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第四話 第二村人


「 エリク、あんた本当に外で寝たの⋯⋯!? 」


 エリクが目覚めると、そこには儚げな美少女がいた。胡桃色の髪が風にゆれ、こちらを綺麗な紫色の瞳で見下ろしている。声もすっと頭に入ってくるような美しい声だ。


「 ⋯⋯君の声、どこかで聞いたことがある気がします 」

「 何言ってんの?寝ぼけてないでさっさと起きなさいよ⋯⋯ 」


 立ち上がろうとしたエリクに、アロマが手を伸ばして引っ張り、立ち上がるのを手伝う。


「 あぁ、昨日の口の悪い第一村人ことアロマさんでしたか⋯⋯ってうごぁっ!! 」


 “ 口の悪い” の部分でアロマはエリクの手を離した。

 エリクは驚いて、頭をそのまま地面にぶつける。


「 僕が神の子であったから良かったものの、普通の人であったら命に関わっていたかもしれないです。何せここは、岩や石の多い⋯⋯荒れた大地なのですから⋯⋯ 」


 エリクは空を見上げながら、遠い目をしてそう言った。

 その様子を上から見て、アロマが引いている。だが自分でも少しは悪いと感じたのか、引きながらも謝るために口を開いた。


「 わっ⋯⋯悪かったわよ!!謝るからその目をやめて、⋯⋯なんだか怖いわよ 」


 エリクは地面に大の字になりながら、首だけを動かしアロマを見た。

 それを目撃したアロマは、「 ひぃっ 」と、小さい悲鳴をあげる。


「 そうだ!! 昨日の夜に幸せポイントが新しく入ったんですよ!! 何だかんだ言って第一村人ことアロマさんも幸せを感じたんですね。良かったです⋯⋯ 」


 エリクは、心から嬉しいといったようすで笑った。その笑顔からは、まるで光が溢れて出ているようだ。いや、実際に光の精霊が飛び回り光が出ていた。

 アロマは少し赤くなり、誤魔化すように咳払いしたあと話し出す。


「 何かよく分からないけど、私はお腹がすいたの。エリク、何か食べるものを持ってない? 」

「 持ってはいませんが、第一村人ことアロマさんのおかげで作れますよ⋯⋯ふふ 」


 今度こそ立ち上がると、エリクは1P使い昨日洗っておいた土鍋の中に湯豆腐を作り出す。豆腐の他に水菜や椎茸なども入っており、3日間食事なしだったアロマの胃を気遣った食事だ。


 器に盛り、ふーふーと息を吹きかけゆっくりと湯豆腐を食べるアロマ。エリクが追加で出したポン酢とゴマだれを食べ比べているようだ。


「 昨日の粥も美味しかったけど、この白いのは、どっちのタレでも楽しめていいわね。柔らかくて優しい味ね 」

「 湯豆腐美味しいですよね。サラリーマン時代に飲みすぎた次の日はよく食べていました。とろろ昆布が良く合うんですよ 」

「 エリクの持っているやつは、なんだか朝食には、重そうに見えるんだけど⋯⋯ 」

「 そうですか? これはいつ食べても美味しいので大丈夫ですよ 」


 エリクは、カツ丼を持ちながら笑顔でそう言った。ちなみに先ほど1Pを使い、自分のために出したものである。

 少し食べ進めた後、エリクはカツ丼を見つめた。その瞳はどこか悲しそうだ。


「 どうしたのよ。いきなり悲しそうな顔して? 」

「 美味しいです。美味しいんですが、何か違うんです⋯⋯何か⋯⋯やはり自分で作らなくては⋯⋯あの味は再現出来ませんか⋯⋯ 」


 元定食屋のおばちゃんとして、カツ丼には並々ならぬこだわりがあるエリク。


「 いつか第一村人ことアロマさんにも食べさせてあげますよ。僕のこだわりカツ丼を⋯⋯ 」

「 カツ丼っていうのは置いといて、さっきから私の名前の前につけてる余計なものやめてくれない? 」

「 第一村人は今日、何かしたいことありますか? 」

「 そっちを削るのっ!?」


「⋯⋯いい香り⋯⋯だ、まるではじめて雨が降ったあとに嗅いだ薔薇の香りを思い出す⋯⋯ 」


「 ちょっとエリク、何いきなり意味不明なことを言ってんのよ? 」

「 えっ? 僕はとんかつの最後の一切れを食べていたので喋ってませんが? 」

「 あれっ? 雨がどうとか薔薇がどうとか⋯⋯? 」


 そう言うと、アロマはゆっくりと辺りを見回した。

そして湯豆腐の鍋の近くで倒れているある人物が目に映る。


「 ⋯⋯キャー!! 行き倒れのエルフよー!! 」





─────────⋯⋯⋯⋯





「 食事を頂いたてしまって申し訳ない。大変美味しかった。感謝する 」


 そう言った旅仕様の聖職者の服を着た男性エルフは、丁寧に頭を下げた。見た目は若いが、エルフは長命なので実際の年齢はわからない。神の子であるエリクと一緒で見た目と年齢がかけ離れているのだ。

