第十二話 学校のある村
「 みんな頑張って、もう少しで国境を越えられます。ディアロック地方に入ってしまえば穢れを恐れて誰も追って来ないでしょう⋯⋯ 」
薄汚れた簡素な黒いワンピースを着た少女がうしろの子供達に声をかける。子供達の年齢はさまざまで上は十六歳から下は一歳の赤ん坊までいる。
とてもではないが険しい国境を越えられるとは思えないような痩せた子供達である。だが子供達には、帰る場所も帰りを待つ人もいない。進むしかないのだ。その先に死が待っていようとも。
中央大陸南西には絶対王政の国がある。
───山脈に囲まれた国、 “ ダローア王国 ” 。
子供達は、ダローア王国の王都から離れた街の教会に住む孤児達であった。そして先日、子供達の面倒をみてくれていた女性が何者かに殺された。
残った子供達は領主の所有物となってしまった。ばらばらにどこかに売り払われそうになったところを必死に逃げてきたのが今である。
「 アテナお姉ちゃん。マールにミルクあげないと 」
「 ローナ!! そんなことを姉ちゃんだってわかってんだよ。無いもんは仕方ないだろ⋯⋯ 」
八歳くらいの女の子が悲しそうに言うと、同じくらいの男の子が半分諦めたように指摘した。
「 みんなごめんなさい。私が一番歳上なのに⋯⋯ 」
「 姉ちゃんは悪くねえよ 」
───バカラッ⋯⋯バカラッ⋯⋯バカラッ
後ろから複数の馬のかける音が聞こえてくる。
だが、もう子供達には逃げる力も心も残ってはいなかった。
「 領主様の命によりお前達を捕らえる。逆らえばその場で殺せとのご命令だ!! 」
先頭の馬に乗った鎧を着た男が子供達に宣言する。子供達は億劫気にそれを見上げた。
「 あらっ⋯⋯だめですわ。その子達は私達の村に入村希望のようですもの⋯⋯ 」
子供達も馬に乗った領主の手の者達も突然に現れた女性を見た。
女性は灰色の肌に二本の角の生えた頭だがとても美しい容姿であった。妖艶なその姿は普通の者なら見るだけで動けなくなってしまうだろう。
「 なっ何者だっ!! 貴様、魔族か!! 」
「 ひっひぃっ!! 」
「 ⋯⋯隊長!! ここは逃げた方がいいのでは!? 」
「 お前ら、弱気になるなっ!! 女一人だぞ!! 」
隊長と呼ばれた男以外は皆、魔族の女ティアラに怯えてしまっている。
ティアラは微笑みながら男達に右手をかざした。その右手からは黒い霧のようなものが発生し、あっという間に男達をのみこむ。すぐに男達の呻き声が聞こえはじめ、次第に静かになった。
「 ⋯⋯ふふふ、まずはディアロック地方と大国との境を調査しようと来てみれば 」
ティアラは優しく子供達に微笑みかけた。
「 思わぬ収穫ができましたわ⋯⋯ 」
子供達は美しい微笑みに息を呑んだ。この女性がどんな人物であろうとついて行く道しか子供達には残されていなかったのだ。
────────────⋯⋯⋯⋯
「 どうですか!! 村の象徴として建ててみました!! 」
どーんと効果音が聞こえそうなくらい手を広げるエリク。彼の後ろには立派な白い外観の建物があった。
「 横にも縦にもでかいわね。要塞に見えるわ 」
「 要塞にしては透明な窓が多すぎるな。中が丸見えだ。入り口も入ってくれと言わんばかりの広さに見える 」
「 要塞ではないですね。若い人達がたくさん来るところですよ 」
アロマとアルクリースが建物を見ながら予想をたてている。エリクはにこやかにそれに答えた。
「 村長!! この銅像のおっさんは誰っすか? 」
「 陽露、おっさんは失礼だろ!! こんな立派な像なんだぞ。きっと偉大な御仁に違いねぇ⋯⋯ 」
「 たぶん初代校長ですね。僕もよく知りません 」
「 ⋯⋯知らないやつの銅像を村の象徴に建てたのかよ 」
「 親方、やっぱりおっさんでいいっすね 」
入り口前の銅像を見ながら燈凪と陽露がうんうんと頷いている。
次にエリクは黒凪と氷雨に近寄った。
「 これは村長の家にするのか? 」
「 ⋯⋯そう言えば、村長の家を見たことがないな 」
「 黒凪さんの言う通り僕はここに住むつもりです。これが建てたくて5000ポイント貯まるまで野宿で我慢していたんですよ 」
「 俺達の家で寝たらよかったのに⋯⋯ 」
「 ⋯⋯野宿⋯⋯だったのか 」
エリクが野宿を続けてまで建てたかったものとは、 “ 学校 ” であった。
