12話
「敵の敵は、味方――」
ふと五郎が呟いたその言葉に、美沙は「え?」と小さく首を傾げた。
「昔、何かでそんな言葉を聞いた気がするんだよ」
五郎が何気なく放ったその一言が、美沙の脳内にある膨大な“歴史インデックス”に火をつけた。
彼女はごくりと唾を呑み、熱のこもった瞳で五郎を見つめる。
「……思い出しました! 織田信長と徳川家康の『清洲同盟』……! 今川という巨大な敵を倒すために組んだ、最強のタッグ。……でも五郎さん、あれはお互いにメリットがあるから成立した関係です。今の私に、バルガスと敵対している貴族を満足させられるだけの『利』を与えることなんて、できるんでしょうか……!?」
不安を隠せない美沙を見て、五郎は不敵にニヤリと笑った。
「利なんてなくてもさ、人間って案外、感情で動くものだよ。バルガス伯爵ってのは、長年権力を握り込んでたんだろ? 苦虫を噛み潰してる貴族家の一つや二つ、絶対にある」
美沙は「たしかに……」と、納得したように頷いた。
「貴族の家同士は、昔から仲が悪い場合が多くて、つい最近まで戦争をしていた、なんてことも当たり前にあるみたいです。……私も、ジャーメインさんに少し話を聞いただけですが」
「ジャーメインさん?」
「王宮の『儀礼・系譜管理官』のお爺さんです。いつも地下の記録保管室という所にいて、年齢で言えば、八十歳は軽く超えていると思います」
「そのジャーメインさんに相談してみるといい」
「そうですね。バルガス伯爵と犬猿の仲の貴族がいないか、聞いてみます」
「貴族は基本的に長男が家を継ぐ。ってことは、行き場のない次男や三男は余ってるはずなんだ。そういう人達なら、貸してくれるんじゃないか?」
「でも……」
美沙は少し身を縮め、弱音を吐く。
「それが、すごく怖い男の人だったら……」
「それだったら、直接会ってみて、怖くなさそうな奴を選ぶか……いっそのこと、女性に頼むって手もあるぞ」
「なるほど………」
「この世界は魔法があるからな。男より強い女なんて、いくらでもいる。現に、うちの母ちゃんなんか、めちゃくちゃ強くて、今でも怖いくらいだ」
「なんだか、いけそうな気がしてきました」
「あとは、平民とか奴隷も候補だな。俺の家みたいに、孤児や身寄りのない子供を育てて護衛にするっていう手もあるぞ。時間はかかると思うが、信頼はできる」
その時、美沙が突然跳び上がった。
「……思い出しました! そう言えば私、オーラが見えるんです!」
「なにそれ?」
「多分、魔法なんですけど……人の体の周りに、ゆらゆらっとした靄みたいなのが見えるんです。それで、大体こういう性格だなっていうのが分かって。赤だったら情熱的、青だったら冷静とか……性格が悪い人は、その色がくすんでいて」
五郎は目を丸くし、それから「なるほどな」と感心したように腕を組んだ。
「それは凄くいいな。それじゃあ、オーラの色が綺麗で、美沙ちゃんが怖くないと思える奴をスカウトすればいい。当日は俺も同行するよ。先祖代々伝わる、とっておきの『物』を持っていくからな」
「ありがとうございます!」
王子クリスティアンは、中身である美沙の心がそのまま表に出たような、太陽のように明るい笑顔を見せていた。
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