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22 転生王子と元侍女


「おはようディル。顔色が悪いね?」

「誕生パーティーに出席できない他国の貴族たちからの贈り物や手紙を整理してリストを作り、夜通しお礼状の手配をしているからですよ……」

「はは、それは臨時ボーナスを出さなきゃなぁ」


顔色が暗く、やつれているディルの分もメイドにお茶を淹れさせるとすぐに部屋を出てもらう。


「楽にしてくれ。二人だけの時は構わない」

「そういうわけには……!」


断るディルに、ゲオルグは優しく微笑むと対面のソファへ座るよう目線を遣る。従うようにディルはゆっくりと腰掛けると、ティーカップを手に取った。


「ディルに会わせなきゃいけない人がいてね」

「ら、来客ですか!?でしたら準備を……」

「いや、いい。そういう人物ではないんだ」


ゲオルグが指を鳴らすと、静かに開いた窓から人影がサッと部屋に入り込む。


「コリウスだ。カメリアの専属侍女だが僕の協力者でもある」

「協力者……?」

「色々と気になることがあってね。カメリアの調べ事も彼女に妨害してもらってるんだ」


コリウスがヴィンラント家に仕えている理由をもちろん知っているゲオルグは、秘密裏にコンタクトを取り協力関係を結んだ。そうすることで、カメリアに情報が流れることを防いでいる。


「……私は元々アメリア様に拾われた身ですが、ゲオルグ殿下に忠義を尽くしているのも事実です」


コリウスの出自や、ヴィンラント家に仕えることになった経緯を知っているゲオルグにとって、コリウスを味方に引き入れるのは難しいことではなかった。


「アメリア様の情報網を潜り抜けるのは容易ではない。兄である父も把握はしていないだろう。まぁ君がアメリア様の事で口を割るとは思っていないが……」


コリウスは不敵に微笑むと、スッと礼をした。主人に対する最上級の礼であり、そこにはカメリアの知らない顔のコリウスがいた。


「私の真の主人はアメリア様ですから。その娘であるカメリア様を守る為という名分で殿下にはお仕えしています」

「また僕の知らない話ですか……」

「君にはいずれ話すよ。で?僕に聞きたいことってなんだい?」


コリウスは口ごもり、しばらく考えた様子を見せた後に弱々しい声で申し出た。


「で、殿下の……好物を……」

「「……は?」」


想像していなかった言葉をかけられたことで、ゲオルグとディルは同時に拍子抜けした声を発した。眉間をおさえ、キリキリと痛むのか胃の辺りをさすりながらコリウスは続けた。


「お嬢様が……その、プレゼントのことを失念していたようで……」

「はぁ〜〜なんて馬鹿らしい」

「いや、こればかりは本当に私も頭が痛く……」


そんなしょうもない理由でわざわざコリウスを動かすなとゲオルグは呆れたが、口元は少し笑っていた。


「残念だけど、欲しいものがあったとしても教えられないな。カメリアには自分で考えて最適解を出してもらわなきゃ」

「お嬢様に対しては随分と厳しいですね」

「ただ美しいだけの婚約者は要らないからね」


頬杖をついて無邪気に笑うゲオルグを見て、コリウスは引きつった笑いを見せた。きっとこの王子は自分の婚約者でさえ不必要だと判断すれば、平気で利用して利益の為にどこかへ嫁がせると確信している。


「血縁者には多少甘いかと考えていた私が愚か者でした」

「これでも随分と甘いつもりだけど?ねぇディル」

「え!?ぁ、そう、ですね……」


翻弄される2人の姿を楽しんだゲオルグはコリウスに向かって小さな袋を投げた。コリウスは匂いを嗅ぐとゲオルグの顔をじっと見つめる。


「カメリアにプレゼント。軽い毒だけど彼女なら死にはしないよ。少し強い下剤、くらいのものかな」

「……渡しはしませんよ」

「いつか使う時がくるさ」


コリウスを追い払うと、彼の表情は途端に冷たいものへと変わった。


「喉を鳴らさない猫ほど可愛くないものはないな」

「アメリア様に何か不穏な点が?」

「いいや、強いて言えば……お祖母様だよ」


皇太后カトレア。前世では自分を母の代わりに可愛がり、あらゆる勢力から政治的に保護をしてくれた恩人だが、同じく孫である皇太子のゲオルグにはあまり目をかけなかったことにずっと疑問を抱いていた。アメリアの死にひどく悲しみ隠居したが彼女の影響力は貴族社会から引くことはなく、カメリアに対する異様な執着はカメリアを社交界に縛り付けることとなった。


「くそ……、まだ靄が晴れない……」


天井を仰ぎ全身の力を抜くように息を吐くとディルに部屋から出るよう命じる。ディルは後の予定を伝え、「また迎えにきます」と言い残し部屋を出た。


一か月以上空いてしまいました……。

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結果的にカメリアにその毒を使用するときは来たのですか?
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