた嗄れ声が遮った。


「嫌味は、そのあたりにしておきなさい」


 現れたのは、歴史の化石のような老爺だった。しわくちゃの顔に刻まれた溝が、怒りに震えている。


「手紙を貰った時から、答えは決まっておる。……三十年前のあの日、先代当主は演習中の不慮の事故で亡くなった。だが、その演習の指揮を執っていたのは、若き日のバルガス……。あれは事故に見せかけた、我が家への粛清であったことは明白! 許してはおけん。いかなる手段を使おうとも、あの男だけは……バルガスだけは、決して許しはせぬ!」


 恨みと呼ぶには、あまりにも重く、昏い呪詛だった。


 その気迫に押されたのか、額の広い当主が、吐き捨てるように言った。


「……勝手にしろ。長男は出せんが、それ以外なら好きな者を連れて行くが良い!」


「寛大な処置、感謝する」


 クリスティアンは短く応えると、並んだ者たちの顔を、ゆっくりと見て回った。


 マリーゴールドの手には、壁掛け時計ほどの大きさの、奇妙な器具が握られている。


 二人は時折、小さな声で言葉を交わした。


「(美沙、オーラはどうだ?)」

「(……あまり良くないかも。一番いい色をしているのは、一番奥にいるあの二人……)」

「(それじゃあ、いい順番に“魂の総量”を計っていこう)」


 やがて二人は、列の端――ひときわ影の薄い場所で足を止めた。


 五郎が謎の器具を見ながら、しばらく密談を交わした後、クリスティアンが晴れやかな声で告げる。


「この二人を所望する」


 指し示されたのは、みすぼらしい格好をした、そっくりな顔の二人の青年だった。


 当主が困惑を隠せず、声を荒らげる。


「正気ですか、殿下! そいつらは訓練すら受けておらぬ、ただの小間使いですぞ!」


「構わぬ。この者たちが良い」


 クリスティアンは揺るぎない笑みを浮かべ、泥にまみれた青年たちを見つめた。彼らが表情を強張らせているのを見て、わずかに口角を上げる。


「そなたたち、私と共に来る気はあるか? 運が良ければ……いや、そなたたちの働き次第では、本物の騎士への道も開けよう」


 その言葉が投げかけられた瞬間。


 困惑していた二人の青年の顔が、劇的に変わった。


 ――渇望と、希望。


「騎士」とは、単なる兵種ではない。


 それは、泥を這う平民が唯一、天上の光に触れることを許される聖域。

 剣一振りで家名を興し、王の盾として歴史に名を刻むことを許される、最高峰の栄誉だ。


 小間使いとして、淡い未来を夢見ながらも、一生を泥の中で終えるはずだった彼らにとって、それは神の福音にも等しい響きだった。


「行きます! 弟と一緒に、どんなに辛い訓練にも耐えてみせます!」


「俺たちを連れて行ってください! 絶対に、役に立ってみせます!」




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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