第十一話 女達の戦い
「 あの兄神が何か知っていたらいいのですが⋯⋯ 」
エリクは神の広場に来ていた。目的の場所に転移するためである。
村の鍛冶師である燈凪が目指していること。それはモンスターだけを切ることができる刀だ。
燈凪はそれをつくるために他国から珍しい光属性の鉱物を取り寄せたり、有名な聖職者や呪術師に助言を求めたりしたがどれもいい結果には繋がらなかった。
だが、晴れてこの村の村民になったことで燈凪は希望がもてた。この村の村長は “ 只ならぬ力 ” をもっており、自分のことを “ 神の子 ” だと名乗る人物である。彼は、藁にもすがる思いで相談したのだった。
エリクは燈凪の願いを叶えるために剣などに詳しそうな兄神に会いに来たのだ。
神の広場から目的の兄神の家である異空間に跳ぶ。
「 ここは少し苦手なんですよ⋯⋯ 」
剣に詳しそうな兄神の領域は、水晶でできた地面にビル群のように巨大な剣がいくつも突き刺さっている場所だ。そこかしこで煌めく刃が美しくも恐ろしい。あやまって躓きなどして刃にあたろうものなら怪我だけでは済まない。
エリクがしばらく進むと細身の剣で囲まれた場所が見えてきた。中から兄神の気配を感じる。
「 神の子エリクです。修行中の身ですが、剣に詳しい雷悟兄さんに相談があって参りました 」
「 ⋯⋯入れ 」
兄神から返事があると、囲っている剣の一つが透けていく。エリクはそこを恐る恐るくぐり抜けた。
中には何故か細身の片手剣をこちらに向けて構える兄神雷悟がいた。見た目は鋭い目の青年だ。
「 ⋯⋯そこのりんご投げて 」
「 ⋯⋯はい 」
エリクは入り口近くに置いてあったカゴに積まれたりんごを一つとり、雷悟に投げる。弧を描き、飛んでいったりんごを雷悟は剣で狙う。その剣先は見事にりんごの中心を貫いた。
雷悟は片手にりんごが刺さった剣を持ちながら両手をあげた。
「 ⋯⋯⋯⋯ 」
「 ⋯⋯拍手は? 」
───パチパチパチ⋯⋯
その場はエリクの乾いた拍手で満たされた。雷悟は満足気に大きく頷くと剣とりんごをしまい、エリクに話しかける。
「 ⋯⋯なんか用か? 」
「 はい、人を傷つけず悪意をもったモンスターだけを倒せる剣ってつくれますか? 」
「 ⋯⋯つくれる 」
「 本当ですか!! 」
「 ⋯⋯俺は無理だけど 」
「 そうなんですか⋯⋯ 」
エリクはがっかりして下を向いた。雷悟はそんなエリクをしばらく見たあとに口をひらく。
「 ⋯⋯できるやつ呼ぶか? 」
「 ぜひお願いします!! 」
雷悟はエリクの輝く笑顔を見て頷き、“ できるやつ ” に集中して念話を送った。
しばらくすると遠くの方から大地に響く大きな音が聞こえてくる。
───ドガーン⋯⋯ドガーン⋯⋯ドガーン⋯⋯
なにかを地面に叩きつける音だ。それがだんだんと大きくなりエリク達に近づいてくる。とうとう真後ろまで来たところでその音は止まった。
「 ⋯⋯歩くたびにでっかいハンマー振り下ろすのやめて 」
雷悟はやって来た人物に鋭い目を向け指摘した。常時、鋭い目だが。
「 妾は自己主張が激しいゆえ、仕方がないのじゃ 」
「 ⋯⋯なら仕方ないか 」
「 そうじゃ 」
エリク達の前まで和洋混ざったような着物を着た少女が歩いてくる。手には少女よりも大きなハンマーを持っている。普通なら細身の少女には持てない大きさだが、彼女は神なので関係ない。
「 久しいな、雷悟。そっちのは何番目かの弟かえ? ⋯⋯修行に関することか? 」
「 ⋯⋯そうらしい。 土雫なら助けになれると思って呼んだ 」
土雫と呼ばれた少女にエリクは頭を下げた。そして先ほど雷悟に言ったことをもう一度くりかえす。
「 人を傷つけずに悪意をもったモンスターだけを倒せる剣がつくりたいんです 」
「 ほぅ⋯⋯なるほどな。⋯⋯できるぞ 」
「 本当ですか!! 」
「 妾がつくれるわけではないがの 」
「 そうなんですか⋯⋯ 」
「 そう落ち込むな。妾がつくれるのは特別な槌であって、剣をうつのは鍛冶師の仕事じゃ。鍛冶師の知り合いはおらぬのか? 」
「 むしろ好都合です。鍛冶師の人に頼まれたんです 」
「 それは良かった。槌はでき次第届けるぞ。捧げ物はあるかえ? 」
自分より上の者に力をかしてもらう場合、 “ 捧げ物 ” をしなくてはならない。エリクは二人に助けてもらったので何かを差し出す義務があるのだ。
