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第三話 第一村人


 神の広場で朝方まで時間をつぶしたエリクは、渋々といった風に、自分の担当であるディアロックの地に降り立った。

 エリクが見たようすでは、昨日よりは幾分かましなようだ。浄化して精霊が戻ったおかげか、小さな草くらいは生えてきていた。

 エリクの顔に少し笑顔がもどる。

 よく見渡すと小さな可愛らしい白い花も咲いていた。エリクはゆっくりと、花に近づき側にしゃがみこんだ。


「 なんて可愛らしい、君は僕の希望の花です。心なしか僕の髪色に似てますね⋯⋯ふふっ 」


 エリクが優しく花に微笑みかけたその時。


 ───ブッチィィッ───


 突如伸びてきた手によって、花は根元か引きちぎられ。横からはムシャムシャと何かを食べる音が聞こえてくる。

 エリクは笑顔のまま固まり、少したった後ゆっくりと音のするほうを見た。


「 味はいまいちね。でもリラックス効果あって、軽い頭痛には効くようね。美容品には使えないけど 」


 そう語り、ゴクリと食べていたものを飲み込んだ女性は、着ている服はぼろぼろで、見えている肌は汚れており小さな傷もいくつかあるようだ。髪もボサボサで汚れている。

 だが、多少のかすれはあれど、その美しく若々しい声から10代半ばの少女であることがわかる。


「 随分綺麗な身なりねあんた、どっかのお貴族様かなんか? ⋯⋯衣服から見るに旅する聖職者? 」


 少女がこちらを訝しげに見ている。エリクは我を取り戻すと少女に身体ごと向き直った。


「 僕はこの村の村長です! 」


 よくぞ聞いてくれたとばかりに、手を広げるエリク。


「 ⋯⋯あぁ、頭のおかしい奴ね。気にすることないわ。こんな世の中だもの、頭だっておかしくなるわよ⋯⋯ 」


 エリクは手を広げたまま苦笑した。確かにこんな何もないところが村などと言って、ましてや自分が村長だと名乗るのは、頭がおかしいかもしれない。いやおかしい。


「 今は何もないですが。そのうち素晴らしい村になります。先ほども大変可愛らしい花が咲いていたのですよ⋯⋯ 」


 エリクは含みを込めて言った。


「 あぁ、あの美味しくないやつね。⋯⋯それはそうとして、あんたこんな境界線のあやふやのなところで誰に許可されて村長なんて名乗ってるわけ? 場合によっちゃまた争いの火種になるわよ⋯⋯ 」


 少女は探るようにエリクを見ている。


「 その点は心配いりません!! なんたってこの世界で一番偉い神様に許可を頂いていますから!! 」


「 ⋯⋯そう⋯⋯。そうなのね⋯⋯ 」


 少女は一変して哀れみの表情でエリクを見ている。

 エリクは居心地が悪くなったのを誤魔化すため、話を続けた。


「 ちなみにあなたが第一村人です⋯⋯ 」

「 勝手に決めないで!私を不法占拠の仲間にいれないでよね!! 」

「 僕を見捨てるんですか!!僕が不法占拠ならあなたは食い逃げです。僕の希望の花ちゃんをよくもムシャムシャと食べましたね!! 」

「 こっちは、人さらいから命からがら逃げてきたのよ!!私の3日ぶりの食料となったあの花も喜んでいるわっ⋯⋯ 」

「 ⋯⋯何ですか、お腹が空いていたんですか。そうならそうと言ってください 」


 そういうとエリクは、幸せポイントを1P使い土鍋に入ったお粥を出した。もう1P使い和風の食器セットも出す。

 そして器にお粥を1人分とり、少女に木の匙と一緒に手渡した。

 少女は少し迷った後、器を受け取った。そしてゆっくりと口にいれる。


「 ⋯⋯あつっ!!熱いわよこれ!! 」

「 お粥はふーふーして食べるのが常識ですよ 」

「 わっ⋯⋯わかってるわよ。ちょっとお腹すいてたから忘れてたの。⋯⋯ふーふー⋯⋯なかなか美味しい穀物ね。獣人の国の米ってやつかしら 」


 少女はゆっくりと食べ進めていく。

 この世界には、日本の江戸時代のような国があり、そこは獣人の国なのだ。ディアロック地方からは、南東にある。

 ゆっくりと噛みしめながら食べ終わった少女はエリクを見た。


「 美味しい食事をありがとう。⋯⋯でも、どこから出したの? 」

「 神様に頂いた力です。深く追求してはいけないんですよ。美味しかったなら、それでいいではないですか⋯⋯ 」

「 なんかはぐらかされた気がするけど、まぁいいわ。私の名前はアロマよ、よろしく 」


 少女は、食べ物を口にして安心したのかエリクに名乗った。先ほどよりは警戒していないようだ。


「 ⋯⋯よろしくと言いましたね。僕はエリクと言います。気軽に村長とでも呼んでください 」

「 あくまでも、私を第一村人にするつもりなのね。食べ物で気を緩めたところをねらうとは、巧妙なやつね⋯⋯ 」

「 そんなつもりはありませんよ。村長は愛称みたいなものです 」

「 ⋯⋯そう⋯⋯仕方ないから、仮村人になってあげるわよ。仮だからね、仮。私には都会で美容に関する職につく夢があるんだから 」

「 ⋯⋯へぇー。僕は、立派な村長になってゆくゆくは神村長と呼ばれることが夢ですね。⋯⋯あれ、神村長は村長であって神ではない、では⋯⋯村長神、いやそれでは村長の神であって、神としての幅が狭すぎる。信徒が村長しかいないとか、対象がピンポイントすぎます。一体僕は何を目指しているんでしょうか⋯⋯ ?」