“ ゲーム好きの高校生 ” であった時に中学時代通っていた校舎である。なぜ高校にしなかったのかというと大きいのでポイントがもっといるのと、古い校舎であったためだ。
“ 幸せポイント変換能力 ” は、どうやら別世界のものはエリクの記憶に左右されるようなのだ。エリクは自分の通っていた校舎の記憶が鮮明で高等学校だと古い校舎になってしまうが、中学校は老朽化で建て直されたばかりの綺麗な校舎に通っていた。なので今、目の前にある学校は白く綺麗な外観をしているのだ。
「 僕は小学生の時、校長室に住むのが夢だったんです 」
「 へぇー。これ学校だったのね。はじめて見たわ 」
「 学校なら窓だらけでもおかしくないな。でも村長が住むなら村長邸ではないか? 」
「 将来的に子供達がたくさん学校に通うような村にしたいんです 」
「 それはもう村ではないわね⋯⋯ 」
「 立派な都と言えるな⋯⋯ 」
建物の正体を知り納得しながらアロマとアルクリースは幸せそうな村長を見ていた。
そんな中、黒凪がふと口を開く。
「 でもこの村に子供が生まれるような夫婦はいないぜ? 」
「 たしかにそうですね 」
「 まともな男がいないものね⋯⋯ 」
しみじみと言うアロマを村の男達は無言で見ていた。
「 俺も優しくて美人で料理が得意な嫁さんが欲しいぜ 」
「 ⋯⋯ふぅん。ていうか、あんた達っていくつなの? 私は十七歳だけど 」
「 黒凪は俺が十九歳の時の子で⋯⋯俺が五十二歳だから⋯⋯ 」
「 俺はもう三十三だぜ。親父⋯⋯ 」
「 俺は二十四歳っす!! 」
「 俺は二十七歳だ⋯⋯ 」
次々に年齢を村人が明かしていく中、エリクとアルクリースは黙っていた。二人とも百歳は軽く超えていたからである。
「 それにしても、もしアロマさんと若が結婚したら歳の差がアロマさんもう一人分くらい離れてるっすね 」
「 なるほどなっ!! つまり俺は十代の女の子二人を嫁にもらえるってわけか!! 」
「 何がなるほどなのよっ!! 意味わかんないわよ!! あんたが学校に通うべきね 」
黒凪の前向きすぎる発言にアロマが怒って声を張り上げている。だが、それを聞いたエリクは納得顔である。
「 そうですよ!! 何も学校に通うのが子供だけの必要はありません。村人が気軽に学べる場になってくれたら一番です 」
「 素晴らしい考えだな。村長 」
アルクリースが頷きながらエリクに同意した。
「 アルさんは先生になってください 」
「 私は構わない。これでも全ての大陸の言語を理解している 」
「 アルさんって一体何者なんですか? 」
「 只の旅する聖職者と言っておこう⋯⋯ 」
アルクリースは微笑みながらそういうと、校舎の中に入っていく。どうやら中を見学するようである。黒凪達、獣人若手三人組も楽しげに中に入っていく。
「 危ないことしたらだめですよ⋯⋯ 」
「 エリクって時々お母さんみたいなこと言うわよね 」
「 そうでしょうか? 」
「 まぁ、悪いってわけじゃないわよ。そういうところのおかげで私も安心できるっていうか⋯⋯ 」
「 ⋯⋯ふふ。アロマさんも正式に村人になる気になりましたか? 」
「 まだ仮よ。一応ね 」
アロマは笑いながら校舎の見学に向かった。本当はとっくの前にエリクに心を許しているのだが、それはあえて言わないようである。
「 村長、そういえば⋯⋯あの魔族の姉ちゃんを見かけないな 」
「 ティアラさんですか? 言われてみれば、たしかに見かけませんね⋯⋯ 」
「 あの姉ちゃんは、恋人に魔王様と呼ぶのを強要されたあげく捨てられたって黒凪に聞いたんだがよ。世の中には悪い男がいたもんだぜ⋯⋯ 」
「 違うと思いますが⋯⋯。あの様子だとティアラさんが一方的に付きまとっていたんではないでしょうか⋯⋯ 」
「 誰が一方的に付きまとっていたですって? 村長、心外ですわ。⋯⋯こんなに一途な乙女に向かって 」
突然響く声にエリクと燈凪が振り向く。
そこには複数人のぼろぼろの子供達を連れて仁王立ちをする謎多き美女がいた。
エリクが子供達を見て大声を出す。
「 鴨が葱を背負って来ました!! 」
エリクの発言に疑問符を浮かべる燈凪とティアラであった。
読んで頂きありがとうございます。
評価、ブックマークありがとうございます。