 髪はまっすぐの淡い金髪で、横に流して一つに結んでいる。肌は白く透き通るようで、大変整った顔をしていた。


「 エルフの旅人さんエリクの湯豆腐美味しいかったでしょ。どっちにしろ1人ではエリクの出してくれた湯豆腐食べきれなかったからエルフの旅人さんが食べてくれて良かったわ。エリクもそう思うわよね? 」

「 とりあえず、旅人さん名乗って下さい。僕の名前とエルフという単語がすごく紛らわしいです 」

「 私は、旅する聖職者エリク⋯⋯ 」

「「 えっ!! 」」

「 というのは冗談で本当のな⋯⋯ぶごっ!! ⋯⋯娘さんいきなり手をあげるなんてひどいなっ!! 」


 アロマは、エルフの旅人の顔に思わず手が出てしまった。その事実に自分でも驚いているようだ。


「 ごめんなさい。完全に無意識だったわ⋯⋯ 」

「 別にもう一発殴って頂いていいが、いきなりはひどい⋯⋯ 」

「 ⋯⋯えっ? 」

「 それで “ぶごっ” さん、なぜ貴方はこんな荒れた地で行き倒れていたんですか? 」

「 私は “ぶごっ” という名前ではないのだが⋯⋯まぁなんだか豚のようでいいかもしれない 」

「 ⋯⋯えっ? 」


 1人変な顔で固まるアロマ。

 だが他の2人は構わず話をつづける。


「 で、行き倒れさんはなぜ、行き倒れに? 」

「 “ぶごっ” とは、呼ばないのか? 残念だ。私が力尽きていたのは、聖なる力を使い過ぎたせいだな。私は元々他の大陸からやって来たのだが、その理由がこの大陸の方がより荒れているからだ。私は聖職者として、穢れてしまった大地を決して見過ごせはしない!! あわよくばもっと過酷な状況に陥りたいとか思って旅をしているわけではない!! 」

「 本当に純粋な気持ちから旅をして大地を癒しているのよね? 」

「 あぁ、そうだ娘さん。確認の為にもう一発殴ってくれっ!! 」


 エルフの旅人は手を広げてアロマに向かって手招きしている。

 それを見て、アロマは叫びをあげた。


「 ⋯⋯キャー!!変態のエルフよー!! 」





─────────⋯⋯⋯⋯





「 なるほど、この荒れた大地に村をつくると。そしてエリクさんがそこの村長であると 」

「 はい、そうなんです 」

 

 淡々と自分の説明を終えたエリクの後ろに隠れて震えるアロマ。

 エルフの旅人は気にせずに何か閃いたようにエリクを見つめる。


「 私は決めた!! この村の村人になる!! 私の名はアルクリース、気軽にアルと呼んでくれ 」

「 おぉっ!! 改めてまして僕はエリク、神の子です。気軽に村長と呼んでください 」


 村人が増えたことに喜びを隠せない様子のエリク。

 そんなエリクの服の裾を引っ張るアロマの顔は必死の形相である。


「 ちょっとエリクっ!! こんな変態、村人にしていいの? 」

「 変態だなんて失礼ですよ、アロマさん。大体通常と異なる状態が変態だというのなら、育ての親の前で希望の花ちゃんを貪り食ったアロマさんも、僕から言わせれば変態になりますよ 」


 その言葉を聞いたアロマは少し固まったあと、アルクリースの方を見た。


「 ⋯⋯彼を歓迎するわ。私はアロマよ、よろしく 」

「 よろしくアロマさん 」


 ニッコリと微笑んだアルクリースは、誰が見ても優しげな好青年である。


「 では、さっそくアルさんの家を建てますか! 」


 仕事にとりかかろうとするエリクを、アルクリースの手が制止する。


「 いえ⋯⋯エルフは自然を愛し、崇拝する種族。私は野ざらしで構わない⋯⋯ 」

「 えっ⋯⋯ですが、夜は結構冷えますよ? 」

「 いや⋯⋯野ざらしで⋯⋯ 」


 その後もエリクとアルクリースは、お互いに譲らず何回か同じやりとりを繰り返しす。だが、最後にはアロマの「 野ざらしの方が幸せなんじゃない? 」の一言で、エリクが折れた。


 その夜、エリクにはまた幸せポイントが加算されたのだった。

 もちろん2人分である。




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