 

 エリクは悩ましげに長い睫毛を伏せて考えている。それはまるで一枚の美しい絵画のようである。見る人によっては涙を流すかもしれない。


「 そんなの知らないわよ。⋯⋯エリクっていったけ、あんたこんなか弱い女の子が、ぼろぼろの状態でいるのになんか言うことないわけ!? 」

「 ⋯⋯ぼろぼろですね。⋯⋯えーと⋯⋯ぼろぼろですね 」

「 ⋯⋯わざとよね。何か着替えられるものはないかしら? 身体を拭けるものがあったら、なおいいわ 」


 アロマは自分の状態を見ながら、悩ましげに言った。

 それを聞いてエリクの方は、じっと彼女を見ながらある単語を呟き始めた。


「 ⋯⋯村長⋯⋯村長⋯⋯ 」

「 はぁ⋯⋯、村長何か着替えるものと、身体を綺麗に出来るものはないかしら? 」


 アロマは根負けしたのか、ため息を吐きながら言った。するとエリクは満面の笑みでかえす。


 天使のような笑顔は一枚の美しい絵画のようである。見る人によっては⋯⋯以下略。


「 仕方ありません。まぁ家は元から建てるつもりでしたから、風呂付で建てますか。ですが、今僕はポイントを98Pしか持っていません。ぎりぎり一件小さい建物が建つか建たないかといったところです 」


 生憎とここの土や岩は、建築には向いていない。風呂の湿気で崩れたり、溶け出したりしそうだ。建物を建てるには、幸せポイントを使わざるを得ない。

 エリクは、1人が住めるような木造のこじんまりとしているが、暖かみのある家を思い浮かべてポイントを使った。90Pもっていかれた。


 するとたちまち何もなかったところがキラキラと淡い虹色に輝いて、一件の家が建った。


「⋯⋯すごい、夢みたい。私、もしかして本当は力尽きて眠っているのかしら⋯⋯ 」


 アロマは、感動しているようだ。その目には、少し涙も浮かんでいる。

 それを聞いたエリクは、おもむろに感動中の彼女に近づくと頬に手を伸ばした。もちろん、アロマの頬にだ。

 そしてつねる。


「 ひはい⋯⋯わはっへるはらはなひへ⋯⋯ 」

「 あっ、そうでしたか。てっきり夢と現実の区別が出来ていないかと⋯⋯ 」

「 あんたさっきからいい性格してるわね。⋯⋯でもすごいわ。素敵な家ね! 」


 アロマは、エリクの行うことに一々追求するのはやめた。そして今建ったばかりの家を眺める。


「 家具類は一切ありません。残り8ポイントで何とかしなければいけません。バスタブは必要ですね。作ってしまいましょう 」


 エリクはそう言うと、木で出来たドアノブを掴み家へ入っていく。アロマもそれに続いた。


 中も木の素材の暖かみのある空間が広がっている。手前に台所とリビングがあり、奥に寝室と思われる空間が、仕切りはなくあった。柱があるので大きな布があれば仕切れそうである。入って右側には、小部屋がいくつかあり、そちらがトイレやお風呂場、洗濯場のようだ。

 エリクはお風呂場に向かうと簡単なバスタブを出した。木で出来た和風の湯船だ。5P使用した。

 そして水魔法と火魔法を併用してお湯をはった。木の香りと湯気で、実に気持ちが良さそうだ。日本人を3度経験したエリクも、満足のいくものが出来た。

 脱衣室のカゴに簡単なワンピースを1Pを使ってだした。

 アロマに軽く癒しの魔法をかけすり傷などを直して、お風呂場にうながす。


「 私が入っている間、入ってこないでね⋯⋯ 」

「 入りませんよ。あの湯船では、2人も入れません⋯⋯ 」

「 ⋯⋯2人で入りたいの? 」

「 風呂に入りたいんです 」


 そういうと、エリクは悲しそうな目をしてその場から立ち去った。

 そして寝室に向かい残り3Pを使って布団を一式出した。ベッドは無理そうだったので、今日はこれで我慢してもらうしかない。アロマは獣人ではないので、きっと床に敷く布団には慣れていないかもしれないが仕方がない。


 そしてエリクは家を出た。






 その日の夜、アロマは布団の中で泣いていた。

 単身、どのつく田舎から出たはいいが、王都に向かう途中の安宿で人さらいにあい、何とか馬車が止まっている間に抜け出し、休憩をとりながらも3日歩き続けた。荒れた土地で、今いる場所がどこかも分からず死も覚悟した。

 あのおかしな村長を名乗るエリクを信用していいのかは、アロマにはわからない。

 だが温かい食事をとり、お風呂で身体を清め、そして彼女からしたら上等なふかふかの布団にくるまり、緊張の糸が切れ涙が溢れてきたのだ。

 アロマはひとしきり泣くと、疲れてそのまま眠ってしまった。


 その夜、日が変わると同時に、エリクのもとに幸せポイントが100P入った。










 夜空を見ながら、少しましになった荒地で、大の字に寝ている銀髪の美少年。

 かたわらには、空になった土鍋がある。若干、いやだいぶ違和感のある組み合わせである。これは別に一枚の絵画には見えない⋯⋯。



「 ⋯⋯次にポイントが貯まったら⋯⋯温泉をつくりましょう 。そうしましょう 」


 夜は静かに更けていく⋯⋯。









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