表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

23 転生王子と祖母

大変遅くなってしまいました……。



「お祖母様、体調はどうですか?最近あまり姿を見せていただけないので、父も心配していますよ」

「……嬉しそうな表情で言うことじゃないわね」


ベッドから上体だけを起こし手払いで世話役を部屋から追い出すと、皇太后はゲオルグに向き合った。ゲオルグはすぐそばの椅子をベッド近くに持ってくると、そこに腰掛けて口を開いた。


「手短に話しましょう。三番廊下の四枚目について」


その言葉を聞いた途端、皇太后は眼を大きく開きゲオルグを見た。強く握った拳には青々とした血管が浮いている。いつもの優雅さはなく、そこにいたのはただの老女であった。


「カメリアに、何をしたの!」

「カメリアに”は”、なにも」


ゲオルグはにこりと笑うが皇太后の眉間の皺は一層深くなり、鋭い眼差しが彼に向けられる。


「そう、あそこへ辿り着いたのね……。どうやって知ったのかしら」

「アメリア様がカメリアに『覚悟があるならそこへ』と言ったそうです。カメリアは純粋だ。まだ駆け引きも出来ない少女なので僕が代わりに」

「お前の為の場所ではないわ!」


息遣いは荒く、声は怒りで震えている。


「カメリアでないならアメリアかしら……?」

「いいえ?アメリア様を選ぶ理由がない」


瞼を閉じ、しばし考えた皇太后は笑みを漏らした。口角から息が漏れ、やがて大きな笑い声へと変わる。品性のかけらもない、あまりにも不釣り合いな笑い声が部屋に響く。


「……そう、そうなの。あぁ、わたくしね?」

「貴女が大人しく手を引くなら、カメリアには手出ししません」


シーツを掴むしわの刻まれた手に温かな手のひらを重ね、諭すようにゲオルグはそう言った。皇太后はぴたりと動きを止め、ゲオルグを頭から爪先までなぞるように見ると、その目をじっと見つめた。


「ゲオルグ、お前はフィラムではなくアメリアに似ているわ。えぇ、本当に見た目以外はそっくり」


目の前の生き物を面白がる赤子のように、ゲオルグの顔をぺたぺたと触り、何度も確かめるように目を見つめてはため息を繰り返した。ゲオルグは抵抗もせず、ただただ優しく祖母に笑いかけ、そしてすっぱりと言い切った。


「この国の王になるのは私だ」


その言葉を聞いた皇太后は起こしていた上体をゆっくりと倒し、暗い天蓋を見つめる。古い掛け時計の振り子が鈍く揺れる音だけが部屋に重く響く。


「あの子にそっくりなカメリアが……、その頭上に王として冠を戴く姿を見たかった……」

「残念ながら、アメリア様は王族の身分を放棄した。その子であるカメリアに正当な継承権はありません」

「ゲオルグ……、お前が死ねばカメリアがこの国の女王になれるのよ」

「それは貴女の後押しがあってこそ可能なのであって、今の彼女はただの公爵令嬢だ」


今は亡き、愛する夫の忘れ形見。圧倒的な美貌の姫への幻想をいつまでも捨て切れない愚かな母親は、孫に懸けた期待も潰えてしまった。その事実こそが皇太后の生き存える意味を絶ち、身を引くことを選択させる。


「お前の望み通りよ。孫の生誕祭を見届けて、私はゆっくりと、このまま死ぬわ」

「もっと錯乱されるかと思っていました」

「……、お前は本当に不気味ね。12歳とは思えないわ」


ゲオルグが貼り付けたような笑顔を見せると、皇太后は彼に退室を命じた。


「お祖母様、私は貴女の罪を許さない」


落ち着き払った声でその言葉を残し、来た時よりも重い扉が開かれると、ゲオルグはやけに音の響く廊下を足速く進んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