悩んだ末にエリクはポイントを使い、雷悟には 剣のキーホルダー 、土雫には でかリボンカチューシャ を捧げた。どちらも “ ゲーム好きの高校生 ” の中学生の時の修学旅行でふざけて購入したものだ。
雷悟はさっそく腰の横あたりにキーホルダーをつけている。土雫も頭にカチューシャを装着したようだ。
「 ⋯⋯かっこいい 」
「 自己主張の激しい妾にはちょうど良いの 」
「 気に入っていただけて嬉しいです 」
エリクは土雫と槌ができたら届けてもらう約束をしてその場を後にした。
─────────⋯⋯⋯⋯
「 ⋯⋯あのねぇ、この子は私のことが好きなのよ 」
「 ⋯⋯あら、それは間違っていますわ。この子は私の方がいいと言っていますわ 」
「 ぬもーん⋯⋯ももも? 」
風の吹く空き地で佇み睨み合う二人。
村人としてはもう古株にあたるアロマと先日何故か村人になったティアラである。その二人の間では水の大精霊オーシャンが不安そうに鳴いている。
エリクが村に帰ってくるとそんな状況が繰り広げられていた。近くにはアルクリースと燈凪がいる。
「 これは一体どうしたんですか!? 」
「 村長、おかえりか⋯⋯ 」
「 おっ村長、おかえりっ!! 」
「 はい、ただ今帰りました 」
「 あれは、オーシャンの体液を取り合っているんだ。 実に醜い争いだ 」
「 常に体液でぬるぬるだから取り合う必要ねーのになっ!! 」
「 ⋯⋯体液っていうのやめませんか。オーシャン産美容液とでも言いましょう 」
「 長いな⋯⋯ 」
「 なげぇな⋯⋯ 」
「 長くてもお願いします 」
エリク達三人がそんなやりとりをしている間に言い争いは苛烈になっていく。とうとうオーシャンを掴み互いに短い片腕を持って引っ張っている。
「 離しなさいっ!! 」
「 そっちこそっ!! 」
「 ぬもんぬもーん!! 」
「 村長、止めなくていいんですかい? 」
「 ちょっと待ってください 」
エリクは止めに入ろうかと迷っていた。たがこれはどこかで聞いたことのある話だ。
これは大岡裁きに似ている状況だ。あの話は子供を取り合う母親の話だったが、たしか痛がる子供を先に離した方が本物の母親という判断だったとエリクは記憶していた。
あと少しだけ待って、だめならすぐに助けようとエリクは決めた。
「 痛がる子供を先に離した方が本物の母親なんです 」
「 村長は何を言っているんだ⋯⋯ 」
「 俺にもわからねぇ⋯⋯ 」
真剣な表情で引っ張り合う二人を見ているエリクに首を傾げるアルクリースと燈凪。
そこに一人の男がかけつける。
「 お前ら!! オーシャンを離しやがれ!! 」
「 ぬもー!! 」
かけつけた黒猫獣人黒凪は、二人からオーシャンを助け出した。きつく抱きしめ合う男と精霊。
「 なんなのよっ!! 」
「 私にその子を返しなさい 」
「 オーシャンは優しい子だから体液は分けてくれる。でも自分のせいで村人が争えば分けてくれなくなるぞっ!! 」
「 ぬもっ!!」
「 ⋯⋯くっ、わかったわよ 」
「 ⋯⋯仕方ないですわ 」
───パチパチパチッ
エリクは心から感動の拍手をした。拍手をはじめたエリクを黒凪は不思議そうに見ている。
「 素晴らしいです。黒凪さんが本物の母親です 」
「 はっ母親!? 村長は何を言ってるんだ? 」
黒凪が驚いて、アルクリースと自分の父親を見た。
「 私もわからない 」
「 俺にもわからねぇ 」
「 ようするに、この中で一番オーシャンのことを大切に思っているのは黒凪さんというわけです 」
黒凪はそれを聞くと、腕の中のオーシャンを見た。オーシャンもつぶらな瞳で黒凪を見ている。
「 ⋯⋯オーシャン。湖で一緒に魚釣りでもするか!! 」
「 ぬもっ♪ 」
仲良く立ち去っていく二人を微笑ましく見送るエリク達三人。
「 私もハーブ園のようす見てこよっと⋯⋯ 」
「 私も魔王様で妄想に浸る時間ですわ 」
立ち去っていく女性二人をその場に残ったエリク達は真顔で見送る。
「 あっ燈凪さん。刀の件なんとかなりそうですよ 」
「 えっ!! 本当ですかい。ありがとうございます!! 」
「 いえいえ、村人の願いはなるべく叶えてあげたいんです。⋯⋯ポイントのためにも 」
「 村長は、いい村長だな 」
笑顔で会話をする三人。そしてエリクはふと気づいたように呟いた。
「 あの湖に魚なんていましたっけ? 」
この村の七不思議が一つできた瞬間であった。
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